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第二章 シンデレラ宮殿編

第五十一話「時の咆哮」

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 緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依


 シンデレラ宮殿1階 中庭――

 2階でパンサーがいるにも関わらず、ここ1階の中庭でも激しい抗争が繰り広げられていた。
 
「よそ見は厳禁だよ、アレス!」

 蒼乃さんと対峙している黒い影の女性に既視感を覚えた亜玲澄に、ゼラートは背後から狙い撃つ。

「黙っとけナルシストが!!」

 頭を撃ち抜かれる事を予測し、亜玲澄は撃たれる直前にその場で体制を低くし、左足を両足を蹴り払う。

「おっと……!」
「ナルシストには現実の残酷さを見せつけねぇとなああ!!!」

 転倒する直前のタイミングで亜玲澄は『白時破象ホワイトレイズ』を発動し、ゼラートの時を止めた。

「オラアアアアッ!!!」

 時を止められ、無防備になったゼラートに斬りかかる――




「僕に禁忌魔法は効かないよ、アレス!」
「はっ――!?」

 斬られたのはゼラートではなく亜玲澄だった。いつの間にか右肩を撃たれており、そこから血が宮殿内に飛び散る。

「何で……!?」
「もう忘れたのかい、アレス? 僕の神器に禁忌魔法は効かないよ!」
「くそがっ!!」

 再びゼラートが引き金を引く。時が止まるのを知らず、空気を穿つかの如く銃弾が時計回りに回転しながら亜玲澄に迫る。

「ちっ……」

 何とか反射で身体を反らして避けたが、右頬を浅く掠った。それだけでもまるで直撃したかのような激痛が走る。

「やはりあの時より遥かに弱いね……。昔の君ならこれくらいで息が上がるなんて事は無かったからね」
「…………」

 何が言いたいんだこいつは。昔の俺だと? 
 一体いつの時代の話をしてやがるんだ。

「もっと僕に見せてよ、アレス。君の力を……あの時僕を何度もねじ伏せたあの力をもう一度見せてくれよ!!」

 ゼラートは両手の銃を亜玲澄に向け、銃口から青白い波動が集中する。徐々に大きくなり、銃口が完全に魔力の弾丸に隠れる。

「……忘れたなら、思い出させてあげるよ」
「――!!」

 刹那、一筋の光線が亜玲澄の心臓を穿った。亜玲澄は微動だにしないまま背中から大量の血を流しながら倒れる。

「あの時の君はこの程度で死ぬ事は無かったよ。だって今と違って人間じゃないからね。でも、人間になった今のアレスにもその魂が……記憶が流れてると思うよ。狂ったような口調が何よりの証拠だよ」

 しかし、亜玲澄の口は1ミリも動かない。出血も完全に止まっている。

「……この程度で死ぬんだね。残念だよ、アレス」

 ゼラートのその目は亜玲澄の本気を見られない残念さが極まり、憐れみすら感じられる。

「さよなら……僕の相棒ライバル

 ゼラートの左手に持つ銃の引き金が手にかかり、巨大な魔力弾が放たれる――



 ――お兄ちゃん……お兄ちゃん!

 あぁ……? 誰だお前は……俺は兄になんかなった記憶はねぇぞ……

 ――お兄ちゃん起きて! 早くしないとお兄ちゃんが消えちゃうよ!!


 何いってんだ馬鹿め。あと5分寝たくらいで物体が跡形もなく消えるなんて物理的にもあり得ねぇっての。


 ――ねぇ早く! ほんとにお兄ちゃん死んじゃうよ!!

 ……あぁうるせぇな。起きればいいんだろ、起きれば。

 ――お兄ちゃん、大蛇君がまだ戦ってるの! いや……皆が戦ってて、もう耐えきれそうにないの! だから助けてあげて!!


 ……何言ってんのかさっぱり分かんねぇけど、お前の言ってる事を嘘だとも思えねぇ。

 ――しょうがねぇ、お目覚めだ。この分の睡眠時間は後日絶対確保させろよな。



「『時の咆哮デュアルハウンド』」
「何――!?」


 超音波のような歪んだ波動がゼラートを襲う。波動が通り抜けた瞬間、ゼラートは石のように動かなくなる。

「よぉ……ゼラート。てめぇが見てぇ本気ってのはこれの事か?」

 もちろん返事はない。たが、勝手にそうだろうと解釈する。
 亜玲澄はゆっくりと歩み寄りながら右手でゼラートの顔を掴む。力を加える。メキメキと骨が折れる音がする。


「俺の禁忌魔法……『白時破象ホワイトレイズ』の真意がこいつだ。たとえその銃のお陰で禁忌が通用しなかろうと俺には関係ねぇ。何でか教えてやろうか? それはなぁ……」


 ――どれほど優れた神器や魔法だろうと、時の流れに抗う事は出来ねぇんだよ!!!


「くは! くはははははは!!! このままりんごみてぇに潰してやろうか!? それともこいつを解除してお前に流れる時間を破壊してやろうか!?」

 この亜玲澄にはもう人間という例えは間違っている。争いを好み、参加しては数多の敵を殺し続けた、暴徒の戦神アレスそのものだ。

「……あばよ、俺の相棒ライバルさんよおお!!」


 刹那、頭を掴む右手で潰してすぐに波動が逆再生しているかのように戻っているのが分かる。

「や……めろ……」
「男に二言はねぇ。それをあの時俺に言ったのはあんただぜゼラートオオオ!!!」

 
 時の波動は徐々に歪みを無くし、時の流れが正常になった途端、ゼラートは頭から勢いよく血を吹き流しながらうつ伏せに倒れた。

「ちっ、俺はもう限界だ……」

 亜玲澄も自分の身体の支配権を取り戻し、倒れるゼラートをじっと見つめる。

「はぁ……、俺もここまで疲れるとはな……」

 深いため息を吐き、亜玲澄は正義より一足早く蒼乃さんの元へ向かうのだった――
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