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第二章 シンデレラ宮殿編

第四十九話「悪夢再来」

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 緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依

 
 一方、俺と芽依、凪沙さんは抗争から避けて2階でパンサーの行方を追う。天井のシャンデリアが延々と続くこの廊下をひたすら周っている。

「いないね……」
「いるとしたら宝庫だろうけど……」
「その宝庫の場所が分からなければな……」
 
 しかし、そもそもシンデレラ宮殿の象徴でもある『スタニッシュリング』を盗んでおいて他の宝を盗む意図は何だ? 確かに幾つも価値のある宝はここに置いてあるはずだが……

「おっほほほ! そうね、宝庫の場所が分からなければパンサーちゃんは捕まえられないものよね! おほほほ!!」

 刹那、女性の高笑いが通路に響き渡った。

「――!!」
「あら、貴方が噂の『黒き英雄』さん、ですわね? サーシェスちゃんから話は聞きましたのよ! それはまた大変お強そうなこと!」

 サーシェス……黒き英雄……この女は何者だ? どう見ても令嬢だが、あいつとの……あの不良軍団との関係性はどこにあるんだ?

「あらあら、今日はかわいいつれもいるのね。でもごめんなさいね……今日は『黒き英雄』さんと二人で過ごしたいの」

 ちっ、自分勝手な野郎だな……だが、二人を殺そうとする意思をあの令嬢からは感じられない。逃がすなら今だ。

「二人共、先に行ってくれ。こいつは俺との戦闘をご所望だそうだからな」
「「え……」」
「えぇ、その通りよ。だからお嬢さん達はここを通ってもいいわよ。悪役令嬢と名高い私でも、こんな事で貴方達を殺そうとはしないわ」
「悪役……」
「令嬢……」

 悪役令嬢。欲望と傲慢に塗れた令嬢。簡単に人を見下しては金切り声をあげる……いわゆる嫌われ令嬢である。

「こいつは俺が何とかする。凪沙さん達は先に行け」

 真剣な眼差しで見られたからか、凪沙さんと芽依は互いに向き合って頷き、先へ走っていった。

 悪役令嬢と復讐者。この通路がたった二人だけの空間に彩られる。

「……良かったのか? あいつらを先に行かせて」
「良いのよ。私が欲しいのは貴方だけなのよ! おっほほほ!!」
「よく言うな。本来欲しいもののために俺を排除する……そうだろ、
「えっ――」

 令嬢が逃げるより速く俺は背後に回り、両指から紫色の糸を出して令嬢の動きを止める。

「残念だったな。だが、迫真な演技だったぞ、悪役令嬢」
「ぐっ……! 何で分かったんだい?」
「今までずっと俺の後をつけていただろ、俺がパリに来た時からな……いや、それだけじゃない。凪沙さんに致命傷を与えた時から俺がここに来る事を予知していた……というべきか」
「何で――!?」

「おまけにお前の正体もとっくに把握済みだぞ、パンサー。根拠は単純シンプルだ。エレイナ……いや、マリエル曰く『未来を知れるのはお前だけ』だからな。元トリトン5姉妹の次女……サリエル」

 パンサー……いや、サリエルは無言で正体を見破った俺をじっと見つめてきた。

「最初優羽汰が『パンサーの正体はネフティスの関係者』って言ってたが、大きく外したようだな……ったく、ネフティス関係無いではないか」
「じ、じゃあ貴方は……最初から……」
「無論だ。あと言っておくが、『海の惑星』から帰ってすぐ元お前ら4人姉妹が一斉に自殺なんて明らかにおかしいからな」
「――! あれはっ……!」

 何か言いたげだな。少しくらい聞いてやるか……怪盗の言い分を。

「あの時……元私達4人姉妹は貴方達が帰った後に白衣を着た男がこんな事を言ったんです。『黒ずくめの復讐者によって、お前達の運命は閉ざされる。殺されるのが嫌なら己の手で殺せ。後にこの記憶を持ったままお前達を生まれ変わらせる』って……」
「何……!?」

 白衣の男……暗黒神はそんな事を言っていたのか。いや、そうなる未来を用意していたと言うべきか。

「コホン……でも、バレちゃったからには……」
「――!」

 刹那、パンサーが俺の心臓目掛けて引き金を引いた。それを予測し右に避ける。

「サリエルとパンサー、更には悪役令嬢の三刀流か……」
「これでも演技は得意だからね。あの時君も見ただろう? お父様に見せたマーメイドダンスを!!」
「ちっ……!!」

 銃弾が壁に当たった瞬間爆発を起こし、軽く吹き飛ばされる。何とか受け身をとって倒れ、すぐに立ち上がるとすぐに反命剣リベリオンを右手に召喚する。

「このまま殺し合うのはボクの趣味じゃない。少しギャンブルをしようじゃないか、『黒き英雄』」
「生憎、俺はギャンブルに興味は無い!」

 言い終わりと同時に右足で地を蹴り、パンサーの銃を真っ二つに斬った。

「へぇ……これが君の答えか」
「マリエルの姉だと分かった以上、俺はお前と殺し合う気は無い。俺の任務はお前を逮捕し、スタニッシュリングを奪還する事だけだ」
「ふふっ……殺す気は無い、ねぇ……良いよ、ならボクを捕まえてごらん!!」
「簡単に逃げれると思うな」

 俺とパンサーは同時に地を蹴って長い通路を走り回る。

 しかし、思いもしなかった事がこの時起きてしまった。

「Hé, c'est Panther ! Il y a une panthère !(おい、パンサーだ! パンサーがいたぞ!!)」
「C'est moi qui te tue ah !(殺すのは俺だああ!!!)」

 しまった。1階にいた貴族達がとうとう上にまで上り詰めたのか……。これはまずい、パンサーが殺されるのは勿論、同じパンサーを狙う者として俺も殺される!!

「くそっ……!!」
「君達、その調子だよ! 早くボクの事を捕まえてごらん!!」

 俺を筆頭に貴族達が全力疾走でパンサーを追いかける。背後から無数の銃弾が襲ってくる。壁に当たっては爆発し、天井に吊るされたシャンデリアが床に落ちて割れる。

「あ、そういえばなんだけど……もうとっくに『神猫の星飾りシュレディンガー』は頂いたよ。このまま逃げ切れればボクの勝ちだよ!!」
「その前に……捕まえるまで!!」

 俺は反命剣を青白い無数のポリゴンの欠片のような光に分裂させ、パンサーのあらゆる方向に閃光を迸らせる。

「『果てをも穿ちし逆鱗の花エドレイト』!」
「これが『黒き英雄』の本気か……ふふっ、楽しくなってきたよ!!」

 パンサーは軽々と無数の閃光を避けながら逃げる。更に貴族達の無数の弾丸が閃光との摩擦で爆発を起こす。

「うっ……中々賢いなぁ、君達は!」

 パンサーの動きが一瞬止まった。今だ……!

「『黒壊クラッシュアウト』!」

 右手にありったけの魔力を籠め、20メートル程の距離を一瞬にして駆け抜ける。あと一歩で届く。今だ……行ける!!

「おおおあああああ!!!!」

 シンデレラ宮殿を震わせるほどの雄叫びを放ちながらパンサーめがけて前に跳ぶ。

 そして、俺の右拳がパンサーの顔面を……





 ――とはいかなかった。

「なっ――!?」

 俺の右拳が当たったのは突如現れた黒い帯のようなものだった。衝撃で俺は貴族達と共に後方に飛ばされる。起き上がると、目の前には見覚えのある姿の魔女がいた。

「久しぶりだねぇ、坊や」
「嘘だろ……お前……」

 ――何で生きているんだ、アースラ。
 
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