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第二章 シンデレラ宮殿編

第四十六話「高貴の溜まり場」

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 緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依



 西暦2005年 3月27日 午後6時過ぎ――

「……そうか、無事だったか。では今日午後7時、総員でシンデレラ宮殿に侵入しろと伝えてくれ」
「分かったよ、親父」

 全員がシンデレラ宮殿侵入に備えている中、桐谷優羽汰は実の父正嗣総長と電話をしていた。
 ――ついに、この時が来た。……いや、ようやく振り出しに戻ったと言うべきか。

「暗黒神ザクト……」

 ふと知らぬ名を呟いた。これは朝食時に黒神大蛇と桐雨芽依が昨日起こったという謎の現象について説明した際に二人の口から出てきた名だ。

「神など、実在するはずが無いというのにな……」

 しかし、二人の言っていることが嘘とは言い切れない。その証拠として芽依の銃弾がストックも含め無くなっている。更に黒神の魔力も普段より遥かに少ない。

「侵入がてら調べる必要がありそうだな……」

 この話は一旦置いておく。このままだと皆に心配されるので、それを避けるために優羽汰は一度部屋に戻った。

 ――一方、優羽汰を除く俺達全員は各自シンデレラ宮殿侵入に備えていた。

「ってかよお、シンデレラ宮殿にシンデレラっているのか?」
「いるわけ無いじゃないですか。そもそもシンデレラはおとぎ話でしか出てきませんよ」
「うぐっ……、蒼乃パイセンやっぱ冷てぇな……」

 備えている……とは言いつつも、いつもと全く変わらないのだがな。

「あっはは! 正義君ってば面白いな~♪」
「凪沙さん……あいつはただ馬鹿なだけですから」
「おい黒坊! 馬鹿とは何事だ! 人間なんだから分からない事はあって当然だろおお!!??」
「だとしてもシンデレラ宮殿にシンデレラがいない事くらい分かるだろ」
「名前にシンデレラって書いてるから紛らわしくなるだろ普通!」
「おっと、これ以上はダメだよ!」

 胸ぐらを掴み合ってる俺と正義の間から凪沙さんが現れ、二人を離した。

「全く、二人共子供なんだから……」
「「誰が子供だ!!」」

 同じタイミングと声量で言う俺と正義を見て、凪沙さんとエレイナは揃って笑った。

「はぁ……」

 お前ら、そういう所だぞと言わんばかりに、隣りにいた亜玲澄が長いため息をついた。

 ――ともかく、俺達は平常運転だと言うことだ。

 


 一時間後、全員が準備を済ませてホテルを出た。その目の前には夜空の下で眩しいほどの金色の光が夜の宮殿を照らしていた。本当にそこだけが昼なのかと思うくらい明るかった。

「こ……これが夜のシンデレラ宮殿か……!」
「恐らく今日もパンサーがここの宝庫から宝を盗みに来るだろう。今まで遅れた分は必ず取り返すぞ……よし、全員侵入しろ!!」

 優羽汰の掛け声に合わせて俺達が一斉にシンデレラ宮殿に乗り込んだ。
 

 ――『ヴェルサイユの失敗作』とも言われているこのシンデレラ宮殿には、今も失敗したと思えないほど多くの貴族や令嬢、金持ちが集ってパーティーを開いていた。
 辺りを見渡す限り、静かになる時は来ないのではと思うほど賑やかな雰囲気を漂わせる。

「こりゃやべぇな……見渡す限り華奢な人だらけじゃねぇか!」
「まぁ、失敗作とはいえ元はここがヴェルサイユ宮殿になるはずだった所だからな」
「ヴェルサイユの失敗作……か」

 そう呼ばれても、今ではこうして高貴の者達が毎日集っては夜に賑わっている。これのどこが失敗作なのだろうか。

「おい黒坊、聞いてるのか!?」
「――! ……すまない、少し考え事を」
「そりゃ良いけどよぉ、あそこ何か一段と騒がしいぞ!」

 ふと正義が指を指している方向を見ると、そこは大勢の人集りがあった。そこから食器やグラスの割れる音や少女の悲鳴、貴族達の怒声が響き渡っていた。

「Panthère ! Vous ne pensez pas pouvoir résister plus longtemps !(パンサーめ! もう抵抗出来ると思うな!!)」
「Vous savez ce que vous avez fait à ce palais !(あんたのお陰でこの宮殿がどうなるか分かってるでしょうね!!)」
「痛った! うぅっ!!」

 怒声、罵倒、暴力。あの人集りからはそれらしか集ってない。感じる。負の感情があそこに群がる者一人一人から強く感じる。

「芽依っ……!」
「大蛇君、今は行っちゃダメだよ……」

 俺が人混みに足を踏み入れようとした途端、エレイナに左手を強く掴まれた。

「離せ……芽依を殺す気か」
「そうじゃ無いけど……でも、このまま行ったら事が大きくなるだけだよ!」

 ……行け。行かないと芽依が死ぬかもしれない。行くなら早くしないと。でも行けない。エレイナに止められてるのはもちろん、昨日のあの現象が頭をよぎる。あの時は偶然助かったが、次は無い。
 もし今ここで芽依を庇ったらまたザクトが芽依の身体に乗り移って今度こそ俺を……ここにいる者を殺すだろう。それだけは避けなくてはならない。

「……分かった」

 俺がそう言うと、エレイナはそっと掴んだ手を離した。その刹那、何者かが高らかな声を上げながら話しだした。

「Bonne journée à tous. Je m'appelle Panthère. Je suis le voleur que vous connaissez si bien !(皆さん、ごきげんよう。ボクはパンサー。皆もよく知る怪盗だよ!)」
  
 途端、芽依を囲ってた集団が上に立つパンサーを見上げた。芽依はその隙にそこから離れる。
 本物……のパンサーはシンデレラ宮殿の頂上に華麗に立ちながらここにいる者全てに自己紹介をする。

「パンサーが……二人!?」
「違うぞ亜玲澄。あそこに立ってるのが本物のパンサーだ。芽依は関係無い」

 だが、芽依が着ている怪盗服と色やデザインが全く同じのように見える。やはり何かしら関係があるのだろうか。

「あの人、私が戦ったパンサーだ……」
「凪沙ちゃん……」
「大丈夫だよ芽依ちゃん! 今度は勝つから!!」

 あの凪沙さんに致命傷を与えたパンサーがあいつか。よく見たら身長も髪型もどことなく芽依に似ている。どうりで勘違いするわけだ。

「Aujourd'hui, comme annoncé, nous avons reçu le "Schrodinger's Star Ornament" !(今日も予告通り「神猫の星飾りシュレディンガー」を頂きに参上しました!)」
 
「おいおい何て言ってるか分かんねぇよ……ちゃんと日本語で喋ってくれよ……!」
「フランス人なんだから日本語話せるはずが無いだろ」

 俺が正義にツッコミを入れた刹那、マントがなびく音が耳元で聞こえた。

「来てくれたんだね、君。君に会えてボクは嬉しいよ」
「――!」

 突然の事過ぎて思わず唾を飲み込む。

「でもごめんね。また後で遊んであげるね……」
「待て――」

 言い切る前にパンサーは俺の横を通り過ぎていった。

「おいおい、あそこからここまで来るの速すぎだろ……」
「あぁ……はっきり言って異常だ」
「あれが本物のパンサー……隙が全く無いな」

 いつの間にかまた宮殿の頂上にいるパンサーは、この宮殿にいる者全員に向かって言った。

「It's Show time!!」

 言い終わりと同時にパンサーは飛び降り、宮殿の中へと向かっていった。

「よし、俺達も行くぞ! 絶対に見失うな!!」

 優羽汰の掛け声と共に、俺達ネフティスメンバー一同もまたシンデレラ宮殿の中へと走っていった――
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