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第二章 シンデレラ宮殿編

第四十話「星空の下の涙」

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 緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依


 星空が広がる時間帯となった公園は完全なる戦場となった。遊具は消し炭と化し、木々もほとんど焼けてしまっていた。

「Boss ...... !(ボス……!!)」
「大蛇君っ……!」

 二人の死闘の裏で戦っていた凪沙さんと不良達も今は二人の男の行方を見守っていた。
 徐々に煙が霞み、二人の姿が目に見えるようになった。二人は今だ動きを止めている。

「…………」

 俺の背中から鮮血が勢いよく抜けていく。痛みも感じずにその場に倒れた。もう力は使い果たした。こうなったからには相討ちを望むしかあるまい。

 ――凪沙さん……俺はもう、ここまでみたいです……

「Hah, hah......, levez-vous...... héros noirs............(はぁっ、はぁ……、立てよ……黒き英雄…………)」

 もう血の温度すら感じられなくなってきた中、男はよろめきながら大剣を杖代わりに立ち上がる。お互い魔力は底をつき、服装も元に戻っていた。

「Vous, que j'admirais ......, n'êtes pas un homme fragile qui mourrait ...... dans un endroit comme celui-ci. ......(俺が憧れたお前は……、こんな所で……死ぬような脆い男じゃねぇ……!)」
「…………」

 何て言ってるか分からない。いや、聞こえない。口パクで必死に俺に訴えかけているようにしか見えない。そんな情景を映すこの両目もゆっくりと瞼の裏を見せていく。

「...... On se voit en enfer, mon héros.(……また地獄で会おうぜ、俺の英雄)」

 ふらつきながら男は右手の大剣を上段に振りかざし、そのまま俺の心臓めがけて金色の刃を振り下ろし、俺の身体を分断する―― 




「おっ君は……殺させないっ!!」

 刹那、パァンッという乾いた音と共に男の胸部から鮮血が夜空に飛び散った。

「Gah !!! ...... ah !(がっ……あああああ!!!)」

 男の右手から大剣が滑り落ち、ポリゴンの欠片の如く砕け散った。その後男は背中から倒れた。

「Le patron de Bo...... a été tué !(ボ……ボスが殺られた!)」
「Les gars, on s'enfuit avec le patron !(お前ら、ボス連れて逃げるぞ!!)」

 残った不良達はバイクが使えなくなってる中、男を引きずりながら公園を出た。突如現れ、男を撃ち殺した少女はハンドガンを投げ捨てて、血を流しながら倒れている俺の所まで走ってきた。

「おっ君……しっかりしておっ君っ!!」

 ――あぁ、この声は智優美さ……じゃない、芽依だ。よくこんな時間に来たものだ……

「ダメっ……血が、止まらないっ……!!」

 ――凪沙さん……俺の事は良いから早くあいつらに会ってシンデレラ宮殿に向かってください……俺は後で追いつくので。

「諦めちゃダメだよ、大蛇君っ! あともう少しだから頑張ってよ!!」

 ――ふっ、何がもう少しだ。これっぽっちも回復してないのによく言える。お前の『治癒リペア』じゃこの傷は回復しない。
 だから俺の事は諦めてくれ。それよりもやるべき事があるだろ、凪沙さん。これ以上悲しい思いはしないとあの時言ってたではないか。

「もうこんな運命……うんざりだよおお!!!!」





 ――――。
 少女の叫び声が聞こえた。ただの叫び声じゃない、己の運命への憎悪、嘆き、怨念が混ざったようなものがあの声から感じた。まだ会って間もないのに……ただ命を賭ける理由が似てるだけなのに。それだけなのに少女は宿命に嘆きながらこんな俺に泣いてくれる。

 ――もう何も失いたくない、皆の未来を守るとか言っておいて、自分が消えるのはいいのか。自分の未来はどうでもいいのか。そう訴えかけてるかのように。

「お…………れ……はっ…………」

 そうだ、やるべき事があるのは俺も同じだ。俺にも未来がある。俺の未来を、あの二人の少女の涙が照らしてくれている。
 もう迷わないように。簡単に諦めるなんて事をもうしないように。

 ――もう、誰も泣かせない。




「っ……」

 ゆっくりとまぶたを開く。真っ暗な視界が徐々に彩られる。真っ先に見えたのは満天の星空だった。

「……生きてる……のか」

 あれからあの不良軍団と何時間戦ったのだろうか。今の時間的に7時間は超えてるだろうか。

「……目覚めたか、黒神大蛇」

 俺と似た黒髪に白い騎士服。あの姿、どこかで見たことがあるような――

「お前は――」
「凪沙先輩といいお前といい、あのサーシェスの無敵集団と正面衝突とはな。無茶にも程があるだろ」

 サーシェス。さっき俺が戦ったあの神器の大剣を持った大男の名か。

「……一先ひとまずあの二人に会いに行ってこい、お前が心配でどうしようも無かったからな」

 まぁ、うっすらとしか覚えていないが、凪沙さんと芽依は本当に俺の事が心配だったからな。少しでも安心させるのが今の俺の役目だ。

「……この恩は後で返す」
「……なら、任務終わりにカフェ一回分奢りだからな」
「お安い御用だ」

 ここでの恩は俺の身体をここまで回復させた事に対する恩だ。恐らく彼がボロボロになった俺の身体をここまで治したのだろう。任務終わりに博士も誘って行くとしよう。

 そう心に決め、俺は近くで焚き火をしている二人の少女の元へと歩き出す。途中で二人が振り向き、思わず涙が零れ落ちた。

「おっ君……!」
「大蛇君……良かったあああ!!!」

 突然泣き出した凪沙さんと芽依は俺に抱きついてきた。俺は驚きながらも、二人の頭を撫でた。ここまで心配させた責任は取らなければならない。

「……心配かけたな、すまない」
「ホントだよおっ……ぐすっ、ボク心配したんだからね!!」
「大蛇君がっ……死んじゃったかと思ったんだよおお!!」

 ここまで大泣きされると罪悪感で胸がいっぱいになる。まだパンサーを突き止めてないのにもう任務を果たした気分になってしまう。
 男は女の涙に弱いとは、正にこの事なのだろうか。

「……仕方ない、泣き止むまでこのままにしておくとしよう」

 俺は抱きつきながら泣いている凪沙さんと芽依を優しく抱きしめた。

 ――全く、この二人はまるで姉妹だ。あの時のアレスとエレイナにそっくりだ……

 ふと脳に巡ってきた懐かしい思い出に、俺は無意識に笑みをこぼした。
 その思い出は、見上げた先に見える星空と同じくらい綺麗だった――
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