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第一章 海の惑星編

第十七話「『裁き』其の二 〜海の魔女アースラ〜」

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『生きとし生けるもの全ては罪を犯す時、相応の裁きが下る』―――――

 緊急任務:『海の魔女』アースラの討伐、マリエルの救出

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、カルマ、エイジ

 犠牲者:0名

 同時刻――俺とエレイナ(マリエル)は『海の魔女』がいるであろうレイブン城に向かって歩いていた。
 死闘の末、異例な形で武刀正義が仲間に加わり、任務遂行も少ししやすくなったといったところで本題に戻る事となった。

「お~い……黒防よぉ……! もう俺疲れたぞぉ~……」
「おいおい……、それでも俺と互角に戦った剣士か」

「あぁ? ……舐めんじゃねぇぞ! 俺は……まだ余裕どぅぁぁあああ!!!!」

 正義は俺達を気合で抜き去り、影も形も無くなろうとしていた直後、バタリと正面から倒れた。

「あぁぁぁぁぁぁ…………ムリ…モウウゴケマシェン」
「えっ……ちょ、正義君!?」

 俺とエレイナは倒れた正義の所まで駆けつけた。……とはいってもたった30メートルしか正義は走っていないのだが。

「ぜぇぇっ……はぁぁっ……」

 先程の死闘もあってか、今の正義には相当体力が無いと見た。
 少し休まざるを得ないか……と思ったと同時にエレイナが同じことを口にして言った。

「ねぇ、今日はここで休まない? もう暗くなりそうだし……、急いで行ってもこの状態じゃ無理だよ?」
「仕方ない……今日はこの辺にしておくか」

 俺達は今日の野宿する拠点を探すべく森の中へ足を進める。エレイナは正義を引きずりながら俺についていった。

「チョッ……、イタインデスケドオジョウサン………」




 約3時間後――

 辺りはすっかり暗闇に染まった中、俺達は無事に拠点を見つけることが出来た。幸い雨は降っていないので、敵襲が来ない限り今日は無事に夜を過ごす事が出来る。

 その敵襲も、ここは森に囲まれているのでそもそも敵に見つかることがまず無いだろう。更に落ち葉や枝が多くあるので焚き火も問題無くできる。野宿としては完璧とも言える環境だ。あと足りない物といえば……

 斬られた木の上に座りながらそれを考える。だが真っ先に思い出したのはエレイナだった。

「ねぇ、大蛇くん。食べ物ってどうするの?」
「…………。」


 しまった。正義との死闘や森の中をひたすら歩く事で頭がいっぱいだったので、この事を何も考えていなかった。この森で野宿するのだからそれくらいは仕入れないといけない。
 俺としたことが久しぶりの大失態を犯してしまった。

「ちっ……黒坊、さてはなーんも考えてなかったな?」
「これに関しては俺の責任だ、すまない」

 こればかりは俺の責任なので素直に謝る。まさか、ここで大きな失敗をするとはな。俺自身少し失望している。

「……まぁ、どっかこっかの動物狩って直接バーニングすれば何とかなるやろ!」
「うん……、それしかないよね」
「なら、直ちに取り掛かるぞ」

 俺と正義が立ち上がり、急遽きゅうきょ食料調達の任務を遂行する事となった。

「いょおおし! 嬢ちゃん!! ここの留守頼んだで!!」
「うんっ! いってらっしゃい!」


 エレイナは笑顔で俺と正義を見送った。




 任務:『悪魔の森』内で最低一日分の食料を調達する

 遂行者:黒神大蛇、武刀正義

 犠牲者:0名



 エレイナの元を離れ、死闘を繰り広げた二人の剣士は食料調達の任務を開始する。


「よっしゃ! んじゃ黒坊!! どっちが多く飯を取れるか勝負だぁぁ!」

「……受けて立つ」


 左腰のさやから鬼丸を甲高い音と共に引き抜く正義に対して、俺は右手から反命剣リベリオンを召喚し、食料を探す。

「『神器解放エレクト』」

 いくら神器で食料を調達しようとも、剣一本だけでは少し心細い。水星リヴァイス内の陸地の半分を埋め尽くす程の広さを誇るこの森の中で探すなら尚更だ。

 勝負とはいえ、全く食料を調達出来なかったら元も子もないと思い、大蛇は瞬時に神器を解放させ、6本の剣が森の中を飛び回らせる。


「って、おおおおおいいい!!!!! それはずるいぞ!!! 剣の腕だけで勝負だ!! 腕でええ!!!」
「はぁ……」

 効率は悪いが、正義が決めた勝負のルール上そうなるらしい。仕方ないので神器解放エレクトをキャンセルし、右手の反命剣リベリオン一本のまま引き続き食料の調達を行う事にした。


 ――一方、エレイナは焚き火をするべく周囲の落ち葉や枝をかき集めていた。上を見上げると、多少雲がかかっているがキラキラと小さくて明るい星達が夜の闇を月と共に照らす。


「ふぅ……これだけ集まれば大丈夫かな…」


 でも肝心の火はどうしようか。着火させるものが無くては焚き火は出来ない。

 魔法で火を付けようかとも思ったが、基礎魔法でさえも威力が高すぎて燃え尽きてしまうので使えない。


「ど、どうしよう……」


 エレイナが困っている最中に、背後からうっすらと一つの影が現れた。だがその影は、今一番見たくない影だった。

「お困りかい? お嬢さん」
「アースラ……!!」

 最悪だ。最悪のタイミングだ。もしやこの機会を陰から狙ってきたのではと思うくらい。上手くいったと言わんばかりの邪悪な笑みを浮かべながらアースラは話し続ける。

「よく覚えてるね~、マリエル。ところで、何故喋れるんだい? 相手は見つかったのかい?」

「………。」


「その反応からして『強奪スティール』を解除された……訳では無いか。
 ……ともなれば方法は一つしか無いね。お嬢さん、『逆行転生』したね?」

「『逆行転生』……?」
「言葉通りだよ。『過去に転生する事』だよ。でも、お嬢さんの場合はかなり特殊な例で、『身体だけを逆行させて転生した』ってとこだね~っ」

 今のエレイナの状態としては、マリエルの精神だけを『ここ』に残し、過去エレイナの身体に憑依したという事。

 つまり、記憶や精神はマリエルのままだが身体やその身体に宿された魔力は全てエレイナだという事だ。

 当然マリエルの時には奪われていた声も、マリエルの声では無いもののしっかり出るようになった。

「まさか、マリエルのお嬢さんが第二の生に逆行して声帯を取り戻すとはね~。これはちょっと私としても放っておけないね~」

「……私をどうするつもり?」
「そうだね~、こうなったからには……」

 するとアースラはエレイナの全身をタコのような足で絞め上げた。

「うっ……くぁ……!!」
「約束を破った君には『裁き』を受けてもらうよ……?」
「さ、『裁き』……?」
「そうだよ、『裁き』だよ……。悪いことをしたらそれ相応の罰を受けなきゃだめだろう? それと同じさ! マリエル、君は私との約束を破った。その罰……『裁き』として、私に殺されなっ!!!」


 どんどんと絞める力が強くなっていく。同時に首の痛みも強くなってくる。


「あっ………ぁぁああああ!!!」
「はははははは!!! あっははははははは!!!!!」

 次第に力が抜けていく。このまま絞め上げられて死んでいく。アースラの思うがままに。
 たとえ過去の力を得たとしても、私は私。ただのか弱い私。やっぱりこんな私だけでは何も変えられないんだ。

 ………ごめんね、大蛇君。亜玲澄君。正義君。カルマ。エイジ。お姉ちゃん。お父様。センリ。ルイス。皆………

 救いの手は無い。マリエル……いや、エレイナ・ヴィーナスに与えられた未来は、『海の魔女』による裁きをただこの身で受ける事だけだった――
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