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序章 英雄の輪廻編
第二話「三度目の輪廻」
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…………。
………………………。
…………あぁ、まただ。あの時と同じだ。俺は死んだんだ。
何も見えない。誰もいない。どこも動かせない。まだ霧による麻痺が効いているのか。
「――チ」
アレスは今どこで何をしているのだろうか。エレイナの所に行って俺を憎んでいるのだろうか。
「――ロチ」
博士、すまない……。俺が力不足の故にこのような結果を招いてしまった。今も俺達の帰りを待っているだろうな。そう考えると余計に罪悪感が湧いてくる。
「――オロチ」
すまない、エレイナ……最初からお前と出会わなければお前を殺す事も、アレスが死ぬ事も絶対に無かったというのに――
「――オロチ!!」
「はっ――」
誰かに起こされたような気がして、俺はふと目を覚ました。いや、覚まさせられた。
「ここはどこだ……」
俺は仰向けになりながら辺りを見回した。だが何も無かった。視界に入るは四方八方真っ白な風景。流石に誰もいないだろうと判断し、一先ず意識と身体の感覚があるので動かしてみる。
「身体が動く……。まさか天国に来たというのか? 恋人を殺し、と友を死なせてしまったこの俺が……」
「ふふっ……大蛇さん、ようやく目を覚ましたのね」
「っ――!?」
突然右から声をかけられ、振り向くと巫女のような服装をした少女が現れた。今まで人の姿なんて見えなかったのにどうやって現れたんだと疑問が浮かぶ。
「お、お前は一体……」
「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。私はアカネ。ここであらゆる命を護る者よ。……って、この巫女服はただ私が気に入って着てるだけなんだけどね! うふふっ!」
アカネと名乗る巫女服の少女は底抜けに明るく俺に話しかける。少しだけあの少女の面影がぼんやりと見えた気がした。恐らく気のせいだ。
「生命の管理者か……」
「そう、貴方は今回で二度死んで、二度ここに来たと言うのも全て分かるのよ。もちろん、貴方のこれまでの人生も、ね」
「――!」
ならつまり、俺がエレイナと恋に落ちたのも、別れた直後に殺したのも……
そして、あの遊園地でアレスと共に死んだのもアカネは全て把握済みだというのか。何て恐ろしい少女だ。
「だからこそ言えるってのもあるけど、貴方はこれまで多くの人を殺してきたのね……」
アカネが深刻そうな顔をしながら俺にそう言った。自分でやってしまった事だが、胸が痛くなる。
「そうだ……俺は数多の命をこの手で殺した。こんな所で寝かせてないで早く地獄に落とした方が良いんじゃないか?」
今から俺の人生を振り返ろうとも、遅かれ早かれ閻魔大王がここから現れて、俺を地獄に叩き落とすのだ。落とすなら早くしてほしいところだ。
しかし、やってきたのは予想だにしない答えだった。
「何言ってるの? 貴方を地獄なんかに落とすつもりはないわ」
その答えに俺は起き上がりながらアカネの顔を見て言った。
「何を言ってるんだ、俺は人を殺したんだぞ!」
「えぇ、確かに殺したわ。貴方の身体でね」
「は……?」
どういう事だ。意味が分からない。俺の頭では到底理解し難い。
「そうだな……あ、そういえば貴方二回目の時に誰かに身体乗っ取られて無かった?」
「身体を乗っ取られた……?」
「覚えてないのね……。まぁ仕方ないわ。 貴方、前に何者かに身体の支配権を奪われているわ。しかも、そのタイミングは全て人を殺している時にね。奪われた回数も殺した人の数に等しい……一回目と二回目を合わせたら合計でざっと三百かしら」
「三百っ――!?」
そんな馬鹿な……そこまで殺した記憶がない。ちなみに覚えてるのは三人だ。……とは言っても、はっきり覚えているのはエレイナだけだ。
「ふふっ、記憶にないって顔に書いてるわよ。まぁそうよね~っ、貴方が覚えてるのはせいぜい大切な人くらいだもんね。何故かその時だけ、貴方が必死に身体の支配権を奪い返そうとしていたわ」
「じゃあ……」
あの時も……エレイナを殺した時も、俺には抗う意志はあったというのか。でも、あってのこの結末だ。結局この運命は避けられなかったのだ。
今更自分の無力さに打ちひしがれていると、アカネが俺を何とか励まそうとしていた。
「そ、そんな悲しい顔しないで! 確かにその身体で殺したのは事実だけど、貴方自身の意思で殺してないというのも事実だわ」
「だとしても……結局は俺が殺したようなものだ。その過ちが消える事は絶対に無い」
励ましても表情を全く変えない俺に、アカネも思わずしゅんとなる。そろそろ諦めてくれたか……と思った矢先に、アカネの口から衝撃的な言葉が放たれた。
「大蛇さん、もしもう一度この運命を……未来を変えられるチャンスが再びやって来るとしたらどうする?」
「は……?」
「もし貴方にもう一度生まれ変わる意志があるなら、私はその背中を押すわ」
「なっ――!!」
アカネ、正気か。こんな人殺しを生まれ変わらせるだなんて。それも一度目と同様に前世の記憶を持ったまま。そんな事、俺に出来るはずが無いだろ。
「……俺はもうその資格を失った。俺が生まれ変わった所で辿る末路は変わらない」
「資格を失ったなら再び私が与えるわ。辿る末路が変わらないというなら、前より良い未来になるように何度だって貴方を生まれ変わらせるわ!」
アカネは今までで一番はっきりとした声で言った。その意志の強さに俺は目を見開いた。
「大蛇さん、こんな終わり方で納得していいの? 少なくとも、私は嫌だな……」
「アカネ……」
アカネの本心からの言葉を初めて聞いた。よく見ると両目から小さな雫が流れ落ちるのが見えた。それほど俺に人生を……宿命と化した残酷な未来を変えてもらいたいのだ。
これまで数多の人生、運命を見てきたであろうアカネがこれほどまで俺が本来在るはずの未来の実現を望んでいる。もうこれ以上俺が数多の災難によって死ぬのを見たくないのだろう。
無論俺自身もこの運命に納得しているはずは無い。変えられるなら……やり直せるならやり直したい。そうとなれば答えは一つしかない。
俺は深く深呼吸をし、アカネの目をよく見ながら我ながら芯の通った声で言った。
「アカネ、俺にもう一度チャンスをくれ。誰よりも俺が一番あんな大切な人が死んでいく運命に……未来に納得していない。
だから、俺に人生をやり直すチャンスをくれ! これが最後になっても構わない。三度目の正直だ……今度こそあんな残酷な運命を変えたい」
今度はアカネが目を見開き、直後ふにゃりと顔を綻ばせて笑った。
「もちろんだよ……! 貴方のやるべき事を果たせるまで、私はずっと応援するし、何度だってチャンスをあげるよ」
「……ありがとな」
そうだ、この運命は……宿命は始まったばかりだ。あれで終わりだなんて勝手に自分で決めつけていた。
このやり直しを機に、そんな臆病な自分とはもうお別れにしたい。
「あ、そう言えば言うの忘れていたけど、生まれ変わるには前回同様貴方の中の何かを犠牲にしなくちゃいけないのよね……」
どの道何が失われるかは生まれ変わらない限り分からない。両手両足を奪われるとかさえ無ければ後は何を奪われても構わない。
全ては大切な存在をこれから待ち受ける運命から守るためだ。
――そのために、俺は宿命の反逆者になるとここに誓った。
「……じゃあ大蛇さん、再びここに仰向けに倒れて」
アカネの言われる通り、先程目覚めた所に再び仰向けに倒れる。
「じゃあ、そのまま目を瞑って……」
俺はベッドのような柔らかい物体に身体を預ける。
「……いってらっしゃい、大蛇さん。今度こそ変えてくれると信じてるよ」
アカネの最後になるであろう言葉を聞いている内に感覚が再び無くなる。
大切な人達が自分の手で死んでいく運命を変えるために、俺は三度目の人生に足を踏み入れた。
――残酷な終焉へと導く宿命への復讐劇が今、俺の魂に眠る時計の針を動かし始めた。
「大蛇さん、行っちゃったな……」
少し寂しそうに、だけど少し嬉しそうにアカネは呟いた。
また会いたいなという希望を抱きながら――
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…………あぁ、まただ。あの時と同じだ。俺は死んだんだ。
何も見えない。誰もいない。どこも動かせない。まだ霧による麻痺が効いているのか。
「――チ」
アレスは今どこで何をしているのだろうか。エレイナの所に行って俺を憎んでいるのだろうか。
「――ロチ」
博士、すまない……。俺が力不足の故にこのような結果を招いてしまった。今も俺達の帰りを待っているだろうな。そう考えると余計に罪悪感が湧いてくる。
「――オロチ」
すまない、エレイナ……最初からお前と出会わなければお前を殺す事も、アレスが死ぬ事も絶対に無かったというのに――
「――オロチ!!」
「はっ――」
誰かに起こされたような気がして、俺はふと目を覚ました。いや、覚まさせられた。
「ここはどこだ……」
俺は仰向けになりながら辺りを見回した。だが何も無かった。視界に入るは四方八方真っ白な風景。流石に誰もいないだろうと判断し、一先ず意識と身体の感覚があるので動かしてみる。
「身体が動く……。まさか天国に来たというのか? 恋人を殺し、と友を死なせてしまったこの俺が……」
「ふふっ……大蛇さん、ようやく目を覚ましたのね」
「っ――!?」
突然右から声をかけられ、振り向くと巫女のような服装をした少女が現れた。今まで人の姿なんて見えなかったのにどうやって現れたんだと疑問が浮かぶ。
「お、お前は一体……」
「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。私はアカネ。ここであらゆる命を護る者よ。……って、この巫女服はただ私が気に入って着てるだけなんだけどね! うふふっ!」
アカネと名乗る巫女服の少女は底抜けに明るく俺に話しかける。少しだけあの少女の面影がぼんやりと見えた気がした。恐らく気のせいだ。
「生命の管理者か……」
「そう、貴方は今回で二度死んで、二度ここに来たと言うのも全て分かるのよ。もちろん、貴方のこれまでの人生も、ね」
「――!」
ならつまり、俺がエレイナと恋に落ちたのも、別れた直後に殺したのも……
そして、あの遊園地でアレスと共に死んだのもアカネは全て把握済みだというのか。何て恐ろしい少女だ。
「だからこそ言えるってのもあるけど、貴方はこれまで多くの人を殺してきたのね……」
アカネが深刻そうな顔をしながら俺にそう言った。自分でやってしまった事だが、胸が痛くなる。
「そうだ……俺は数多の命をこの手で殺した。こんな所で寝かせてないで早く地獄に落とした方が良いんじゃないか?」
今から俺の人生を振り返ろうとも、遅かれ早かれ閻魔大王がここから現れて、俺を地獄に叩き落とすのだ。落とすなら早くしてほしいところだ。
しかし、やってきたのは予想だにしない答えだった。
「何言ってるの? 貴方を地獄なんかに落とすつもりはないわ」
その答えに俺は起き上がりながらアカネの顔を見て言った。
「何を言ってるんだ、俺は人を殺したんだぞ!」
「えぇ、確かに殺したわ。貴方の身体でね」
「は……?」
どういう事だ。意味が分からない。俺の頭では到底理解し難い。
「そうだな……あ、そういえば貴方二回目の時に誰かに身体乗っ取られて無かった?」
「身体を乗っ取られた……?」
「覚えてないのね……。まぁ仕方ないわ。 貴方、前に何者かに身体の支配権を奪われているわ。しかも、そのタイミングは全て人を殺している時にね。奪われた回数も殺した人の数に等しい……一回目と二回目を合わせたら合計でざっと三百かしら」
「三百っ――!?」
そんな馬鹿な……そこまで殺した記憶がない。ちなみに覚えてるのは三人だ。……とは言っても、はっきり覚えているのはエレイナだけだ。
「ふふっ、記憶にないって顔に書いてるわよ。まぁそうよね~っ、貴方が覚えてるのはせいぜい大切な人くらいだもんね。何故かその時だけ、貴方が必死に身体の支配権を奪い返そうとしていたわ」
「じゃあ……」
あの時も……エレイナを殺した時も、俺には抗う意志はあったというのか。でも、あってのこの結末だ。結局この運命は避けられなかったのだ。
今更自分の無力さに打ちひしがれていると、アカネが俺を何とか励まそうとしていた。
「そ、そんな悲しい顔しないで! 確かにその身体で殺したのは事実だけど、貴方自身の意思で殺してないというのも事実だわ」
「だとしても……結局は俺が殺したようなものだ。その過ちが消える事は絶対に無い」
励ましても表情を全く変えない俺に、アカネも思わずしゅんとなる。そろそろ諦めてくれたか……と思った矢先に、アカネの口から衝撃的な言葉が放たれた。
「大蛇さん、もしもう一度この運命を……未来を変えられるチャンスが再びやって来るとしたらどうする?」
「は……?」
「もし貴方にもう一度生まれ変わる意志があるなら、私はその背中を押すわ」
「なっ――!!」
アカネ、正気か。こんな人殺しを生まれ変わらせるだなんて。それも一度目と同様に前世の記憶を持ったまま。そんな事、俺に出来るはずが無いだろ。
「……俺はもうその資格を失った。俺が生まれ変わった所で辿る末路は変わらない」
「資格を失ったなら再び私が与えるわ。辿る末路が変わらないというなら、前より良い未来になるように何度だって貴方を生まれ変わらせるわ!」
アカネは今までで一番はっきりとした声で言った。その意志の強さに俺は目を見開いた。
「大蛇さん、こんな終わり方で納得していいの? 少なくとも、私は嫌だな……」
「アカネ……」
アカネの本心からの言葉を初めて聞いた。よく見ると両目から小さな雫が流れ落ちるのが見えた。それほど俺に人生を……宿命と化した残酷な未来を変えてもらいたいのだ。
これまで数多の人生、運命を見てきたであろうアカネがこれほどまで俺が本来在るはずの未来の実現を望んでいる。もうこれ以上俺が数多の災難によって死ぬのを見たくないのだろう。
無論俺自身もこの運命に納得しているはずは無い。変えられるなら……やり直せるならやり直したい。そうとなれば答えは一つしかない。
俺は深く深呼吸をし、アカネの目をよく見ながら我ながら芯の通った声で言った。
「アカネ、俺にもう一度チャンスをくれ。誰よりも俺が一番あんな大切な人が死んでいく運命に……未来に納得していない。
だから、俺に人生をやり直すチャンスをくれ! これが最後になっても構わない。三度目の正直だ……今度こそあんな残酷な運命を変えたい」
今度はアカネが目を見開き、直後ふにゃりと顔を綻ばせて笑った。
「もちろんだよ……! 貴方のやるべき事を果たせるまで、私はずっと応援するし、何度だってチャンスをあげるよ」
「……ありがとな」
そうだ、この運命は……宿命は始まったばかりだ。あれで終わりだなんて勝手に自分で決めつけていた。
このやり直しを機に、そんな臆病な自分とはもうお別れにしたい。
「あ、そう言えば言うの忘れていたけど、生まれ変わるには前回同様貴方の中の何かを犠牲にしなくちゃいけないのよね……」
どの道何が失われるかは生まれ変わらない限り分からない。両手両足を奪われるとかさえ無ければ後は何を奪われても構わない。
全ては大切な存在をこれから待ち受ける運命から守るためだ。
――そのために、俺は宿命の反逆者になるとここに誓った。
「……じゃあ大蛇さん、再びここに仰向けに倒れて」
アカネの言われる通り、先程目覚めた所に再び仰向けに倒れる。
「じゃあ、そのまま目を瞑って……」
俺はベッドのような柔らかい物体に身体を預ける。
「……いってらっしゃい、大蛇さん。今度こそ変えてくれると信じてるよ」
アカネの最後になるであろう言葉を聞いている内に感覚が再び無くなる。
大切な人達が自分の手で死んでいく運命を変えるために、俺は三度目の人生に足を踏み入れた。
――残酷な終焉へと導く宿命への復讐劇が今、俺の魂に眠る時計の針を動かし始めた。
「大蛇さん、行っちゃったな……」
少し寂しそうに、だけど少し嬉しそうにアカネは呟いた。
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