お狐様にお願い!

竹本 芳生

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為当神社の祭りの日(日曜日) 6

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どれだけの間、そうしていたのか分からない。

「隼……隼、離しておくれ……」

白様からソロソロと腕を離す。

「隼、今日はこちらのお社の祭りの日だ。側にいるとは言うたが、祭りの日は別だ。あの子等と共に行かねばならぬ。」

白様が見つめる視線の先には、大勢の子供達が道端に子供神輿と共に出て来ていた。大人達も周りにいた。
今からぐるりとまわって神社を目指してく……昨日見た、景色がダブる……
気を付けて見れば、大小様々な狐がいた……

「うん、分かった……行ってらっしゃい……」

白様はお稲荷様のお使いだ、あの狐達もお使いだ……一緒に行列を歩いてくのは、何か意味があるんだろうな。
グイと涙を拭って笑顔で送る。

「隼、行ってくる。」

「うん。」

駆けていく白様の後ろ姿……跳ねるおかっぱの髪も風を孕んで翻る巫女衣装の袖や膝丈の袴……なんだよ……後ろ姿もメチャクチャ可愛いとか反則だよ。
ゆるゆると動き出す行列の先頭のその先を歩き出す白様の頭だけが、チラリと見えて……遠ざかった。
急に聞こえてきた人や車の音に現実に引き戻されたような不思議な気持ちで、集会所を目指して歩く。
集会所に戻れば、母さん達は稲荷寿司を頬張っていた。

「え……なんで、稲荷寿司食べてるの?」

買ってきた覚えの無い物を食べてたから、思わず聞いた。

「ング……美味しいよ!えっとねぇ、支給されました!やったね!」

凄く良い笑顔で言われて、ガックリと力が抜けそうになる。母さんはこういう性格だった。

「隼はさっき買ったやつ食べたら良いよ!」

そう言うと、母さんは智子さん達から離れて俺の側に来た。
グイと引っ張られて、テーブルに置きっぱなしになってた袋の側まで行く。

「電子レンジ使って良いよねー?」

「良いよー!」

智子さんの元気の良い返事が来た。

「だってぇ!温め直せるね!…………仲直りできたみたいで何より。」

思わずギョッとして、母さんを見つめた。小声だった母さんの声が、響き渡るように聞こえた。

「宇迦様も心配していた。隼、何事もあんた次第よ。」

小さな小さな声なのに、動けなくなる程の衝撃だった。

「向こうはお化粧道具あるから、隼はこっちで食べるか和室で優輝君と食べな!優輝君、和室で先に食べてると思うよ~!」

「あっ……ああ、分かった。ありがと、母さん。」

いつもと同じように喋った言葉に頷いて、幾つか取り出し電子レンジで温める。温まったパックと割り箸を持って和室に向かうと、優輝は殆ど食べてて完食間近だった。

「遅ーよ。何だったの?」

「俺的に大事なコト。ちょっと言いたくない。」

「ふーん……俺でも言いたくない?」

「親兄弟でも言いたくない……けど、母さんだけが何か知ってそうでコエー。」

「あー……美香さん、ちょっと怖いもんな。」

「は?母さんが怖い?」

「知らねぇの?美香さん、ガチのスピリチュアル系だぞ。」

「マジで?全然知らないんだけど。」

「マジかよ……占いとか、スゲェ当たるらしいぞ。」

「知らなかった……」

「そっか……多分バレてるかもな。」

「だな……」

全然知らなかった……じゃあ、さっき言った宇迦様って……お稲荷様の事?だよな……母さんはお稲荷様の事、宇迦様って言ってるもんな……じゃあ……じゃあ宇迦様が心配って……
俺はぐるぐる考えながら、パックのオムソバとおにぎりを食べた。
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