お狐様にお願い!

竹本 芳生

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この気持ちのまま

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毎日毎日、白様と過ごす中どんどんケガは治っていく。
どうしよう……白様と離れたくない……
でも毎日来てくれる母さんや優輝の事を思うと、早く治して退院しないとな……とも思う。
もう少ししたら人っけも無くなって、白様が来てくれる。俺の癒しで至福で幸せの時間……
俺は仰向けのまま腕で顔を隠し、白様への気持ちと決して報われない白様の存在に胸がリアルに痛くて辛くて……泣いた。
誰も居ない一人っきりの病室で、声を抑えて泣いた。

「どうしたっ!隼っどこか痛いのか!」

慌てたような白様の声に慌てて、腕を取っ払って見る。
すぐ側で心配そうに、布団の端を握って立っていた。

「し……ろ……「どうしたっ!隼っ!」……あ……な…まえ……」

「名前が何だと言うのだっ!どこか苦しいのかっ!」

白様があんまり必死で、少しだけ笑ってしまった。

「何がおかしいっ!」

「ごめん、白様……さっきまで、胸が苦しかったんだ。でも、白様のお顔を見たら治りました。」

ごめん白様……でも、苦しいのは本当なんだ。
分かってる、白様が本当は神様につかえてるお狐様だって……好きになった俺が悪いって事も分かってる。
だけど好きが止まらない……ごめん白様……白様の事、好きでいさせて下さい。
俺のワガママを許して下さい。

「私の顔で苦しいのが楽になるなら、いくらでも側に居よう。」

なんで、そんな勘違いしそうな事言うんだよ……俺はずっと……ずっと側に居て欲しいって思ってるのに。

「ありがとう、白様。じゃあ……側に居てよ。」

「勿論だ。」

そうして、時間が過ぎて消灯時間になる。
消灯時間になったら、白様は狐の姿になって俺の胸の上で過ごしてくれる。
小さくてあったかい白様を抱き締めたまま寝落ちする。
今の俺の一番の幸せ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

今日、退院する。
母さんが来てくれた。
このまま病院を出て、家に帰るのか……
ボンヤリした頭で、母さんの後を付いて行く。
病院の駐車場でエンジンを掛けた母さんが、一つため息を付いてから財布を引っ張り出し千円札をポチ袋に入れた。
お小遣い?だったら、いつもはお札をそのままくれるのに何だろう?

「隼、これ……あんたから、ちゃんとあげなさいよ。今から五社稲荷に寄るからね。」

五社稲荷……白様に感謝しなきゃ……

「うん。ありがと、母さん。ちゃんとお礼言わなきゃな……」

病院から出てすぐ、いつも病室から見ていた大鳥居をくぐり抜ける。
そのまま一の鳥居の前にある駐車場に車が止められる。

「ハンカチある?」

「あー……無いや。」

母さんはガサゴソとバックから小さなハンドタオルを出すと、俺の方に差し出す。
受け取って、手に持ったまま車を降りて鳥居に近付く。
左側に立ち一礼してくぐる、母さんから教わったまんま進む。
母さんも一礼し、どんどん進み鳥居をくぐるたんびに頭を下げて行く。
俺も真似をして、頭をペコペコ下げて進む。
手水舎にくれば、母さんは手慣れた風に淀みなく手を清めていく。俺は母さんと何度となく神社参りに付いて行ってるから、何一つ戸惑う事なく手を清めていく。
拝殿の前でソッとポチ袋を賽銭箱に滑らせ、二礼二拍一礼して住所と名前を心の中で告げ感謝を述べる。

頭を上げて母さんを見てから、Gパンのケツポケに入ってる財布を出して中身を確認する。
500円玉が入ってる……本当はちゃんとお札を出す方が良いとは思うけど、小遣いの厳しさを思うと500円で許して欲しい。

「母さん、奥宮にも行きたいんだけど……」

「良いよ。奥もぐるっと回ろう。」

母さんはニカッと笑うとスタスタと奥宮に向かって歩いて行く。
拝殿の横から奥に向かうと、千本鳥居みたいになってる参道は茂った木々に囲まれてて昼間でも薄暗いと感じる。
母さんの後を付いて行くみたいに歩いて奥宮にたどり着く。
母さんがお参りしている後ろに付いて、母さんが退くのを待つ。
500円ですいません!と思いながら、賽銭箱に静かに入れてからお参りする。


お狐様……白様、お守り下さりありがとうございました。無事退院出来ました。本当に……白様……白様、俺ホントはずっと……もっと、ずっと側でお守りして欲しかった!白……「言ったはずだ、ずっと守ると。勝手に別れの挨拶なぞするな!」

「白様!俺っ……俺……ありがとうございます!よろしくお願いしますっ!」

俺は再度頭を下げてから、1歩下がった。
くるりと振り返ると、母さんはニヤニヤ笑いながら俺を見て「良かったね。」と言うと又先に歩き出してお参りしていった。
母さん…………何を一体どれ位気がついているんだろう、マジでコエーよ……
後を付いて行くそんな事を思った俺の手が1回だけキュッと、白様に握られた気がして嬉しくなって笑った。

ありがとう宇迦様、俺のお守りに白様を付けて下さって。
白様、俺のお守りになってくれてありがとう。

一通りお参りした母さんは、清々しい笑顔で車に乗り込み「今日はご馳走だよ!」と言うと上機嫌で家に帰った。
久しぶりの家、久しぶりの俺の部屋。
空気の入れ替えをしてくれてたみたいで、部屋の中はファブリーズ臭がホンノリした。
母さんは窓を開けて空気を入れ換えた後、窓を閉めてからファブる癖がある。
母さんのファブリーズ好きは中々で部屋だけじゃなくて、廊下に階段にトイレに脱衣所に玄関にとアチコチにスプレーが置いてある。
洗濯物を干してすぐにもファブる、最近テレビでやってるけど母さんは何年も前からやってる。
何でかは知らないけど、その方が良い気がする!とか言ってやってる。

カリカリカリ

ドアの向こうから引っ掻く音がする。
ウタが部屋に入れろって催促のカリカリ音だ。
カチャッとドアを開くと、ニャ~ンと一鳴きして俺の足元に体を擦り付けてくる。
ウタを抱き上げ、ベッドに腰掛ける。

「ただいま、ウタ。寂しかったか~?俺は寂しかったぞ~」

グリグリと額をウタの額に擦り付けて呟く。

「私がいたのに、寂しかったか。そうか。」

「えっ?白様!なんでっ!ここ、俺の部屋っ!」

白様はアチコチ見回して、ニコッと笑う。

「ずっと側で見守ると言っただろう、隼の部屋に来る位どおって事無い。隼は部屋をきちんとキレイにしていて立派だぞ!」

ウタも俺も白様を見つめていた……
俺はやっと気付いた、ずっと側って事は白様は俺の部屋も問答無用で入って来れるって事に。
俺のプライベートはいつでも白様乱入の可能性がある事に…………

「マジかぁっーーーーー!!」

俺は部屋の中、絶叫した。
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