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それは秘密の時価(ハインリッヒ&フェリシア)

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豪奢な部屋にあるのは大きな寝台。その大きな寝台があっても狭いなどと感じない広い部屋にはソファとテーブルもあり、美しい細工の施された飾り棚もある。
普段は結い上げた髪は無造作に降ろされ、薄手のシュバルツバルト公国から着られるドレスに似せた夜着を着たフェリシアは寝台の上で上半身をクッションに凭れかけている夫ハインリッヒの胸に凭れていた。

「ハイル、エリーゼはルークが留守の間泣いてしまうかしら?」

ハインリッヒは自分に体を預ける妻フェリシアの頭を優しく撫でる。

「かも知れん、だがエリーゼは誇り高く強い娘だ。きっと耐えてくれる」

「そうね……でも心配なの」

普段の強気な言動はなりを潜めたフェリシアは優しく美しい妻であった。

「幾ら心配でも信じるしかない、エリーゼを……そしてルークもな」

ハインリッヒは華奢なフェリシアの体を強く抱き寄せ、顎に手を掛ける。
それだけでフェリシアは頬を染めて瞼を閉じる。
いつまでたっても愛し合う時は初々しい反応をする妻フェリシアを可愛いと執拗に求めてしまうハインリッヒはやはり最近は年齢というモノをヒシヒシと感じてしまいやり切れなくなる。
長い口吻を交わした後、ハインリッヒは愛しい妻フェリシアを熱っぽい瞳で見つめたまま訪ねる。

「フェリ、年老いて来た俺はフェリを満足させているだろうか?」

強く優しく抱いてくれる夫ハインリッヒが自信を無くしてるかの様子に驚くも小さく首を振って否定する。
いまだフェリシアはハインリッヒを受け入れるだけで気をやってしまうのだ、年齢の事を言えばフェリシアとて若くないので体が辛い朝も多かった。

「ハイル、私は十分満足してますわ。私だってハイルが年相応にくたびれた私に見向きもしなくなったらと思うと泣きたくなるわ」

それはフェリシアの本心だった。
フェリシアの心は出会ったあの時からハインリッヒのモノなのだ。
フェリシアの強気な言動はハインリッヒが許してくれるからこそだった。
ハインリッヒも出会った時から強気で傍若無人な振る舞いをするフェリシアを可愛らしい我が儘だと思い愛でていた。

「フェリシア、俺のただ一人の最愛の妻よ。死ぬまでだ、死ぬまで貴女だけだ俺が愛する妻は。だから寂しい事は言ってくれるな、出来る事なら末永く共にいてくれ」

「それは私の言葉だわ、老いて皺くちゃになっても私の事を愛でて下さいね」

「言われなくとも」

そして又、口吻を交わし二人は夫婦の時間を迎える。
甘く切ない夜、家族ですら知らない甘やかな時間は二人の秘密でもある。
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