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何だこれは!(アーネスト)

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その日、ゴルゴダ帝国宰相の執務室に現れたのは王国貴族の元に輿入れした愛娘フェリシアのハーピーと見覚えのない大きなバスケットだった。
執務机の前に置いてあるソファセットのローテーブルの上に置かれた荷物を見てアーネストは溜息を溢した。

「今度は何だ?」

いつもは手紙なのに荷物だと?ご丁寧にバスケットの中に手紙が入ってる。
どれ、どんな無理難題を言ってきたか?それとも可愛い我が儘か?
……む?桃の蜜漬け?蜜漬けとは何だ?まあ、良い。皇帝陛下の分も入れたから……だと……里にも送ったから安心しろとか……良く分からんが、あの娘が送って寄越すんだからただ事では無いか?いや、桃自体は珍しく無いし蜜漬けというのが分からんな。
バスケットから中身を取り出す。
布で覆われ、打つからないようにきっちり入れられた瓶を一つ取り出す。

「桃?こんな白い桃なぞ初めて見るな……里にも送ったとあったが……」

「アーネスト様?」

長い事付き従って来た同郷の仲間の一人が心配そうに聞いてくる。

「フェリシアからだ、我らと皇帝陛下にと送って来た。どんな物か良く分からんから食べてみるか、桃と書いてあったが初めて見るし蜜漬けというのが良く分からん」

瓶一つを手渡し執務机へと戻る。
瓶を受け取った壮年の男はクスクスと笑いながら瓶和開け美しい皿に次々と桃と言われた物を乗せていく。

「香りは桃ですね」

そう言って皿をアーネストの前に置くと別の男が紅茶を淹れる。
壮年の男達がワラワラとアーネストの執務机に集まる。
銀色に光るデザートフォークが置かれる。

「確かに桃の香りだな、形も桃だな……」

「蜜漬けが良く分からなかったので瓶の中の液体は残してありますよ」

「そうか」

そう言ってデザートフォークで桃と言われた物を一口大に切り取り、内心の恐れをおくびにも出さずに口の中に入れた。
入れた瞬間アーネストは目を見開き、動きを止めた。
それは初めて口にする甘みと柔らかさだった。
口中に広がる桃の香り!
初めての衝撃に無言で食べかけの桃を一気に平らげた。
それを見た男達も我先にと食べ始め、同じように衝撃を受けた。

「何だこれは!これが桃だと言うなら今まで食べていた桃とは何だったのか!」

ガッ!とバスケットを見て瓶の数を数える。
皇帝陛下と山分けか……では、皇帝陛下に二瓶。自分達は一瓶食べたから一瓶残る。

「蜜漬けと言っていたが、蜜とは砂糖の事かも知れん。でなければこの甘さはでないだろう。それにしても何と言う物を……」

アーネストはその甘美な桃の瓶を二つ持ち皇帝陛下の元へと急いだ。
いまだ桃の余韻に浸ったまま。
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