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忘れる事なき思い出 2 (アナスタシア)

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いつまで経っても公爵領へ行く事を許してくれない夫マクスウェルに焦れた私は、嫁ぐ時に連れて来ていた数人の騎士と侍女達を連れてこの領主館から飛び出した。
慣れ親しんだ馬車に揺られ、領都を出て間もなくの事だった。
初めて聞く物音と衝撃に何が起きたのか分からなかった。
騎士達の慌てたような声、何か穏やかでない物音……叫び……
見回せば、私に覆い被さるように倒れ込む侍女……
美しく居心地良いように造られた馬車が見るも無惨に倒され、空が見えた……何か得体の知れない力でもって壊されたのだと気がついた。
何処からか赤子の……あの子の泣き声が聞こえる!早く行ってあげないと!なのに声が出なかった。
一緒にいたはずの侍女の声が何処からか聞こえた。あの子を守ろうとする叫びだった。
大きな……聞いた事のない鳴き声……
何かが倒れたような物音……侍女の悲鳴……
そして、あの子の泣き声が消えた。
大きな物音が……まるで鳥の羽ばたくような音がして、呻き声と咽び泣くような泣き声だけが聞こえた。
程なく、蹄の音と振動が近付いた。
強張り引き攣った顔のマクスウェルが私を馬車から助け出してくれた。
多くの騎士達が絶命し、生き残った者達も再び騎士として働く事は叶わなかった。
侍女達も私に覆い被さった一名を除いて、絶命していた。それだって亡骸があるだけ良かったと言われた。
二名の侍女とあの子は姿を消していた。
生まれて半年。
マクスウェルによく似た男の子。
マクスウェルと笑いながら、付けた名前……
強面で厳つい体で……大きな手が小さな小さなあの子を宝物のようにうんと優しく抱いて……
昨日の出来事のように思い出せる。
「ラインハルト!お前の名前はラインハルトだ!お前が暮らしやすいように俺がうんと魔物を退治してやるからな!大きく育てよ!アナスタシア!宝物をありがとう!かけがえのない、俺達の宝物だ!」
そう叫んだマクスウェルの笑顔が……声が……

「お義母様……」

フェリシアの声にハッとする。
優しく私の涙を拭き取り、背中を擦ってくれる。
暫くしてから、ようやく恵まれたハインリッヒ。
その頃にはシュバルツバルト領の事を学び、忙しい両親を呼び寄せた。
ハインリッヒが生まれてから、この領主館は賑やかな毎日になった。

この領主館に住んでた頃あの子が生まれた日、こっそりと林の中の赤い小さなお家に行っていた。
マクスウェルに教えて貰った場所。
手を合わせて、祈ると場所。
この領主館からは出てしまったけど、ラインハルト……貴方が生まれたり日はマクスウェルと手を合わせてるのよ。
もうじき私も貴方のいる所へ行くわ。
そしたら愚かだった私を叱ってね、お願いよラインハルト……

気が付けば私はフェリシアの胸で泣いていた。
ああ……この強さがハインリッヒを射止めたのね。
クスリと笑うとフェリシアも笑う。
本当に良い方を迎えれた……心の底から、そう思った。
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