498 / 754
忘れる事なき思い出 2 (アナスタシア)
しおりを挟む
いつまで経っても公爵領へ行く事を許してくれない夫マクスウェルに焦れた私は、嫁ぐ時に連れて来ていた数人の騎士と侍女達を連れてこの領主館から飛び出した。
慣れ親しんだ馬車に揺られ、領都を出て間もなくの事だった。
初めて聞く物音と衝撃に何が起きたのか分からなかった。
騎士達の慌てたような声、何か穏やかでない物音……叫び……
見回せば、私に覆い被さるように倒れ込む侍女……
美しく居心地良いように造られた馬車が見るも無惨に倒され、空が見えた……何か得体の知れない力でもって壊されたのだと気がついた。
何処からか赤子の……あの子の泣き声が聞こえる!早く行ってあげないと!なのに声が出なかった。
一緒にいたはずの侍女の声が何処からか聞こえた。あの子を守ろうとする叫びだった。
大きな……聞いた事のない鳴き声……
何かが倒れたような物音……侍女の悲鳴……
そして、あの子の泣き声が消えた。
大きな物音が……まるで鳥の羽ばたくような音がして、呻き声と咽び泣くような泣き声だけが聞こえた。
程なく、蹄の音と振動が近付いた。
強張り引き攣った顔のマクスウェルが私を馬車から助け出してくれた。
多くの騎士達が絶命し、生き残った者達も再び騎士として働く事は叶わなかった。
侍女達も私に覆い被さった一名を除いて、絶命していた。それだって亡骸があるだけ良かったと言われた。
二名の侍女とあの子は姿を消していた。
生まれて半年。
マクスウェルによく似た男の子。
マクスウェルと笑いながら、付けた名前……
強面で厳つい体で……大きな手が小さな小さなあの子を宝物のようにうんと優しく抱いて……
昨日の出来事のように思い出せる。
「ラインハルト!お前の名前はラインハルトだ!お前が暮らしやすいように俺がうんと魔物を退治してやるからな!大きく育てよ!アナスタシア!宝物をありがとう!かけがえのない、俺達の宝物だ!」
そう叫んだマクスウェルの笑顔が……声が……
「お義母様……」
フェリシアの声にハッとする。
優しく私の涙を拭き取り、背中を擦ってくれる。
暫くしてから、ようやく恵まれたハインリッヒ。
その頃にはシュバルツバルト領の事を学び、忙しい両親を呼び寄せた。
ハインリッヒが生まれてから、この領主館は賑やかな毎日になった。
この領主館に住んでた頃あの子が生まれた日、こっそりと林の中の赤い小さなお家に行っていた。
マクスウェルに教えて貰った場所。
手を合わせて、祈ると場所。
この領主館からは出てしまったけど、ラインハルト……貴方が生まれたり日はマクスウェルと手を合わせてるのよ。
もうじき私も貴方のいる所へ行くわ。
そしたら愚かだった私を叱ってね、お願いよラインハルト……
気が付けば私はフェリシアの胸で泣いていた。
ああ……この強さがハインリッヒを射止めたのね。
クスリと笑うとフェリシアも笑う。
本当に良い方を迎えれた……心の底から、そう思った。
慣れ親しんだ馬車に揺られ、領都を出て間もなくの事だった。
初めて聞く物音と衝撃に何が起きたのか分からなかった。
騎士達の慌てたような声、何か穏やかでない物音……叫び……
見回せば、私に覆い被さるように倒れ込む侍女……
美しく居心地良いように造られた馬車が見るも無惨に倒され、空が見えた……何か得体の知れない力でもって壊されたのだと気がついた。
何処からか赤子の……あの子の泣き声が聞こえる!早く行ってあげないと!なのに声が出なかった。
一緒にいたはずの侍女の声が何処からか聞こえた。あの子を守ろうとする叫びだった。
大きな……聞いた事のない鳴き声……
何かが倒れたような物音……侍女の悲鳴……
そして、あの子の泣き声が消えた。
大きな物音が……まるで鳥の羽ばたくような音がして、呻き声と咽び泣くような泣き声だけが聞こえた。
程なく、蹄の音と振動が近付いた。
強張り引き攣った顔のマクスウェルが私を馬車から助け出してくれた。
多くの騎士達が絶命し、生き残った者達も再び騎士として働く事は叶わなかった。
侍女達も私に覆い被さった一名を除いて、絶命していた。それだって亡骸があるだけ良かったと言われた。
二名の侍女とあの子は姿を消していた。
生まれて半年。
マクスウェルによく似た男の子。
マクスウェルと笑いながら、付けた名前……
強面で厳つい体で……大きな手が小さな小さなあの子を宝物のようにうんと優しく抱いて……
昨日の出来事のように思い出せる。
「ラインハルト!お前の名前はラインハルトだ!お前が暮らしやすいように俺がうんと魔物を退治してやるからな!大きく育てよ!アナスタシア!宝物をありがとう!かけがえのない、俺達の宝物だ!」
そう叫んだマクスウェルの笑顔が……声が……
「お義母様……」
フェリシアの声にハッとする。
優しく私の涙を拭き取り、背中を擦ってくれる。
暫くしてから、ようやく恵まれたハインリッヒ。
その頃にはシュバルツバルト領の事を学び、忙しい両親を呼び寄せた。
ハインリッヒが生まれてから、この領主館は賑やかな毎日になった。
この領主館に住んでた頃あの子が生まれた日、こっそりと林の中の赤い小さなお家に行っていた。
マクスウェルに教えて貰った場所。
手を合わせて、祈ると場所。
この領主館からは出てしまったけど、ラインハルト……貴方が生まれたり日はマクスウェルと手を合わせてるのよ。
もうじき私も貴方のいる所へ行くわ。
そしたら愚かだった私を叱ってね、お願いよラインハルト……
気が付けば私はフェリシアの胸で泣いていた。
ああ……この強さがハインリッヒを射止めたのね。
クスリと笑うとフェリシアも笑う。
本当に良い方を迎えれた……心の底から、そう思った。
95
お気に入りに追加
6,706
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜
真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。
しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。
これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。
数年後に彼女が語る真実とは……?
前中後編の三部構成です。
❇︎ざまぁはありません。
❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる