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八丈島のある日のチョロギー

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八丈島の合宿で朝も早くから集まり笛やら何やらやってるのを横目で見て過ごす私は、馬である故一緒に行えない事に早々に気が付き見学者として過ごしてきた。
仲間だが、一緒に行えないのはそれなりにストレスとなっていた。

(……気晴らしに走ってくる。)

日が登って明るくなってから、そうピカ太郎に言うとピカ太郎はチョコチョコと寄って来た。

「ひとりでいくピカ?」

(ああ……そのつもりだが、どうした?)

「いっしょにいきたいピカ。」

小さな体をモジモジさせて聞いてくるピカ太郎は何とも可愛らしい。仕方ないと大きく鼻息を鳴らし首を下へと伸ばす。

(仕方ない。乗れ。)

「いいピカ!」

ピカ太郎はそう嬉しそうに言うと小さな足を必死に使って私の頭によじ登って来る。頭の天辺に温かい重さと僅かに感じるたてがみを引っ張られる感触で無事乗ったのだと理解する。

「のったピカ!」

(うむ!今日は山に遠乗りしようと思う。何、大した距離ではないがチビナビ殿が是非とも山の倒木のあるあたりで雷を落として欲しいと言っててな。ピカ太郎と一緒に落とすのは強すぎるので私一人の雷でと言われた。だからピカ太郎は一切手出し無用で頼む。)

「わかったピカ。みてるピカ。」

(では、しっかり掴まっててくれ。思い切り走るからな。)

キュと引っ張られる感触を感じて私は走り出す。ちょっとした岩場なんぞも軽々と登れる程の脚力、追いかけて来る者もそうそう居ない。居たとしてもそれはユキかリコであろう。いや、幼いリコはずっと追いかけては来れないか。早い息遣いと白い影……ユキだ。

(ピカ太郎とどこに行くの!)

母であれば心配か?

(山裾の倒木の多い場所だ。雷を落としに行くから離れてくれ。)

(危ない事じゃないのね!)

(勿論だ!何回か落としたら戻る!)

「だいじょうぶピカ!ユキママもどっててほしいピカ!」

(分かった!)

並走していた白い影はあっという間に離脱していった。そうして暫く走り、倒木がやたらと目立つ比較的明るい場所に着くと、黒服に黒い刺繍のチビナビ殿が立っていた。

「チョロギー殿、この辺りにチョロギー殿の雷をお願いしたいのです。」

(分かった。ピカ太郎手出し無用だぞ。)

「わかってるピカ!」

大きく嘶き四方八方に雷を落とす。思い切り走った後、更に雷をじゃんじゃん落とすのが楽しくてついやり過ぎた。

(少々落としすぎた。)

「大丈夫です!むしろ良い塩梅です!」

(ふむ?そうか?だが、なぜ雷を落として欲しかったのだ?)

「はい。エリーゼ様の知識に雷の多い場所は椎茸が良く採れる。と……この辺りは天然の椎茸が採れる場所ですが、もし沢山採れるなら……とお願いしました。チョロギー殿ありがとうございました。」

(そうか!ご主人様の為にもなったのなら、それは良い事だ!何、この程度ならばいくらでも出来る。さて、気晴らしも済んだしロッジに戻るがチビナビ殿はどうする?一緒に戻るならば私の背に乗ると良い。)

「良いのですか?」

(勿論だ。今の私は気分が良い。乗り心地は悪いかも知れんがお嫌でなければ。)

「乗ります!」

そう言うとピョンッ!と飛び乗って来た。小さい体がうんと跳ねたのだが、ご主人様のお力によって生み出された方達だ不思議ではないか。

(しっかりと掴まっててくれ。)

「はい!」

私は体中に漲る力をも使い全速力でロッジを目指す。この体中に漲る力を使うと本来なら感じる地面を感じない。ただただ走りやすい平地のように感じるのだ。私はこの地に来て、私のありようの全てが変わった。雷を放ち稲妻のように駆け抜ける……

あっという間についてしまった。

(着いたぞ。)

「ありがとうございました!」

いつの間にか飛び降りて、ピョコンと頭を下げたチビナビ殿は仲間達の所へと走っていった。

「すごかったピカ!」

(そうか?私は一休みする。ユキが心配してるだろう、側に行ってやれ。)

「わかったピカ!」

歩いて木陰に行き横たわり、首を下ろすとピカ太郎も降りて来る。小さな前足を私に振ると四つ足でユキの元へと駆けていった。
吹き抜ける風の心地良さに瞼を閉じる。

ああ……ここは良い所だ…………
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