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異変 2 (アンネローゼ)

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ため息が思わず一つ出る。

「正妃様、どうぞお座りに為さって。お付きの方達はあちらで楽になさっていて頂戴。」

「「ありがとうございます。」」

「アンネローゼ様……」

「さ、正妃様。お勉強なさいましょうか。」

「はぁ……はいっ!」

「返事は短くはなりましたが、そんなに勢い良くするのはいただけません。」

「はいっ。」

「もう少し気をつけなさいませ。」

「はい……」

「宜しい。」

「アンネローゼ様、失礼致します。ミネルバ様がそろそろ向かいますとの事です。」

「では、ミネルバ様のお茶を用意為さって。」

「畏まりました。」

私と侍女のやり取りを見て、考え込んだあの子は無言で侍女の動きを見ていた。違う侍女があの子の前に紅茶を置いたのを見て、落ち込んだ顔になった。

「ごめんなさい……」

「何に対しての謝罪ですの?」

「分かんないけど……」

困った子。いつも勝手にやって来て、私の侍女達が慌ててお茶の用意をする。あの子の侍女達は先触れに行こうとすると止められると愚痴を言っていたと報告は受けている。

「ミネルバ様が参りました。」

先導を受けてやって来たミネルバは確かにだが少し気怠げでいつものような爛漫さが欠けているように見える。私の前に来て、ソファに静に座り込む。調子が悪いのかしら?

「アンネローゼ様、お待たせ致しました。」

「失礼致します。」

早々に出された紅茶を一口飲むミネルバはホゥ……とおおきく息を吐く。

「何だか調子が悪いと言うか、魔力が上手く回らなくて……」

同じだわ……私も起き抜けに体を巡る魔力がおかしくて思わず顔をしかめてしまったのよね。

「ミネルバ……貴女もなの?私も上手く巡らなくってちょっと機嫌が悪くなってしまって……」

「お嬢様、ミネルバ様。上手く巡らないのは腹の辺りではございませんか?」

ばあやが少し緊張した面持ちで神妙に聞いてくる。良く思い出せば確かにお腹の辺りで巡りが悪くなって……

「その通りよ、何か思い当たる節があるのかしら?」

ばあやが嬉しそうな顔で深々と頭を下げた。

「きっと子種がついたのでございますよ。ようございました。暫くの間は大人しくして居れば、ちゃあんと腹の中で大きくなりますよ。」

思わずミネルバと顔を見合わせる。……いけない……ここにはあの子も居た。

「そう……本当に孕んだのなら喜ばしい事だわ。暫くは大事をとって大人しく致しましょう。」

「え……ええ、そうですわねアンネローゼ様。」

二人して見たあの子の顔は泣きそうに見えた。

「正妃様、本当に孕んだのかはまだ分かりませんわ。それまでは私の部屋でお勉強なさいましょう。ばあや、正妃様にエリーゼ様から頂いた飴を差し上げたいわ。リンゴの飴を少し持って来て頂戴。」

「畏まりました。」

小さな器を持って来たばあやから器を受け取り、中身を確認する。リンゴの味がする飴が十粒入っているのを確認してあの子の前に出す。

「エリーゼ様から婚姻式のお祝いとして頂いた珍しい甘味ですわ。さ、とても甘くて美味しいですわよ。一粒舐めてごらんなさいな。」

「エリーゼ様から…………」

そう呟き、震える指で器から一粒飴を摘まみ口の中に押し込んだ。あの子の瞳が大きく見開き、ポロリと大粒の涙がこぼれた。

「飴だ……本当に飴が……」


この日を境に私とミネルバは日々増す違和感に孕んだ事を自覚し、あの子はエリーゼ様に対して本当に考えを改めた。
そして夫であるジークフリート様は新たな討伐の旅に出ていった。
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