341 / 753
シルヴァニアの里で
しおりを挟む
バサバサと主持ちのハーピーが忙しなく飛び立ったり、舞い降りたりしているのは幾久しく見てなかった光景だった。
里長が留守の間は最長老であるコレットが里を預かっているのだが、この数日は忙しいの一言に尽きる。未だ目通る事無い己の孫娘であるフェリシアの生んだ娘、遠く離れた王国貴族に属する曾孫の娘が帝国皇子を見初め半年後には皇子が王国貴族に婿入りする。フェリシアからの報告ではこの世とは違う記憶を持つ特別な娘だった。帝国生まれであれば里に連れて来て大事に大事に育てる所なのに、王国貴族の生まれとあれば連れて来る事すら容易ではない。
既に幾つもの新しい知識や技術を王国貴族にもたらした事もコレットからすれば面白くもなく羨ましくもある事だった。これ程のハーピーが忙しないのは帝国皇太子が無理を押して王国で行われる婚姻式に出ると決めたからだった。又皇太子だけでなく次期皇太子である第一皇子までもが参列表明したのだ。
「来れぬのならば妾が行けば良い。」
特に考えもせず、呟いた言葉にコレットはホホ……と笑った。そうだ、自ら赴けば良かったのだ。幸い自分はまだまだ元気だ、馬にだって乗れるしこの広い里の中で歩き回っているのだ。
「誰ぞ!」
「お呼びで?」
たまたま通り掛かった若い娘がコレットの前に膝をついて頭を垂れる。
「半年後に行われるフェリシアの娘の婚姻式は分かるかや?妾もその婚姻式に出向く故、支度せよ。」
「はっ!……え?」
キョトンとコレットの顔を見上げた若い娘は、掛けられた言葉を理解すると共に目を見開き慌てて立ち上がるとどこぞへと走って行った。コレットはやれやれと軽い溜息を吐いた。きっと娘がやって来て、やれ危ないだの何だのと言って王国に行くのを止めるのだろうか?
遠くから娘が気に入りの着物を翻して走って来る。
「お母様!王国へ出向くとは本気ですか!」
すっかり貴族言葉に戻ってしまった愛娘アリスティアにフン!と鼻息荒く頷いた。
「本気なのですね。では私も一緒に参ります。胎を痛めて生んだ娘の子の婚姻式ですからね!お母様、共に参りましょう!」
若い娘は止めて貰えると期待していたが、この二人は紛う事無く母子である事を失念していた。二人は意気投合して半年後の婚姻式に行く事にしてしまった。この事を聞いていた周りの里の者達は密やかな溜息を吐き出し、どれ程の里の者が同行出来るのだろうか?と考えながら己のハーピーをまた飛ばさねばならないのかと苦笑いした。
里長が留守の間は最長老であるコレットが里を預かっているのだが、この数日は忙しいの一言に尽きる。未だ目通る事無い己の孫娘であるフェリシアの生んだ娘、遠く離れた王国貴族に属する曾孫の娘が帝国皇子を見初め半年後には皇子が王国貴族に婿入りする。フェリシアからの報告ではこの世とは違う記憶を持つ特別な娘だった。帝国生まれであれば里に連れて来て大事に大事に育てる所なのに、王国貴族の生まれとあれば連れて来る事すら容易ではない。
既に幾つもの新しい知識や技術を王国貴族にもたらした事もコレットからすれば面白くもなく羨ましくもある事だった。これ程のハーピーが忙しないのは帝国皇太子が無理を押して王国で行われる婚姻式に出ると決めたからだった。又皇太子だけでなく次期皇太子である第一皇子までもが参列表明したのだ。
「来れぬのならば妾が行けば良い。」
特に考えもせず、呟いた言葉にコレットはホホ……と笑った。そうだ、自ら赴けば良かったのだ。幸い自分はまだまだ元気だ、馬にだって乗れるしこの広い里の中で歩き回っているのだ。
「誰ぞ!」
「お呼びで?」
たまたま通り掛かった若い娘がコレットの前に膝をついて頭を垂れる。
「半年後に行われるフェリシアの娘の婚姻式は分かるかや?妾もその婚姻式に出向く故、支度せよ。」
「はっ!……え?」
キョトンとコレットの顔を見上げた若い娘は、掛けられた言葉を理解すると共に目を見開き慌てて立ち上がるとどこぞへと走って行った。コレットはやれやれと軽い溜息を吐いた。きっと娘がやって来て、やれ危ないだの何だのと言って王国に行くのを止めるのだろうか?
遠くから娘が気に入りの着物を翻して走って来る。
「お母様!王国へ出向くとは本気ですか!」
すっかり貴族言葉に戻ってしまった愛娘アリスティアにフン!と鼻息荒く頷いた。
「本気なのですね。では私も一緒に参ります。胎を痛めて生んだ娘の子の婚姻式ですからね!お母様、共に参りましょう!」
若い娘は止めて貰えると期待していたが、この二人は紛う事無く母子である事を失念していた。二人は意気投合して半年後の婚姻式に行く事にしてしまった。この事を聞いていた周りの里の者達は密やかな溜息を吐き出し、どれ程の里の者が同行出来るのだろうか?と考えながら己のハーピーをまた飛ばさねばならないのかと苦笑いした。
83
お気に入りに追加
6,716
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」
サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる