上 下
299 / 753

シュバルツバルト領・領主館 2 ルーク視点

しおりを挟む
シルヴァニア産の馬達はばらけて行った……と思ったら、各々の主を乗せてエリーゼを追って行った。たった一頭だけ、夫人の馬車に寄り添うように並走していた。

「みんな、いっちゃったにゃ……」

「にいにもいっちゃったピカ……」

え?何だって?凄まじいスピードで駆けて行ったヒナの後ろ姿があっという間に小さくなる。スゲェ……チョコ◯速ーっ……って完全に置いてきぼりだよ。一蹴りでどんだけ進むんだよ……
後ろから見慣れた領主隊の隊士が馬を進めて俺の隣に並んだ。

「婿君!」

婿君?俺の事か!……婿殿って呼ばれてたら仕事人になっちゃうな!(笑)おっといかんいかん。

「ん?」

とりあえず笑顔だ。少し年上の隊士いや隊員だな。隊員は爽やかな笑顔で俺を見た後、領主館を見た。

「行ってしまわれましたね。エリーゼ様はご幼少の頃から、あんな風にお転婆だったのですよ。でも、そのお姿こそがこのシュバルツバルト領の姫に相応しいと誰もが思っていました。王都の……一見すれば華やかな王宮に咲く華として生きていかれるなんて、私からしたらお辛いだろうと勝手に思っておりました。それを……あの愚鈍な王子が……いや、失礼。婿君も同じ皇子というお立場でしたな。婚約破棄等と……ですが、婿君が現れ新たな婚約者となられシュバルツバルト家に婿入りして下さると……婿君は我等に希望を与えてくれた。感謝してもしきれません。婿君が我等の主に繋がると聞いて、兄上が喜びまして……側近をかなり早くに選定する事となりましたからね。気合もかなり入りますよ。」

「側近……か……」

思わず呟きが漏れてしまった。仕事のパートナーであり、討伐のパーティーメンバーであり性欲処理もする。人生の殆どを自分に捧げてくれる存在の同性。俺は兄上が複数の男達にシャレにならない程の快楽を植え付けられる姿を見て尻込みしたヘタレだ。兄上だけじゃない、父上も皇帝であるお祖父様も……そうだと知らされ、その意味を知らされ俺は皇室から離れたいと望んだ。そりゃあBLってモノは知ってる、でもそれは作り物の世界でリアルじゃなかった。だが側近はリアルだ。

「そんな風に顰めっ面する事は無い。」

声を掛けられ、ハッ!とする。困ったように笑われ、俺も困り顔で笑った。

「婿君は真面目ですな。側近は絶対に抱かねばならないという訳ではありません。ただ……まぁ、その……大型の討伐後は滾りますからね、そうなる事が多いってだけで若い内だけって者が殆どらしいですよ。」

滾る……か。分からないじゃない。大型……自分よりも遙かに大きいモンスを倒した時の高揚感……あれは確かに滾る。その状況になったら分からないな……俺はその時にどうするんだろう。ため息を一つ溢し、隣の男に「そうですか?」と軽く返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

処理中です...