163 / 753
討伐の旅 35
しおりを挟む
何も考えたくない……目が覚めて、ムクリと起き上がり力無く頭を振る。
どんな思いでシュタインは俺の隣に居たんだろう。
シュタインだけじゃない……グズグズと涙がこぼれる……
『失敗が何だと言うのです、同じ失敗をせぬように努力する事の方が大事でございます。嘆いているよりも、しっかと前を向いて下さいませ!』
こんな時でもエリーゼが発した言葉が俺を叱咤する。
ありがとう……ずっと気が付かなくてごめん。
シュタインに礼を言って、これからも支えて貰えるように頼もう。俺の居場所はきっとここだ。だったらシュタインに頼まなくちゃ……
俺は立ち上がり身支度を整え天幕を出る。
朝焼けが美しかった。
歩きだしシュタインの天幕の前で声を掛ける。
すぐさまシュタインからの返事が返ってくる。中に入り、俺を見つめるシュタインを真っ直ぐ見つめ詫びた。
自分の不甲斐なさも情けなさも何もかもさらけ出し、頭を下げこの先も出来る限り教えて欲しいと請うた。
シュタインは厳しい顔だったけど、父上である国王陛下から許されればうけると言ってくれた。
初めて誰かに教えて貰いたいと思ったと伝えたら、立場を考えろと拳骨を貰った。こんな風に叱られて、怒りよりも涙が出た。
「俺はきっと……こんな風に叱られたかった…………」
「普通は拳骨を貰ったら悔しいもんですよ。」
シュタインの軽口が嬉しかった。
肩を叩かれ、兵士のいる場所へと共に向かい白湯を一緒に飲む。
兵士達と干し肉を齧り、どこそこに討伐に行く話を聞く。
「ジークフリート殿下は剣の稽古です。私が教えますから、覚悟して下さいね。」
「はいっ!」
大声で笑うシュタインにつられ、兵士達も笑う。
数日、俺はシュタインから扱かれ手は血豆だらけ足腰がガクガクいうほど。
でも生まれて初めて親身に教えられ、叱られ、褒められる。
出立の時には怖かった軍馬も、今では賢い生き物だと知り怖さは無くなった。
王都へ向けて明日の朝出発する。
この無人の街から離れがたくなっていた。
ここはもしかしたら俺がおさめる場所だったかもしれない場所。
自分の天幕から見る夕焼けに染まる街に、多くの民が生きる幻を見た。
「ジークフリート殿下、今日が最後の夜です。とっておきですよ、やりましょう。」
シュタインが笑いながら近寄って来る、手には見たことのない革袋。
差し出された革袋を受け取り、中身をゴクリと飲む……
「……美味い……確かにとっておきだ!」
「この街は美しい、悲しい程に。この街に別れを告げるにはワインが必要でしょう。」
「ああ……ありがとう…………」
俺とシュタインで革袋が空になるまで飲んだ。
朝焼けの街を背に俺達は旅立つ。
帰路の旅、俺は飾りではなくなりつつある剣を携えて軍馬に乗り行く。
出立して約一月、俺達は王都へと帰って来た。
どんな思いでシュタインは俺の隣に居たんだろう。
シュタインだけじゃない……グズグズと涙がこぼれる……
『失敗が何だと言うのです、同じ失敗をせぬように努力する事の方が大事でございます。嘆いているよりも、しっかと前を向いて下さいませ!』
こんな時でもエリーゼが発した言葉が俺を叱咤する。
ありがとう……ずっと気が付かなくてごめん。
シュタインに礼を言って、これからも支えて貰えるように頼もう。俺の居場所はきっとここだ。だったらシュタインに頼まなくちゃ……
俺は立ち上がり身支度を整え天幕を出る。
朝焼けが美しかった。
歩きだしシュタインの天幕の前で声を掛ける。
すぐさまシュタインからの返事が返ってくる。中に入り、俺を見つめるシュタインを真っ直ぐ見つめ詫びた。
自分の不甲斐なさも情けなさも何もかもさらけ出し、頭を下げこの先も出来る限り教えて欲しいと請うた。
シュタインは厳しい顔だったけど、父上である国王陛下から許されればうけると言ってくれた。
初めて誰かに教えて貰いたいと思ったと伝えたら、立場を考えろと拳骨を貰った。こんな風に叱られて、怒りよりも涙が出た。
「俺はきっと……こんな風に叱られたかった…………」
「普通は拳骨を貰ったら悔しいもんですよ。」
シュタインの軽口が嬉しかった。
肩を叩かれ、兵士のいる場所へと共に向かい白湯を一緒に飲む。
兵士達と干し肉を齧り、どこそこに討伐に行く話を聞く。
「ジークフリート殿下は剣の稽古です。私が教えますから、覚悟して下さいね。」
「はいっ!」
大声で笑うシュタインにつられ、兵士達も笑う。
数日、俺はシュタインから扱かれ手は血豆だらけ足腰がガクガクいうほど。
でも生まれて初めて親身に教えられ、叱られ、褒められる。
出立の時には怖かった軍馬も、今では賢い生き物だと知り怖さは無くなった。
王都へ向けて明日の朝出発する。
この無人の街から離れがたくなっていた。
ここはもしかしたら俺がおさめる場所だったかもしれない場所。
自分の天幕から見る夕焼けに染まる街に、多くの民が生きる幻を見た。
「ジークフリート殿下、今日が最後の夜です。とっておきですよ、やりましょう。」
シュタインが笑いながら近寄って来る、手には見たことのない革袋。
差し出された革袋を受け取り、中身をゴクリと飲む……
「……美味い……確かにとっておきだ!」
「この街は美しい、悲しい程に。この街に別れを告げるにはワインが必要でしょう。」
「ああ……ありがとう…………」
俺とシュタインで革袋が空になるまで飲んだ。
朝焼けの街を背に俺達は旅立つ。
帰路の旅、俺は飾りではなくなりつつある剣を携えて軍馬に乗り行く。
出立して約一月、俺達は王都へと帰って来た。
81
お気に入りに追加
6,716
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」
サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる