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討伐の旅 35

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何も考えたくない……目が覚めて、ムクリと起き上がり力無く頭を振る。
どんな思いでシュタインは俺の隣に居たんだろう。
シュタインだけじゃない……グズグズと涙がこぼれる……

『失敗が何だと言うのです、同じ失敗をせぬように努力する事の方が大事でございます。嘆いているよりも、しっかと前を向いて下さいませ!』

こんな時でもエリーゼが発した言葉が俺を叱咤する。
ありがとう……ずっと気が付かなくてごめん。
シュタインに礼を言って、これからも支えて貰えるように頼もう。俺の居場所はきっとここだ。だったらシュタインに頼まなくちゃ……
俺は立ち上がり身支度を整え天幕を出る。
朝焼けが美しかった。

歩きだしシュタインの天幕の前で声を掛ける。
すぐさまシュタインからの返事が返ってくる。中に入り、俺を見つめるシュタインを真っ直ぐ見つめ詫びた。
自分の不甲斐なさも情けなさも何もかもさらけ出し、頭を下げこの先も出来る限り教えて欲しいと請うた。
シュタインは厳しい顔だったけど、父上である国王陛下から許されればうけると言ってくれた。
初めて誰かに教えて貰いたいと思ったと伝えたら、立場を考えろと拳骨を貰った。こんな風に叱られて、怒りよりも涙が出た。

「俺はきっと……こんな風に叱られたかった…………」

「普通は拳骨を貰ったら悔しいもんですよ。」

シュタインの軽口が嬉しかった。
肩を叩かれ、兵士のいる場所へと共に向かい白湯を一緒に飲む。
兵士達と干し肉を齧り、どこそこに討伐に行く話を聞く。

「ジークフリート殿下は剣の稽古です。私が教えますから、覚悟して下さいね。」

「はいっ!」

大声で笑うシュタインにつられ、兵士達も笑う。
数日、俺はシュタインから扱かれ手は血豆だらけ足腰がガクガクいうほど。
でも生まれて初めて親身に教えられ、叱られ、褒められる。
出立の時には怖かった軍馬も、今では賢い生き物だと知り怖さは無くなった。

王都へ向けて明日の朝出発する。
この無人の街から離れがたくなっていた。
ここはもしかしたら俺がおさめる場所だったかもしれない場所。
自分の天幕から見る夕焼けに染まる街に、多くの民が生きる幻を見た。

「ジークフリート殿下、今日が最後の夜です。とっておきですよ、やりましょう。」

シュタインが笑いながら近寄って来る、手には見たことのない革袋。
差し出された革袋を受け取り、中身をゴクリと飲む……

「……美味い……確かにとっておきだ!」

「この街は美しい、悲しい程に。この街に別れを告げるにはワインが必要でしょう。」

「ああ……ありがとう…………」

俺とシュタインで革袋が空になるまで飲んだ。


朝焼けの街を背に俺達は旅立つ。
帰路の旅、俺は飾りではなくなりつつある剣を携えて軍馬に乗り行く。


出立して約一月、俺達は王都へと帰って来た。
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