婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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討伐の旅 29

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その日も晴天だった。
天幕は次々と畳まれ荷馬車に積まれ、兵士達は皆それぞれ時折腹を撫でては動き回る。
かく言う自分も腹を時折撫でさすり、昨日のご馳走がまだ腹に残ってる感じで体が重かった。
正直、エリーゼと婚約破棄してから久し振りの魚介類だった。大好きなエビを心行くまで食べれた事は初めての事だった。しかも初めて味わう料理に無我夢中だった。

「まだ、腹が重い……あんなに沢山のエビ、初めてだったな……」

「ハハハ……ジークフリート殿下はエビがお好きでしたか!」

朗らかに笑って声を掛けて来たのはシュタインだ。
チラリと見たシュタインの目は笑ってなかった、理由は分かっている。夜中に起こした自分の失態だった。

「その……シュタイン……」

「言わずとも宜しいです。シュバルツバルト候より聞き及んでおります。」

気まずくても逃げる場所も無く、その場で俯き地面を見つめるしかやりようがなかった。

「ジークフリート殿下には、決してシュバルツバルト候の野営地に入らないようにとお願いしていたはずです。」

「その……悪かった……」

「何に対してですか?私ですか?ジークフリート殿下のその軽はずみの行動が私だけで無く、討伐隊全員にも影響するとご理解して下さい。」

「分かった……」

俺はソッとシュタインの顔色を伺うと、困ったような不思議そうな顔で俺を見ていた。

「ジークフリート殿下は侯爵夫人の馬車をエリーゼ様の馬車と勘違いしたと聞きました、なぜ勘違いなさったのですか?あんなに堂々と夫人の馬車だと表しているのに。」

「え?そんなの分かるのか?」

思わず言った言葉にシュタインの眉根が寄せられた。

「本気ですか?…………ジークフリート殿下、殿下は貴族の……特に高位貴族の馬車はどの馬車が誰の馬車なのか分かるようになっているのをご存じですか?」

「いや……」

ハア……と大きくため息をついたシュタインは、シュバルツバルト侯爵夫人の馬車が見える位置まで歩いて行く。俺は黙ってシュタインの後をついて行く。

「ジークフリート殿下、あの馬車に付いているシュバルツバルト候の紋章は分かりますか?」

「それ位は分かる。それが、どうした?」

「結構です。では、あの紋章の真ん中にある盾をご覧になって下さい。」

「うん?何か飾り文字が入ってるのか?」

チラリと見たシュタインは口元だけ動かし、笑顔を作った。

「あの飾り文字が馬車の主の頭文字となってます。ジークフリート殿下には、あの飾り文字は何に見えますか?」

どこをどう間違う事は出来なかった、どう見ても『F』だった。

「F……だな。」

「その通りです、シュバルツバルト侯爵夫人フェリシア様の頭文字です。エリーゼ様のEではありません。」

初めて知った事にがっくりと項垂れる。

「ジークフリート殿下、これはどの貴族でも王族でも周知の事実です。」

「そうか……すまなかった。」

俺は何にも言えなかった、皆が知ってる事を俺は知らなかった……知ろうともしなかった。

「さ、ジークフリート殿下竃の所まで戻りましょう。今朝はパンと白湯で朝食を済ませて出発しましょう。」

歩き出したシュタインを追って、俺も歩く。
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