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討伐の旅 28

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ただ見てるしか出来ない。
いつの間にかシュタインに掴まれた腕が……強く掴まれた腕が俺をただの一歩も動く事を許さなかった。
近くに行く事も声を掛ける事も、許されないかのような緊張感の中で俺はエリーゼの側に行きたかった。
シュバルツバルト候の凄まじい剣技、怯む事無く斬りかかる兵士達……あの皇子も怯む事無く攻撃している。
誰も……エリーゼすら、背を向ける事無く戦ってる。
ただ守られ見てるだけの俺は……シュタインに掴まれた腕を振り解く事すら出来ない俺は……ただの情けないちっぽけな男だ……

「ジークフリート殿下、私達が行っても邪魔にしかなりません。私達が出来るのは、遠巻きに治癒や攻撃力増加や守備力向上の魔法を味方であるシュバルツバルト候の隊員達に掛けるだけです。行ってはなりません。」

シュタインの厳しい言葉に体は強張る。

「分かってる。」

そう答えたのに。

「分かっておりません。分かっておられるなら、私は腕に力を入れる事なぞありません。」

その通りだ……口先だけの言葉を俺は吐いた。
どれ程の時間が立ったのだろう……エリーゼも攻撃を加えるようになって、やがて……あの巨大な狼が倒れた。
誰も彼もが倒れた魔物を見ていた。
シュバルツバルト候が雄叫びをあげ、この場にいる者全てが歓喜の雄叫びをあげた。
大きな石を消したエリーゼを見て俺は衝動のまま走り出した、僅かに緩んだシュタインの拘束を振り解いて。

「エリーゼ!」

「エリーゼッ!」

大声でエリーゼの名前を叫んだ。
だが、叫んだのは俺だけじゃなかった、あの皇子もだった。
エリーゼは……エリーゼは俺の声を聞いたはずなのに、あの皇子の元へと走って行った。
抱き締めあう二人を見て、俺の足は動かなくなった。
なんで……
あいつがエリーゼの頬に手を添えた……やめろ……そんな事、エリーゼもなんで逆らわない?
顔を近付けるな……やめろ……やめてくれ……エリーゼッ!
エリーゼは逆らう事なく、あの皇子の口付けを受け入れていた……嬉しそうに、頬を染めて……

「ジークフリート殿下、野営地に戻りましょう。」

シュタインの言葉にノロノロと頷き、エリーゼに背を向けて歩き出した。
どんなに俺が冷たくしても、エリーゼは俺を好きでいてくれるとずっと思っていた。
本当はそうじゃなかった……もう、エリーゼの中では俺はどうでも良い存在なんだ……体が震えそうな程、寒気を感じる。
あちこち抉れた大地を見て、どれ程恐ろしい魔物だったのか……シュタインに引きずられるまま、俺は……俺達の野営地へと帰っていった。
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