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兄と弟と側近達。
しおりを挟むそれは、後半年もすれば最愛の妹がろくでもない噂しか聞かない第三王子と婚姻式となる春の頃だった。
広大な敷地を持つシュバルツバルト領・領都を見下ろす小高い丘にある邸……邸と言うにはだだっ広い宮殿と言っても差し支えない邸のある一室にエリーゼの兄、キャスバルとトール更に二人の側近であるレイとフレイの四人がそれぞれ一人がけのゆったりとした椅子に座って帝国から買い付けた上等なワインを飲みながら話し込んでいた。
「はぁ……大分暖かくなってきたな……」
キャスバルはため息まじりに呟く……彼は可愛い妹の為に雪山に住む白大兎を何度となく討伐し、その美しく艶やかな白い毛で織り上げた毛織物はエリーゼに相応しいと豪語し様々な色に染め上げさせ王都の邸に送っていた。
「あいつを討伐するのも、そろそろ終いか……今からだと何が良いかな?」
トールも妹を可愛く思っていて、キャスバルと交代で討伐に出掛けるのだが同じように白大兎を討伐してきた。
「今からだと、虫系のものがよろしいですよね?」
キャスバルの側近のレイだが、最愛の主との閨の最中に突入されて驚いたものだが後日渡された蜜水は今まで大変だった閨の事が驚く程改善され更に領地の特産品として多大な利益をもたらした事もあってレイの中ではエリーゼは特別な存在ななっていた。
「蜘蛛か……あいつらの糸なら、今からの季節には良いか……」
ボソリと呟いたのはトールの側近のフレイだ。
フレイがエリーゼとの付き合いが最も少ないのだが、敬愛するトールからの話やレイからの話を聞く限り相当面白い令嬢なのだと踏んでいた。
考え込んでいたキャスバルが、三人の顔を順々に見回した。
「ルキ山の麓に美しい糸を吐く魔物がいるらしい。姿形は野菜につくイモムシに似ているが、いかんせんかなり大きいとの事だ。どう思う?」
これはキャスバル達が出来心で立ち寄った、ルキ山寄りの集落で白大兎を売りに行った時に聞いた話だった。
「本当なのか?」
トールの疑問は当然と言えば当然だった、が、キャスバルが胸元の内ポケットから出したキラキラと輝く糸の束……小指一本分、長さは20㎝にも満たないソレを見てトールとフレイは黙り込んだ。
「これは一本の糸を切ったものだ。かなり長く扱いも難しいので、見つけても採って来る事は殆ど無いと言っていた。実際、最初手渡された時はもっと粘りがありベタベタしていた。」
「なる程、扱いが難しいから採取せずにほったらかしていた……と言う事か。」
トールの目は、キャスバルの手に乗った糸に釘付けだった。
「あぁ……レイがキレイキレイの詠唱で扱い易くなるのでは?と言ってくれたおかげで、汚れも粘りも取れて美しく扱い易い糸になった。最も詠唱は極秘裏に行った、他に流出するような事があったら不味いからな。」
「さすが!じゃあ、討伐行く振りして糸を採取しまくるか!」
もはやトールは糸採取がメインで討伐に行くつもりだった、今度行くのは自分の番だったからだ。
「頼んだぞ!この糸で織った織物で仕立てたドレスを着るエリーゼを想像すると、幸せな気持ちになる。唯一許せないのは、あの王子と婚姻するって事だな。…………あのバカ王子、何かの拍子に死なないかな……」
「兄貴、言ったら不味い事聞こえたぞ!」
「ははは……キャスバル様、トール様やフレイの前で溢すのはお止めください。」
キャスバルはついつい、常日頃から思っている事をポロリと溢してしまった。
レイの言葉から、二人っきりの時は良く溢れる愚痴だとトールとフレイは即座に理解した。
この場にいる全員がエリーゼの婚姻を心から反対していたからだ。
「この美しい糸で織り上げた織物は、きっと初めて見る美しい織物でしょうね……」
レイの独り言が呼び水になった。
「エリーゼに相応しい美しいドレスが出来るだろう。」
キャスバルは夢見るような、見る者を魅了してやまない蕩けるような甘い笑顔になった。
「見える……王国中のどんな令嬢よりも美しいエリーゼの姿が……俺には見える……」
トールも負けず劣らず甘い笑顔でおかしげな事を宣った。
「エリーゼ様の輝かんばかりの美しさに磨きが掛かってしまいますね。」
フレイは付き合いこそ少ないが、トールの側近として一緒に暮らしている為年に数回はエリーゼの姿を見ておりその美しさを良く知っていた。
「エリーゼ様の美しさをより輝かせる美しいドレス……」
レイも夢見るような甘い笑顔で呟いた。
この場にいる全員が、この糸で織り上げた織物で作ったドレスを着たエリーゼを想像しため息をついた。
エリーゼの兄達はかなりのシスコンに出来上がっていたし、その側近達もエリーゼの事を敬愛するべき存在として捉えていた。
この数日後、トールの討伐は火山であるルキ山の麓の広がる大森林に向かい大量の糸を採取してくる。
正しくは採取した先からどんどん領都の邸に運ばれたのだ。
邸の職人棟に運び込まれた糸はキレイキレイされ、織り上げられた。その美しさから天蚕糸と名付けられ、即座に王都の邸へと送られた。
婚姻式に着るドレスの為に……実にこの期間一月と凄まじい勢いであった。
だが、新たに作り直された天蚕糸のドレスは着る事無く領都へと戻される事となる……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リクエストあざーっす!
(*´▽`*)
シスコンな兄達の一幕を書いてみた!
広大な敷地を持つシュバルツバルト領・領都を見下ろす小高い丘にある邸……邸と言うにはだだっ広い宮殿と言っても差し支えない邸のある一室にエリーゼの兄、キャスバルとトール更に二人の側近であるレイとフレイの四人がそれぞれ一人がけのゆったりとした椅子に座って帝国から買い付けた上等なワインを飲みながら話し込んでいた。
「はぁ……大分暖かくなってきたな……」
キャスバルはため息まじりに呟く……彼は可愛い妹の為に雪山に住む白大兎を何度となく討伐し、その美しく艶やかな白い毛で織り上げた毛織物はエリーゼに相応しいと豪語し様々な色に染め上げさせ王都の邸に送っていた。
「あいつを討伐するのも、そろそろ終いか……今からだと何が良いかな?」
トールも妹を可愛く思っていて、キャスバルと交代で討伐に出掛けるのだが同じように白大兎を討伐してきた。
「今からだと、虫系のものがよろしいですよね?」
キャスバルの側近のレイだが、最愛の主との閨の最中に突入されて驚いたものだが後日渡された蜜水は今まで大変だった閨の事が驚く程改善され更に領地の特産品として多大な利益をもたらした事もあってレイの中ではエリーゼは特別な存在ななっていた。
「蜘蛛か……あいつらの糸なら、今からの季節には良いか……」
ボソリと呟いたのはトールの側近のフレイだ。
フレイがエリーゼとの付き合いが最も少ないのだが、敬愛するトールからの話やレイからの話を聞く限り相当面白い令嬢なのだと踏んでいた。
考え込んでいたキャスバルが、三人の顔を順々に見回した。
「ルキ山の麓に美しい糸を吐く魔物がいるらしい。姿形は野菜につくイモムシに似ているが、いかんせんかなり大きいとの事だ。どう思う?」
これはキャスバル達が出来心で立ち寄った、ルキ山寄りの集落で白大兎を売りに行った時に聞いた話だった。
「本当なのか?」
トールの疑問は当然と言えば当然だった、が、キャスバルが胸元の内ポケットから出したキラキラと輝く糸の束……小指一本分、長さは20㎝にも満たないソレを見てトールとフレイは黙り込んだ。
「これは一本の糸を切ったものだ。かなり長く扱いも難しいので、見つけても採って来る事は殆ど無いと言っていた。実際、最初手渡された時はもっと粘りがありベタベタしていた。」
「なる程、扱いが難しいから採取せずにほったらかしていた……と言う事か。」
トールの目は、キャスバルの手に乗った糸に釘付けだった。
「あぁ……レイがキレイキレイの詠唱で扱い易くなるのでは?と言ってくれたおかげで、汚れも粘りも取れて美しく扱い易い糸になった。最も詠唱は極秘裏に行った、他に流出するような事があったら不味いからな。」
「さすが!じゃあ、討伐行く振りして糸を採取しまくるか!」
もはやトールは糸採取がメインで討伐に行くつもりだった、今度行くのは自分の番だったからだ。
「頼んだぞ!この糸で織った織物で仕立てたドレスを着るエリーゼを想像すると、幸せな気持ちになる。唯一許せないのは、あの王子と婚姻するって事だな。…………あのバカ王子、何かの拍子に死なないかな……」
「兄貴、言ったら不味い事聞こえたぞ!」
「ははは……キャスバル様、トール様やフレイの前で溢すのはお止めください。」
キャスバルはついつい、常日頃から思っている事をポロリと溢してしまった。
レイの言葉から、二人っきりの時は良く溢れる愚痴だとトールとフレイは即座に理解した。
この場にいる全員がエリーゼの婚姻を心から反対していたからだ。
「この美しい糸で織り上げた織物は、きっと初めて見る美しい織物でしょうね……」
レイの独り言が呼び水になった。
「エリーゼに相応しい美しいドレスが出来るだろう。」
キャスバルは夢見るような、見る者を魅了してやまない蕩けるような甘い笑顔になった。
「見える……王国中のどんな令嬢よりも美しいエリーゼの姿が……俺には見える……」
トールも負けず劣らず甘い笑顔でおかしげな事を宣った。
「エリーゼ様の輝かんばかりの美しさに磨きが掛かってしまいますね。」
フレイは付き合いこそ少ないが、トールの側近として一緒に暮らしている為年に数回はエリーゼの姿を見ておりその美しさを良く知っていた。
「エリーゼ様の美しさをより輝かせる美しいドレス……」
レイも夢見るような甘い笑顔で呟いた。
この場にいる全員が、この糸で織り上げた織物で作ったドレスを着たエリーゼを想像しため息をついた。
エリーゼの兄達はかなりのシスコンに出来上がっていたし、その側近達もエリーゼの事を敬愛するべき存在として捉えていた。
この数日後、トールの討伐は火山であるルキ山の麓の広がる大森林に向かい大量の糸を採取してくる。
正しくは採取した先からどんどん領都の邸に運ばれたのだ。
邸の職人棟に運び込まれた糸はキレイキレイされ、織り上げられた。その美しさから天蚕糸と名付けられ、即座に王都の邸へと送られた。
婚姻式に着るドレスの為に……実にこの期間一月と凄まじい勢いであった。
だが、新たに作り直された天蚕糸のドレスは着る事無く領都へと戻される事となる……
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シスコンな兄達の一幕を書いてみた!
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