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討伐の旅 18

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恐ろしい魔物が住まうシュバルツバルト領、高価だが魔物を一切寄せ付けない魔物除けはかの領地の特産品だと聞いた……俺はそれがどれ程の物なのか全く知らなかった、ただ特産品の一つだと言う事だけしか知らない。
昨日、目にした角兎はもとより牙猪すら小型として討伐していた。誰も……エリーゼすら怯む事無く立ち向かっていた、俺はエリーゼをただ口うるさい女だとしか思ってなかった。事ある度にあれこれと口やかましく、聞きたくない事ばかり言う嫌な女……王宮から離れ、貴族達から離れ逃げる事も出来ない今……考える事位しか出来ない。
マリアンヌは俺に、王子なんだから…何もかも許されるから…と言ってくれた。実際は許される事無く、討伐の旅に出る事になった。
エリーゼは何を言われても良いように座学も鍛錬も手を抜いてはいけない、誰が誰なのか?そこに何の意図が隠されているか貴族名鑑を見ろだの各貴族の関係や領地の事など知るべきだと言った。
そんな事、意味があるのか?と笑って無視した……聞いておけば良かった……俺は何も知らず、己を鍛える事無く今まできた。

「殿下、どうかなさいましたか?」

……シュタインは穏やかで優しい笑顔で話し掛けてくれる、でも…それだけだ……何故かは分からない、でも好かれている訳じゃない気がする。
きっとシュタインの出身地である領地や家族である貴族家……それらを知っていたら違っただろう。

「どうもしない……ただ……ちょっと……」

「そうですか、気分が悪くなった……とかでは無いのですね。何かありましたら、仰って下さい。」

「分かった。」

丁寧な言葉、穏やかな顔……俺はシュタインの何も知らない。ただ分かる事は、シュタインは俺の事を『殿下』としか呼ばない事……エリーゼやエリーゼの兄達は名前をきちんと呼んでいる。
悲しかった……俺の事を『殿下』と呼んだのはシュタインが初めてじゃない、いつからかエリーゼも俺の事を『殿下』と呼んでいた。幼い頃は『ジーク様』と呼んでくれていたのに……気がつけば誰も彼も、俺は『殿下』か『ジークフリート殿下』としか呼ばなくなった……家族以外で俺の事を『ジーク』呼んでくれた者達は少なくなり、学園に入ってからは誰も俺の事を『ジーク』とは呼ばなくなった。そんな時だった、ただ一人俺の事を『ジーク様』と呼んでくれたマリアンヌ。俺は嬉しくてマリアンヌを可愛がり、側に置いた。
マリアンヌだけが俺を『ジーク様』と呼んで、俺の側に居続けてくれた。

『殿下、ご自分のお立場を理解して下さいませ。』

エリーゼの冷たい顔、厳しい言葉……俺はあの時考えるべきだった……エリーゼの言葉の意味を。
緩やかに曲がる道の先にいる、長い馬車の列……あの馬車のどれかにエリーゼがいる。
エリーゼの言葉は厳しかった、でも俺の事を考えてくれていたんだ……

俺は、今になって気がついた……エリーゼは俺の事を嫌ってなんか無かった事に……
俺がエリーゼを嫌い逃げていた事に。
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