上 下
98 / 754

討伐の旅 12

しおりを挟む
食事も済んで、一人安いベッドでゴロリと横になる。
今頃マリアンヌは一人寂しく過ごしているだろう……愛し合って婚姻してのに、早々に討伐隊として旅立った俺を心配してるだろう………
薄暗く埃臭い安宿は、酷く惨めな気分になる。
…………?ドカドカと激しい足音がする……一体何事だ?

ーシュタイン、重要な案件だ。野営地に女は入れるな!魔物からすればご馳走らしい。それと俺達の野営地から村を挟んだ向こうに魔物の群れが居るとの情報だ、心当たりはあるか?俺は今から向かう所だ。ー

ーキャスバル様!女が魔物を呼ぶと言う事ですね、心当たりはあります。同道しているクズイ子爵令息がこの村の娼婦を野営地に連れ込みました。私も一緒に行きます。ー

!!!ミヒャエルの野営地に魔物がいる?しかも群れで?
俺は飛び起き、いまだ解いてなかった武装のままで良かったと部屋を飛び出した。

「シュタイン!ミヒャエルの野営地が襲われているって……」

俺の目の前にシュタインと一緒に居たのは、エリーゼの兄だった……冷たい美貌と男らしい引き締まった体の美丈夫………姦しい城勤めの女達が遊びでも良いから抱かれたいと話していた次期侯爵………俺の苦手な男がそこに居た。

「殿下……えぇ……キャスバル様からのお話では、そのように今聞いた所です。」

「シュタイン、悪いが出遅れるのは嫌なんでな行かせて貰う。」

そう冷たく言い捨て、早足で俺の前から遠ざかる。

「殿下、あちらは危ないです。どうか、こちらでお待ち下さい。私は隊長です、報告の義務もありますから行かねばなりません。」

外に出ようと踵を返すシュタインの背に向かって、つい叫んでしまった。

「ミヒャエルは俺の友人なんだ!心配なんだ!一緒に行かせてくれ!」

俺の叫びに立ち止まったシュタインはチラリと振り返った、苦々しい顔で……

「分かりました……ですが、必ず皆の前に出て来ないで下さい。皆の後ろに居る事をお約束下さい。」

「分かった。」

シュタインは俺の希望を受け入れ、連れて行ってくれた。
馬に乗ってミヒャエルの野営地で見たのは、屈強な兵士達と次々と倒される大きな牙を持つ猪と引き裂かれた天幕…………そして人間の一部だったと思われるグチャグチャに踏み荒らされた肉片と赤黒く染まった地面。
獣臭と血と肉の匂いに俺は耐えきれなくて、宿で食べた食事を吐き出した。
ゲエゲエと吐き出し口元を袖で拭って、改めて野営地を見渡すと一際大きな牙を振るう巨大な猪が居た。
その巨大な猪と戦っているのはエリーゼの兄達だ………
あんな巨大な猪と戦うなんて…………

「エリーゼ様………」

シュタインの驚きに満ちた、小さな……本当に小さな叫びに俺はシュタインの視線の先……あの巨大な猪を見る。
居た………巨大な猪の背に乗り、何度も剣を突き刺しては抜いてを繰り返していた。
大きく振りかぶって………グラリと………倒れる!

「エリーゼ!」

思わず叫んでしまった。

エリーゼは倒れる事無く、攻撃を続けていた。
エリーゼは絶え間なく攻撃し続けていた……そして………そしてエリーゼが飛び降りて少ししたら、巨大な猪は音を立てて倒れた。
ミヒャエルが亡くなった事よりも、エリーゼが魔物と戦っていた事の方が驚いた。
しおりを挟む
感想 3,408

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...