上 下
53 / 753

婚姻式の日  ~馬車の中では~

しおりを挟む
暗闇の中、灯りの魔法がこめられた魔道具の灯りが取り付けられた馬車が軽快なリズムで走って行く。

その馬車の中には4人の女性達がいた。

「一月の間、本当にご苦労さま。2人のお陰で仕事がしやすかったわ。」

フェリシアは上機嫌でシンシアとソニアを労う。
いつもこの4人はフェリシアの私室で、シルヴァニア本邸のある里と変わらない調子で毎日を過ごしていた。
他の使用人の前では取り繕っていたが、本当はかなり砕けた間柄であった。

「本当ですよ、何度説明してもやれ面倒くさいだの分からないだの……挙げ句の果てに、殿下に言えば済む事!と聞く耳持たないんですもの!まるっきり幼い子供と変わらない物言いで!」

我慢強いシンシアが、いきなり吐き出した。

「里にいた小さい子供の方が聞き分け良いですよね!」

ソニアも大概、毒舌の様だ………
 
「全くよ!バカみたいな事を言ってみたり………」

ため息交じりに吐き出した言葉に、ふと引っかかりを感じる。

「バカみたいなって?例えば?」

シンシアは顎に指を当て、思い起こしながら答えた。

「この世界は私が主人公なのよ?私の都合が良いように世界は変わるのよ?とか……なんか……ちよっと思い込みが激しいと言うか……変ですよね?」

確かにおかしい。
自分の都合の良いように世界が変わるなら、誰も苦労なんかしない。
例え違う世界で生きてきたのだとしても、エリーゼを見てる限り少々どころかかなり有り様が違う。
だいたい主人公とは、何ぞや?と言う話だ。
エリーゼに聞けば様々な事が分かるかも知れない。
的確な答えが返ってくるかもしれない。
だが、私のカンだがそれらは聞いてはいけない事柄のような気がする。

「そうね、大分おかしいわね。そんなおかしな娘に一月も付き合ってくれて助かったわ。シンシアとソニアは明日一日ゆっくりして頂戴。」

一日お休みにすれば気分も変わるかしら?

「えっ!嫌ですよ。」

「お休みは領地に帰ってからで!」

2人揃って、働きたいとは………

「明日のお仕度は、決まってるのですか?エミリ様。」

シンシア?エミリに何聞いてるの?

「私、支度前の湯浴みでフェリシア様をマッサージしたーい!」

ソニア…………何でマッサージなの?

「メリハリの無い体ってマッサージのし甲斐が無くって辛かったわ!」

え?

「分かるわ!あの子胸が幼くてらっしゃったから、湯浴みの手伝いも鶏ガラ洗ってるみたいで詰まらなかったわ。」

なる程………2人共、ガリガリの小娘に飽き飽きしてたのね。

「分かったわ。今日の湯浴みはたっぷり丁寧にお願いするわ。………でも、食事を先に済まさせてね。」

疲れた分、美味しいものが食べたいわ。
でも……あるかしら?できればエリーゼの作った甘いものがあると嬉しいけれど………

「邸に美味しいものがあると良いわ………」

「きっとありますよ。エリーゼ様がこっそり用意為さってますよ。」

エミリが即答してくれる、期待してしまうわ……

「なんと言っても、エリーゼ様はフェリシア様の事を慕ってますからね!」

エミリの言葉がジワジワと染みてくる。
そうだ、私の娘はそういった思いやりのある娘だわ。

そして馬車は慣れ親しんだ我が家の敷地へと入って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

家に代々伝わる髪色を受け継いでいないからとずっと虐げられてきていたのですが……。

四季
恋愛
メリア・オフトレスは三姉妹の真ん中。 しかしオフトレス家に代々伝わる緑髪を受け継がず生まれたために母や姉妹らから虐げられていた。 だがある時、トレットという青年が現れて……?

処理中です...