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婚姻式の日 ~後宮にて~
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王子妃後宮から後宮へと戻ると、兵士の数も増えるが殆どの者は私を知っており誰も咎めたりはしない。
勝手知ったる後宮内の通路を迷うこと無く進み、グレースの元へと急ぐ。
グレースの居室の前に着くと、衛兵がホッとした顔で扉の前から退き扉まで開いてくれた。
いつもなら、退くだけなのにおかしな事だと思いつつ中に入る。
居間へと続く通路を進み扉の前に来ると中から常ならば聞こえないグレースの大声が漏れてくる。
「私のっ私のフェリシア様なのにっ!帝国出身ってだけで連れて行ってしまうなんてっ!」
…………嫉妬であろうか?軽い溜息を一つつき扉をノックする。
ーコンコンコンー
「フェリシアですわ。入ってもよろしくって?」
バタバタと足音が聞こえる。
そんなに慌てるなんて、初めての事だわ。
ーバンッー
「お待ちしておりました!お帰りなさいませ!」
勢いよく扉が開かれ、招かれる。
居間に入ってゆくとソファに突っ伏し、クッションをバスバスと泣きながら叩いているグレースがいた。
「グレース、そんなにクッションを叩いてどうしたの?」
優しく声をかけると、ガバッと体を起こし私に駆け寄って来た。
「フェリシア様っ!遅いですっ!いっ……今まで、どんなお話をなさって……っ……」
ギュウっとグレースを抱きしめてから、よしよしと頭を撫でながら優しく声をかけ続ける。
「大したことでは無いわ。帝国の事を少しお話ししたのよ。」
グレースの顔をのぞき込む。
涙で目が少し腫れてきている………
そっと両手で顔を包み目尻へと唇を寄せる。
チュッと涙を吸い取ると、グレースの瞳がやんわりと緩む。
「フェリシア様………」
「あんまり泣いてたら、目が腫れてしまうわ。ちゃんと冷やさないと……ね?」
これで少しは機嫌が良くなるかしら?
パシパシとまばたきを繰り返して、甘えた様な仕草で私の肩に頭を乗せる。
「フェリシア様、お隣に座って下さいませ。今日はとても疲れました。優しくして下さいませ。」
小さな甘えた声でソッと呟いたグレースの腰に手を回して、ソファへと移動する。
腰から手を離し、両手を握りしめ座る様に誘導する。
ぴったりと密着するように隣に座り、片手をグレースの頭に乗せ撫でる。
「お疲れさま。証立ての儀はいつも疲れ気味なのに、今日は特別に疲れてるのね。今日は瞼を冷やしながら眠りにつくと良いわ。明日のお祝いの時に瞼が腫れてたら、私が悲しいわ。」
ゆっくりと撫でながら囁けば、グレースはいまだ繋げたままの手をぎゅっと握りしめた。
「はい、フェリシア様。今日……良い夢を見れるおまじないをして下さいますか?」
グレースの可愛いお願いにクスリと笑みがこぼれる。
「勿論よ、可愛いグレース。良い夢を………」
そう優しく呟いてグレースの両の瞼に口づけを落とす。
「ありがとうございます、フェリシア様。遅くまで、引き止めてしまってごめんなさい。」
学園時代からの気やすさで、言葉を交わす私達……
私は立ち上がり、グレースの額に口づけを落としてから一歩下がる。
「良い夢をね、グレース。明日の事もあるし、そろそろ帰りますわ。では、失礼致します。」
そして、私は私の専属侍女を連れてグレースの……後宮の王妃の居間から下がった。
私達は無言で後宮の通路を回廊を足早に抜け、待機している馬車へと早々に乗り込んだ。
馬車は動き出し、暫く無言のまま過ごす。
緩やかだった馬車が、早く動き出す……王宮から離れた証拠でもあった。
勝手知ったる後宮内の通路を迷うこと無く進み、グレースの元へと急ぐ。
グレースの居室の前に着くと、衛兵がホッとした顔で扉の前から退き扉まで開いてくれた。
いつもなら、退くだけなのにおかしな事だと思いつつ中に入る。
居間へと続く通路を進み扉の前に来ると中から常ならば聞こえないグレースの大声が漏れてくる。
「私のっ私のフェリシア様なのにっ!帝国出身ってだけで連れて行ってしまうなんてっ!」
…………嫉妬であろうか?軽い溜息を一つつき扉をノックする。
ーコンコンコンー
「フェリシアですわ。入ってもよろしくって?」
バタバタと足音が聞こえる。
そんなに慌てるなんて、初めての事だわ。
ーバンッー
「お待ちしておりました!お帰りなさいませ!」
勢いよく扉が開かれ、招かれる。
居間に入ってゆくとソファに突っ伏し、クッションをバスバスと泣きながら叩いているグレースがいた。
「グレース、そんなにクッションを叩いてどうしたの?」
優しく声をかけると、ガバッと体を起こし私に駆け寄って来た。
「フェリシア様っ!遅いですっ!いっ……今まで、どんなお話をなさって……っ……」
ギュウっとグレースを抱きしめてから、よしよしと頭を撫でながら優しく声をかけ続ける。
「大したことでは無いわ。帝国の事を少しお話ししたのよ。」
グレースの顔をのぞき込む。
涙で目が少し腫れてきている………
そっと両手で顔を包み目尻へと唇を寄せる。
チュッと涙を吸い取ると、グレースの瞳がやんわりと緩む。
「フェリシア様………」
「あんまり泣いてたら、目が腫れてしまうわ。ちゃんと冷やさないと……ね?」
これで少しは機嫌が良くなるかしら?
パシパシとまばたきを繰り返して、甘えた様な仕草で私の肩に頭を乗せる。
「フェリシア様、お隣に座って下さいませ。今日はとても疲れました。優しくして下さいませ。」
小さな甘えた声でソッと呟いたグレースの腰に手を回して、ソファへと移動する。
腰から手を離し、両手を握りしめ座る様に誘導する。
ぴったりと密着するように隣に座り、片手をグレースの頭に乗せ撫でる。
「お疲れさま。証立ての儀はいつも疲れ気味なのに、今日は特別に疲れてるのね。今日は瞼を冷やしながら眠りにつくと良いわ。明日のお祝いの時に瞼が腫れてたら、私が悲しいわ。」
ゆっくりと撫でながら囁けば、グレースはいまだ繋げたままの手をぎゅっと握りしめた。
「はい、フェリシア様。今日……良い夢を見れるおまじないをして下さいますか?」
グレースの可愛いお願いにクスリと笑みがこぼれる。
「勿論よ、可愛いグレース。良い夢を………」
そう優しく呟いてグレースの両の瞼に口づけを落とす。
「ありがとうございます、フェリシア様。遅くまで、引き止めてしまってごめんなさい。」
学園時代からの気やすさで、言葉を交わす私達……
私は立ち上がり、グレースの額に口づけを落としてから一歩下がる。
「良い夢をね、グレース。明日の事もあるし、そろそろ帰りますわ。では、失礼致します。」
そして、私は私の専属侍女を連れてグレースの……後宮の王妃の居間から下がった。
私達は無言で後宮の通路を回廊を足早に抜け、待機している馬車へと早々に乗り込んだ。
馬車は動き出し、暫く無言のまま過ごす。
緩やかだった馬車が、早く動き出す……王宮から離れた証拠でもあった。
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