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生着替えで生殺し
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「んはぁ、だ、ダメだよぉ。キツくて入んないってばぁ」
「ゆりっぺが力んでるからだよ。ほら、ゆーっくり息吐いて、体の力抜いてごらん。うん上手上手」
耳元に息が掛かる程近く、生暖かい風が僅かに湿らせる。
そして舞姫ちゃんが私の背後へと回った、それは振り向けば唇と唇が重なるほどの距離感。
「ふー、ふー、うぅ……やっぱり無理ぃ」
「だったら力づくでやっちゃうしかないね。えいっ!」
息を吐き出すことで僅かに弛緩した体に一気に負荷が掛かる。
「あーんっっ、無理無理無理無理ぐえっ!」
「ダメかー。ゆりっぺに合う装備が無い。ちょっとその乳シャルちゃん分けたらどうかい?」
「ふんっ、この無駄に蓄えた脂肪があれば防具は必要ないかもな」
不機嫌そうに呟いたシャルちゃんは、またしても私の胸をペシペシと叩いた。
胸が全く無いのは嫌だが、大きすぎてもいいことは特に無い。
特にスポーツをやっていれば尚更。
胸が大きい方が有利なスポーツなどまず無いだろう。
そもそもシャルちゃんのこの、未成熟な幼さこそが素晴らしいというのに。
「……うぅ、どうしてもこの胸当てしなきゃだめ?」
バスケや弓道や水泳にユニフォームがあるように、ダンジョンにもユニフォームというものがある。
試合には様々な規定があるとは聞いたことがあるが、ともかく甲冑とかそんなものを着るのが常識らしい。
「体操服のままダンジョン行くなんて、裸でコンビニ行くのと同じだよ?」
「ごめん、ちょっとよくわかんないや」
「わかりやすく言うとだね。卓球の大会でラケット忘れたからって、スリッパで試合出るのと同じくらいだよ」
「えーっと、つまり。バスケの試合するのに、バッシュを忘れたからスリッパで試合出ちゃったみたいな?」
「ゆりっぺー。それとこれとはちょっと違うよー」
「あっ、違うんだ」
似て非なるものという言葉があるが、おそらくその類だろう。
例えるならば、焼きそばとカップ焼きそば程度の違い、もしくはそれ以下なのだろう。
とにかく付けなきゃいけないということは理解することができたわけである。
「そうそう、そういえば先生の使ってるやつがあったかも。先生Gカップだからゆりっぺでも十分入るはず」
「Gカップ女教師……だと」
「確かこのロッカーに……あったあった。これなら入るよ、なんかおっきいもん」
「いいの勝手に使っても?」
「大丈夫だよダンジョン部の備品だし。個人用のも先生持ってるから平気平気」
湾曲した金属のプレートは確かに先程のものよりふた回り程大きい。
素材はおそらく鉄ではない何か。
普通の鉄塊に比べれば軽く、かといってちゃちであるかというとそうではない。
しかしこういった道具の一つ一つが非常に高価。
ただの鉄であれば数万円~だが、軽く数百万を超えるものも多い。
これがお金持ちでなければダンジョンの競技を習い事にできない所以でもある。
備品を壊したら弁償と言われないとも限らないので、念のため先に確認しておくことにする。
「これ鉄じゃないよね?たぶん希少な金属とかじゃ……やっぱりお高いんでしょう?」
深夜の通販番組のように言ってしまったのはわざとではない。
さり気なく聞こうとした結果、選ばれた言葉がこれだっただけ。
私は返答を待った。
「ミスリル製だからそこそこするよね。希少ってほどじゃないけどね。値段はわかんないけど、300万は軽くするかな、たぶん」
「…………」
服や靴等の自分を着飾る衣類、私の感覚で言えば一万を超えると高いなと思ってしまう。
ちなみに私のお小遣いは月八千円である。
学費全額免除のスポーツ特待を蹴り、学費の高い私立高校に通うことを快く承諾してくれた両親に不満などこれっぽっちも無い。
学食はタダに加え寮生活ののため食費はかからない。
そんな私からすれば、300万円はいかに恐ろしい額だろうか。
ダイヤの指輪をしてバスケの試合をしろと言われてるのと同じくらいの愚行。
今どんな表情をしているかは是非とも察してもらいたいところである。
「大丈夫大丈夫。鉄の3分の1の重さで8倍の硬度っていうのがミスリルのウリだから。何かあってもゆりっぺのこと守ってくれるから」
そうじゃないのです。
私が心配しているのは自分の体ではなく装備の方だ。
胴体、脚、腕、頭、全部合わせれば軽く一千万を超える。
そんなものを着て走り回るなんて庶民オブ庶民の私には不可能。
先ほども思ったが、防具というよりは宝石を抱えているようなもの。
むしろ守る箇所が増えた気さえしてくる。
「何をグスグズしておる。お前が着替えなければ私達が着替えられないだろうが、たわけ」
そんな私の思考を吹き飛ばしたのは、金髪の少女の苛立ち混じりだがやはり可愛らしい声だった。
「え、なんで?今着替えればいいのでは?」
「……お前がいるのに着替えられるわけなかろうが」
これはきっと少女の恥じらい。
キメの細かい白き柔肌は、何人も犯されていない神の領域。
とはいえ私とシャルちゃんは女の子同士。
着替えを見ることも少し肌に触れることも許される。
許されてしまうのだ。
もちろん下心が無ければの話だ、例えば百合などであればダメ。
しかし下心の全く無い私であれば、ほんの少しのお触り程度までなら許されるという結論に至るわけだ。
だから説明し、言いくるめ、なんとしても着替えを覗かせてもらう。
そのために私は言葉という名の刀を抜く。
「シャルちゃん。私達は女の子同士なの。恥ずかしがる必要なんて───」
「───私はお願いしたのではない。命令したのだ。異論は聞かない、黙って従え」
「ゆりっぺ、ここは諦めて貰えるかな」
頼みの綱にも見放され、最後の砦雅先輩に視線を向けるが、慌てて目を逸らされた。
「あっ、はい」
理論武装したはずの刀が鞘から抜け切る前に、私は二人から挟み撃ちされ口を閉じた。
孤立無援の戦場で私は無力だった。
「じゃあ、ちょっと我慢しててね」
「……はい」
舞姫ちゃんの私物のアイマスクで両目が塞がれる。
どんな洗剤を使っているのかわからないが、少し甘いいい匂いがした。
「シャルちゃんブーツ新調したんだー。凄いお洒落だね」
「成長期だからな私は。舞姫は新しいワンドか?」
「違うよー。ちょっとデコってみただけ。でもこの凸凹がちょうどいい具合に手に引っかかって、いい具合に握りやすかったりするんだなこれが。あれ、みやみやも新しい装備?」
「右腕の邪竜の封印が解かれ始めた。故により強力な封印を施したのだ」
「そっかー。これでうちのパーティーも火力アップだね。今年は全国大会目指して頑張ろー、おー!」
「舞姫、背中のホック留めてくれないか?」
「お安い御用だぜー」
今まさに美少女達がわちゃわちゃと目の前で着替えている。
しかし私は目隠しされ椅子に座らされている。
見たい、見た過ぎる。
だが我慢である。
まずは百合というあらぬ誤解を解かねばならないのだ。
跡がつくほど拳を握り軋んだ音を鳴らすほど歯を食いしばり、私は数分間の地獄を耐え抜いたのだった。
「ゆりっぺが力んでるからだよ。ほら、ゆーっくり息吐いて、体の力抜いてごらん。うん上手上手」
耳元に息が掛かる程近く、生暖かい風が僅かに湿らせる。
そして舞姫ちゃんが私の背後へと回った、それは振り向けば唇と唇が重なるほどの距離感。
「ふー、ふー、うぅ……やっぱり無理ぃ」
「だったら力づくでやっちゃうしかないね。えいっ!」
息を吐き出すことで僅かに弛緩した体に一気に負荷が掛かる。
「あーんっっ、無理無理無理無理ぐえっ!」
「ダメかー。ゆりっぺに合う装備が無い。ちょっとその乳シャルちゃん分けたらどうかい?」
「ふんっ、この無駄に蓄えた脂肪があれば防具は必要ないかもな」
不機嫌そうに呟いたシャルちゃんは、またしても私の胸をペシペシと叩いた。
胸が全く無いのは嫌だが、大きすぎてもいいことは特に無い。
特にスポーツをやっていれば尚更。
胸が大きい方が有利なスポーツなどまず無いだろう。
そもそもシャルちゃんのこの、未成熟な幼さこそが素晴らしいというのに。
「……うぅ、どうしてもこの胸当てしなきゃだめ?」
バスケや弓道や水泳にユニフォームがあるように、ダンジョンにもユニフォームというものがある。
試合には様々な規定があるとは聞いたことがあるが、ともかく甲冑とかそんなものを着るのが常識らしい。
「体操服のままダンジョン行くなんて、裸でコンビニ行くのと同じだよ?」
「ごめん、ちょっとよくわかんないや」
「わかりやすく言うとだね。卓球の大会でラケット忘れたからって、スリッパで試合出るのと同じくらいだよ」
「えーっと、つまり。バスケの試合するのに、バッシュを忘れたからスリッパで試合出ちゃったみたいな?」
「ゆりっぺー。それとこれとはちょっと違うよー」
「あっ、違うんだ」
似て非なるものという言葉があるが、おそらくその類だろう。
例えるならば、焼きそばとカップ焼きそば程度の違い、もしくはそれ以下なのだろう。
とにかく付けなきゃいけないということは理解することができたわけである。
「そうそう、そういえば先生の使ってるやつがあったかも。先生Gカップだからゆりっぺでも十分入るはず」
「Gカップ女教師……だと」
「確かこのロッカーに……あったあった。これなら入るよ、なんかおっきいもん」
「いいの勝手に使っても?」
「大丈夫だよダンジョン部の備品だし。個人用のも先生持ってるから平気平気」
湾曲した金属のプレートは確かに先程のものよりふた回り程大きい。
素材はおそらく鉄ではない何か。
普通の鉄塊に比べれば軽く、かといってちゃちであるかというとそうではない。
しかしこういった道具の一つ一つが非常に高価。
ただの鉄であれば数万円~だが、軽く数百万を超えるものも多い。
これがお金持ちでなければダンジョンの競技を習い事にできない所以でもある。
備品を壊したら弁償と言われないとも限らないので、念のため先に確認しておくことにする。
「これ鉄じゃないよね?たぶん希少な金属とかじゃ……やっぱりお高いんでしょう?」
深夜の通販番組のように言ってしまったのはわざとではない。
さり気なく聞こうとした結果、選ばれた言葉がこれだっただけ。
私は返答を待った。
「ミスリル製だからそこそこするよね。希少ってほどじゃないけどね。値段はわかんないけど、300万は軽くするかな、たぶん」
「…………」
服や靴等の自分を着飾る衣類、私の感覚で言えば一万を超えると高いなと思ってしまう。
ちなみに私のお小遣いは月八千円である。
学費全額免除のスポーツ特待を蹴り、学費の高い私立高校に通うことを快く承諾してくれた両親に不満などこれっぽっちも無い。
学食はタダに加え寮生活ののため食費はかからない。
そんな私からすれば、300万円はいかに恐ろしい額だろうか。
ダイヤの指輪をしてバスケの試合をしろと言われてるのと同じくらいの愚行。
今どんな表情をしているかは是非とも察してもらいたいところである。
「大丈夫大丈夫。鉄の3分の1の重さで8倍の硬度っていうのがミスリルのウリだから。何かあってもゆりっぺのこと守ってくれるから」
そうじゃないのです。
私が心配しているのは自分の体ではなく装備の方だ。
胴体、脚、腕、頭、全部合わせれば軽く一千万を超える。
そんなものを着て走り回るなんて庶民オブ庶民の私には不可能。
先ほども思ったが、防具というよりは宝石を抱えているようなもの。
むしろ守る箇所が増えた気さえしてくる。
「何をグスグズしておる。お前が着替えなければ私達が着替えられないだろうが、たわけ」
そんな私の思考を吹き飛ばしたのは、金髪の少女の苛立ち混じりだがやはり可愛らしい声だった。
「え、なんで?今着替えればいいのでは?」
「……お前がいるのに着替えられるわけなかろうが」
これはきっと少女の恥じらい。
キメの細かい白き柔肌は、何人も犯されていない神の領域。
とはいえ私とシャルちゃんは女の子同士。
着替えを見ることも少し肌に触れることも許される。
許されてしまうのだ。
もちろん下心が無ければの話だ、例えば百合などであればダメ。
しかし下心の全く無い私であれば、ほんの少しのお触り程度までなら許されるという結論に至るわけだ。
だから説明し、言いくるめ、なんとしても着替えを覗かせてもらう。
そのために私は言葉という名の刀を抜く。
「シャルちゃん。私達は女の子同士なの。恥ずかしがる必要なんて───」
「───私はお願いしたのではない。命令したのだ。異論は聞かない、黙って従え」
「ゆりっぺ、ここは諦めて貰えるかな」
頼みの綱にも見放され、最後の砦雅先輩に視線を向けるが、慌てて目を逸らされた。
「あっ、はい」
理論武装したはずの刀が鞘から抜け切る前に、私は二人から挟み撃ちされ口を閉じた。
孤立無援の戦場で私は無力だった。
「じゃあ、ちょっと我慢しててね」
「……はい」
舞姫ちゃんの私物のアイマスクで両目が塞がれる。
どんな洗剤を使っているのかわからないが、少し甘いいい匂いがした。
「シャルちゃんブーツ新調したんだー。凄いお洒落だね」
「成長期だからな私は。舞姫は新しいワンドか?」
「違うよー。ちょっとデコってみただけ。でもこの凸凹がちょうどいい具合に手に引っかかって、いい具合に握りやすかったりするんだなこれが。あれ、みやみやも新しい装備?」
「右腕の邪竜の封印が解かれ始めた。故により強力な封印を施したのだ」
「そっかー。これでうちのパーティーも火力アップだね。今年は全国大会目指して頑張ろー、おー!」
「舞姫、背中のホック留めてくれないか?」
「お安い御用だぜー」
今まさに美少女達がわちゃわちゃと目の前で着替えている。
しかし私は目隠しされ椅子に座らされている。
見たい、見た過ぎる。
だが我慢である。
まずは百合というあらぬ誤解を解かねばならないのだ。
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