ユリナイト

三國氏

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クラス分けとダンジョン部

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 楽しい時間は早く過ぎるとはよく言うが、気付いた時には入学式はほとんど終わっていた。
 まともに聞いていたのは在校生代表の麗華お姉様・・・の挨拶くらい。

 それほど舞姫ちゃんとの会話は楽しい時間だった。
 ウマが合うというのはこういう場合を指すのだろう、と思わずにはいられない。

 そして式も終わりに差し掛かり、クラス担任の発表と生徒発表が始まったのだった。


 胸の奥がきゅうきゅうと締め付けられるような圧迫感。
 不安と緊張と恐怖の入り混じる複雑な感情。

 せっかく仲良くなれた舞姫ちゃんと同じクラスになれなかったら……。
 そう考えただけで身の毛もよだつ思いである。

 1クラス40人、それが4クラスあり合計160人なわけだが、確率的にいえば4分の1。

「お、おおお同じクラスになれりゅといいにゃ舞姫ちゃん」

「緊張しすぎだよゆりっぺは。それにそんな心配しなくても大丈夫だと思うよ、多分同じクラスになれるから」

(どこからくるんだろうその自信。とにかくお願いします、舞姫ちゃんと同じクラスにして下さい神様、なんでもしますから)

 両の目と手を合わせ、強くそして真摯に祈る。
 こんな時だけの都合のいい神頼み、神様も相手にしてくれないのかもしれない。
 それでもそこをなんとか今回だけはお願いしたい。

 一組の発表が終わり、二組の発表が始まった。

 一組がおばちゃん先生だったのに比べ、二組の先生はなんというかカッコいい先生である。

 背が高くスタイルが良く、目付きは少しキツめで、張りのある低い声はホールに良く響いた。
 女子にモテそうな女教師を絵にしたような感じだ。

(私、この先生がいい……)

 そんな思いを無視するかのように早口で発表は進んでいく。

『……四天宝寺舞姫』

「あっ、私二組だ」

「にくみにくみにくみにくみにくみ来い来い来い来い来い……」

 初めて聞く名前が続々と読み上げられて、さ行が終わりた行な行と進み、遂には行に差し掛かる。

「大丈夫だってゆりっぺ」

「ゔん」

『本庄百合子』

「うおっしゃっっ!!あっ、すいません」

 壇上からは担任・・の先生からの刺すような鋭い視線、周囲からはクスクスと笑われたり驚かれたり。
 顔から火が出るような恥ずかしさ。

 ともあれ、その後は何事もなく進んだ。

 舞姫ちゃんと同じクラスになれた幸福感。
 それだけでもうお腹いっぱいな入学式だったわけである。



 担任の先生に連れられ教室へ向かい、自己紹介をし簡単なレクリエーション。
 初日はそれだけで終了である。

 外部入学組はちらほらいるようで、なんとなくだが落ち着きがない様子で判断できた。
 もちろん私もその一人。

(わ、私も話しかけたいけどっ。会話の始めってどうすればいいの?お嬢様っぽいトークならやっぱり紅茶とかブランド物の服とか?いやわからないっ!)

「ねぇねぇゆりっぺ、放課後暇かね?」

「暇ですとも舞姫さん」

(あー、私の天使。あなたがいれば他には何も要らない)

「なら部活見学行こっ!」

「行きたいっ!」

 待たせまいと急いで荷物をまとめる。
 3秒で支度して立ち上がると、私の右手を柔らかいいかにも女子っぽい手に掴まれた。

「ほらこっち」

「ぐへへ、うんっ!」

 走り出す彼女に合わせ私も走る。

(青春とは走ることと見つけたり)
 私は心の中で叫んだ。

「それでどこの部活見に行くの?」

 迷いのない足取りは、明らかに定まった目的地に向けてのもの。
 しかし私はその目的地に心当たりがあった。

 件の美少女、在校生代表の挨拶をしていたおそらく生徒会長の、蝶ヶ崎麗華お姉様のいる部活であろうと。

 ならば拒む理由はない。
 いや、拒む理由が100あろうとも、麗華お姉様がいるというだけで全ての拒む理由を押しのけてみせようとも。

「ところでそろそろ教えて欲しいんだけどー?」

 走りながらの会話なので、少し声を張った。

 美少女がいればどの部室でもいいとはいえ、部活が何かは気になる。
 麗華お姉様と舞姫ちゃんが所属しているというところを踏まえて、私の予想では茶道部ではないかと予想はしている。
 理由はなんとなく茶道部が似合うから。

「なーにーをー?」

「何部に入るのかーだーよー」

「ダンジョン部ーだーよー、ダンジョン部ー」

「大丈夫だよ大丈夫?」

「ちがーう!ダ・ン・ジ・ヨ・ン・部ー!」

「ダ、ダンジョン……部ぅ?」

聞き間違いでなければ、ダンジョン部と聞こえた。
予想外も予想外、私の思考は緩やかに停止した。


「そう!ダンジョン部の部室へようこそ、ゆりっぺ」

 緊急停止した舞姫ちゃんが人差し指をピンと伸ばし、入り口の上の札を指した。
 見間違えようもなく、そこにははっきりとダンジョン部の6文字が書かれている。

 ダンジョン部。
 中学の時には無かった部である。

 顧問の少なさだったり学校の金銭面の問題だったりで、どの学校にもあるというわけではない。
 フィギュアスケートやバイオリンと並ぶ、お金のかかる習い事の一つで庶民とは少し縁遠いところにある。

 とはいえ昔からオリンピック種目に数えられ、次の東京オリンピックでも正式種目となっているメジャーな競技。
 それがダンジョンである。

「知らなかったよ、白百合ってダンジョン部あるんだ。……じゃあ麗華さんもダンジョン部なの?」

「そうだよ。麗華さんが副部長、一年生はうちとゆりっぺともう一人。って、ゆりっぺまだ入るなんて言ってなかったっけ。早合点早合点、うちの悪い癖だ。上級生はホームルーム終わってるからいると思うし、とりあえず見学してってよ」

 既に入部したつもりでいた私のせっかちさに比べれた大した問題ではなかろうとも。

 そして舞姫ちゃんはノックをせずに慣れた様子で部屋に入り、開いた右手を前に突き出す。

「たのもー!」

「え?えーと。た、たのもー」

 御機嫌ようの挨拶とはまるで対極にあるような挨拶。
 釣られてしてしまったが、上級生はきっと怪訝な顔を浮かべているだろうと室内に目を凝らす。

 部屋にいたのは一人。
 まず目がいくのがその佇まい。

 椅子があるのにそれに座らず、部室の隅でこちらを見つめていた。
 銀髪のショートカットで、前髪は長く左目が隠れている。

 残った右目も右手の人差し指と中指から少し覗いている、いわゆる中二病っぽい立ち姿。

 何はともあれ美少女であるのは見間違えようはないのだが。

 全体的に細めで手足が長く、中二病っぽさを押し退けモデル立ちのように見えてくるほど。
 ただモデルの練習をしているのではないことは次の瞬間判明するわけだが。

「くくく、よく来たな、新たに芽吹いた我が同胞はらからよ。汝に問うが、その敷居を跨ぐ覚悟はあるか?こちら側は修羅の道、無事に帰れる保証はないぞ」

 鋭い眼光、強烈な圧迫感、少し薄いが柔らかそうな唇を動かし透き通った声が静かな部室に響き渡った。

しかし何を言っているのかさっぱりなので、とりあえず部室の中へと足を踏み入れた私達だった。



「この人は雅先輩だよ、竜胆りんどう雅。みやみや、この子はクラスメイトのゆりっぺ。部活見学に来たから適当に見学させてもらうね」

「ほぅ、早速同士が出来たか。精々見せかけの平穏を満喫するといいさ」

「そうそう、入学式ですぐ仲良くなったの。今年一年間、楽しくやれそうだよ」

 スルースキルLVMAXのようで、舞姫ちゃんは先輩の言葉を上手く変換して器用に会話していく。
 気心の知れた感じからして相当に仲の良いことだろう。

(あー、私も早く仲良くなりたい)

「初めまして、本庄百合子ですっ、よろしくお願いしまっす」

「……本庄百合子。どこかで聞いたような……あっ。くくく、そうかそういうことか」

「にへへー、そういうことだよ。それで麗華ちゃんは?」

(そういうことってどういうこと?私が来るって知ってたのかな、朝助けた時にダンジョン部に入れようと目をつけられたとか?私のナイトって言われちゃったわけだしーっ!!)

 お姫様抱っこした状態、顔と顔の距離は数十センチ、木から落ちた驚きで跳ねる心臓。
 それはまさしく吊り橋効果を生んでいた。
 あの瞬間を思い出すだけで、今でも顔が熱くなる。

 もう一度会ってちゃんと話したい。
 静かな場所でゆっくりとじっくりと、あの人の話を聞きたい。

 私は舞姫ちゃんの質問に対する雅先輩の返答を待った。

「麗華は二つの世界の代理人、間違いなく多忙を極める。奴が帰って来るまでは無限の牢獄に縛られ続ける運命だ」

(いやっ、だから何を言ってるのかさっぱりわからないんだってば!!)
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