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告白と新たな始まり

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 4月26日日曜日、今日は朝からニュースは第一ダンジョンの30階層攻略の話題で持ちきりだった。
 全てB級以上の攻略者で構成された攻略チームはB級96名、A級68名、そしてS級36名の総勢200名。
 出発は今日の朝9時、5日間かけて29階層に設けられた拠点にて到着し、1日の休息の後30階層の本格的な攻略が始まる。
 15年という年月をかけようやく辿り着いた30階層だが、一つの通過点に過ぎない。
 他国に存在するダンジョンでは最高で33階層まで続いていることを考えれば、まだゴールは見えていないのかもしれないが、それでも一つの区切りとして30階層の攻略は人々の強い関心を集めている。

 という一般人でもニュースやネットで調べれば得られる程度の情報しか俺のところにはない。
 ダンジョン学園の生徒といえど所詮はまだダンジョン攻略者ですらない、ただの一般人のようなものだから仕方がないのだが。
 だがいずれは俺も世間の注目を集め戦う日が来ることだろう。

 という未来の話はひとまず脇に置くとして、今日の俺には30階層の攻略とは全く関係ない予定が入っている。
 一言で言うならば女の子とデートである。
 映画を見てお昼を食べてその後買い物なりなんなりと過ごすあのデートだ。

 いつも通り7時にセットされたアラームで起きた俺は、寮の食堂で朝食を済ませ部屋で適当に時間を潰し、そして今適当に春っぽい服を選んで準備を整えている最中だ。

「はぁ、なんつうか気が重いな」

 最近ため息をつく回数が増えてきたことを反省しつつ、俺の正直な感想はデートにはそこまで乗り気じゃないというもの。
 今までは敢えて杏花の好意に気付かないフリをして誤魔化し、いや正確には逃げてきたのだが、そろそろそういうわけにもいかない。
 周りの視線もキツイし何より杏花にも申し訳ないのだ。

 入学試験で再会し、入学するまでの2ヶ月ほど連絡を取り合っていた頃に気付かなかったことは、確かに自分が鈍感だったと思い知った。
 しかしあんなに熱烈にアピールされれば鈍感な唐変木でも気付かずにはいられないだろう。

 もちろん今日告白されそうだと言うのは俺の勘だが、遅かれ早かれと言ったところだとは思っている。

 だからと言って告白されてもいないのに、今の俺は君とは付き合えないなんて言えるはずもない。
 だから告白された時に断ろう、そう思っていたのだが、やはりいざとなるとこうして気が重くなるのは止められない。

 しかも相手は杏花だ。
 性格は明るく、少し天然だが気配りは出来るし、見た目だって悪くない。というか学年でも上位に入るであろう見た目だと個人的に思っている。
 なにより自分のことを好いてくれているし、わがままを言っても従順に尽くしてくれそうな性格をしている。
 それは世の男子的には間違いなくかなり魅力的だろう。
 付き合った後のさらにその先を見据えたとしても、間違いなく良物件。
 良物件どころかこれ以上ない最高の物件かもしれない。

「あれ?断る理由なくね……」

 考えてみると断る要素が一つもなかった。
 ただしそれは杏花という個人に対して考えた場合。
 問題なのは俺が今誰かと付き合いたいと思っているかだ。
 そして答えは否だ。
 縮小されているとはいえ通常の一般高校生の学ぶカリキュラムに、プラスαダンジョン攻略者になるためのカリキュラムがある。
 まだ3週間通っただけだが想像以上に学校生活は忙しい。

「そうだ、よく考えろ俺。なんのためにダンジョン学園に入った?彼女を作るためか?違うだろ。俺はダンジョン攻略者になるためにここに来たんだ、他のことにうつつを抜かしている暇はないはずだ。ってもうこんな時間か」

 9時10分前を示していたアナログ時計の針を見て俺は部屋を後にする。
 向かう先は正門。今日はそこで杏花と待ち合わせをしている。
 だが急ぐ必要はない、寮は学園の敷地内にあるので5分と掛からず到着できるからだ。

 一応少し早歩きで向かうとすぐ正門が見えてくる、そしてそこには杏花が髪を触ったりしながらそわそわと立っている。

「ごめんお待たせ」

 そう言うとコロリと表情を笑顔に変えた杏花が俺を出迎える。
 昨日の夜送られてきた画像の通り、白いTシャツの上にデニム生地のカーディガンを羽織り、下は大胆に脚を露出させたショートパンツ。
 まだ4月だし寒いかもなと昨日は思ったが、幸い今日は6月並みの気温らしいので寒くはなさそうだ。

「あっ、おはよう。ううん。全然待ってないよ。さっき着いたばっかだから」

「おはよう。でも普通これって全然待ってないよって言うの男の俺の方だったな。なんか立場逆転してるな」

「あぁ、よくドラマとかであるあれでしょ。でも私30分も前に来ちゃったから多分無理だよね」

「へぇ、そんな前からいたのか。やっぱり結構待たせちゃってたか」

 早く来たのに待ってないと言える気遣いができ、尚且つ30分待ったと口を滑らせてしまう抜けたところも杏花の持ち味かもしれない。

「あっ、違くてその、えーっと。わ、私が勝手に早く来てただけだから。それより早く行こう映画館。私この映画前から楽しみにしてたんだ」

 ばつが悪そうに言い訳をする杏花にそれ以上は何も言わず、そのまま追い掛けるようにして正門を後にする。


 まず徒歩で駅に向かい、そこから2つ離れた駅で降り、改札を出てすぐのところに巨大ショッピングモールがある。
 今日の目的地はその中にある映画館。

 道中は穏やかで大抵杏花が話題を振り俺が答え、たまに俺からも話題を振ったりする。そんな感じだ。
 話題といっても今日はやはり30階層攻略の話が出てしまう辺り、だいぶダンジョン学園に染まってきているらしい。

 そうして30分ほどかけ目的地に到着した俺達は映画までの少しばかりの時間をフラフラと適当な店に入って過ごし、その後映画を見ることにした。
 題名はダンジョンの最果てで愛を育む。
 移動中杏花が説明してくれたのだが、どうやら実在する攻略者の人の実話らしい。
 そしてこの春最も泣ける映画とのことだ。

 そんな前情報を頭に入れつつシアターの中に入る。
 席は二階にある指定席のペアシートで、隣の席などは視界に入らないようになっていた。
 もしも恋人と来ていたなら他人の目がないのをいいことにイチャつき始めただろうが当然そんなことはなかった。
 当然と言えば当然のことだが、俺は理性の塊と言われた男。
 いくら視界にチラチラと入ってしまう太腿が手を伸ばせばすぐのところにあり、尚且つ触ったところで拒絶されることはない可能性が結構高いだろうとはいえそんなことはしない。
 そもそも付き合っていない相手にそんな不埒な真似など男としてやらないのだ。

 ちなみにチケットは杏花の父親が会社の人に貰った物なのだそうだ。
 ほんとに貰った物なのか映画に誘う口実で自分で購入したのかは俺にはわからないが。。。

 そして映画が始まり、俺も杏花もすぐに映画に見入っていた。
 途中鼻をすする音が頻繁に聞こえたが、俺はもちろん泣いていない。
 そもそも見る観点が俺と杏花では大きく異なっている。
 杏花が男女の恋愛模様を重視しているのに対し、俺はダンジョン攻略者として何か学べれば、そんなことを考えながら見ていたからだ。

 2時間ちょっとの映画だがあっという間に時は流れエンドロールが流れ始める。
 結論から言うとかなりためになる映画だった。
 特にダンジョン攻略者はダンジョン攻略に恋愛を持ち込むと、本当にろくなことにならないと切実に訴えかけていると俺は感じた。
 自分でもごく少数派の感想だろうが、映画の感想なんて人それぞれでいいと思っている。

 そしてエンドロールが終わりシアターが明るくなるまで待ってから、俺は2時間ぶりに声を出す。

「ほらハンカチ貸すよ。杏花のハンカチもうびしょびしょだろ?」

「そっ、そんな泣いてないもん。ちょっとホロっときただけだから」

 真っ赤に目を腫らしそんなことを言われても説得力は皆無。
 俺だって太腿以外に杏花の顔だって何度か見るくらいはしているので、かなり泣いていたことくらいは知っている。

「そうか?ほとんど泣きっぱなしじゃなかった。後半なんてちょっと声漏れてたし」

「うそっ、ごめんうるさかった。つい夢中になっちゃってて」

「それは気にしなくていいよ。俺も十分楽しめたし。とりあえず出よっか、結構腹減ったし」

「ふっふーん。実はここに来る時いつも行くお店があるんだ。今日は私が真司くんをエスコートしてあげよう」

 昨日はエスコートよろしくと言っていたものの、エスコートする気満々らしいので任せることにしよう。
 普通は男子がとかそういうことを言わないのも俺的にかなりポイントが高い。

「それじゃあエスコートよろしくお願いします」

「うん、任せて」

 そして俺は自信満々にそう言い放つ杏花に連れられ、建物の中にあるお店へ向かうのだった。
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