21 / 30
フィンネルとヘレナ 其の一
しおりを挟む
「人類が火を得て道具を作り文明を築くよりも遥か遠い|過去(むかし)。
天界では神々による強大な派閥争いがあった。
神の王を名乗る各派閥の長達に従う者、裏で暗躍する者。
悠久の時を生きる彼らの戦いは長きに渡り続くかと思われた。
それによって人類が滅ぼうとも。
天から降り注ぐ無数の雷は嵐のように降り注ぎ、人類に文明をもたらした火はその文明を幾多も滅ぼし、荒れ狂った海は大陸すら呑み込んだ。
人々の祈る心は届かず、数え切れないほどの人柱が無駄な犠牲と成り果て。
祈ることすら忘れた人間は終わるとも知れない天災をただ座して待つことしかできなかった。
そんな神々の戦に終止符を打った者がいた。
それはどこぞの神の長でも超越した軍神の誰かでもなく、とある神殿に仕えていた一人の少女だった。
神託を聞けるという類稀なる力を持った少女には、もう一つの力があったのである。
聞くだけではなく、自身の言葉を神に届ける力。
そして少女の声は人類が滅ぶよりもほんの僅かに早く届いた。
幸い神は人間のことをとっても愛している。
我が子を想う母のような無償の愛と言っても差し支えないほどに。
神々は白熱した戦いにより人間への被害が見えていなかったという。
だから滅亡の直前とも言える弱り切った人類を見て、天災により人の住めなくなった地上の様を見て、神々はすぐに争いを止めた。
こうして一時の平和が地上に訪れたのである。
しかし、話はここで終わらない。
神々の王は別の形で決めると、話し合いで決まったからだ。
それは天災によりいつの間にか地上に現れたダンジョンを攻略するというものだった。
しかもダンジョンを攻略するのは神ではなく愛すべき人間達。
神はファミリアを作り人間の子を育て、ダンジョンを攻略させる。
そしてそのファミリアの神が所属する派閥の長こそが、神々の唯一の王になる。
という新たなルールを作り、別の形で神々の王を決める戦いは再び始まりましたとさ、めでたしめでたし」
「あー、そうですね。子供が物心着いたらすぐ親が何度も聞かせる話ですもの。誰だって知ってるわよね。わざわざそれを話して、どこか間違ってないか聞きたいんなんてことありえないわよね、フィンネル?」
「違うし、超違うし!城まで行くのに暇だったから昔話をしてやってたんだし」
「あら、そうだったの。確かに城は壁の外だから歩いて行くのは時間が掛かるものね。それにこれから女王陛下に謁見、間違ってないか聞きたくなる気持ちは分からなくもないわよ」
「だーかーらー。違うって言ってるし。ヘレナが暇そうだったから話してやってたんだし」
「わかりましたわかりましたとも、そういうことにしておいてあげますわ。話し相手が拗ねて口を閉ざしてしまうよりはマシですもの」
荷馬車の後ろに座っていたヘレナはそう言うとクスクス笑い、フィンネルは口を尖らせそっぽを向き、足を強めにばたつかせるのだった。
ダンジョンの存在するこの都市には、その周囲を取り囲むようにして聳え立つ巨大な壁に囲まれている。
ダンジョンから出てきたモンスターを外に出さぬよう、残った人類が力を合わせて造ったとされる最初の巨大建造物である。
ダンジョンの最も近い場所に造られた壁の内側を0番街、ただしここに人は住んでいない。
そしてその外側に造られた壁の内側が一番街となり、全部で八つの壁。
つまり七番街まで存在し冒険者やその関係者が住んでいる。
そして内側に行くほどファミリアの規模や力が大きい。
先程長々と説明を口にしていた少女の名はラ・フィンネル。
彼女は一番街にホームを置くポセイドンファミリアの主要メンバーの一人。
そして今、戦を止めた巫女の末裔で、この国の最高権力者である女王の元へと向かっている最中である。
髪は全体的に短い黒髪だが、襟足だけ伸ばし三つ編みでで結んでいる。
モンクという性質上、動きやすさを重視した軽装で鎧などは纏わず、肌に密着した黒い光沢のある乳バンドとスパッツ。
その上におまけのように薄手の白い衣服、というか白い布を羽衣でも纏うように羽織っている。
動き易いから変える気はないと本人は意地を張っているが。
布地の少ない服に褐色の肌や引き締まった腹筋や太腿、彼女の持つ天性の体のしなやかさ。
それらはポセイドンファミリアに所属しているからという理由以外でも、街を歩く多くの男の視線を釘付けにしていた。
「ちっ、チラチラ見られんのは好きじゃないんだよね」
フィンネルクラスの冒険者の視線に力を込めるという行為は、弱者からすれば物理的な圧力すら感じてしまうほどである。
殺意までなくとも己より遥かに強いモンスターの咆哮を間近で聞いたような焦りすら感じて、下心のあった男達もそうでないものも慌てて目を逸らす。
「あー、もう。八つ当たりはやめてくださる。私まで団長に怒られてしまいますわ」
「ったく、誰のせいだよ」
「さぁーてねぇ。誰かさんが下着同然の格好で外にいるからかしらねぇ」
「年中そんな暑苦しそうな格好のお前にだけは言われたくねぇ」
フィンネルとは対照的に、ヘレナの格好は肌をほとんど露出していない。
ブロンドの美しい髪は長く座ると馬車の荷台に付くほどで、茶色いブーツに黒のズボン、上からはえんじ色のローブという格好である。
一級の魔法武具店で買ったローブは、ヘレナの趣味により刺繍やらフリルが増し増しで繕われている。
ダンジョンに行くには必要ないと言われれば、本人すらもそうねと頷くが、フィンネル同様変える気は全くない。
アマゾネスといわれる種族のフィンネルとは違い、肌は透き通るように白く、フィンネルとは別種の女性らしさがあった。
ただし胸は無い。
胸が強調されにくい格好だからという意味でなく、脱いでも凹凸は大変控えめなのである。
「暑くはないわよ、色んな耐性の込められた魔法武具だから、炎で焼かれても身を包めば守りきれほどなの。それに私は心に決めた殿方以外に肌を見せる趣味はないの」
「趣味……だって?僕だって別に見せる気なんて無いし、肌を露出してる僕が悪いんじゃなくて、下心を持って見る奴が悪いんだし」
「ふんっ、無駄な脂肪の塊をそうまで強調してるのは、てっきりファンサービスかと思っておりましたけど」
「うっさい貧乳」
「今なんて?」
「別に。僕なーんも言ってませんけど」
勝ち誇った顔で、あまつさえわざとらしく胸を張っているフィンネルを見て、ヘレナは尻の辺りにあった杖に手を掛けた。
その時である。
建物の吹き飛ぶような轟音が響いた。
「おいっヘレナやり過ぎ!」
「違っ、まだ私は何も」
轟音の正体をヘレナの魔法と考え睨んだフィンネルに、ヘレナは慌てて首を振る。
それと同時に、城へと向かうポセイドンファミリアの一行の最前列から悲鳴が響いた。
「前かっ、行くよ!」
「えぇ」
荷台から飛び降り前方に飛び去るフィンネルに続き、ヘレナもその後を追う。
レベルアップの恩恵により身体能力の高さは常人の比ではないが、モンクであるフィネルの方が魔法職のヘレナより速い。
それに最前列のすぐ近くだったこともあり、数秒で先頭の馬車の前に踊り出た。
そして二人がそこで見た光景は、子供の頃聞かされた天災を彷彿とさせた。
天から降り注ぐ巨大な火の雨、まさにそれが目の前から迫っていたのである。
「ヘレナ!得意の水魔法で弾け、水なら火を消せる」
「そう単純なものじゃないわよ。でもこの威力に対抗するならそれしかないわね。ウォーターカノン!」
上位の魔法職ともなれば詠唱を破棄することは難しくない。
ただその威力が下がり、消費MPも多くなるため緊急時以外では使わない。
ヘレナの両手から高圧放水車のように勢い良く水が放出される。
「くっ、ありえない。この私が押されてるなんて」
放水の威力に耐え踏ん張るヘレナだが、勢いの弱まらない火の玉に焦りを覚えていた。
しかも隣にいるフィンネルはモンク、しかも自身強化以外の魔法を苦手とするアマゾネス。
しかし、この後すぐヘレナの不安は消し飛ぶこととなる。
「よく耐えたヘレナ!団長として礼を言う。ドロイ盾で食い止めろ、ガンダルは土魔法、ウィーニアは水魔法でヘレナの援護」
異変に気付いた団長のルブルム達が列の中心から駆け付けたのである。
瞬時に的確な指示を飛ばし、一斉に目の前の火の鎮火が始まった。
直径二メートルを超える人を飲み込むような化け物ファイヤーボールだが、これだけのメンバーが揃ってしまえば呆気ないもの。
と、この時全員が気持ちを同じにしていた。
しかしこれが案外手こずることとなった。
「くそっまだ消えないか団長」
巨大な盾を持ったドワーフのドロイと、急遽盾を借りてきたフィンネルがファイヤーボールを抑え。
後ろからはヘレナとウィーニアが水魔法で消火。
そこに詠唱を終えたドロイの魔法で、左右の地面の土が盛り上がりファイヤーボールを覆うように動く。
「火山の噴火じゃあるまい、何故こうも次から次へと火が湧いてくる。仕方ない、各員ちょっとだけ本気を出してやれ」
いくら巨大とはいえ、ファイヤーボール一つに本気になるべきではないと考えていた全員が団長の方針に従う。
水は一気に威力を増し、水と混ざった土が泥となりファイヤーボールを一瞬で呑み込む。
「やっと消えたし!なんだよ今のは」
不満げに土を蹴ったフィンネルの言葉に全員が顔を顰めた。
この七番街にあれほどの魔法を打てるものがいるはずかない、つまりどこかの上位のファミリアによる嫌がらせ。
もしくは宣戦布告だということ。
被害がなかったとはいえ、これだけ舐めた真似をされたのだ。
それをこの都市有数のポセイドンファミリア団長のルブルムが、何もせずただ指を加えるなど天地がひっくり返ろうともあり得ない。
「フィンネル、ヘレナ、ウィーニア。第三班、第六班を連れて魔法の出所を探れ。あとここに来なかった|馬鹿(ディスロック)も連れてな」
「えー、団長。あいつも連れてくんですか?」
「戦闘になるかもしれないからな、万が一のために連れて行ってくれ。悪いが俺まで城に行かないわけにはいかないから頼んだぞ」
「万が一?そんなことあり得ないし。万回喧嘩を売られたなら僕が万回買ってやるし」
そう答えたフィンネルの瞳には、先ほどのファイヤーボールよりも滾った炎が燃え盛っていた。
こうして、ポセイドンファミリアに宣戦布告をした愚かなファミリアに対し。
全力の反撃が始まろうとしていた。
天界では神々による強大な派閥争いがあった。
神の王を名乗る各派閥の長達に従う者、裏で暗躍する者。
悠久の時を生きる彼らの戦いは長きに渡り続くかと思われた。
それによって人類が滅ぼうとも。
天から降り注ぐ無数の雷は嵐のように降り注ぎ、人類に文明をもたらした火はその文明を幾多も滅ぼし、荒れ狂った海は大陸すら呑み込んだ。
人々の祈る心は届かず、数え切れないほどの人柱が無駄な犠牲と成り果て。
祈ることすら忘れた人間は終わるとも知れない天災をただ座して待つことしかできなかった。
そんな神々の戦に終止符を打った者がいた。
それはどこぞの神の長でも超越した軍神の誰かでもなく、とある神殿に仕えていた一人の少女だった。
神託を聞けるという類稀なる力を持った少女には、もう一つの力があったのである。
聞くだけではなく、自身の言葉を神に届ける力。
そして少女の声は人類が滅ぶよりもほんの僅かに早く届いた。
幸い神は人間のことをとっても愛している。
我が子を想う母のような無償の愛と言っても差し支えないほどに。
神々は白熱した戦いにより人間への被害が見えていなかったという。
だから滅亡の直前とも言える弱り切った人類を見て、天災により人の住めなくなった地上の様を見て、神々はすぐに争いを止めた。
こうして一時の平和が地上に訪れたのである。
しかし、話はここで終わらない。
神々の王は別の形で決めると、話し合いで決まったからだ。
それは天災によりいつの間にか地上に現れたダンジョンを攻略するというものだった。
しかもダンジョンを攻略するのは神ではなく愛すべき人間達。
神はファミリアを作り人間の子を育て、ダンジョンを攻略させる。
そしてそのファミリアの神が所属する派閥の長こそが、神々の唯一の王になる。
という新たなルールを作り、別の形で神々の王を決める戦いは再び始まりましたとさ、めでたしめでたし」
「あー、そうですね。子供が物心着いたらすぐ親が何度も聞かせる話ですもの。誰だって知ってるわよね。わざわざそれを話して、どこか間違ってないか聞きたいんなんてことありえないわよね、フィンネル?」
「違うし、超違うし!城まで行くのに暇だったから昔話をしてやってたんだし」
「あら、そうだったの。確かに城は壁の外だから歩いて行くのは時間が掛かるものね。それにこれから女王陛下に謁見、間違ってないか聞きたくなる気持ちは分からなくもないわよ」
「だーかーらー。違うって言ってるし。ヘレナが暇そうだったから話してやってたんだし」
「わかりましたわかりましたとも、そういうことにしておいてあげますわ。話し相手が拗ねて口を閉ざしてしまうよりはマシですもの」
荷馬車の後ろに座っていたヘレナはそう言うとクスクス笑い、フィンネルは口を尖らせそっぽを向き、足を強めにばたつかせるのだった。
ダンジョンの存在するこの都市には、その周囲を取り囲むようにして聳え立つ巨大な壁に囲まれている。
ダンジョンから出てきたモンスターを外に出さぬよう、残った人類が力を合わせて造ったとされる最初の巨大建造物である。
ダンジョンの最も近い場所に造られた壁の内側を0番街、ただしここに人は住んでいない。
そしてその外側に造られた壁の内側が一番街となり、全部で八つの壁。
つまり七番街まで存在し冒険者やその関係者が住んでいる。
そして内側に行くほどファミリアの規模や力が大きい。
先程長々と説明を口にしていた少女の名はラ・フィンネル。
彼女は一番街にホームを置くポセイドンファミリアの主要メンバーの一人。
そして今、戦を止めた巫女の末裔で、この国の最高権力者である女王の元へと向かっている最中である。
髪は全体的に短い黒髪だが、襟足だけ伸ばし三つ編みでで結んでいる。
モンクという性質上、動きやすさを重視した軽装で鎧などは纏わず、肌に密着した黒い光沢のある乳バンドとスパッツ。
その上におまけのように薄手の白い衣服、というか白い布を羽衣でも纏うように羽織っている。
動き易いから変える気はないと本人は意地を張っているが。
布地の少ない服に褐色の肌や引き締まった腹筋や太腿、彼女の持つ天性の体のしなやかさ。
それらはポセイドンファミリアに所属しているからという理由以外でも、街を歩く多くの男の視線を釘付けにしていた。
「ちっ、チラチラ見られんのは好きじゃないんだよね」
フィンネルクラスの冒険者の視線に力を込めるという行為は、弱者からすれば物理的な圧力すら感じてしまうほどである。
殺意までなくとも己より遥かに強いモンスターの咆哮を間近で聞いたような焦りすら感じて、下心のあった男達もそうでないものも慌てて目を逸らす。
「あー、もう。八つ当たりはやめてくださる。私まで団長に怒られてしまいますわ」
「ったく、誰のせいだよ」
「さぁーてねぇ。誰かさんが下着同然の格好で外にいるからかしらねぇ」
「年中そんな暑苦しそうな格好のお前にだけは言われたくねぇ」
フィンネルとは対照的に、ヘレナの格好は肌をほとんど露出していない。
ブロンドの美しい髪は長く座ると馬車の荷台に付くほどで、茶色いブーツに黒のズボン、上からはえんじ色のローブという格好である。
一級の魔法武具店で買ったローブは、ヘレナの趣味により刺繍やらフリルが増し増しで繕われている。
ダンジョンに行くには必要ないと言われれば、本人すらもそうねと頷くが、フィンネル同様変える気は全くない。
アマゾネスといわれる種族のフィンネルとは違い、肌は透き通るように白く、フィンネルとは別種の女性らしさがあった。
ただし胸は無い。
胸が強調されにくい格好だからという意味でなく、脱いでも凹凸は大変控えめなのである。
「暑くはないわよ、色んな耐性の込められた魔法武具だから、炎で焼かれても身を包めば守りきれほどなの。それに私は心に決めた殿方以外に肌を見せる趣味はないの」
「趣味……だって?僕だって別に見せる気なんて無いし、肌を露出してる僕が悪いんじゃなくて、下心を持って見る奴が悪いんだし」
「ふんっ、無駄な脂肪の塊をそうまで強調してるのは、てっきりファンサービスかと思っておりましたけど」
「うっさい貧乳」
「今なんて?」
「別に。僕なーんも言ってませんけど」
勝ち誇った顔で、あまつさえわざとらしく胸を張っているフィンネルを見て、ヘレナは尻の辺りにあった杖に手を掛けた。
その時である。
建物の吹き飛ぶような轟音が響いた。
「おいっヘレナやり過ぎ!」
「違っ、まだ私は何も」
轟音の正体をヘレナの魔法と考え睨んだフィンネルに、ヘレナは慌てて首を振る。
それと同時に、城へと向かうポセイドンファミリアの一行の最前列から悲鳴が響いた。
「前かっ、行くよ!」
「えぇ」
荷台から飛び降り前方に飛び去るフィンネルに続き、ヘレナもその後を追う。
レベルアップの恩恵により身体能力の高さは常人の比ではないが、モンクであるフィネルの方が魔法職のヘレナより速い。
それに最前列のすぐ近くだったこともあり、数秒で先頭の馬車の前に踊り出た。
そして二人がそこで見た光景は、子供の頃聞かされた天災を彷彿とさせた。
天から降り注ぐ巨大な火の雨、まさにそれが目の前から迫っていたのである。
「ヘレナ!得意の水魔法で弾け、水なら火を消せる」
「そう単純なものじゃないわよ。でもこの威力に対抗するならそれしかないわね。ウォーターカノン!」
上位の魔法職ともなれば詠唱を破棄することは難しくない。
ただその威力が下がり、消費MPも多くなるため緊急時以外では使わない。
ヘレナの両手から高圧放水車のように勢い良く水が放出される。
「くっ、ありえない。この私が押されてるなんて」
放水の威力に耐え踏ん張るヘレナだが、勢いの弱まらない火の玉に焦りを覚えていた。
しかも隣にいるフィンネルはモンク、しかも自身強化以外の魔法を苦手とするアマゾネス。
しかし、この後すぐヘレナの不安は消し飛ぶこととなる。
「よく耐えたヘレナ!団長として礼を言う。ドロイ盾で食い止めろ、ガンダルは土魔法、ウィーニアは水魔法でヘレナの援護」
異変に気付いた団長のルブルム達が列の中心から駆け付けたのである。
瞬時に的確な指示を飛ばし、一斉に目の前の火の鎮火が始まった。
直径二メートルを超える人を飲み込むような化け物ファイヤーボールだが、これだけのメンバーが揃ってしまえば呆気ないもの。
と、この時全員が気持ちを同じにしていた。
しかしこれが案外手こずることとなった。
「くそっまだ消えないか団長」
巨大な盾を持ったドワーフのドロイと、急遽盾を借りてきたフィンネルがファイヤーボールを抑え。
後ろからはヘレナとウィーニアが水魔法で消火。
そこに詠唱を終えたドロイの魔法で、左右の地面の土が盛り上がりファイヤーボールを覆うように動く。
「火山の噴火じゃあるまい、何故こうも次から次へと火が湧いてくる。仕方ない、各員ちょっとだけ本気を出してやれ」
いくら巨大とはいえ、ファイヤーボール一つに本気になるべきではないと考えていた全員が団長の方針に従う。
水は一気に威力を増し、水と混ざった土が泥となりファイヤーボールを一瞬で呑み込む。
「やっと消えたし!なんだよ今のは」
不満げに土を蹴ったフィンネルの言葉に全員が顔を顰めた。
この七番街にあれほどの魔法を打てるものがいるはずかない、つまりどこかの上位のファミリアによる嫌がらせ。
もしくは宣戦布告だということ。
被害がなかったとはいえ、これだけ舐めた真似をされたのだ。
それをこの都市有数のポセイドンファミリア団長のルブルムが、何もせずただ指を加えるなど天地がひっくり返ろうともあり得ない。
「フィンネル、ヘレナ、ウィーニア。第三班、第六班を連れて魔法の出所を探れ。あとここに来なかった|馬鹿(ディスロック)も連れてな」
「えー、団長。あいつも連れてくんですか?」
「戦闘になるかもしれないからな、万が一のために連れて行ってくれ。悪いが俺まで城に行かないわけにはいかないから頼んだぞ」
「万が一?そんなことあり得ないし。万回喧嘩を売られたなら僕が万回買ってやるし」
そう答えたフィンネルの瞳には、先ほどのファイヤーボールよりも滾った炎が燃え盛っていた。
こうして、ポセイドンファミリアに宣戦布告をした愚かなファミリアに対し。
全力の反撃が始まろうとしていた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話
此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。
電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。
信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。
そうだ。西へ行こう。
西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。
ここで、ぼくらは名をあげる!
ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。
と、思ってた時期がぼくにもありました…
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる