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一冬の閑話
切り札
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その後――男時間の入浴も終わり、その中に居たソウタには、アヤコから人伝に『用があるので、自室まで来なさい』という旨の伝聞を貰い、彼女の自室を訪ねていた。
「用って……なんですか?」
ソウタは、先日のコトもあり、些か警戒した面持ちで、招聘の理由を伺う。
「件の小屋で過ごしたいという旨――了承致します。
その"条件"として……レンを共に連れて行って、一緒に暮らして欲しいのです」
単刀直入にアヤコが言い放った、ソウタにとっては、なかなかにショッキングな要求に際し、彼は口に含んでいた、出された冷水を飲み込み損ね、思わずむせてしまう。
「――っ……どういう、コトっすか?」
「……なぁに、単に、身の周りの世話を担う者が必要でしょう?――というコトです。
先に、私からお願いしておいたので、一人暮らしを固持される様なら困ります」
――と、ソウタの動揺を見透かした様に、アヤコは余裕綽々な態度で、そう言い捨てた」
「身の周りって……俺は、元々一人旅の身の上なんですから、一人でも別に支障は……」
ソウタは、渋い表情でそう応じ、煙に巻く気が見え見えな態度をみせる。
「――"母"の目が届く処に居る以上は、"ありがちな流者の旅暮らし”の様な、だらしない生活は許しません。
イロイロと聞こえて来ていますしねぇ……路銀が枯渇して、食うや食わずの野宿生活……みすぼらしい身なりに、口の周りは常に無精ひげ――その様な有様で、"支障など無い"と言おうとしている口は、ドコにあるんでしょうねぇ~?」
アヤコは、完全に優位に立った様で、ソウタにも心当たりはある、旅の流者の放蕩生活の代表例を指折り挙げる。
「――だからって、"専属の侍女を付ける"ってのは……しかも、それがレンってのは、一体、どういう了見なんです?
それに、やたらと"くっつけたがって"いたのは……"ヒカリの方"だったじゃないんですか?」
ソウタも負けじと、アヤコの目的を見透かす素振りで、これまでの計略を看破してみせる。
「ええ――確かに、リョウゴ様から貴方への継承を告げられる前までは、貴方とヒカリが夫婦となって、揃って私に仕えてくれる事が、私のささやかな願望でした。
――ですが、貴方は光刃を継ぐ事となり、私の側からは離れ、ヒカリもまた、貴方との婚姻は望んでいないと言う……ですからコレは、その辺りの私の思惑とは"別のモノ"です」
――と、アヤコがスラスラと、ソウタが含めた指摘に応えていると、彼は驚く様に目を見張って唖然とする。
「あらぁ~?、もしかして、アオイの雑言を真に受けて、ヒカリがまだ、自分との婚姻を望み続けていると思っていたのですかぁ~~?
操も奪っておきながら、三年の間も放ったからしにしておいて……"今でも俺に惚れているはず"は、いくら何でも虫が良過ぎます!」
ソウタの驚き具合が勘に障ったか、アヤコの文言は"お説教モード"へ移行――次々と、ソウタの態度や行動の問題点を挙げ列ね、彼の精神を怒涛の様に追い詰める!
「――ふぅ!、コレで少しは、自分の軽率さが解かったでしょう?」
「……はい。
でも、尚更この度、レンを俺の側へ付けるという言い分は理解しかねます――こんな"サイテー男"の側に、名目上は"ヨクセから預かりモノ"である、彼女を置こうってのは……」
"お説教モード"で、すっかり打ちひしがれた様でも、ソウタは肝心な部分への追及は止めず、自虐も込めた文言で、更にアヤコの意図を探ろうとする。
「それは――あの娘になら、貴方は"悪さ"をしない、出来ないと言える自信が、私の印象としてあるからです」
「……へ?、それじゃあまるで、あの娘になら、俺は一切欲情しない――言うなれば、あの娘には"そーいう魅力"が無いとでも?
……こう言っちゃあ何だが、誰が見ても"上玉"って言う程の美貌の持ち主なのは明らか――女性の容姿を値踏みする趣味はねぇが、あのシオリさんとだって、勝るとも劣らな……」
――と、アヤコが突飛に挙げた根拠に、ソウタが反論を挙げ列ねて行くと、彼女はニヤっと意味深な笑みを浮べた。
「――ソレをいままで、それこそ"二人きりで野宿"、"命の恩人という揺ぎ無い優位性"という、絶好の機会がありながら……手を出していないというのは、貴方はあの娘に"本気で惚れている"――そう、思うからですよ♪」
アヤコは、それこそ自信が確信に変わった事を喜んでみせている、満面の笑みを浮べ、そう言い切り――
「――"愛情"とは、ある意味、対象への保護本能の発露と言えなくもありません――つまり、"惚れている"と"守りたい"は、同一線上にある感情であると、私は思っています。
邪推すれば、貴方は自分が幼少時に経験した悲劇と、彼女の此度の境遇が重なった――その経緯から、凌辱される事を恐れていたあの娘の様子を知っている分、"そーいう目的"で彼女に接するコトが、躊躇われた憶えがあるのでは?」
――という、指摘も付け加えると、ソウタは例の野宿の夜のコトを思い出してハッとなる。
「ふふ♪、図星――の様ですね♪
それに……貴方が更に手を出し難くなる"切り札"だって、今、切るつもりですから」
アヤコは、意味深にそう告げると、何故か身を正し、真っ直ぐにソウタの瞳を見据えた。
「あの娘――レンは、私の娘なのです」
――と、至極真剣な眼差しでそう告げたが、ソウタは……
「……あっ!、あの娘が実は、ツツキ生まれだってハナシのコトですか?、両親がアヤコ様の侍女と近衛だったってヤツ。
それなら、当に知ってます――俺やヒカリのコトを、自分の息子や娘と呼んでるみたく、あの娘のコトも、そう呼ぶようにしたんですね……」
――突拍子も無く放たれたアヤコの主張を、茶化す態でそう濁そうとする。
「――いいえ、"本当の"私の娘……リョウゴ様と私の間に生まれ、私が産んだ正真正銘の"ハクキ宗家の血を引く娘"。
世が世ならば、次のハクキ国守――今ならば神具、"白半玉"のみを継ぐコトが出来る、唯一無二の存在なのです」
――アヤコが明らかにした、衝撃的な事実に……ソウタもまた、"正真正銘"な意味合いで、全身を硬直させるのだった。
「用って……なんですか?」
ソウタは、先日のコトもあり、些か警戒した面持ちで、招聘の理由を伺う。
「件の小屋で過ごしたいという旨――了承致します。
その"条件"として……レンを共に連れて行って、一緒に暮らして欲しいのです」
単刀直入にアヤコが言い放った、ソウタにとっては、なかなかにショッキングな要求に際し、彼は口に含んでいた、出された冷水を飲み込み損ね、思わずむせてしまう。
「――っ……どういう、コトっすか?」
「……なぁに、単に、身の周りの世話を担う者が必要でしょう?――というコトです。
先に、私からお願いしておいたので、一人暮らしを固持される様なら困ります」
――と、ソウタの動揺を見透かした様に、アヤコは余裕綽々な態度で、そう言い捨てた」
「身の周りって……俺は、元々一人旅の身の上なんですから、一人でも別に支障は……」
ソウタは、渋い表情でそう応じ、煙に巻く気が見え見えな態度をみせる。
「――"母"の目が届く処に居る以上は、"ありがちな流者の旅暮らし”の様な、だらしない生活は許しません。
イロイロと聞こえて来ていますしねぇ……路銀が枯渇して、食うや食わずの野宿生活……みすぼらしい身なりに、口の周りは常に無精ひげ――その様な有様で、"支障など無い"と言おうとしている口は、ドコにあるんでしょうねぇ~?」
アヤコは、完全に優位に立った様で、ソウタにも心当たりはある、旅の流者の放蕩生活の代表例を指折り挙げる。
「――だからって、"専属の侍女を付ける"ってのは……しかも、それがレンってのは、一体、どういう了見なんです?
それに、やたらと"くっつけたがって"いたのは……"ヒカリの方"だったじゃないんですか?」
ソウタも負けじと、アヤコの目的を見透かす素振りで、これまでの計略を看破してみせる。
「ええ――確かに、リョウゴ様から貴方への継承を告げられる前までは、貴方とヒカリが夫婦となって、揃って私に仕えてくれる事が、私のささやかな願望でした。
――ですが、貴方は光刃を継ぐ事となり、私の側からは離れ、ヒカリもまた、貴方との婚姻は望んでいないと言う……ですからコレは、その辺りの私の思惑とは"別のモノ"です」
――と、アヤコがスラスラと、ソウタが含めた指摘に応えていると、彼は驚く様に目を見張って唖然とする。
「あらぁ~?、もしかして、アオイの雑言を真に受けて、ヒカリがまだ、自分との婚姻を望み続けていると思っていたのですかぁ~~?
操も奪っておきながら、三年の間も放ったからしにしておいて……"今でも俺に惚れているはず"は、いくら何でも虫が良過ぎます!」
ソウタの驚き具合が勘に障ったか、アヤコの文言は"お説教モード"へ移行――次々と、ソウタの態度や行動の問題点を挙げ列ね、彼の精神を怒涛の様に追い詰める!
「――ふぅ!、コレで少しは、自分の軽率さが解かったでしょう?」
「……はい。
でも、尚更この度、レンを俺の側へ付けるという言い分は理解しかねます――こんな"サイテー男"の側に、名目上は"ヨクセから預かりモノ"である、彼女を置こうってのは……」
"お説教モード"で、すっかり打ちひしがれた様でも、ソウタは肝心な部分への追及は止めず、自虐も込めた文言で、更にアヤコの意図を探ろうとする。
「それは――あの娘になら、貴方は"悪さ"をしない、出来ないと言える自信が、私の印象としてあるからです」
「……へ?、それじゃあまるで、あの娘になら、俺は一切欲情しない――言うなれば、あの娘には"そーいう魅力"が無いとでも?
……こう言っちゃあ何だが、誰が見ても"上玉"って言う程の美貌の持ち主なのは明らか――女性の容姿を値踏みする趣味はねぇが、あのシオリさんとだって、勝るとも劣らな……」
――と、アヤコが突飛に挙げた根拠に、ソウタが反論を挙げ列ねて行くと、彼女はニヤっと意味深な笑みを浮べた。
「――ソレをいままで、それこそ"二人きりで野宿"、"命の恩人という揺ぎ無い優位性"という、絶好の機会がありながら……手を出していないというのは、貴方はあの娘に"本気で惚れている"――そう、思うからですよ♪」
アヤコは、それこそ自信が確信に変わった事を喜んでみせている、満面の笑みを浮べ、そう言い切り――
「――"愛情"とは、ある意味、対象への保護本能の発露と言えなくもありません――つまり、"惚れている"と"守りたい"は、同一線上にある感情であると、私は思っています。
邪推すれば、貴方は自分が幼少時に経験した悲劇と、彼女の此度の境遇が重なった――その経緯から、凌辱される事を恐れていたあの娘の様子を知っている分、"そーいう目的"で彼女に接するコトが、躊躇われた憶えがあるのでは?」
――という、指摘も付け加えると、ソウタは例の野宿の夜のコトを思い出してハッとなる。
「ふふ♪、図星――の様ですね♪
それに……貴方が更に手を出し難くなる"切り札"だって、今、切るつもりですから」
アヤコは、意味深にそう告げると、何故か身を正し、真っ直ぐにソウタの瞳を見据えた。
「あの娘――レンは、私の娘なのです」
――と、至極真剣な眼差しでそう告げたが、ソウタは……
「……あっ!、あの娘が実は、ツツキ生まれだってハナシのコトですか?、両親がアヤコ様の侍女と近衛だったってヤツ。
それなら、当に知ってます――俺やヒカリのコトを、自分の息子や娘と呼んでるみたく、あの娘のコトも、そう呼ぶようにしたんですね……」
――突拍子も無く放たれたアヤコの主張を、茶化す態でそう濁そうとする。
「――いいえ、"本当の"私の娘……リョウゴ様と私の間に生まれ、私が産んだ正真正銘の"ハクキ宗家の血を引く娘"。
世が世ならば、次のハクキ国守――今ならば神具、"白半玉"のみを継ぐコトが出来る、唯一無二の存在なのです」
――アヤコが明らかにした、衝撃的な事実に……ソウタもまた、"正真正銘"な意味合いで、全身を硬直させるのだった。
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