流れ者のソウタ

緋野 真人

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助っ人

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「本当に――二刀列警、ご本人だね……」

尋問室の小窓越しに、その人物が名乗る者と面識があるヒロシは、報告にあった人物の顔を確認し、頷きながらそう言った。


苦笑いの理由は――その人物、ハヤトが凄まじい勢いで、出された大皿に載った粉餅を食べているからである。

「すっ、すいません……

『潔く捕まってやるから、とりあえず何か喰わせてくれっ!」

――そう、言われたので……」

ハヤトを捕縛したという六番隊員は、手柄を挙げたというのに、腰を低くして頭を下げる。


「――おっ!、話が通じそうなヤツが居たね♪、おいっ!、ヒロシっ!、入って来いっ!」

粉餅を喰う勢いを緩めたハヤトは、小窓を覗いたヒロシを視認すると、何やら手招きをし始める。


ヒロシは、ふぅと大きめの溜め息を漏らし、おもむろに尋問室に入ると――

「お久し振りです――『隊長』」

――深々と敬礼し、ハヤトの事をそう呼んだ。


ヒロシは――ハヤトが、ユリを拉致した22年前の駆け落ち騒動の当時、二番隊長であったハヤトの部下だった。

故に、彼にとってハヤトは、大罪人の『二刀烈警』であると同時に――"元上司"でもあるのである。


「おめぇも、立派になったモンだな♪

巷のハナシで知っては居たが……ちゃっかり"肩当て"まで貰ってよ♪」

「ええ……歳だけは、ムダに喰って来ましたから、それだけが理由の出世ですよ」

ハヤトが言った賛辞に、ヒロシは謙遜を込めた返事をする。


「ちょっ!、ハヤトのオッサンが捕まったって!?」

――と、そんなやり取りの中に、慌て気味に割って入って来たのは、遅れて尋問室にやって来たタマである。


「おぉ~!、なんでぇ、おタマちゃんもココに居たのかい。

こりゃあ、そんなに説明する必要は無さそうだな?」

集まって来る顔触れから、状況を聡く推察したハヤトは、ふてぶてしく腕を組んで、したり顔で笑う。


「コラコラ~~っ!、"二刀烈警"と言えば、一応は大巫女ユリ様を拉致した、大罪人だよぉ~?

それを、全然まったく拘束してないってのは……流石にマズくない?、何たって、六番隊員きみたちの隊長は――」

タマにハヤトの事を報せ、共に同伴して来たハルが、後ろへと振り向くと――

「――あなたたちはぁ~っ!、何て散漫な対応をしているのですっ!

今は!、謀反一派との有事なのですよ?!」

――という、隊長であるミスズの説教が始まっていた。

「……"士団きっての堅物でしょうよ?”って、言おうと思ったけど、既に遅かったかぁ……」

ハルは、その様子を小さく舌を出しながら眺めめ、目線をタマとハヤトのやり取りへと移し――

「――てぇ事は、タマちゃんたちに御神具を託したのも、ホンモノの二刀烈警だったってコトね?」

――と、彼女らの顔を見渡しながら言うと、両者は頷いて応じた。


「おタマちゃん――占報、観たぜ?

俺が託したモンを、ちゃんと大神官に届けてくれたんだな……」

ハヤトは、クシャクシャとタマの猫耳周りを撫で回し、朗らかに笑う。

「えへへ――アタシは、コケツの士だからね♪、頼まれた仕事は、ちゃんとするよ。

ところで……オッサンこそ、あれからどうしたのさ?」

タマは、気持ち良さそうに目を細めると、顔付きを真剣なモノへと変えて、殿を務めて自分とギンをテンラクから逃がした、ハヤトの気になっていた『その後』を尋ねる。

「へっ!、くたばっただろうと思ってたかもしれんが、おっさんは結構強ぇんだぜぇ?

ざっと二~三十人をバラして――あっ、流石にあの狐の隊長格は無理だったが、連中がたまらず退いた隙に、サッサとテンラクからは逃げた。

そんで、奴らが俺を追う様に仕向けて、翼域のアチラコチラを風来してたってトコだな」

ハヤトは、伸びた無精髭を撫でながら、タマに別れた後の経緯を語り出す。

「しばらくして――例の占報の後は、奴らも俺を追わなくなってよ、これでようやく、風の向くまま、気の向くままの逃亡者生活に戻れると思ったら――その風来で、路銀はパァ!

いよいよ腹が減って、あえなくココで士団の御用になったってぇワケさ♪」

ハヤトは、懐から空の財布を取り出し、それを振って見せながら両手を挙げた。


「隊長――最後の理由は、ただの"誤魔化し"でしょう?」

――と、ヒロシはニヤッと笑い、金が出てこない財布を指差す。

「ええ――そんな大罪人が今になって、しかも、この奥翼の地にて出頭しようというのは……その様な、浅慮な思惑ではないはずです」

説教を終えた、この場の責任者であるミフユも加わり、ハヤトの前に座って取り調べを始める。


「へへ――『腹が減ったから』じゃあ納得して貰えねぇかい?

んじゃあ……現役の隊長格、三人も前に居並ばれちゃあ――大人しく、正直に言うしかねぇかねぇ……」

ハヤトは、ニヤっと笑いながら、目の前のミスズの瞳を見詰め――

「――謀反を起こしたガキどもが、ココに向けて、兵を挙げたって聞いたからよ。

飯代ぐらいは――ココで働かせて貰えんじゃねぇかと思ってね♪」

「!?、それって!、まさか……」

ハヤトが、不敵な笑みを浮かべながらそう言い、その語意を察したミスズは驚愕の表情を浮かべる。

「"助っ人"に来たのさ――このセンパイがな♪、御代は……この粉餅と、手伝ってる間のメシだけで構わねぇからよ」

ハヤトは、袖をまくって力こぶを造って見せ、たくましげに拳を突き上げた。



「――私は反対です!

いくら!、此度の御神具に関する功があっても、二十年以上も逃亡を続けている大罪人を、義兵として受け入れるなどと!」

「やれやれ――さっきまでと同じく、やっぱりキミのお堅いトコロが引っ掛かっちゃうね」


指揮室へと戻り、三人の隊長の間で始まったハヤトの処遇に関する議論は――士団にとっては罪人である、彼の参戦を認められないミスズと、神具をユリから託され、それがシオリに届けるための一計を謀った功績に免じ、参戦を認めべきとするヒロシの間で、喧々諤々の対立が起こっていた。


「何より――この未曾有の有事の時に、大武会準優勝の実績を持つ人が、味方になってくれるって言うんだ。

これ以上の援軍は無いじゃないか?」

ヒロシは、ハヤト参戦の最たる利点をかざし、ミフユに同意を迫るが――

「――だとしても、彼は、クリ社と士団が"公的に手配"した"要人拉致の実行犯"なのですよ?

正規の士団である我らが、それを謀反一派と事を構える上で、戦力に加えては理が立ち申しません!」

――彼女は彼女で、まさに正論と言った理屈を盾に、譲る構えは見せない。


堂々巡りとなった議論に、業を煮やした二人は、ほぼ同時に視線を移し――


「ハルさん――貴女は、どう思います!?」

「ハルちゃん……アタマの柔らかいキミなら、僕の方を支持してくれるよね?」


――と、黙って二人の議論を見守っていたハルに、ハミングでもする様に声を合わせて意見を求めた。


「へっ!?、アタシ――ですかぁ?」

ハルは、いきなりの二人からの尋ねに、動揺して見せる。

「う~ん……隊長格アタシたちだけで、決められる事情じゃないんじゃありません?

ココは――"次世大巫女"様である、姉様が……」

誤魔化しが丸見えな体で、ハルは顔を引き攣らせながら、上座へと振り向く。

「確かにそうだね――大神官様、英断を願います」

「大神官様!、ツクモの『文』を司る御方が、たとえ有事の時であっても、世の理を軽んじてはなりません!」

三人の視線が、一気に指揮室の上座に残っていたシオリへと移り、彼女に応答を求める、圧力の強い目線を送る。


「!?、わっ!、私……ですか?」

ハルに続いて、シオリも急に振られた重要な問いに動揺し、困惑した様子で口を覆った。

「そうですね――翼域内での罪人処遇の決済は、確かにクリ社の管轄。

この場に居る者の中で、それは大神官である貴女が裁断すべき事柄でしょう」

――と、ハルの意見を援護する形で、同席しているサトコもそれを推奨する。


「でっ、では、僭越ながら……三番隊長様が仰る、軍事的利点の重要さも解りますし、六番隊長様が仰る、『文』を司る上での理を重視すべきという意見もまた――ご尤もな主張だと思います」

シオリは困惑しながらも、議論の要点を言い並べながら考えを巡らせ――

「――決済は、ソウタ殿が戻るのを待ってから、にしましょうか?」

――引き吊った笑顔を見せ、結局はソウタに決済を丸投げした……
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