流れ者のソウタ

緋野 真人

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刀聖軍

学び

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「おっ?!、おいっ!、俺を置いて行くなぁ~~っ!」

一人、偉そうに名乗りを挙げていた、例の若者は"置いてけぼり"な恰好となっていた。


「――さぁて!」

鬼面の者は刀身を外し、光刃を抜いてその若者の前に立った。


「やっ!、やっぱりぃ~~っ!、とっ、刀聖だぁ!」

若者は、声を裏返し、諤々と全身を震わせる。


「結構な数、逃がしてやったから――大学ガッコへの伝達者には困ってねぇが、ヤハンの今の様子は知りてぇ……喋る気、あるかい?」

「はいぃぃ~っ!、しゃっ!、喋らせていただきまぁすっ!」

若者は、如何にも情けない変容ぶりを見せ、畏まって正座をする。


「やれやれ――さっきまでの元気はどうしたぁ?、兄ちゃんよぉ」

「まったく……いざ、命の危機となったとしても、ああは成りたくありませんね」

側で、その様子を見やるリュウジとサスケも、若者を一瞥して嫌悪の表情を浮かべる。


「テンラクから――北コクが派兵した第三軍を加えたっていう天警八番隊が、六番隊討伐のために発ったそうだが……もう、ヤハンは通って行ったのかい?」

「いっ、いえっ!、まだです――少なくとも、我ら風紀方が、この小屋にアキト一回生が潜んでいるという情報を得て、街を発った二日前までには、"解放の志士たち"は到着しておりません……近日中に、街に立ち寄るという報までしか、私は知りません」

鬼面の者の尋ねに、若者はたじろぎながらも、知っている限りの事を素直に話す。

「――ってぇコトは、今日辺りに着いてると思ってて良いな。

それにしても、前から思っちゃあ居るが『解放の志士』サマかい――んじゃあ、さしづめ俺は『抑圧の悪鬼』ってぇトコかぁ?」

鬼面の者は、ヌウっと若者の顔に面を近付け、自虐気味にそんな事を呟く。

「そっ!、その様な!、いっ!、意味ではございませぇぇん!

たっ、ただ――学組や大学の執行部の方々が、そう仰ってただけでぇ……」

――と、若者は相変らず震えながら、鬼面の者にそんな『おべっか』を使う。


「両執行部の指示――だけで動いているのかい?」

「はっ、はい……学組の上層部は、先の革命に参加した先輩方の意気がかかっている者が多いですし、大学は大学で、ニシイ商会からかなりの額の寄付を受けています。

学生、非学生共に、街に住む者の生活物資の調達も、ニシイさんに丸投げと言った状況ですので――北コクの影響力を覆して、先のテンラク様での謀反を、批判する事などは出来ないのですよぉ……」

ヒロシの問い掛けに、若者は箍が外れた様子で、雄弁にヤハンの街の現状を語る。

「――けっ!、手の平ぁ返しやがって!

そんな中でも、てめぇの"筋"ってモンを通して、噛み付いたっていう小屋ん中の連中の事を、不平学徒だの、風紀を乱しただのと抜かし、取っちめ様としてたのは何処のどいつだってんだぁ!?」

――と、若者の態度の豹変に苛立ったリュウジは、若者の胸座を掴み、流石は現役のヤクザ者と言った体で、睨みを効かせる。

「まあまあ、親分――放してやってくだせぇよ。

てめぇらがさせられてる事に、一応は疑問を持って、仕方なくやってるっていう気持ちを持ってるだけでも、まあ上出来な部類だ。

伊達に――オウレンの学生じゃあねぇてトコかね」

鬼面の者の宥めに応じ、リュウジが胸座を放すと、若者は支えが無くなった様にうな垂れた。

「事情は解った――オウレンが、どうして謀反側に組したかが、よぉ~く解って助かった――ぜっ!」

鬼面の者はそう言って、悲哀を込めた目線を向けながら――強烈な拳を、若者のみぞおちへと打ち込み、彼を昏倒させるのだった。


「――バラさねぇのか?、このガキ」

「言ったでしょう?、疑問を持ってるだけでも上出来だって。

そんなヤツが増えるコトが、俺の思惑の"肝"ですしね」

リュウジからの尋ねに、ソウタは鬼面を外しながらそう答え、辺りに転がった九人の風紀方の死体を見やる。



「それにしても――おめぇも好きだなぁ、そのお面」

リュウジは、ソウタが手に持った鬼面を指差し、呆れた体で苦笑いをする。

鬼面コイツを被ってたら、逃げ出してくれんじゃあないかと思ってたら、案の定で良かったですよ。

まあ、それでも、こんだけの人数を殺してちゃあ世話ぁねぇが」

ソウタは、こめかみを掻きながら、恥ずかしそうに――

「――別に、不殺を志してるワケじゃあねぇが……誰かを殺すってのは、単純に気分の良いモンじゃありませんからね。

それは、ヤクザ者でも、侍でも同じでしょう?」

――と、そんな根本的な問い掛けを、目の前に居るリュウジとヒロシに送った。

「そりゃあそうだな……その場の生き死にだけじゃあなく、それで飯も喰ってんだから、仕方ねぇとは思う様にしてるがよ」

「――だね、因果な商売とは、よく言ったモノだよ」

リュウジもヒロシも、答えると沈んだ表情で…小さな溜め息を吐いた。


「――さぁて、観てたかい?、学生さんたち。

『殺し合い』を生業にしてる奴らの様子をよ?」

ソウタが、そんな皮肉めいた問い掛けをすると、ゾロゾロと小屋の中から、潜伏中のオウレン大生たちが出て来た。


「ソウタ殿――助けて頂いて、ありがとうございました」

先頭に出て来たアキトは、深々とソウタたちに頭を下げて礼を言った。

「流石は――"皇の弟"ってトコかい。

あんまり……動じちゃいねぇな?」

「はい――たとえ、男子ゆえに皇の位の継承権は持たなくも――自分は、民の慈しみに因って生き、育つ事が出来た存在であるという事は、重々解っております。

先世皇ははうえや姉上にも、その様に教わっていましたから、命を賭して、自分に何かを齎してくれた者には、最大限の敬意を払うべしと心得ております故」

驚いた表情で自分の顔を見詰めるソウタに、アキトは神妙な――そして、決意に満ちた面持ちで、自分の根底にある家族からの言葉を説く。

「目の前で起きている事を目の当たりにして、皆、驚き――自分の選択を、後悔したりもしました。

自分たちは、修羅が生きる場に片足を踏み込んだのだと」

先程、ソウタに決起したワケを説いていた、アカリという少女が、そんな後悔へ念を吐露すると――

「――確かに、武力とは、気軽に振るってはならない凶物であると、尚更に思いはしました。

ですが、アキト君を――友達を守るには、そんな後悔をしている場合ではない。

そんな凶物も、振るわねばならない時があるのだと、私たちはこの場で改めて教わりました」

――アキトの横顔を見詰めた後、彼女は、ソウタが持つ光の刀へと目線を移し、ゴクリと大きな唾を呑む。


「へへ♪、、キミたちも上出来だ――俺が見せたかった、教えたかった事を、キッチリ呑み込んでくれてさ。

さっ、まずは、俺たちに付いて来てくれ、一応――キミたちの身の上を、どうするかは考えてあるからさ♪」

ソウタは、優しい笑顔を学生たちに向け、自分たちとの同行を提案した。
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