流れ者のソウタ

緋野 真人

文字の大きさ
上 下
157 / 207
刀聖軍

新たな事態

しおりを挟む
「ホント、面倒になったね……俺も、用があってヤハンに寄る都合があんのに、こいつぁ、急がなきゃならんね」

ソウタは顎鬚を撫で、面倒臭そうに彼も地図を睨む。


「ソウタ――私のわがままで、ごめんなさい……」

――すると、サトコがそんな独り言の様な呟きを溢し、それにハッとなったのはカオリだった。

「――っ!?、オウレン大には弟君……"アキト様"が居られましたな、皇様」


そう――オウレン大学には現在、サトコの唯一の肉親……弟のアキトが留学中であった。


チハエの家は、二重権威となる事を恐れ、皇本人と、既婚中ならばその夫以外は、コウオウの国外で暮らす事が通例となっており、サトコが即位した1年前から、弟のアキトは留学という体で、オウレン大学に通いながら、ヤハンで暮らしているのである。

ちなみに――オウレン大学は、十五歳から二十歳までの五年間で学を修めるのが一般的。

故に、アキトは今、一回生という事となる。


「ええ、出来れば留学を一旦停めて貰って、一緒にツツキへ――本人がイヤなら、せめて姉は北の果てに篭るという旨を、手紙でと、ソウタに頼んでいたのです」

「だから、ショウゾウさんには、ソッチの下調べも頼んだんだけど……どうでした?」

申し訳なさそうに経緯を述べるサトコの肩に、そっと手を乗せながらソウタは、天井裏のショウゾウに更なる報告を促す。

「実は、面倒な状況となったのは、寧ろそちらの方――皇様の弟君は、学組を相手に一騒動起こし、ヤハンからは既に逃れたそうだ」

ショウゾウは、懸念を覗かせる声音でそう言った。

「!?、どっ!、どういう事でず?!」

ショウゾウから告げれらた、弟の現状に、サトコは顔色を蒼ざめさせて問い返す。

ツツキウチの出身で、オウレン大では公者仕事をしている者からの渡りだ。

ソウタが、オウクから放った占報に呼応したオウレン大の学生数十人が、士団で起きた謀反と、それを支援した北コクの対応を支持する旨を表明した、大学と学組に対して――皇様の弟であるアキト様を先頭に据えて、抗議活動を始めたらしい。

だが、数では勝る学組に押され、拘束されそうになった所を、ウチの者が匿ったという情報が入って来たのだ」

「そんな!、あの子は……もう!、まったく!」

天井裏から響く、ショウゾウの声を欹てて聞いていたサトコは、皇としてではなく、どこにでも居る姉の様で、はやまった弟の愚行に怒りを覗かせる。

「そう――大事な弟を責めてくれるな。

ウチの者――おヒナからの渡りに因れば、決起した学生たちが、勝手に担ぎ上げた格好という事だからな」

――と、ショウゾウがフォローをする情報も語るが……

「――あの子は、気弱過ぎるのです!

利用されかねない血縁を抱えているのですから、常に毅然と振舞いなさいと、あれほど……」

――サトコの憤慨は治まらず、彼女は握った拳を震わせる。


「まあまあ、落ち着け――俺が、助けに行ってやるからよ。

それにしても……ヒナねぇか、懐かしい響きだぜ」

ソウタは、サトコを励ましながら、ショウゾウの口から出た懐かしい名前に頬を緩ませる。


おヒナ、ヒナ姉と呼ばれる、件の情報提供者とは――ヒカリと同じく、アヤコが引き取ってツツキへと連れて行った、先の大戦での戦災孤児たちの一人で、その中でも、年長者として孤児たちの姉といった存在だった、現在二十三歳の女性だ。

ヒナは、学問に才を見せたので、アヤコは手を尽くしてオウレン大への入学を支援。

卒業後も、彼女はそのまま、大学に残って学内の仕事に勤しんでいるというのが、ソウタがヒカリから聞いていたヒナの近況だった。


「ヒナは、『誰か』とは違って、年に一度は必ずツツキに戻っていたし、その際には領外の様子を伝え、こういう御傍への渡りにも協力してくれている、ツツキが者の鑑の様な女子よ」

アオイは、チラチラとソウタの顔を見据え、皮肉めいた言葉を放つ。

「へいへい、だからその『誰か』さんが、自分から動くって言ってんでしょ?

反対派を支援したとなっちゃあ、ヒナ姉だって危ういんだろうしな」

ソウタがそう言って、身を正しながら出動の意を露わにすると――

「――ちいと待て、バケモン……俺を連れてけ」

「刀聖様、同行の一人にお加え頂きたく……」

――と、リュウジとサスケが前に出て、同行を願い出た。

「あっ、じゃあ僕も……」

続けて――スッと手を挙げのはヒロシで、彼もその輪へと加わる。

「皇様の弟君たる、アキト様の大事と成れば!、我ら皇軍の出番っ!

ソウタ殿!、当然!、私も連れて行って……」

「ダメですよぉ~!、まだまだ治すべきトコロがあるんですから!」

勇んで立ち上がり、その輪に加わろうとするカオリに、ヒカリが肩を掴んで『待った』を掛けた。

「御放しくだされ!、コレは皇軍に属する者の使命――」

カオリは、ヒカリの制止を振り解こうと、大きく身を揺らすが……


――バリッ!


「――っ!!!?、ぐわああああっ!!!」

――ヒカリが、掴んでいた手から放った、極めて弱く抑えた(※ヒカリの規準で)電撃の界気が全身に迸り、彼女は悶絶して蹲る。


「――ね?、コレぐらいでそうなっちゃう人は、戦闘が予期されるお仕事には行かせられませぇ~ん!」

ヒカリは笑顔で、既に白目を向いている、カオリの同行は不可だと述べた。


「じゃあ、この四人に――ショウゾウさんを加えて、計五人で行きましょう。

俺たちはそのまま、北方砦に連れて行くつもりだから、ソッチで再度合流ってコトで……ショウゾウさん、詳しい現状は?」」

「早急に、ヤハンからの脱出を試みるとまでしか、今の所は聞いておらん。

後は、常時放ってある、他の御傍からの渡り次第だな」

ソウタは苦笑いを見せた後に段取りを言い渡し、同行者を引き連れて打ち合わせをしながら指揮室から出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...