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刀聖軍
新たな事態
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「ホント、面倒になったね……俺も、用があってヤハンに寄る都合があんのに、こいつぁ、急がなきゃならんね」
ソウタは顎鬚を撫で、面倒臭そうに彼も地図を睨む。
「ソウタ――私のわがままで、ごめんなさい……」
――すると、サトコがそんな独り言の様な呟きを溢し、それにハッとなったのはカオリだった。
「――っ!?、オウレン大には弟君……"アキト様"が居られましたな、皇様」
そう――オウレン大学には現在、サトコの唯一の肉親……弟のアキトが留学中であった。
チハエの家は、二重権威となる事を恐れ、皇本人と、既婚中ならばその夫以外は、コウオウの国外で暮らす事が通例となっており、サトコが即位した1年前から、弟のアキトは留学という体で、オウレン大学に通いながら、ヤハンで暮らしているのである。
ちなみに――オウレン大学は、十五歳から二十歳までの五年間で学を修めるのが一般的。
故に、アキトは今、一回生という事となる。
「ええ、出来れば留学を一旦停めて貰って、一緒にツツキへ――本人がイヤなら、せめて姉は北の果てに篭るという旨を、手紙でと、ソウタに頼んでいたのです」
「だから、ショウゾウさんには、ソッチの下調べも頼んだんだけど……どうでした?」
申し訳なさそうに経緯を述べるサトコの肩に、そっと手を乗せながらソウタは、天井裏のショウゾウに更なる報告を促す。
「実は、面倒な状況となったのは、寧ろそちらの方――皇様の弟君は、学組を相手に一騒動起こし、ヤハンからは既に逃れたそうだ」
ショウゾウは、懸念を覗かせる声音でそう言った。
「!?、どっ!、どういう事でず?!」
ショウゾウから告げれらた、弟の現状に、サトコは顔色を蒼ざめさせて問い返す。
「ツツキの出身で、オウレン大では公者仕事をしている者からの渡りだ。
ソウタが、オウクから放った占報に呼応したオウレン大の学生数十人が、士団で起きた謀反と、それを支援した北コクの対応を支持する旨を表明した、大学と学組に対して――皇様の弟であるアキト様を先頭に据えて、抗議活動を始めたらしい。
だが、数では勝る学組に押され、拘束されそうになった所を、ウチの者が匿ったという情報が入って来たのだ」
「そんな!、あの子は……もう!、まったく!」
天井裏から響く、ショウゾウの声を欹てて聞いていたサトコは、皇としてではなく、どこにでも居る姉の様で、はやまった弟の愚行に怒りを覗かせる。
「そう――大事な弟を責めてくれるな。
ウチの者――おヒナからの渡りに因れば、決起した学生たちが、勝手に担ぎ上げた格好という事だからな」
――と、ショウゾウがフォローをする情報も語るが……
「――あの子は、気弱過ぎるのです!
利用されかねない血縁を抱えているのですから、常に毅然と振舞いなさいと、あれほど……」
――サトコの憤慨は治まらず、彼女は握った拳を震わせる。
「まあまあ、落ち着け――俺が、助けに行ってやるからよ。
それにしても……ヒナ姉か、懐かしい響きだぜ」
ソウタは、サトコを励ましながら、ショウゾウの口から出た懐かしい名前に頬を緩ませる。
おヒナ、ヒナ姉と呼ばれる、件の情報提供者とは――ヒカリと同じく、アヤコが引き取ってツツキへと連れて行った、先の大戦での戦災孤児たちの一人で、その中でも、年長者として孤児たちの姉といった存在だった、現在二十三歳の女性だ。
ヒナは、学問に才を見せたので、アヤコは手を尽くしてオウレン大への入学を支援。
卒業後も、彼女はそのまま、大学に残って学内の仕事に勤しんでいるというのが、ソウタがヒカリから聞いていたヒナの近況だった。
「ヒナは、『誰か』とは違って、年に一度は必ずツツキに戻っていたし、その際には領外の様子を伝え、こういう御傍への渡りにも協力してくれている、ツツキが者の鑑の様な女子よ」
アオイは、チラチラとソウタの顔を見据え、皮肉めいた言葉を放つ。
「へいへい、だからその『誰か』さんが、自分から動くって言ってんでしょ?
反対派を支援したとなっちゃあ、ヒナ姉だって危ういんだろうしな」
ソウタがそう言って、身を正しながら出動の意を露わにすると――
「――ちいと待て、バケモン……俺を連れてけ」
「刀聖様、同行の一人にお加え頂きたく……」
――と、リュウジとサスケが前に出て、同行を願い出た。
「あっ、じゃあ僕も……」
続けて――スッと手を挙げのはヒロシで、彼もその輪へと加わる。
「皇様の弟君たる、アキト様の大事と成れば!、我ら皇軍の出番っ!
ソウタ殿!、当然!、私も連れて行って……」
「ダメですよぉ~!、まだまだ治すべきトコロがあるんですから!」
勇んで立ち上がり、その輪に加わろうとするカオリに、ヒカリが肩を掴んで『待った』を掛けた。
「御放しくだされ!、コレは皇軍に属する者の使命――」
カオリは、ヒカリの制止を振り解こうと、大きく身を揺らすが……
――バリッ!
「――っ!!!?、ぐわああああっ!!!」
――ヒカリが、掴んでいた手から放った、極めて弱く抑えた(※ヒカリの規準で)電撃の界気が全身に迸り、彼女は悶絶して蹲る。
「――ね?、コレぐらいでそうなっちゃう人は、戦闘が予期されるお仕事には行かせられませぇ~ん!」
ヒカリは笑顔で、既に白目を向いている、カオリの同行は不可だと述べた。
「じゃあ、この四人に――ショウゾウさんを加えて、計五人で行きましょう。
俺たちはそのまま、北方砦に連れて行くつもりだから、ソッチで再度合流ってコトで……ショウゾウさん、詳しい現状は?」」
「早急に、ヤハンからの脱出を試みるとまでしか、今の所は聞いておらん。
後は、常時放ってある、他の御傍からの渡り次第だな」
ソウタは苦笑いを見せた後に段取りを言い渡し、同行者を引き連れて打ち合わせをしながら指揮室から出た。
ソウタは顎鬚を撫で、面倒臭そうに彼も地図を睨む。
「ソウタ――私のわがままで、ごめんなさい……」
――すると、サトコがそんな独り言の様な呟きを溢し、それにハッとなったのはカオリだった。
「――っ!?、オウレン大には弟君……"アキト様"が居られましたな、皇様」
そう――オウレン大学には現在、サトコの唯一の肉親……弟のアキトが留学中であった。
チハエの家は、二重権威となる事を恐れ、皇本人と、既婚中ならばその夫以外は、コウオウの国外で暮らす事が通例となっており、サトコが即位した1年前から、弟のアキトは留学という体で、オウレン大学に通いながら、ヤハンで暮らしているのである。
ちなみに――オウレン大学は、十五歳から二十歳までの五年間で学を修めるのが一般的。
故に、アキトは今、一回生という事となる。
「ええ、出来れば留学を一旦停めて貰って、一緒にツツキへ――本人がイヤなら、せめて姉は北の果てに篭るという旨を、手紙でと、ソウタに頼んでいたのです」
「だから、ショウゾウさんには、ソッチの下調べも頼んだんだけど……どうでした?」
申し訳なさそうに経緯を述べるサトコの肩に、そっと手を乗せながらソウタは、天井裏のショウゾウに更なる報告を促す。
「実は、面倒な状況となったのは、寧ろそちらの方――皇様の弟君は、学組を相手に一騒動起こし、ヤハンからは既に逃れたそうだ」
ショウゾウは、懸念を覗かせる声音でそう言った。
「!?、どっ!、どういう事でず?!」
ショウゾウから告げれらた、弟の現状に、サトコは顔色を蒼ざめさせて問い返す。
「ツツキの出身で、オウレン大では公者仕事をしている者からの渡りだ。
ソウタが、オウクから放った占報に呼応したオウレン大の学生数十人が、士団で起きた謀反と、それを支援した北コクの対応を支持する旨を表明した、大学と学組に対して――皇様の弟であるアキト様を先頭に据えて、抗議活動を始めたらしい。
だが、数では勝る学組に押され、拘束されそうになった所を、ウチの者が匿ったという情報が入って来たのだ」
「そんな!、あの子は……もう!、まったく!」
天井裏から響く、ショウゾウの声を欹てて聞いていたサトコは、皇としてではなく、どこにでも居る姉の様で、はやまった弟の愚行に怒りを覗かせる。
「そう――大事な弟を責めてくれるな。
ウチの者――おヒナからの渡りに因れば、決起した学生たちが、勝手に担ぎ上げた格好という事だからな」
――と、ショウゾウがフォローをする情報も語るが……
「――あの子は、気弱過ぎるのです!
利用されかねない血縁を抱えているのですから、常に毅然と振舞いなさいと、あれほど……」
――サトコの憤慨は治まらず、彼女は握った拳を震わせる。
「まあまあ、落ち着け――俺が、助けに行ってやるからよ。
それにしても……ヒナ姉か、懐かしい響きだぜ」
ソウタは、サトコを励ましながら、ショウゾウの口から出た懐かしい名前に頬を緩ませる。
おヒナ、ヒナ姉と呼ばれる、件の情報提供者とは――ヒカリと同じく、アヤコが引き取ってツツキへと連れて行った、先の大戦での戦災孤児たちの一人で、その中でも、年長者として孤児たちの姉といった存在だった、現在二十三歳の女性だ。
ヒナは、学問に才を見せたので、アヤコは手を尽くしてオウレン大への入学を支援。
卒業後も、彼女はそのまま、大学に残って学内の仕事に勤しんでいるというのが、ソウタがヒカリから聞いていたヒナの近況だった。
「ヒナは、『誰か』とは違って、年に一度は必ずツツキに戻っていたし、その際には領外の様子を伝え、こういう御傍への渡りにも協力してくれている、ツツキが者の鑑の様な女子よ」
アオイは、チラチラとソウタの顔を見据え、皮肉めいた言葉を放つ。
「へいへい、だからその『誰か』さんが、自分から動くって言ってんでしょ?
反対派を支援したとなっちゃあ、ヒナ姉だって危ういんだろうしな」
ソウタがそう言って、身を正しながら出動の意を露わにすると――
「――ちいと待て、バケモン……俺を連れてけ」
「刀聖様、同行の一人にお加え頂きたく……」
――と、リュウジとサスケが前に出て、同行を願い出た。
「あっ、じゃあ僕も……」
続けて――スッと手を挙げのはヒロシで、彼もその輪へと加わる。
「皇様の弟君たる、アキト様の大事と成れば!、我ら皇軍の出番っ!
ソウタ殿!、当然!、私も連れて行って……」
「ダメですよぉ~!、まだまだ治すべきトコロがあるんですから!」
勇んで立ち上がり、その輪に加わろうとするカオリに、ヒカリが肩を掴んで『待った』を掛けた。
「御放しくだされ!、コレは皇軍に属する者の使命――」
カオリは、ヒカリの制止を振り解こうと、大きく身を揺らすが……
――バリッ!
「――っ!!!?、ぐわああああっ!!!」
――ヒカリが、掴んでいた手から放った、極めて弱く抑えた(※ヒカリの規準で)電撃の界気が全身に迸り、彼女は悶絶して蹲る。
「――ね?、コレぐらいでそうなっちゃう人は、戦闘が予期されるお仕事には行かせられませぇ~ん!」
ヒカリは笑顔で、既に白目を向いている、カオリの同行は不可だと述べた。
「じゃあ、この四人に――ショウゾウさんを加えて、計五人で行きましょう。
俺たちはそのまま、北方砦に連れて行くつもりだから、ソッチで再度合流ってコトで……ショウゾウさん、詳しい現状は?」」
「早急に、ヤハンからの脱出を試みるとまでしか、今の所は聞いておらん。
後は、常時放ってある、他の御傍からの渡り次第だな」
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