流れ者のソウタ

緋野 真人

文字の大きさ
上 下
155 / 207
刀聖軍

刀聖軍(前編)

しおりを挟む
「にっ、逃げるぅぅぅ~~~~っ?!」


指揮室に呼ばれた、タマたち待機中の面々は、ソウタから告げられた意外な方針に、目を見開いて一様に驚きの声を挙げた。


「――そうだ、俺たちは、ツツキに戻る」

「そして、私たちは、その北の果てに篭るのです」

「世断ちの樹海という、容易には開ける事が出来ない――"岩戸"の中に!」

皆の前でソウタ、シオリ、サトコの順に、三人が至った結論をそんな比喩も加えて言い放った。


「ちょっ!、ちょっと待ってよ!

ココに来たのは、テンラクを取り戻すために、士団の人たちと一緒に戦うからじゃないの!?」

「猫族の嬢ちゃんの言うとおりだな……俺ら、オウビのヤクザ者だって、そのつもりで、てめぇの舎弟をしてろって言う、大親分の指図を請けたんだぜ?」

憤慨して、ソウタに詰め寄るタマに、リュウジが援護する体でその真意を尋ねた。

「テンラクを牛耳ってる、謀反を起こした連中とは、ツツキに帰るために一戦交えにゃなんねぇ事は替わりません。

やり合うのが、聖なる都の膝元でまとめてか、樹海の入り口で、横槍を入れて来そうな八番隊単隊とやり合うのか――その違いだけってハナシですよ」

ソウタは、淡々と持論を展開し、反論の声を挙げたリュウジたちを言い含める。

「――でもっ!、ソウタが、刀聖が……テンラクを、元に戻してくれるって信じてる、ミユの気持ちはどうなるんだよぉっ?!」

タマは、どうしても納得出来ず、声を荒げて更に詰め寄った。

「――タマさん、ミユを始めとした皆の思いは……私たちも、重々承知です。

ですが、今は"その時"ではない、そう至ったのですよ……」

シオリは、悔しげにそう言って、タマとソウタの間に割って入った。

「よせ、タマ――その気持ちを、痛いほど知ってるシオリが決めた事なんだ……解ってやれ」

ギンは、タマの肩をポンと叩き、彼女の憤慨を諌める。


「――その話し合いの場に、この砦を選んだという事は、僕ら士団にも、"一緒にツツキに篭れ"――そう、仰っていると思っても良いのかな?」

――と、憤慨でも反対でもなく、ソウタたちの思惑の意味を、そう解釈して述べたのはヒロシだ。

「そうです――三番隊と六番隊、計七千有余の戦力を、俺はまとめてツツキに引き入れてぇと思ってます」

ソウタは、ヒロシの指摘を認め、一分の否定も無くその意図を認めた!


「!?、ソウちゃんっ!、それはマズイよぉ~っ!」

「――だな。

ツツキが、延いては御家方様が、そもそも"特級戦犯"である我らが――それだけの戦力を領内へと迎えたとなれば、ハクキ連邦との軋轢は必至ぞ?」

ソウタが、更に暴露した腹の内に、次に異論を挙げたのは、ヒカリとアオイだった。

「んなコト言ってる場合じゃあねぇだろ?、んなモン”刀聖様の御意思"とでも、言っときゃあ黙んだろ?」

「あぁ~っ!、ソウちゃんのズルっ子ぉ~!

普段は、刀聖様扱いするなって言ってるクセにぃ~!」

ソウタの短絡的な返しに、ヒカリは頬を膨らませて抗議する。

「――誤魔化すな、そこな隊長の含み笑いを観ていれば解る。

もっと、重大な戦略的意向があるのだろう?、そして、御家方様もそれはご承知と勘ぐるが?」

対してアオイは、ソウタの腹の中の先を読み、そう言って更なる開示を求める。


「そこまで言われちゃうと、僕が推察しちゃおうかなぁ?

ソウタ殿の思惑は、翼域や皇様の威厳を基に、旧三大国に向けて敷かれた"旧来のモノ"とは違う――新しい"三竦み"の状況を造って、互いの勢力が思う様には動けなくするてコトじゃあないかい?」

アオイの言うとおり、含み笑いで斜に構えていたヒロシは、自ら口を開き、ソウタの思惑をそう推察して見せる

「――そうです。

今のツクモは、古いとされる考え方を守って、君主を頭に頂いた政治を続けるべきだという、保守派のスヨウ。

とにかく、そんな古い考え方や君主制を根絶やしにして、民の意思が全てを決める様にすべきだって言う、革新派の南北コクエ。

その二者に対して、どっちつかずにウロウロせざる負えない、中道派のハクキ連邦――この、三つの勢力がある。

んで、ハクキは今、俺の起こした騒動のせいもあって、どっちかって言うと保守に傾いているっていう状況だ」

ソウタは、順に今の現状を並べ、まずは皆にその理解を求め――

「――ってぇなると、南北コクエの分が悪くなって、それに俺らも加わって取っちめれば、テンラクも取り返せて、"悪いコト"を企んでた、南北コクエが倒れて万々歳っ!――とは限らねぇのが、世の中ってモンの厄介なトコなのよ、コレがね」

――と、彼は講談師よろしく、卓を平手で叩いて仰々しく語り出す。

「一旦、新しい考え方を覚えちまったら――その甘美で、理想的な考え方を忘れられるワケがなくて、それに不満を残すヤツが必ず出て来る。

その繰り返しで、結局刀聖おれたちが、滅ぼさなきゃならなくなっちまうのがオチだ」

ソウタは、切なそうに、腰に差した光刃の鞘を覗き――

「――だから、とりあえず、てめぇらの好きな様に、俺たちが思う様な『邪』なやり方で、好きなだけやらせてみるのさ♪

俺たち……滅びの執行者である刀聖、調律者である皇、先導者である大巫女――それらが、一斉に世の中の動きからそっぽ向いてやるんだよ。

本当にそれが良いのか?、果たして、それが正しい、素晴らしい事だと思えるのか?、それを――じぶんたちの意思と、目と、実感で確めさせるのさ。

でも、何でも好き勝手にやられちまうのも良くはねぇから、何時でも、北の果てから睨みを効かせてる必要はあるから、皆にはツツキで、目を光らせてる事を頼みてぇのさ」

――と、外した柄を弄びながら、彼は不敵に笑い、そう言葉を結んだ。


「つまり――保守と革新の二派の動きに、日和見に傾向するハクキとは、違う意味の"中道"。

即ち、"完全な中立"に立ち、両派の横暴を監視する立場……言わば『刀聖軍』として、政治的な思惑は省き、只々このツクモの乱れを鎮めるため"だけ"に動く――と言ったトコロかな?」

ソウタ以上のしたり顔で、ヒロシは不敵に笑いながら、そう話を纏める。

「ええ、コウオウやテンラクを取り返すのは、悪ぃが後回しにさせて貰って、まずはツクモの"空気"を入れ替えてやらねぇと、何度も言うが堂々巡りでしょ?

だったら――無いモノ強請りをして喚くより、素直に待ってみようってぇコトさ♪」

「ふふっ♪、それで自らを、横暴に殺戮を繰り返す悪役――いや、言うなれば"ある種の災害"として、占報という万座の舞台に立ったワケか。

まったくキミは、本当に酔狂な千両役者だよ」

ソウタが、屈託のない笑顔で言った楽しげな響きの言葉に、ヒロシは呆れた物言いでそう応じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...