154 / 207
三者会談
三者会談
しおりを挟む
「へへ――紫珠輪の扱い、上手くなったねぇ、シオリさん」
紫珠輪の守が敷かれる様を見届けたソウタは、ニヤリと笑いながらそうシオリを誉めた。
「いっ、いえ……その様な世辞はお止めください、ソウタ殿」
シオリは頬を赤らめ、恥ずかしそうに俯き…、照れながら、ソウタの顔を上目遣いに覗く。
(なっ――なんて事?!、あのシオリが!、こんな甘い顔をソウタには見せているだなんて!)
そのやり取りを観ていたサトコは、口を半開きにし、啞然として目を丸くしていた。
(しっ!、しかも……あの恥じらいを醸す物越しと、頬を火照らせて上目遣いに照れる様は――明らかに!、目の前の殿方に、恋焦がれている乙女の表情ぉっ!
あの女神の如く整った顔で、それをするのはある意味反則よ!)
サトコは、心中で苦々しく着物の袖を噛み、ソウタと微笑みあっているシオリを凝視する。
(それに――ソウタとのあの親しげな感じ!、もっ!、もしかしてぇ……私よりも"イロイロな面"で、"先"に進んでる!?)
確かに――このサトコの邪推は、あながち間違ってはいない。
流石にサトコとて、ソウタに全裸を晒した経験は無いのだから。
(――既に、私はソウタと結ばれる事を諦めている立場とはいえ、この様になる事は想定せず、安易にソウタをクリ社に差し向けた……
私はやっぱり、愚かで浅はかな女なのね……)
サトコは次に、ガックリとうな垂れ、絶望的な表情で途方に暮れる。
「――皇様、お久しゅうございます。
クリ社がシオリにございまする」
うな垂れているサトコの目の前に立ち、シオリは神官の作法でサトコに拝礼を示した。
「あっ、こちらこそ――久し振りね、シオリ。
いえ、もはや"大巫女様"と、呼ぶべきでしょうね」
我に返って、シオリの挨拶の応じたサトコは、彼女の首に輝く紫珠輪を見据えてそう言った。
「いえ……"堅苦しい事を"とは言われますが、テンラク様にて儀式を終えぬ限りは、その名を頭上に頂くは、些か憚れます」
「ふふ、相変らずですね、貴女は」
シオリは拝礼したまま、面を上げずに襲名を固辞すると、サトコはそれに苦笑いで返した。
「さて――お二人さんのご挨拶は、もう良いかい?
俺は、チャッチャっとハナシを進めてぇんだが?」
ソウタは、面倒臭そうに頭を掻き、両者に目配せをして意思を確認する。
「ええ、ソウタ殿――お願いします」
「さて、ソウタとシオリ――刀聖と大巫女が、皇に伝えたい事とは何?
まあ、この様な趣向を組んだ時点で、"神言絡みの用件"だとは察っしていますけれど」
シオリは、ソウタの言葉を受けて深く頷き、サトコは不敵に笑って、対している二人の瞳を凝視する。
「サトコ――俺とシオリさん、それにアヤコ様は、"アマノツバサノオオカミ"と会った」
「――っ!?」
その後――ソウタたちがチヨ……アマノツバサノオオカミの傀儡から聞いた、この世界の成り立ちに関する事や、今のツクモに起こっている事柄は、"かつての人々"が予期し、懸念していたとおりの状況である事を伝えた。
「――では、スヨウが、ノブタツ様が、ヤマカキでの虐殺に及んでまで、我らコウオウとの戦に踏み込んだのは……」
「――ああ、南北コクエが、翼域を切り取りたくてウズウズしてた。
だから、てめぇが先に切り取っちまって、奴らを牽制するつもりだったか、もしくはアイツらを誘き出そうとしてたんだろうな。
翼域っていう、お花畑の花を摘んで見せる事で――その花の蜜を狙ってる、南北コクエっていう"蜂"に、その蜜のニオイを嗅がせて、群がったトコで一網打尽にしようってな」
聡く話を理解したサトコが、胸の奥に残っていたつっかえが落ちた様な、得心した表情で言いかけた言葉に、ソウタは目を瞑って、それに自論と独特な言い回しを混ぜたモノを被せる。
「――んで、こっからが本題。
そんな、封権主義と民主主義――古くせぇ考え方と、一癖も二癖もある新しい考え方が、グチャグチャしてきた今のツクモを、んな面倒な頃の刀聖である俺は、一体どうしたいのか。
先にぶっちゃけちまえば、皆を生き残らせるのか、滅ぼしちまうのか――てぇハナシなワケだ」
ソウタは、シオリとサトコの顔を順に眺め、ふぅっと一息溜め息を吐き――
「俺は――いんや、刀聖は、"滅ぼしたくねぇ"ってのが基本線にあるんだと思ってる。
そのために、"滅ぼさなくても良くなる様に"手を替え品を替え――『邪』なんて名付けて、"かつての人々"の願いとは違った事をしようとしたヤツらを、取っちめたりして来たんだと思うんだ。
だから、俺の方針もそれを倣うべきだろうし、俺もそれが良いと思ってる」
――と、卓に両肘を立て、両手を組んで口を覆いながら言った。
「だけど今は"神言の秘密"を、"かつての人々の思い"を――知る事が許されてる『三人の守護者』が、各国の政治の決定権を持ってる時代じゃあない。
だから俺が――刀聖が、光の刀で取っちめれば終わるモンでもなくなってる。
だから、気付かせてやらねぇといけねぇんだ――この場にいる俺たちがな」
ソウタは、そう言葉を続け、キッと目を見開き、再度二人の顔を順に眺める。
「俺がオウビやオウクで、占報っていう万座の前で、一騒動起こしたその意味――サトコは解るか?」
「ええ、"南北コクエがしようとしている事は『邪』と呼べる行いなのではないか?"、それを問い掛けているのでしょう?」
ソウタからの試す様な物言いに、サトコは淡々とそう答えた。
「そうだ――荒療治にはなっちまうが、北コクや南コクがやろうとしてる事の矛盾や愚かさを、こうして万座の前に晒し、それを皆に見せねぇと――『民主主義』の中じゃあ、政変や世直しは起きねぇ。
だから、それを刀聖が見せようと思った」
ソウタは、サトコの聡さを喜んだ表情で、満足気に言う。
「それを見せる事で、皆に気付かせるための『種』は撒いた――んじゃあ、種を撒いた後にするべき事は……」
「芽吹くのを待つ事――そのために、その芽吹きを阻害する様な事をしてはならない――ですね?、ソウタ殿」
今度は、ソウタの呟きを遮る様に、シオリが口を挟む。
「――ああ、だから俺は、俺たちは……これから"とんずら"を決め込むのさ♪
北の果て――"ツツキ"にな」
ソウタはそう言って、壁に掛かったツクモ図の北端を指差し、したり顔で笑って見せた。
紫珠輪の守が敷かれる様を見届けたソウタは、ニヤリと笑いながらそうシオリを誉めた。
「いっ、いえ……その様な世辞はお止めください、ソウタ殿」
シオリは頬を赤らめ、恥ずかしそうに俯き…、照れながら、ソウタの顔を上目遣いに覗く。
(なっ――なんて事?!、あのシオリが!、こんな甘い顔をソウタには見せているだなんて!)
そのやり取りを観ていたサトコは、口を半開きにし、啞然として目を丸くしていた。
(しっ!、しかも……あの恥じらいを醸す物越しと、頬を火照らせて上目遣いに照れる様は――明らかに!、目の前の殿方に、恋焦がれている乙女の表情ぉっ!
あの女神の如く整った顔で、それをするのはある意味反則よ!)
サトコは、心中で苦々しく着物の袖を噛み、ソウタと微笑みあっているシオリを凝視する。
(それに――ソウタとのあの親しげな感じ!、もっ!、もしかしてぇ……私よりも"イロイロな面"で、"先"に進んでる!?)
確かに――このサトコの邪推は、あながち間違ってはいない。
流石にサトコとて、ソウタに全裸を晒した経験は無いのだから。
(――既に、私はソウタと結ばれる事を諦めている立場とはいえ、この様になる事は想定せず、安易にソウタをクリ社に差し向けた……
私はやっぱり、愚かで浅はかな女なのね……)
サトコは次に、ガックリとうな垂れ、絶望的な表情で途方に暮れる。
「――皇様、お久しゅうございます。
クリ社がシオリにございまする」
うな垂れているサトコの目の前に立ち、シオリは神官の作法でサトコに拝礼を示した。
「あっ、こちらこそ――久し振りね、シオリ。
いえ、もはや"大巫女様"と、呼ぶべきでしょうね」
我に返って、シオリの挨拶の応じたサトコは、彼女の首に輝く紫珠輪を見据えてそう言った。
「いえ……"堅苦しい事を"とは言われますが、テンラク様にて儀式を終えぬ限りは、その名を頭上に頂くは、些か憚れます」
「ふふ、相変らずですね、貴女は」
シオリは拝礼したまま、面を上げずに襲名を固辞すると、サトコはそれに苦笑いで返した。
「さて――お二人さんのご挨拶は、もう良いかい?
俺は、チャッチャっとハナシを進めてぇんだが?」
ソウタは、面倒臭そうに頭を掻き、両者に目配せをして意思を確認する。
「ええ、ソウタ殿――お願いします」
「さて、ソウタとシオリ――刀聖と大巫女が、皇に伝えたい事とは何?
まあ、この様な趣向を組んだ時点で、"神言絡みの用件"だとは察っしていますけれど」
シオリは、ソウタの言葉を受けて深く頷き、サトコは不敵に笑って、対している二人の瞳を凝視する。
「サトコ――俺とシオリさん、それにアヤコ様は、"アマノツバサノオオカミ"と会った」
「――っ!?」
その後――ソウタたちがチヨ……アマノツバサノオオカミの傀儡から聞いた、この世界の成り立ちに関する事や、今のツクモに起こっている事柄は、"かつての人々"が予期し、懸念していたとおりの状況である事を伝えた。
「――では、スヨウが、ノブタツ様が、ヤマカキでの虐殺に及んでまで、我らコウオウとの戦に踏み込んだのは……」
「――ああ、南北コクエが、翼域を切り取りたくてウズウズしてた。
だから、てめぇが先に切り取っちまって、奴らを牽制するつもりだったか、もしくはアイツらを誘き出そうとしてたんだろうな。
翼域っていう、お花畑の花を摘んで見せる事で――その花の蜜を狙ってる、南北コクエっていう"蜂"に、その蜜のニオイを嗅がせて、群がったトコで一網打尽にしようってな」
聡く話を理解したサトコが、胸の奥に残っていたつっかえが落ちた様な、得心した表情で言いかけた言葉に、ソウタは目を瞑って、それに自論と独特な言い回しを混ぜたモノを被せる。
「――んで、こっからが本題。
そんな、封権主義と民主主義――古くせぇ考え方と、一癖も二癖もある新しい考え方が、グチャグチャしてきた今のツクモを、んな面倒な頃の刀聖である俺は、一体どうしたいのか。
先にぶっちゃけちまえば、皆を生き残らせるのか、滅ぼしちまうのか――てぇハナシなワケだ」
ソウタは、シオリとサトコの顔を順に眺め、ふぅっと一息溜め息を吐き――
「俺は――いんや、刀聖は、"滅ぼしたくねぇ"ってのが基本線にあるんだと思ってる。
そのために、"滅ぼさなくても良くなる様に"手を替え品を替え――『邪』なんて名付けて、"かつての人々"の願いとは違った事をしようとしたヤツらを、取っちめたりして来たんだと思うんだ。
だから、俺の方針もそれを倣うべきだろうし、俺もそれが良いと思ってる」
――と、卓に両肘を立て、両手を組んで口を覆いながら言った。
「だけど今は"神言の秘密"を、"かつての人々の思い"を――知る事が許されてる『三人の守護者』が、各国の政治の決定権を持ってる時代じゃあない。
だから俺が――刀聖が、光の刀で取っちめれば終わるモンでもなくなってる。
だから、気付かせてやらねぇといけねぇんだ――この場にいる俺たちがな」
ソウタは、そう言葉を続け、キッと目を見開き、再度二人の顔を順に眺める。
「俺がオウビやオウクで、占報っていう万座の前で、一騒動起こしたその意味――サトコは解るか?」
「ええ、"南北コクエがしようとしている事は『邪』と呼べる行いなのではないか?"、それを問い掛けているのでしょう?」
ソウタからの試す様な物言いに、サトコは淡々とそう答えた。
「そうだ――荒療治にはなっちまうが、北コクや南コクがやろうとしてる事の矛盾や愚かさを、こうして万座の前に晒し、それを皆に見せねぇと――『民主主義』の中じゃあ、政変や世直しは起きねぇ。
だから、それを刀聖が見せようと思った」
ソウタは、サトコの聡さを喜んだ表情で、満足気に言う。
「それを見せる事で、皆に気付かせるための『種』は撒いた――んじゃあ、種を撒いた後にするべき事は……」
「芽吹くのを待つ事――そのために、その芽吹きを阻害する様な事をしてはならない――ですね?、ソウタ殿」
今度は、ソウタの呟きを遮る様に、シオリが口を挟む。
「――ああ、だから俺は、俺たちは……これから"とんずら"を決め込むのさ♪
北の果て――"ツツキ"にな」
ソウタはそう言って、壁に掛かったツクモ図の北端を指差し、したり顔で笑って見せた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる