151 / 207
三者会談
抱擁
しおりを挟む
「――ソウタぁぁぁぁぁぁ~~~~っ!!!!!」
ここは、オウクからハクキ連邦との境へと続く、街道沿いの林の中。
そして、これは女がソウタの名を叫ぶ声と、その女が駆け寄って抱き着き、彼を茂みに押し倒した様である。
「ソウタぁぁぁ~っ!、ソウタソウタソウタソウタソウタソウタ、ソォウゥタァ~~~っ!!!!」
それに加えて、彼の名を連呼しながら、彼の背に手を回して抱き寄せ、彼の胸の中に蹲っている、その声と押し倒した者の正体は――当世皇、サトコである。
少し、状況を説明すると、一連の公開裁判への乱入作戦が一段落し、オウクを脱して逃亡者となったソウタたちは、以前からアオイやギンたちと打ち合わせていた、合流地点であるこの林の一角へとやって来た。
そして、その合流地点へと、アオイに連れて来られていたサトコが、ソウタの姿を視認した瞬間、狂ったように突然駆け出し、抱き着いて茂みに押し倒したのが、この状況なのである。
「――無事で良かったな、サトコ」
「ううっ……ソウタぁ~~!」
彼女が行ったこの行為と、その緊張の糸が切れた様な狂乱ぶりから、彼女の心中を慮ったソウタは、励ます体で彼女の身体を更に抱き寄せてやり、優しく頭を撫でてやる。
「わっ、私はやはり、民を――国を守れず、それどころか、この世界に更なる動乱を招いて苦しめてしまった……
どうしようもなく、愚かでダメな皇でした……」
サトコは、ソウタの胸元にボロボロと涙を溢し、後悔に満ちた咽びを繰り返す。
「愚かで、ダメだったのは、刀聖の方だよ。
光刃を見せただけで、今の混沌も晴れて、皆、大人しくなってくれるモンだと、昔からの伝承を鵜呑みにしてた……
今の思想を付けちまった、この世界の人たちじゃ――逆に、煽っちまう事になると気付かなかったんだからな」
彼女を抱いているソウタも、そんな後悔の念を吐露し、彼女を慰め続ける。
「いっ、意外よなぁ……あの、凛として聡明な若き皇様が、この様に乱れた様を御見せになられるとは……」
合流地点に設けられていた、野営のための焚き火の側で、そのサトコとソウタの様子を眺めていたヨシゾウは、驚いた体でそう呟いた。
「あの年齢の娘なりの、弱さを抱えたあの様子こそが――ツツキの者が知る"チハエノ・サトコ"、その人の姿よ」
――と、側で焚き火の様子を観ていたアオイは、補充用に集めた薪を茂みに置きながらそう応じた。
「特に、市井降りの際に、護衛と世話人を兼ねた学友となった――我とソウタ、ヒカリに対しては、立場を忘れた態度で接してしまうのよぉっ!」
アオイは薪を手に取り、サトコとソウタの――見方に因れば、ラブシーンに見えなくもない、くんずほぐれづの様を眺め、ピクピクとこめかみを震わせながら、力を込めて薪を割る。
(やれやれ――モテる男というのも、面倒で厄介な性だな)
ヨシゾウは、心中でそんな事を呟き、同情的な眼差しをソウタに送った。
「――ソウタ、殿……」
くんづほぐれづなソウタたちの側にやって来たのは、傷の応急手当を終えたカオリであった。
「カオリさん――アンタも、無事で良かった」
「お気遣いは、無用にござる……この傷は、自らの弱さの表れに過ぎませんから。
それよりも今は、たとえ御叱りを請け様とも――『刀聖様』と呼ばせて頂きます」
ソウタの労いと心配に対し、カオリは平手を出してそれを断わり――
「刀聖様――皇軍が、タマさんたちを遣わせて願った、再度の御助力の願いを応じて頂き、誠に感謝に堪えませぬ」
――と、武人の作法で諂い、ソウタに礼を述べた。
「いや、今の俺は――そんな堅苦しい挨拶に応えてやれる状況に居ないんだけど?」
ソウタは、自分の胸元に顔を寄せ、離れようとしないサトコの背中を指差し、困った表情でそう言う。
「サトコぉ~?、そろそろ離れるべきじゃないかなぁ~?
大変だった気持ちが解るから、しばらく黙ってたけど――そろそろ流石に、黙って居られなくなりそうなんだけどぉ~?」
「そうだな――もう、慰めの抱擁というより、単に好いた男に甘えている、色欲に溺れた女にしか見えんぞ?、サトコよ」
タマとアオイは、サトコたちの側に仁王立ちし、鋭い眼光でその様を見据えていた。
なるほど確かに、よく観れば――今のサトコの表情は、先程の悲壮感を醸した皇としての顔ではなく、ただデレ~っと幸せそうに、ソウタの胸元に顔を寄せ、そこから小さなハートマークが沢山漏れている様な姿である。
「きっ!、貴様ぁっ!、皇様に向かって、色欲女などとぉっ!?、ぐぅぅぅぅっ……!!」
アオイの、サトコへの侮蔑を交えた指摘を怒り、カオリは彼女に迫ったが、負傷した傷が痛み、その場に蹲ってしまう。
「――だから、まだ無理に動くなと言っただろう……
俺の癒しの界気では、所詮、獲物の反撃を受けた狩人が、応急処置に使う程度のモノなのだからな」
蹲ったカオリに手を差し伸べたのは、彼女に治療を施したギン――彼は、呆れた様子ではあるが、彼女を気遣って介抱する。
「カオリさん――悪ぃが傷、もうちょっと我慢してくれな?
次に連れてくつもりのトコでは、"箆棒に凄ぇ界気使い"と合流する予定だからさ」
ソウタは申し訳なさそうに、後頭部を掻きながらそうカオリに告げる。
「"凄い界気使い"?、もしや――ヒカリも?」
ソウタの胸元から起きたサトコは、彼が並べた言葉から、一人の人物の事を連想し、嬉しそうに頬を緩めながら尋ねる。
「ああ、ヒカリも来てる――今は、ちょいと別な用で動いて貰ってるけどな」
「あはぁ♪、嬉しいっ!、嬉しいわぁっ!!、ソウタぁっ!!!」
ヒカリも、ツツキからコチラに出向いていると知ったサトコは、その喜びを抑えきれず、またソウタに抱き着く。
「……だけど、アヤコ様がアオイやヒカリという重臣を貴方に預け、そのヒカリを別働で動かしている――という事は、私たちの事や、此度の有事に限った出動ではない……という事なのでは?」
サトコは、顔を寄せた所で急に顔色と表情をシリアスなモノに変え、彼女は――
「――私とカオリは、直ぐに幽閉されてしまったので、敗戦後の情勢がすっかり抜けてしまっています。
ですからまず、今の状況と――ソウタ、貴方が一体、何のために動いているのかを教えて下さい」
――その真剣な眼差しをソウタへと向け、状況説明を願った。
ここは、オウクからハクキ連邦との境へと続く、街道沿いの林の中。
そして、これは女がソウタの名を叫ぶ声と、その女が駆け寄って抱き着き、彼を茂みに押し倒した様である。
「ソウタぁぁぁ~っ!、ソウタソウタソウタソウタソウタソウタ、ソォウゥタァ~~~っ!!!!」
それに加えて、彼の名を連呼しながら、彼の背に手を回して抱き寄せ、彼の胸の中に蹲っている、その声と押し倒した者の正体は――当世皇、サトコである。
少し、状況を説明すると、一連の公開裁判への乱入作戦が一段落し、オウクを脱して逃亡者となったソウタたちは、以前からアオイやギンたちと打ち合わせていた、合流地点であるこの林の一角へとやって来た。
そして、その合流地点へと、アオイに連れて来られていたサトコが、ソウタの姿を視認した瞬間、狂ったように突然駆け出し、抱き着いて茂みに押し倒したのが、この状況なのである。
「――無事で良かったな、サトコ」
「ううっ……ソウタぁ~~!」
彼女が行ったこの行為と、その緊張の糸が切れた様な狂乱ぶりから、彼女の心中を慮ったソウタは、励ます体で彼女の身体を更に抱き寄せてやり、優しく頭を撫でてやる。
「わっ、私はやはり、民を――国を守れず、それどころか、この世界に更なる動乱を招いて苦しめてしまった……
どうしようもなく、愚かでダメな皇でした……」
サトコは、ソウタの胸元にボロボロと涙を溢し、後悔に満ちた咽びを繰り返す。
「愚かで、ダメだったのは、刀聖の方だよ。
光刃を見せただけで、今の混沌も晴れて、皆、大人しくなってくれるモンだと、昔からの伝承を鵜呑みにしてた……
今の思想を付けちまった、この世界の人たちじゃ――逆に、煽っちまう事になると気付かなかったんだからな」
彼女を抱いているソウタも、そんな後悔の念を吐露し、彼女を慰め続ける。
「いっ、意外よなぁ……あの、凛として聡明な若き皇様が、この様に乱れた様を御見せになられるとは……」
合流地点に設けられていた、野営のための焚き火の側で、そのサトコとソウタの様子を眺めていたヨシゾウは、驚いた体でそう呟いた。
「あの年齢の娘なりの、弱さを抱えたあの様子こそが――ツツキの者が知る"チハエノ・サトコ"、その人の姿よ」
――と、側で焚き火の様子を観ていたアオイは、補充用に集めた薪を茂みに置きながらそう応じた。
「特に、市井降りの際に、護衛と世話人を兼ねた学友となった――我とソウタ、ヒカリに対しては、立場を忘れた態度で接してしまうのよぉっ!」
アオイは薪を手に取り、サトコとソウタの――見方に因れば、ラブシーンに見えなくもない、くんずほぐれづの様を眺め、ピクピクとこめかみを震わせながら、力を込めて薪を割る。
(やれやれ――モテる男というのも、面倒で厄介な性だな)
ヨシゾウは、心中でそんな事を呟き、同情的な眼差しをソウタに送った。
「――ソウタ、殿……」
くんづほぐれづなソウタたちの側にやって来たのは、傷の応急手当を終えたカオリであった。
「カオリさん――アンタも、無事で良かった」
「お気遣いは、無用にござる……この傷は、自らの弱さの表れに過ぎませんから。
それよりも今は、たとえ御叱りを請け様とも――『刀聖様』と呼ばせて頂きます」
ソウタの労いと心配に対し、カオリは平手を出してそれを断わり――
「刀聖様――皇軍が、タマさんたちを遣わせて願った、再度の御助力の願いを応じて頂き、誠に感謝に堪えませぬ」
――と、武人の作法で諂い、ソウタに礼を述べた。
「いや、今の俺は――そんな堅苦しい挨拶に応えてやれる状況に居ないんだけど?」
ソウタは、自分の胸元に顔を寄せ、離れようとしないサトコの背中を指差し、困った表情でそう言う。
「サトコぉ~?、そろそろ離れるべきじゃないかなぁ~?
大変だった気持ちが解るから、しばらく黙ってたけど――そろそろ流石に、黙って居られなくなりそうなんだけどぉ~?」
「そうだな――もう、慰めの抱擁というより、単に好いた男に甘えている、色欲に溺れた女にしか見えんぞ?、サトコよ」
タマとアオイは、サトコたちの側に仁王立ちし、鋭い眼光でその様を見据えていた。
なるほど確かに、よく観れば――今のサトコの表情は、先程の悲壮感を醸した皇としての顔ではなく、ただデレ~っと幸せそうに、ソウタの胸元に顔を寄せ、そこから小さなハートマークが沢山漏れている様な姿である。
「きっ!、貴様ぁっ!、皇様に向かって、色欲女などとぉっ!?、ぐぅぅぅぅっ……!!」
アオイの、サトコへの侮蔑を交えた指摘を怒り、カオリは彼女に迫ったが、負傷した傷が痛み、その場に蹲ってしまう。
「――だから、まだ無理に動くなと言っただろう……
俺の癒しの界気では、所詮、獲物の反撃を受けた狩人が、応急処置に使う程度のモノなのだからな」
蹲ったカオリに手を差し伸べたのは、彼女に治療を施したギン――彼は、呆れた様子ではあるが、彼女を気遣って介抱する。
「カオリさん――悪ぃが傷、もうちょっと我慢してくれな?
次に連れてくつもりのトコでは、"箆棒に凄ぇ界気使い"と合流する予定だからさ」
ソウタは申し訳なさそうに、後頭部を掻きながらそうカオリに告げる。
「"凄い界気使い"?、もしや――ヒカリも?」
ソウタの胸元から起きたサトコは、彼が並べた言葉から、一人の人物の事を連想し、嬉しそうに頬を緩めながら尋ねる。
「ああ、ヒカリも来てる――今は、ちょいと別な用で動いて貰ってるけどな」
「あはぁ♪、嬉しいっ!、嬉しいわぁっ!!、ソウタぁっ!!!」
ヒカリも、ツツキからコチラに出向いていると知ったサトコは、その喜びを抑えきれず、またソウタに抱き着く。
「……だけど、アヤコ様がアオイやヒカリという重臣を貴方に預け、そのヒカリを別働で動かしている――という事は、私たちの事や、此度の有事に限った出動ではない……という事なのでは?」
サトコは、顔を寄せた所で急に顔色と表情をシリアスなモノに変え、彼女は――
「――私とカオリは、直ぐに幽閉されてしまったので、敗戦後の情勢がすっかり抜けてしまっています。
ですからまず、今の状況と――ソウタ、貴方が一体、何のために動いているのかを教えて下さい」
――その真剣な眼差しをソウタへと向け、状況説明を願った。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる