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樹海のヌシ
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「悪いが――積もる話は後にして貰おうか?
今は、オロチへの対応が先決ゆえな」
アオイは、オロチを見据えたまま、泣きじゃくる枝上のミユに、冷たくそう言い放った。
ソウタが視線を外した意味を察し――アオイは、憎まれ役を買って出たのだ。
「……うえっぐ、はい――すい、ませぇん……」
――キッシャァァァァッ!
再会出来た安堵を切り裂く様に、ソウタに斬撃を脳天に入れられたオロチの一首が、けたたましく憤怒の叫びを挙げた。
そこに――
「――アオイちゃんっ!」
「ソウタ殿!」
――と、アオイとソウタを追って来た、ヒカリとハルも合流を果たす。
その、ソウタが連れて来た顔ぶれを見やり、タマは――
「ふ~ん……やっぱ、相変らずモテモテだねぇ?」
――と、こめかみをヒクヒクと震わせながら、目を吊り上げてソウタを睨み、皮肉タップリの問い掛けをする。
「何か――やたらと、トゲのある言い様だな……」
ソウタにも、その皮肉はグッサリと突き刺さり、彼は顔をしかめる。
「ソウちゃん、この猫族の子と、狼族さんは?」
まだ、状況が掴めないヒカリは、オロチの動きを注視しながら、ソウタに疑問を投げる。
「こいつらは、俺の知り合いで――多分、"大事な用"があって、俺を追って来たんだと思う」
ソウタは、タマとギンを見渡し、ニヤっと笑う。
「おい――さっきのミユちゃんの様子からしても、話したい事は山ほどあるんだろうし、俺も聞きてぇ事がたんまりとある。
まずは、"オロチ狩り"を手伝ってもらうぜ?」
「ああ、願ってもない――文献にも載る程の怪物を狩るなど、狩人冥利に尽きるからな」
「そうだね、アタシも――"こんなの"に、食べられたくはないよ」
ソウタの要請に、ギンとタマは小さく頷いて応じる。
「よし――ギンは後ろに下がって全体援護、タマは俺と一緒に前衛だ」
「――承知」
「うん!」
ソウタの指示の意図を瞬時に感じ取り、素早く位置に着くギンたちの様を見て、ハルは――
(コウオウからの資料を読んだだけだけど、さっすがはコウオウ戦役の勲金等トリオ――ホウリ平原で功を挙げたのも、ナットクの動きだわ)
――と、ソウタが知り合いと言っただけの二人が、コウオウからクリ社への報告に記述があった、"コケツのタマ"と"セイクのギン"である事を見抜き、その動きに目を見張る。
普段は、軽薄に感じる言動や様子が目立つハルだが、そこはやはり、若くして士団の一隊を取り仕切る傑才の持ち主。
コウオウ戦役の報告にだって、しっかり目を通しているのである。
それに、天警本陣でも、即座にソウタの力量を見抜いていた様に――人を見る目の方も優秀である。
「――ヒカリ、枝に上がってミユちゃん……逃げている娘の警護に回ってくれるか?」
「うん、わかったよ」
ヒカリも、ソウタの指示に応じ、慣れた動きでサッと枝へと昇って、ミユにニコッと笑顔を見せて安堵を誘う。
(それにしても――テンラク様を出たコトすらないミユが、樹海にいるなんて、まさか、テンラク様で……何かあったってコト?)
ハルの表情からは、普段の快活な様子は消え、彼女は険しい様子で大木を見上げる。
「アオイは、遊撃を頼む――ハルは……前衛で良いな?」
「ふん!、お前の指示など、受けたくはない……しかし、悔しいが的確なのでそうしよう」
「はぁ~いっ!、うふふふ♪、オロチの首を持って帰ってぇ――士団の英雄に、名を列ねてやるわ!」
アオイは、不満気に頬を膨らませながら、用意してあった暗器に界気を込め始め、ハルはニヤッと笑みを見せながら、嬉しそうに抜刀して、ソウタとタマの横に並んだ。
「――よし、さぁて……ツツキ名物、オロチ料理の下拵えと行くかぁ!」
皆への指示を終えたソウタは、刀の切っ先を下段へ下ろして身構える。
「おっ、"オロチ料理"って……アレ、食べれるの?」
タマは、腰を折られた態で、構えを取るのを躊躇し――
――キッシャァァァァッ!
――と、興奮して、敵意満々で自分たちを睨んでいるオロチを指差して、誰にとも無く尋ねる。
「そうだよぉ~♪、オロチのお肉は――舌の上でとろけそうなぐらい柔らかくて、噛むと口中に芳醇な旨味が弾けてぇ……」
そう、嬉々として答えたのは、枝の上でオロチを見据えるヒカリ――彼女は、若干だらしない表情で、完全に"食材"として、オロチを見ている。
「へっ、へぇ……それはちょっと、やる気が出る情報かも」
それを聞いてタマも、わざとらしく舌なめずりをして見せた。
「――与太話はそれくらいにしろ。
美味い代わりに、お伽話になるぐらい、ヤバい獲物なんだからっ!」
ソウタは、低い体勢から一気に駆け出して、先程、脳天に一撃を入れたオロチの一首に襲い掛かるっ!
――シャァァァァッ!
ソウタの動きを見て、他のオロチ――計三首は、彼を食い止めようと、連携して手負いの一首の周りに集まり、一斉に彼へ噛みつこうとするっ!
この三首、今後は"壁役の三首と"呼称しよう。
そこに――ギンが放った矢と、アオイが投げた短刀状の暗器(※共に界気タップリ)が、飛んで来て――
――ピギャァァァッ!
――ヒギャァァァッ!
――と、その内の二首へと突き刺さり、悲鳴を挙げながら、その二首は怯んだ。
援護をしたギンとアオイの後ろに、鈍くてアヤしい光が三つ蠢く――これはまるで、指揮官の様に後方で戦況を見据えている、太くて大きい一首以外の三首だ!
先の三首が壁役なら――この三首は奇襲役。
奇襲役の三首は茂みに潜み、ゆっくりとギンたちに近付く。
(!?、血の……ニオイ!)
ギンは、臭気から危機を感じ取り、警戒して後ろへと振り向く。
この三首は先程、ギンたちに追い払われた連中――その時の傷から滴る血のニオイが、ギンの鋭敏な鼻を突いたのだ。
気付かれた事を悟った、奇襲役の三首は、已む無しと茂みから飛び出し、まだ矢を番え始めたばかりのギンに襲い掛かるっ!
――ヒャアァァッ?!
だが――ギンを襲おうとした奇襲役の三首は、突然動きが鈍く……いや、地上を這っていたはずの蛇体が動かせなくなり、奴らは、奇妙な鳴き声を呻きながら、彼らにとっては"足下"とも言える、蛇体に目を向ける。
ピッ――ピギァァァッ!?
地を這っていた蛇体は――なんと!、凍りついて動かせなくなっており、奴らは混乱気味に首を振るう。
蛇体を凍らせたのは――もちろん、氷結界気を扱えるヒカリ。
彼女は、蒼い界気と白い界気がマーブル状に混ざり合った光球を片手に持ち、それを奇襲役たちの方へと向けて掲げている。
「こっ……これは?」
その光景に驚いたギンは、矢を番える手を止め、枝上のヒカリを見上げる。
「あっ、ギンさん――で良いのかな?、後ろは私が抑えておきますから、気にせず前衛の援護をお願いします」
ヒカリは、ニコッと笑ってギンに会釈をし、壁役がいる方を指差した。
壁役がいる方では、タマが残りの一首に飛び掛って――
「――打撃を弾くんなら、こうだよぉっ!」
――と、抱きつく恰好で一首を掴み、その頭部を地面に叩きつけるっ!
「――やああぁぁっ!」
続いて、ハルは界気を纏わせた刀を巧みに操り、壁役が四散して無防備となった、手負いの一首の蛇体に鋭利な一撃を見舞うっ!
「へへ♪、みんな――あんがとよっ!」
皆の見事な支援を見やり、ソウタは含み笑いを見せながら、刀身を諸手で振り被り、手負いの一首をバッサリと逆袈裟懸けに両断して見せた。
怯んでしまった壁役の残り二首は、呆然とした様子で――両断されて地面に横たわった一首を見やり、恐れも覗ける体で、太く大きな一首の周りへと退いた。
「ソウタ殿――もしかして、あの大きいのが?」
その様子を見たハルは、険しい表情でソウタにある推測の是非を尋ねた。
「ああ、アレがオロチの本体――いんや、ありゃあ他の七首の"母親"だな」
この、太く大きな一首を根幹にして、枝分かれの様に残りの七首が生えた様な恰好が、オロチの容貌である。
その"枝分かれ"という表現は実に適当で、ソウタが『本体』や『母親』と表した様に、他の七首は太く大きな一首が生み出した、子供たちの様な存在なのだ。
子供とは言っても、残りの七首は成長もせず、繁殖能力も持たないため――母親たる大きな一首にとって、他の七首は、言わば大きな手足の類に近いのだが。
「ねぇ、ソウちゃん?
お母さんは獲っちゃダメなんだし、コッチの凍らせておいた三本を合わせれば四本――これぐらいで良いんじゃなぁ~い?」
――と、奇襲役三首をたった一人で、しかも涼しげな表情で抑えているヒカリは、ソウタに狩りの終了を提案する。
オロチ狩りにおける、暗黙の鉄則とは――七首の母親である、本体は"狩らない"事だ。
オロチは、獰猛で残忍な凶獣であると同時に、この樹海にしか生息していない、超が幾つも付く希少生物でもある。
一節では、天船降臨よりも前からこの樹海に生息していて、今の本体は子孫などではなく――脱皮を繰り返しているだけの、数千年に亘って生き続けている、唯一無二の固体なのではという学説までがあり、そんな存在を狩り、あまつさえ喰おうとするのは、生態系状禁忌な行為と言っても良い。
尤も――オロチを狩ろうなどという輩は、その超絶美味の肉に魅了されたツツキの衆ぐらいだし、本体の戦闘力は、他の七首との比ではないと、例のハクキ第五軍の逸話にも伝えられている事を思えば、本体には手を出さないのが懸命なのである。
「そうだなぁ……三本もあれば、使節団の皆に振舞うのに充分だな」
(それに――"オロチ喰いたい"は方便、俺の目的は、タマたちの救援だったしな)
――と、ソウタはヒカリの提案に賛同しながら、心中では、そんな裏事情も吐露していた。
「じゃあ――捌くとするかぁっ!」
ソウタは、刀をダラリと下げ、その刀身が反射した木漏れ日の逆光を、奇襲役の一首に向けながら、実に不気味な笑顔で、ゆっくりと近付いて行く。
――ピッ!?、ピギャァァァァ……
その一首は――そんな、脅え震える様な情けない声を鳴らし、ソウタの瞳を見詰める。
「うんっ!、じゃあ――私も手伝うね♪」
ヒカリも、ソウタに似た不気味な笑顔を催し、片手に轟々と渦巻く、鎌鼬と化した鋭利な風の界気を纏わせる。
――ヒッ!、ヒギャアアアアッ!
ヒカリの目線に入った一首は、ブンブンと首を横に振って、命乞いの様な眼差しを彼女に向ける。
その後――この場で起こった、ソウタとヒカリに因る"オロチ解体ショー"については、あえて語らずにおくのが賢明であろう。
今は、オロチへの対応が先決ゆえな」
アオイは、オロチを見据えたまま、泣きじゃくる枝上のミユに、冷たくそう言い放った。
ソウタが視線を外した意味を察し――アオイは、憎まれ役を買って出たのだ。
「……うえっぐ、はい――すい、ませぇん……」
――キッシャァァァァッ!
再会出来た安堵を切り裂く様に、ソウタに斬撃を脳天に入れられたオロチの一首が、けたたましく憤怒の叫びを挙げた。
そこに――
「――アオイちゃんっ!」
「ソウタ殿!」
――と、アオイとソウタを追って来た、ヒカリとハルも合流を果たす。
その、ソウタが連れて来た顔ぶれを見やり、タマは――
「ふ~ん……やっぱ、相変らずモテモテだねぇ?」
――と、こめかみをヒクヒクと震わせながら、目を吊り上げてソウタを睨み、皮肉タップリの問い掛けをする。
「何か――やたらと、トゲのある言い様だな……」
ソウタにも、その皮肉はグッサリと突き刺さり、彼は顔をしかめる。
「ソウちゃん、この猫族の子と、狼族さんは?」
まだ、状況が掴めないヒカリは、オロチの動きを注視しながら、ソウタに疑問を投げる。
「こいつらは、俺の知り合いで――多分、"大事な用"があって、俺を追って来たんだと思う」
ソウタは、タマとギンを見渡し、ニヤっと笑う。
「おい――さっきのミユちゃんの様子からしても、話したい事は山ほどあるんだろうし、俺も聞きてぇ事がたんまりとある。
まずは、"オロチ狩り"を手伝ってもらうぜ?」
「ああ、願ってもない――文献にも載る程の怪物を狩るなど、狩人冥利に尽きるからな」
「そうだね、アタシも――"こんなの"に、食べられたくはないよ」
ソウタの要請に、ギンとタマは小さく頷いて応じる。
「よし――ギンは後ろに下がって全体援護、タマは俺と一緒に前衛だ」
「――承知」
「うん!」
ソウタの指示の意図を瞬時に感じ取り、素早く位置に着くギンたちの様を見て、ハルは――
(コウオウからの資料を読んだだけだけど、さっすがはコウオウ戦役の勲金等トリオ――ホウリ平原で功を挙げたのも、ナットクの動きだわ)
――と、ソウタが知り合いと言っただけの二人が、コウオウからクリ社への報告に記述があった、"コケツのタマ"と"セイクのギン"である事を見抜き、その動きに目を見張る。
普段は、軽薄に感じる言動や様子が目立つハルだが、そこはやはり、若くして士団の一隊を取り仕切る傑才の持ち主。
コウオウ戦役の報告にだって、しっかり目を通しているのである。
それに、天警本陣でも、即座にソウタの力量を見抜いていた様に――人を見る目の方も優秀である。
「――ヒカリ、枝に上がってミユちゃん……逃げている娘の警護に回ってくれるか?」
「うん、わかったよ」
ヒカリも、ソウタの指示に応じ、慣れた動きでサッと枝へと昇って、ミユにニコッと笑顔を見せて安堵を誘う。
(それにしても――テンラク様を出たコトすらないミユが、樹海にいるなんて、まさか、テンラク様で……何かあったってコト?)
ハルの表情からは、普段の快活な様子は消え、彼女は険しい様子で大木を見上げる。
「アオイは、遊撃を頼む――ハルは……前衛で良いな?」
「ふん!、お前の指示など、受けたくはない……しかし、悔しいが的確なのでそうしよう」
「はぁ~いっ!、うふふふ♪、オロチの首を持って帰ってぇ――士団の英雄に、名を列ねてやるわ!」
アオイは、不満気に頬を膨らませながら、用意してあった暗器に界気を込め始め、ハルはニヤッと笑みを見せながら、嬉しそうに抜刀して、ソウタとタマの横に並んだ。
「――よし、さぁて……ツツキ名物、オロチ料理の下拵えと行くかぁ!」
皆への指示を終えたソウタは、刀の切っ先を下段へ下ろして身構える。
「おっ、"オロチ料理"って……アレ、食べれるの?」
タマは、腰を折られた態で、構えを取るのを躊躇し――
――キッシャァァァァッ!
――と、興奮して、敵意満々で自分たちを睨んでいるオロチを指差して、誰にとも無く尋ねる。
「そうだよぉ~♪、オロチのお肉は――舌の上でとろけそうなぐらい柔らかくて、噛むと口中に芳醇な旨味が弾けてぇ……」
そう、嬉々として答えたのは、枝の上でオロチを見据えるヒカリ――彼女は、若干だらしない表情で、完全に"食材"として、オロチを見ている。
「へっ、へぇ……それはちょっと、やる気が出る情報かも」
それを聞いてタマも、わざとらしく舌なめずりをして見せた。
「――与太話はそれくらいにしろ。
美味い代わりに、お伽話になるぐらい、ヤバい獲物なんだからっ!」
ソウタは、低い体勢から一気に駆け出して、先程、脳天に一撃を入れたオロチの一首に襲い掛かるっ!
――シャァァァァッ!
ソウタの動きを見て、他のオロチ――計三首は、彼を食い止めようと、連携して手負いの一首の周りに集まり、一斉に彼へ噛みつこうとするっ!
この三首、今後は"壁役の三首と"呼称しよう。
そこに――ギンが放った矢と、アオイが投げた短刀状の暗器(※共に界気タップリ)が、飛んで来て――
――ピギャァァァッ!
――ヒギャァァァッ!
――と、その内の二首へと突き刺さり、悲鳴を挙げながら、その二首は怯んだ。
援護をしたギンとアオイの後ろに、鈍くてアヤしい光が三つ蠢く――これはまるで、指揮官の様に後方で戦況を見据えている、太くて大きい一首以外の三首だ!
先の三首が壁役なら――この三首は奇襲役。
奇襲役の三首は茂みに潜み、ゆっくりとギンたちに近付く。
(!?、血の……ニオイ!)
ギンは、臭気から危機を感じ取り、警戒して後ろへと振り向く。
この三首は先程、ギンたちに追い払われた連中――その時の傷から滴る血のニオイが、ギンの鋭敏な鼻を突いたのだ。
気付かれた事を悟った、奇襲役の三首は、已む無しと茂みから飛び出し、まだ矢を番え始めたばかりのギンに襲い掛かるっ!
――ヒャアァァッ?!
だが――ギンを襲おうとした奇襲役の三首は、突然動きが鈍く……いや、地上を這っていたはずの蛇体が動かせなくなり、奴らは、奇妙な鳴き声を呻きながら、彼らにとっては"足下"とも言える、蛇体に目を向ける。
ピッ――ピギァァァッ!?
地を這っていた蛇体は――なんと!、凍りついて動かせなくなっており、奴らは混乱気味に首を振るう。
蛇体を凍らせたのは――もちろん、氷結界気を扱えるヒカリ。
彼女は、蒼い界気と白い界気がマーブル状に混ざり合った光球を片手に持ち、それを奇襲役たちの方へと向けて掲げている。
「こっ……これは?」
その光景に驚いたギンは、矢を番える手を止め、枝上のヒカリを見上げる。
「あっ、ギンさん――で良いのかな?、後ろは私が抑えておきますから、気にせず前衛の援護をお願いします」
ヒカリは、ニコッと笑ってギンに会釈をし、壁役がいる方を指差した。
壁役がいる方では、タマが残りの一首に飛び掛って――
「――打撃を弾くんなら、こうだよぉっ!」
――と、抱きつく恰好で一首を掴み、その頭部を地面に叩きつけるっ!
「――やああぁぁっ!」
続いて、ハルは界気を纏わせた刀を巧みに操り、壁役が四散して無防備となった、手負いの一首の蛇体に鋭利な一撃を見舞うっ!
「へへ♪、みんな――あんがとよっ!」
皆の見事な支援を見やり、ソウタは含み笑いを見せながら、刀身を諸手で振り被り、手負いの一首をバッサリと逆袈裟懸けに両断して見せた。
怯んでしまった壁役の残り二首は、呆然とした様子で――両断されて地面に横たわった一首を見やり、恐れも覗ける体で、太く大きな一首の周りへと退いた。
「ソウタ殿――もしかして、あの大きいのが?」
その様子を見たハルは、険しい表情でソウタにある推測の是非を尋ねた。
「ああ、アレがオロチの本体――いんや、ありゃあ他の七首の"母親"だな」
この、太く大きな一首を根幹にして、枝分かれの様に残りの七首が生えた様な恰好が、オロチの容貌である。
その"枝分かれ"という表現は実に適当で、ソウタが『本体』や『母親』と表した様に、他の七首は太く大きな一首が生み出した、子供たちの様な存在なのだ。
子供とは言っても、残りの七首は成長もせず、繁殖能力も持たないため――母親たる大きな一首にとって、他の七首は、言わば大きな手足の類に近いのだが。
「ねぇ、ソウちゃん?
お母さんは獲っちゃダメなんだし、コッチの凍らせておいた三本を合わせれば四本――これぐらいで良いんじゃなぁ~い?」
――と、奇襲役三首をたった一人で、しかも涼しげな表情で抑えているヒカリは、ソウタに狩りの終了を提案する。
オロチ狩りにおける、暗黙の鉄則とは――七首の母親である、本体は"狩らない"事だ。
オロチは、獰猛で残忍な凶獣であると同時に、この樹海にしか生息していない、超が幾つも付く希少生物でもある。
一節では、天船降臨よりも前からこの樹海に生息していて、今の本体は子孫などではなく――脱皮を繰り返しているだけの、数千年に亘って生き続けている、唯一無二の固体なのではという学説までがあり、そんな存在を狩り、あまつさえ喰おうとするのは、生態系状禁忌な行為と言っても良い。
尤も――オロチを狩ろうなどという輩は、その超絶美味の肉に魅了されたツツキの衆ぐらいだし、本体の戦闘力は、他の七首との比ではないと、例のハクキ第五軍の逸話にも伝えられている事を思えば、本体には手を出さないのが懸命なのである。
「そうだなぁ……三本もあれば、使節団の皆に振舞うのに充分だな」
(それに――"オロチ喰いたい"は方便、俺の目的は、タマたちの救援だったしな)
――と、ソウタはヒカリの提案に賛同しながら、心中では、そんな裏事情も吐露していた。
「じゃあ――捌くとするかぁっ!」
ソウタは、刀をダラリと下げ、その刀身が反射した木漏れ日の逆光を、奇襲役の一首に向けながら、実に不気味な笑顔で、ゆっくりと近付いて行く。
――ピッ!?、ピギャァァァァ……
その一首は――そんな、脅え震える様な情けない声を鳴らし、ソウタの瞳を見詰める。
「うんっ!、じゃあ――私も手伝うね♪」
ヒカリも、ソウタに似た不気味な笑顔を催し、片手に轟々と渦巻く、鎌鼬と化した鋭利な風の界気を纏わせる。
――ヒッ!、ヒギャアアアアッ!
ヒカリの目線に入った一首は、ブンブンと首を横に振って、命乞いの様な眼差しを彼女に向ける。
その後――この場で起こった、ソウタとヒカリに因る"オロチ解体ショー"については、あえて語らずにおくのが賢明であろう。
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