109 / 207
あえて、身勝手な一人に
再会
しおりを挟む
「あっ!、領主様だぁっ!」
ソウタが辺りを伺うより先に、村の子供たちが、近付いて来る提灯に気付き、指を差して笑顔を見せた。
「!、領主様ですって?!」
その声を聞いたシオリは、慌てて席を立ち、子供たちが指を差した方を見詰めた。
その視線の先にいたのは――側近である、タマキが持つ提灯に照らされた、アヤコの姿だった。
アヤコは、ゆったりと、場に居る全員を見渡し――
「――査察団の皆様、テンラク様より遠路遥々のご足労……痛み入ります。
ツツキ領主、アヤコにございます」
――と、アヤコは深々と一礼し、査察団の厳しい旅程による疲労を労った。
「――解った、警護に加わる、じゃあな、お前たち」
状況を察したアオイは、ぶっきらぼうに二人へそう伝え、夜闇に溶ける様にその場を後にした。
「ソウタ――御頭の呼び出しとは別に、お前に会わせる様にと、御家方様から仰せつかっている者たちが居る」
アオイが去ると同時に、ショウゾウはソウタに向けて、同じくしゃがれた声でそう告げる。
「俺に?、……誰っスか?」
「ここへ、案内はした故――もう時期来るであろうから、しばし待て。
では、伝えたぞ?」
そう告げ加えると、ショウゾウも微かな音だけを残して、茂みから姿を消した。
「俺に用……ヒカリ、心当たりはあるか?」
「ううん、解らない――でも、そういえば……今日は、風聖丸の来航があったはずだから、ヨクセさんの人かなぁ?」
ショウゾウの言葉が腑に落ちない、ソウタからの尋ねに、ヒカリは思い付く限りの答えを言う。
「アヤコ様――査察団長、シオリにございます」
査察団の長として、アヤコと相対したシオリは畏まって一礼する。
「こちらこそ、長旅ご苦労様でした……大神官様」
アヤコも、同じ様に畏まり、彼女は加えて深々と拝礼した。
クリ社内での立場から言えば、ツツキの領主よりも、大神官の方が格上である――故の、作法の違いであった。
「お早く、面を上げて下さい――若輩者の私に、正しい拝礼は無用にございますし、何よりこの使節交流は、合衆連邦の干渉を挟まないモノなのですから、件の戦犯としての遠慮も必要ございません」
「ありがとう――御心遣い、感謝します」
シオリの申し出を聞き、アヤコは礼を言って軽く会釈をした。
「そういえば――どうやら"息子"が、護衛衆に加わっているとか。
粗相などは、ございませんでしたか?」
アヤコは、遠くに見えるソウタの方へ目配せをし、不敵な笑顔でそう尋ねた。
「……息子?、あっ!、ソウ――いっ、いえ、刀聖様の庇護のおかげで、とても心強い旅路でございました」
シオリは、アヤコの言い回しに気付き、共にソウタの方を観ながら小声でそう囁いた。
二人が、ソウタについての談笑を始め様とした、その時――
「――ソウタさんっ!」
――と、ソウタの名を叫ぶ声が聞こえ、二人はその方角を凝視する。
「ん?」
ソウタの耳にも、もちろんその叫びは聞こえ――彼が、その声の方へと振り向くと、真剣な表情で息を切らさせて立ち竦む、レンの姿があった。
「!!!!!、えっ!?、レ……ン?」
ソウタは、状況を上手く咀嚼出来ず、彼の認識ではオウビに居るはずのレンの登場に、困惑して口をあんぐりと開ける。
「――っ!」
レンは、感極まった様で、ボロボロと涙を溢し、唐突にソウタの胸へと飛び付き、彼へと抱き着いたっ!
「?!」
「!!!!!?」
「!、あらぁ……」
順に――側で見ていたヒカリ、離れて見ていたシオリとアヤコは、突然のレンとソウタの抱擁に、驚いて言葉を失う。
「やっと――やっと!、もう一度会えましたっ!」
レンは、自分がしている大胆な行動には一切気付かず、ただ、ソウタとの念願の再会を喜び、抱き締める腕の力を強めた。
「うっ、ううぅ……会えた、会えたんだぁ……」
レンは泣きじゃくり、更にソウタと密着して、彼の胸に頬を埋める。
一方のソウタは――伝わって来る、レンの肢体が放つぬくもりや、その柔らかい肌触りが醸す、濃密で無垢な色香に……陶酔気味で、自然と手を彼女の後ろへと回そうとする。
「!?、!!!!!!!!!、なっ!、なんなのだぁっ!、あの娘わぁぁぁぁっ?!」
アヤコの警護のために、その様を遠くから観ていたアオイは、顔色を真っ赤にして、両拳を握り締めて、ワナワナと震わせている。
「何でも――例の虐殺事件の生き残りらしい。
あの娘を、虐殺の憂き目から救ったのが、他ならぬソウタだそうだ」
――と、共に側で潜んでいるショウゾウは、アオイの疑問に、素直で端的な答えを伝えた。
「……そうか、ソウタも珠には、刀聖に相応しい事を――ではぬわいっ!」
アオイはまず、そんなノリツッコミを決めてから――
「わっ、解ったぞぉ……やはり、奴はこの三年、各地で相当な数の女子と、浮名を流しておるのだっ!
きっと、あの娘には、命の恩人という立場を盾に、"アレ"や"コレ"やを……」
――と、アオイは恥ずかしそうに口元を抑え、遠くのソウタを睨む。
「可哀想な娘よ……既に、奴には妻に等しき相手が居る事も知らず、その気にさせられてしまったのだろう。
まさか、あの男が、罪作りな色魔だとは思えずに……」
アオイはそんな、もの凄く勝手な推測をして、レンに同情した。
「……」
アヤコと並んで、ソウタたちの抱擁シーンを『眺めてしまった』シオリは、口をあんぐりと開け、微動他にせず立ち竦む。
これはもはや――驚き過ぎて、"固まっている"と表した方が解り易いかもしれない。
(あ~……姉様は、根っからのクリ社育ちだから、こーいう場面に面を喰らってるのよね。
各言うアタシも、同じではあるけど――アタシの場合は、これから"ナニ"が始まるかの方が、キョーミ深くて大興奮だわっ!)
ハルは……側で固まっているシオリの様を横目に、鼻息を散らして抱き合う二人を凝視する。
「ふぅ……」
シオリと並んで、抱擁シーンを目撃していたアヤコは、そんな小さな溜め息を吐くと、おもむろに前へ出て――
「レン~!
気持ちは解りますが――もう少し、場を弁えた方が良いかと思いますよぉ~♪」
――と、口元に笑みを称え、からかう様に諌める言葉を言う。
「……ふぇっ?」
レンは、その声に反応し、ゆっくりとソウタの胸から面を上げ、とろけた様な虚ろな眼を、彼の顔へと向けた。
「――っ!!!!!!!!!!!!!」
「レッ、レン……」
改めて顔を会わせた二人の様子は、レンはシオリ以上に驚愕して固まり、ソウタは顔を真っ赤にして照れて、一言彼女の名を呼んだだけで、互いに恥ずかしそうにうな垂れる。
「すっ!、すすすすすすすすすすっ!、すいませんっ!!!」
レンは、慌ててソウタから身体を離し、深々と低頭してフルフルと震える。
「いっ、いや良い――それより、何でキミがツツキに?、一体どういう……」
ソウタは、今までの抱擁など無かったかの様に、真剣な表情で自分が知る事態との急変について尋ねる。
「はっ!、はいっ!、あっ、あのぉ……」
一気にシリアスモードに転じたソウタとは違い、レンは自身が今していた、大胆過ぎる行為の余波で、思う様に言葉が紡げない。
話題の気配が替わる事を察したヒカリは、その隙に、遠慮めいた態度を醸して、フェードアウトしようとするが――
「……おいっ!、どうしてソコで、"妾"に遠慮するんだっ!」
――と、アヤコたちの側に移動しようとした所で、アオイが声音こそは囁く程度だが、怒っていると解るニュアンスで呼び止める。
「どうしてって……大事なお話っぽいよ?
それに――アオイちゃん、あの娘を"妾"呼ばわりは、どうかと思うけどなぁ……」
ヒカリは――実に達観した素振りで、ソウタとレンの様子を見やっている。
「おまっ……!、いや、コレも"正妻の余裕"というヤツか……」
「アオイちゃん……いい加減、怒るよ?」
アオイの執拗な"ソウタ弄り"に対し、コレもまた"正妻の某"なのか、ヒカリは彼女に冷めた眼差しを向ける。
「それは――私からお話致します、ソウタ殿よ」
動揺しているレンに替わって、側の茂みを越えて来たのは、ユキと手を繋いだヨシゾウだった。
「ソウタさん――お久し振りです」
「!?、ユキだってぇ?!、それに、アンタは……」
意外なユキの登場にも、ソウタは心底驚き――同時に、この二人を連れているヨシゾウの身なりを見据えてみると、ソウタは鞘に手を掛け、鋭い眼光をヨシゾウに向けた。
「おい――どうして"鳳凰紋の鞘"を提げてるヤツが、この娘たちを連れてる?」
(!!!!)
殺気も帯びたソウタからの問いに、ヨシゾウは圧倒され、呼吸すら間々ならずに押し黙った。
そのソウタが放つ殺気には――ハルにも、アオイにも、そして、界気を使った戦闘にも覚えを持つ、ヒカリにも伝わり、彼女らも一斉に息を呑む。
(こっ、これが刀聖様の剣気――っ!、これほどとは……)
ようやく呼吸に有り付けたヨシゾウは、心中で今の感覚を思い出して恐怖した。
「ソウタ――その方は、スヨウと袂を分かち、ヨクセに組した者です、柄を収めなさい」
既に、刃の一部(※実刀)を晒しているソウタに、アヤコは簡素に事情を告げて彼を諭した。
「……じゃあ、仔細を話して貰いましょうか?」
――
――――
「――そうか、オリエさんの屋敷にまで……くそっ!、甘かったな」
レンたちの経緯を聞いた、ソウタは下唇を噛み、悔しげに拳を握った。
「幸い――屋敷の半壊程度で済んで良かったと、頭領は申しておりました」
ヨシゾウは、こめかみに冷や汗を滲ませながら、ソウタの方に顔を伏せながら話す。
「抜刀しようとして、ビビらせておいて何だが――俺に、敬語は要らないっス。
アンタ、見たところ侍だろ?、若造に……諂うのは本意じゃねぇでしょ?」
――と、ソウタはヨシゾウの態度から察して、無礼講で話す事を望んだ。
「かたじけない――心遣い感謝する。
『暗衆泣かせ』の異名も持つ、この地になら――スヨウも手出しは出来ぬと思うた疎開だ。
レン嬢の事は、身命を賭してでも守る覚悟ゆえ、任せてくれ」
ヨシゾウは胸を張り、ソウタに鞘を持ち上げて見せて意気込みを示す。
「その前に――鞘の拵えを直さねばな。
一日で、二度も懸念を与えている様では、私もたしなみが甘い」
ヨシゾウは微笑し、自らへの皮肉を込めてそう言った。
「レン、ユキ――ごめんな。
俺の詰めの甘さのせいで、怖い思いをさせて……」
ソウタは、レンとユキに向けて頭を下げ、二人に詫びた。
「そっ、そんな、謝らないでください……」
レンは、謝意を示すソウタの態度に、オロオロと狼狽し――
「そうですよ。
おかげで私たちは、船旅なんていう、貴重な体験が出来たんですよ♪」
――ユキは両手を合わせ、楽しげに口元を綻ばせた。
「――ソウタ」
ソウタたちの会話が一段落着いた所に、アヤコが割って入って来る。
「アヤコ様……査察団護衛に参じた経緯ではありますが、ソウタ……ツツキが地に戻りましてございます」
ソウタは仰々しく畏まり、アヤコに帰郷の旨を告げた。
「本当に、よく戻ってくれました」
アヤコはまさに、母の眼差しでソウタを見詰め、彼の手を両手で包む様に握った。
「はっ、はい……手紙一通も遣さず、ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした」
ソウタは、唇を強く結びうな垂れ、アヤコにも詫びを入れた。
「詫びる必要などありません――貴方は、このツクモで何を成すべきかを求め、旅に出たのですから。
私たちを気遣う必要など……」
アヤコは、諭す様にそう言うが、表情はそんなソウタの思いを喜んでいるのは見え見えだ。
「――だけれど、"契りを結んだ女ぐらいには気を遣った方が、素敵な殿方ですよ?」
――そう、アヤコは微かに小声で呟き、ヒカリの方へと目配せをして、からかう様なウインクをソウタに見せた。
「ところで――貴方に会わせたい人がおります。
明日……城に着いたら、私の私室を訪ねてくれるかしら?」
そこまでを言ってから、アヤコは口元をソウタの耳に寄せ――
「――"神言の秘密"を知る御方です。
刀聖である貴方に、会うために来られた方故……そのつもりで」
――と、険しい面持ちで囁いた。
「!、神言の?、一体……」
「それも明日――この様な場でありますしね」
アヤコは、額に冷や汗を滲ませながら、ソウタの問いに答えると――
「――査察団の皆様、今宵はこの地にて、ゆるりとは行かなくとも、長旅の疲れを和らげください。
では、改めて明日……」
――と、領主としての顔付きへと戻り、査察団への挨拶を終えた。
ソウタが辺りを伺うより先に、村の子供たちが、近付いて来る提灯に気付き、指を差して笑顔を見せた。
「!、領主様ですって?!」
その声を聞いたシオリは、慌てて席を立ち、子供たちが指を差した方を見詰めた。
その視線の先にいたのは――側近である、タマキが持つ提灯に照らされた、アヤコの姿だった。
アヤコは、ゆったりと、場に居る全員を見渡し――
「――査察団の皆様、テンラク様より遠路遥々のご足労……痛み入ります。
ツツキ領主、アヤコにございます」
――と、アヤコは深々と一礼し、査察団の厳しい旅程による疲労を労った。
「――解った、警護に加わる、じゃあな、お前たち」
状況を察したアオイは、ぶっきらぼうに二人へそう伝え、夜闇に溶ける様にその場を後にした。
「ソウタ――御頭の呼び出しとは別に、お前に会わせる様にと、御家方様から仰せつかっている者たちが居る」
アオイが去ると同時に、ショウゾウはソウタに向けて、同じくしゃがれた声でそう告げる。
「俺に?、……誰っスか?」
「ここへ、案内はした故――もう時期来るであろうから、しばし待て。
では、伝えたぞ?」
そう告げ加えると、ショウゾウも微かな音だけを残して、茂みから姿を消した。
「俺に用……ヒカリ、心当たりはあるか?」
「ううん、解らない――でも、そういえば……今日は、風聖丸の来航があったはずだから、ヨクセさんの人かなぁ?」
ショウゾウの言葉が腑に落ちない、ソウタからの尋ねに、ヒカリは思い付く限りの答えを言う。
「アヤコ様――査察団長、シオリにございます」
査察団の長として、アヤコと相対したシオリは畏まって一礼する。
「こちらこそ、長旅ご苦労様でした……大神官様」
アヤコも、同じ様に畏まり、彼女は加えて深々と拝礼した。
クリ社内での立場から言えば、ツツキの領主よりも、大神官の方が格上である――故の、作法の違いであった。
「お早く、面を上げて下さい――若輩者の私に、正しい拝礼は無用にございますし、何よりこの使節交流は、合衆連邦の干渉を挟まないモノなのですから、件の戦犯としての遠慮も必要ございません」
「ありがとう――御心遣い、感謝します」
シオリの申し出を聞き、アヤコは礼を言って軽く会釈をした。
「そういえば――どうやら"息子"が、護衛衆に加わっているとか。
粗相などは、ございませんでしたか?」
アヤコは、遠くに見えるソウタの方へ目配せをし、不敵な笑顔でそう尋ねた。
「……息子?、あっ!、ソウ――いっ、いえ、刀聖様の庇護のおかげで、とても心強い旅路でございました」
シオリは、アヤコの言い回しに気付き、共にソウタの方を観ながら小声でそう囁いた。
二人が、ソウタについての談笑を始め様とした、その時――
「――ソウタさんっ!」
――と、ソウタの名を叫ぶ声が聞こえ、二人はその方角を凝視する。
「ん?」
ソウタの耳にも、もちろんその叫びは聞こえ――彼が、その声の方へと振り向くと、真剣な表情で息を切らさせて立ち竦む、レンの姿があった。
「!!!!!、えっ!?、レ……ン?」
ソウタは、状況を上手く咀嚼出来ず、彼の認識ではオウビに居るはずのレンの登場に、困惑して口をあんぐりと開ける。
「――っ!」
レンは、感極まった様で、ボロボロと涙を溢し、唐突にソウタの胸へと飛び付き、彼へと抱き着いたっ!
「?!」
「!!!!!?」
「!、あらぁ……」
順に――側で見ていたヒカリ、離れて見ていたシオリとアヤコは、突然のレンとソウタの抱擁に、驚いて言葉を失う。
「やっと――やっと!、もう一度会えましたっ!」
レンは、自分がしている大胆な行動には一切気付かず、ただ、ソウタとの念願の再会を喜び、抱き締める腕の力を強めた。
「うっ、ううぅ……会えた、会えたんだぁ……」
レンは泣きじゃくり、更にソウタと密着して、彼の胸に頬を埋める。
一方のソウタは――伝わって来る、レンの肢体が放つぬくもりや、その柔らかい肌触りが醸す、濃密で無垢な色香に……陶酔気味で、自然と手を彼女の後ろへと回そうとする。
「!?、!!!!!!!!!、なっ!、なんなのだぁっ!、あの娘わぁぁぁぁっ?!」
アヤコの警護のために、その様を遠くから観ていたアオイは、顔色を真っ赤にして、両拳を握り締めて、ワナワナと震わせている。
「何でも――例の虐殺事件の生き残りらしい。
あの娘を、虐殺の憂き目から救ったのが、他ならぬソウタだそうだ」
――と、共に側で潜んでいるショウゾウは、アオイの疑問に、素直で端的な答えを伝えた。
「……そうか、ソウタも珠には、刀聖に相応しい事を――ではぬわいっ!」
アオイはまず、そんなノリツッコミを決めてから――
「わっ、解ったぞぉ……やはり、奴はこの三年、各地で相当な数の女子と、浮名を流しておるのだっ!
きっと、あの娘には、命の恩人という立場を盾に、"アレ"や"コレ"やを……」
――と、アオイは恥ずかしそうに口元を抑え、遠くのソウタを睨む。
「可哀想な娘よ……既に、奴には妻に等しき相手が居る事も知らず、その気にさせられてしまったのだろう。
まさか、あの男が、罪作りな色魔だとは思えずに……」
アオイはそんな、もの凄く勝手な推測をして、レンに同情した。
「……」
アヤコと並んで、ソウタたちの抱擁シーンを『眺めてしまった』シオリは、口をあんぐりと開け、微動他にせず立ち竦む。
これはもはや――驚き過ぎて、"固まっている"と表した方が解り易いかもしれない。
(あ~……姉様は、根っからのクリ社育ちだから、こーいう場面に面を喰らってるのよね。
各言うアタシも、同じではあるけど――アタシの場合は、これから"ナニ"が始まるかの方が、キョーミ深くて大興奮だわっ!)
ハルは……側で固まっているシオリの様を横目に、鼻息を散らして抱き合う二人を凝視する。
「ふぅ……」
シオリと並んで、抱擁シーンを目撃していたアヤコは、そんな小さな溜め息を吐くと、おもむろに前へ出て――
「レン~!
気持ちは解りますが――もう少し、場を弁えた方が良いかと思いますよぉ~♪」
――と、口元に笑みを称え、からかう様に諌める言葉を言う。
「……ふぇっ?」
レンは、その声に反応し、ゆっくりとソウタの胸から面を上げ、とろけた様な虚ろな眼を、彼の顔へと向けた。
「――っ!!!!!!!!!!!!!」
「レッ、レン……」
改めて顔を会わせた二人の様子は、レンはシオリ以上に驚愕して固まり、ソウタは顔を真っ赤にして照れて、一言彼女の名を呼んだだけで、互いに恥ずかしそうにうな垂れる。
「すっ!、すすすすすすすすすすっ!、すいませんっ!!!」
レンは、慌ててソウタから身体を離し、深々と低頭してフルフルと震える。
「いっ、いや良い――それより、何でキミがツツキに?、一体どういう……」
ソウタは、今までの抱擁など無かったかの様に、真剣な表情で自分が知る事態との急変について尋ねる。
「はっ!、はいっ!、あっ、あのぉ……」
一気にシリアスモードに転じたソウタとは違い、レンは自身が今していた、大胆過ぎる行為の余波で、思う様に言葉が紡げない。
話題の気配が替わる事を察したヒカリは、その隙に、遠慮めいた態度を醸して、フェードアウトしようとするが――
「……おいっ!、どうしてソコで、"妾"に遠慮するんだっ!」
――と、アヤコたちの側に移動しようとした所で、アオイが声音こそは囁く程度だが、怒っていると解るニュアンスで呼び止める。
「どうしてって……大事なお話っぽいよ?
それに――アオイちゃん、あの娘を"妾"呼ばわりは、どうかと思うけどなぁ……」
ヒカリは――実に達観した素振りで、ソウタとレンの様子を見やっている。
「おまっ……!、いや、コレも"正妻の余裕"というヤツか……」
「アオイちゃん……いい加減、怒るよ?」
アオイの執拗な"ソウタ弄り"に対し、コレもまた"正妻の某"なのか、ヒカリは彼女に冷めた眼差しを向ける。
「それは――私からお話致します、ソウタ殿よ」
動揺しているレンに替わって、側の茂みを越えて来たのは、ユキと手を繋いだヨシゾウだった。
「ソウタさん――お久し振りです」
「!?、ユキだってぇ?!、それに、アンタは……」
意外なユキの登場にも、ソウタは心底驚き――同時に、この二人を連れているヨシゾウの身なりを見据えてみると、ソウタは鞘に手を掛け、鋭い眼光をヨシゾウに向けた。
「おい――どうして"鳳凰紋の鞘"を提げてるヤツが、この娘たちを連れてる?」
(!!!!)
殺気も帯びたソウタからの問いに、ヨシゾウは圧倒され、呼吸すら間々ならずに押し黙った。
そのソウタが放つ殺気には――ハルにも、アオイにも、そして、界気を使った戦闘にも覚えを持つ、ヒカリにも伝わり、彼女らも一斉に息を呑む。
(こっ、これが刀聖様の剣気――っ!、これほどとは……)
ようやく呼吸に有り付けたヨシゾウは、心中で今の感覚を思い出して恐怖した。
「ソウタ――その方は、スヨウと袂を分かち、ヨクセに組した者です、柄を収めなさい」
既に、刃の一部(※実刀)を晒しているソウタに、アヤコは簡素に事情を告げて彼を諭した。
「……じゃあ、仔細を話して貰いましょうか?」
――
――――
「――そうか、オリエさんの屋敷にまで……くそっ!、甘かったな」
レンたちの経緯を聞いた、ソウタは下唇を噛み、悔しげに拳を握った。
「幸い――屋敷の半壊程度で済んで良かったと、頭領は申しておりました」
ヨシゾウは、こめかみに冷や汗を滲ませながら、ソウタの方に顔を伏せながら話す。
「抜刀しようとして、ビビらせておいて何だが――俺に、敬語は要らないっス。
アンタ、見たところ侍だろ?、若造に……諂うのは本意じゃねぇでしょ?」
――と、ソウタはヨシゾウの態度から察して、無礼講で話す事を望んだ。
「かたじけない――心遣い感謝する。
『暗衆泣かせ』の異名も持つ、この地になら――スヨウも手出しは出来ぬと思うた疎開だ。
レン嬢の事は、身命を賭してでも守る覚悟ゆえ、任せてくれ」
ヨシゾウは胸を張り、ソウタに鞘を持ち上げて見せて意気込みを示す。
「その前に――鞘の拵えを直さねばな。
一日で、二度も懸念を与えている様では、私もたしなみが甘い」
ヨシゾウは微笑し、自らへの皮肉を込めてそう言った。
「レン、ユキ――ごめんな。
俺の詰めの甘さのせいで、怖い思いをさせて……」
ソウタは、レンとユキに向けて頭を下げ、二人に詫びた。
「そっ、そんな、謝らないでください……」
レンは、謝意を示すソウタの態度に、オロオロと狼狽し――
「そうですよ。
おかげで私たちは、船旅なんていう、貴重な体験が出来たんですよ♪」
――ユキは両手を合わせ、楽しげに口元を綻ばせた。
「――ソウタ」
ソウタたちの会話が一段落着いた所に、アヤコが割って入って来る。
「アヤコ様……査察団護衛に参じた経緯ではありますが、ソウタ……ツツキが地に戻りましてございます」
ソウタは仰々しく畏まり、アヤコに帰郷の旨を告げた。
「本当に、よく戻ってくれました」
アヤコはまさに、母の眼差しでソウタを見詰め、彼の手を両手で包む様に握った。
「はっ、はい……手紙一通も遣さず、ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした」
ソウタは、唇を強く結びうな垂れ、アヤコにも詫びを入れた。
「詫びる必要などありません――貴方は、このツクモで何を成すべきかを求め、旅に出たのですから。
私たちを気遣う必要など……」
アヤコは、諭す様にそう言うが、表情はそんなソウタの思いを喜んでいるのは見え見えだ。
「――だけれど、"契りを結んだ女ぐらいには気を遣った方が、素敵な殿方ですよ?」
――そう、アヤコは微かに小声で呟き、ヒカリの方へと目配せをして、からかう様なウインクをソウタに見せた。
「ところで――貴方に会わせたい人がおります。
明日……城に着いたら、私の私室を訪ねてくれるかしら?」
そこまでを言ってから、アヤコは口元をソウタの耳に寄せ――
「――"神言の秘密"を知る御方です。
刀聖である貴方に、会うために来られた方故……そのつもりで」
――と、険しい面持ちで囁いた。
「!、神言の?、一体……」
「それも明日――この様な場でありますしね」
アヤコは、額に冷や汗を滲ませながら、ソウタの問いに答えると――
「――査察団の皆様、今宵はこの地にて、ゆるりとは行かなくとも、長旅の疲れを和らげください。
では、改めて明日……」
――と、領主としての顔付きへと戻り、査察団への挨拶を終えた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる