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血染めの秋分
決着
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"覇者"と"覇者"がまみえている、天警本陣でのヨシノブとショウの戦いは――膠着状態が続いていた。
「大武会での様で、解っては居たが――本当に、強くなったモノだ」
ヨシノブは構えを修正しながら、不適な笑みを浮べる。
「ふふ――あなたの方こそ、前線から退いて久しいというのに、まったく衰えてはおりませんね」
ショウも嬉そうに、似た様な笑みを見せて応じる。
「だが、大勢の局面は……既に、お前の術中であろう?」
「!」
ヨシノブは笑みを解き、ジリジリとショウからの距離の拡げ、ショウの顔付きが、焦りを見せるモノに変わる。
「ワシを"討ちに来た"という、怨み云々は――この場、この時に至っては、ただの方便であろう?
ワシの足止めこそが、貴様が出張った本来の目的であろうて?」
そう呟きながら、ヨシノブは、丁度ショウの長刀から、一振りに一間歩を足した距離まで退いた。
(!、"決めに"――来るか!)
そのヨシノブの行動から、一閃必殺の一撃を目論んでいる事を察し、ショウは長刀を少し上段寄りに構え直す。
全体の戦況に触れる事が出来る程、態度に余裕を覗かせるヨシノブと、思惑を言い当てられ、一気に表情を曇らせたショウ。
2人の"覇者"の間には、まだまだ決定的な力量差があるコトを、ショウはこれまでの数合と、このやり取りで思い知らされ、悔しげに唇を噛む。
「"外"は――今し方、大勢が決した様だな。
もはや、この謀反――まみえておるのは、どうやら我ら二人のみ!」
ヨシノブは、終局を匂わせる言葉を使い、グッと強く柄を握る。
「さりとて――戦況覆し兼ねない武勇を持ち、将の立場でもある貴方を、この場から放っては、これ以上の後願の憂いは無い!
何としても――刺し違えてでも、今!、貴方を討たねば!、我らが勝利を得たとしたとしても、それは危ういモノになってしまう!」
ショウは、刀を両手持ちに替え、額に冷や汗を掻きながら神経を集中して、これからの一合に備える。
「お前が――それ程の思いを寄せるほど、この謀反に大義があるというのか?」
「ええ。
少なくとも、私は貴方への怨恨と決別出来ますし、貴方と大巫女が造り上げた、ただひたすらに、始祖神の教えに準ずる事に凝り固まった、人の自由無き、クリ社と士団を造り直す事が出来る!
そうすれば、クリ社も、士団も、そして、大巫女を――父上の頃の様な、本来の立場へと還す事に繋がる!」
二人は、睨み合ったまま、この戦いの目的について論じ始める。
「――つまり、大巫女様を、かつての傀儡が如き身へと還す事が、お前たち――いや、二言目には『民の意思』を挙げる、お前たちの出資者――北コクエの望みか?」
ヨシノブは、ショウたちの背後で暗躍している存在が、クリ社と大巫女へ不平を抱いていると思われる、北コクエではないかと勘繰る。
「!?、そこまでを知りながら――我らの企みを泳がせていたというワケですか!」
ショウは目を見張り、謀反計画を見透かしていたという、ヨシノブの言葉に驚きを見せる。
「おう――断片的な情報に過ぎなかった故、確信は無かったし、ワシはお前たちの良心を信じたのだが……お前の今の言葉で合点が行った。
しかし、もし確信があっても、ざっと士団の半数以上という、反乱勢力の規模が規模――気安く粛正の類とは行けず、自ずとこの結果に成ったではあろうがな」
ヨシノブは、自戒を込めてそう言い、呆れ気味に再び笑みを浮かべる。
「それにしても――お前は、その自らの意志の象徴として、ワシを討つ事を本懐としたか。
随分と、手前勝手な理屈よなぁ?」
「うっ!、うるさいっ!」
ヨシノブの嘲笑う様な言い方に、ショウは激高して持った刀の刀身を震わせる。
「いや――その"手前勝手"を、成せる様にする事こそが、北コクエが言うトコロの"自由主義"か?、そんな卑しき理想など!、片腹痛し!
若者よ――この、貴様らの眼には骨董品が如く見えているであろう、ワシを討ち壊して進めば良い!、出来るっ!、モノならなっ!?」
ヨシノブは、吐き捨てる様にそう言って、飛ぶ様な勢いで床板を蹴った!
「!、やぁぁぁぁぁっ!!!!!」
ショウも、ヨシノブの渾身の一撃に備え、裂帛の気合いを込めて一歩前に出るっ!
――グサッ!
「……!?」
その時――猛烈な襲歩を見せ、ショウの間合いの内に入ったヨシノブに向けて、思い掛けない方向から伸びた切っ先が、彼のみぞおちに突き刺さった!
「――ぐふぅ!、……ヤ、ヒコぉ?!」
その切っ先を、ヨシノブが横目に追うと――その刀を持っていたのは、いつの間にか、本陣の階段を駆け上がって来ていた、八番隊長ヤヒコであった!
「――っ!?」
その意外な援軍の登場に、ショウは驚き目を見張る。
「――ショウっさぁんっ!、今だぁぁぁぁっ!」
ヤヒコは、刃をズブズブとヨシノブの腹を突き進ませ、その痛みでヨシノブは苦悶の表情を浮かべ、口からはダラダラと吐血する。
「!!!、うぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!」
ショウは長刀を大きく振り被り、袈裟懸けにヨシノブに斬撃を見舞ったっ!
「!!!!、ぐぅっ!、ぐぉぉぉぉぉっっっっ!」
ヨシノブは、大きく目を見開いたまま、その場にうつ伏せに倒れ込み――絶命した。
「はっ!、はははははははっ!」
ヨシノブが倒れ込む際、突き刺した刀の柄から手を放したヤヒコは、震えた声で笑い出す。
もちろん、声だけではなく、全身を震わせ――
「――なっ、何でも、見透かした様に、偉ぶってるからだぁっ!、この老害ジジイっ!」
――と、蔑む様にヨシノブの躯を見下し、睨み続ける。
「――っ!!!!!!」
「――ぐほぉっ!?」
その刹那、ヤヒコの頬を強烈な拳で殴り、床の上へと彼を転がしたのは――ショウだった。
「なっ!?、ショウさんっ!、いきなり何すんだぁっ!!!」
「――解らんっ!!!、反乱の将としては、君の援護に感謝出来るがっ!
一人の武人としては、君を殴らずには居られなかったっ!!」
突然の一撃に困惑したヤヒコを、ショウは侮蔑の眼差しで見詰め、混乱した口調でそう叫んだ。
「大武会での様で、解っては居たが――本当に、強くなったモノだ」
ヨシノブは構えを修正しながら、不適な笑みを浮べる。
「ふふ――あなたの方こそ、前線から退いて久しいというのに、まったく衰えてはおりませんね」
ショウも嬉そうに、似た様な笑みを見せて応じる。
「だが、大勢の局面は……既に、お前の術中であろう?」
「!」
ヨシノブは笑みを解き、ジリジリとショウからの距離の拡げ、ショウの顔付きが、焦りを見せるモノに変わる。
「ワシを"討ちに来た"という、怨み云々は――この場、この時に至っては、ただの方便であろう?
ワシの足止めこそが、貴様が出張った本来の目的であろうて?」
そう呟きながら、ヨシノブは、丁度ショウの長刀から、一振りに一間歩を足した距離まで退いた。
(!、"決めに"――来るか!)
そのヨシノブの行動から、一閃必殺の一撃を目論んでいる事を察し、ショウは長刀を少し上段寄りに構え直す。
全体の戦況に触れる事が出来る程、態度に余裕を覗かせるヨシノブと、思惑を言い当てられ、一気に表情を曇らせたショウ。
2人の"覇者"の間には、まだまだ決定的な力量差があるコトを、ショウはこれまでの数合と、このやり取りで思い知らされ、悔しげに唇を噛む。
「"外"は――今し方、大勢が決した様だな。
もはや、この謀反――まみえておるのは、どうやら我ら二人のみ!」
ヨシノブは、終局を匂わせる言葉を使い、グッと強く柄を握る。
「さりとて――戦況覆し兼ねない武勇を持ち、将の立場でもある貴方を、この場から放っては、これ以上の後願の憂いは無い!
何としても――刺し違えてでも、今!、貴方を討たねば!、我らが勝利を得たとしたとしても、それは危ういモノになってしまう!」
ショウは、刀を両手持ちに替え、額に冷や汗を掻きながら神経を集中して、これからの一合に備える。
「お前が――それ程の思いを寄せるほど、この謀反に大義があるというのか?」
「ええ。
少なくとも、私は貴方への怨恨と決別出来ますし、貴方と大巫女が造り上げた、ただひたすらに、始祖神の教えに準ずる事に凝り固まった、人の自由無き、クリ社と士団を造り直す事が出来る!
そうすれば、クリ社も、士団も、そして、大巫女を――父上の頃の様な、本来の立場へと還す事に繋がる!」
二人は、睨み合ったまま、この戦いの目的について論じ始める。
「――つまり、大巫女様を、かつての傀儡が如き身へと還す事が、お前たち――いや、二言目には『民の意思』を挙げる、お前たちの出資者――北コクエの望みか?」
ヨシノブは、ショウたちの背後で暗躍している存在が、クリ社と大巫女へ不平を抱いていると思われる、北コクエではないかと勘繰る。
「!?、そこまでを知りながら――我らの企みを泳がせていたというワケですか!」
ショウは目を見張り、謀反計画を見透かしていたという、ヨシノブの言葉に驚きを見せる。
「おう――断片的な情報に過ぎなかった故、確信は無かったし、ワシはお前たちの良心を信じたのだが……お前の今の言葉で合点が行った。
しかし、もし確信があっても、ざっと士団の半数以上という、反乱勢力の規模が規模――気安く粛正の類とは行けず、自ずとこの結果に成ったではあろうがな」
ヨシノブは、自戒を込めてそう言い、呆れ気味に再び笑みを浮かべる。
「それにしても――お前は、その自らの意志の象徴として、ワシを討つ事を本懐としたか。
随分と、手前勝手な理屈よなぁ?」
「うっ!、うるさいっ!」
ヨシノブの嘲笑う様な言い方に、ショウは激高して持った刀の刀身を震わせる。
「いや――その"手前勝手"を、成せる様にする事こそが、北コクエが言うトコロの"自由主義"か?、そんな卑しき理想など!、片腹痛し!
若者よ――この、貴様らの眼には骨董品が如く見えているであろう、ワシを討ち壊して進めば良い!、出来るっ!、モノならなっ!?」
ヨシノブは、吐き捨てる様にそう言って、飛ぶ様な勢いで床板を蹴った!
「!、やぁぁぁぁぁっ!!!!!」
ショウも、ヨシノブの渾身の一撃に備え、裂帛の気合いを込めて一歩前に出るっ!
――グサッ!
「……!?」
その時――猛烈な襲歩を見せ、ショウの間合いの内に入ったヨシノブに向けて、思い掛けない方向から伸びた切っ先が、彼のみぞおちに突き刺さった!
「――ぐふぅ!、……ヤ、ヒコぉ?!」
その切っ先を、ヨシノブが横目に追うと――その刀を持っていたのは、いつの間にか、本陣の階段を駆け上がって来ていた、八番隊長ヤヒコであった!
「――っ!?」
その意外な援軍の登場に、ショウは驚き目を見張る。
「――ショウっさぁんっ!、今だぁぁぁぁっ!」
ヤヒコは、刃をズブズブとヨシノブの腹を突き進ませ、その痛みでヨシノブは苦悶の表情を浮かべ、口からはダラダラと吐血する。
「!!!、うぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!」
ショウは長刀を大きく振り被り、袈裟懸けにヨシノブに斬撃を見舞ったっ!
「!!!!、ぐぅっ!、ぐぉぉぉぉぉっっっっ!」
ヨシノブは、大きく目を見開いたまま、その場にうつ伏せに倒れ込み――絶命した。
「はっ!、はははははははっ!」
ヨシノブが倒れ込む際、突き刺した刀の柄から手を放したヤヒコは、震えた声で笑い出す。
もちろん、声だけではなく、全身を震わせ――
「――なっ、何でも、見透かした様に、偉ぶってるからだぁっ!、この老害ジジイっ!」
――と、蔑む様にヨシノブの躯を見下し、睨み続ける。
「――っ!!!!!!」
「――ぐほぉっ!?」
その刹那、ヤヒコの頬を強烈な拳で殴り、床の上へと彼を転がしたのは――ショウだった。
「なっ!?、ショウさんっ!、いきなり何すんだぁっ!!!」
「――解らんっ!!!、反乱の将としては、君の援護に感謝出来るがっ!
一人の武人としては、君を殴らずには居られなかったっ!!」
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