流れ者のソウタ

緋野 真人

文字の大きさ
上 下
64 / 207
それぞれの大義

無双国守

しおりを挟む
「――ふん、気付いておったか……上出来じゃ」

編み笠男も、口元を楽しげに緩ませ、ソウタに値踏みをする様な事を言う。

「宿場――いんや、旅籠の内から尾行してただろ?、丁稚に掏りまでさせてさぁ?」

ギリギリと鍔迫り合いをしながら、ソウタは眼光を鋭くさせて、柄に力を込める。

編み笠男の刀を弾いたソウタは、一旦、距離を取ろうと後ろに下がるが――

「おや?、我と刃を交えるのは――イヤ、かのぉっ!?」

編み笠男は、大きくは体勢を崩しておらず、まさに返す刀の様相で、下段からソウタへ斬撃を見舞う!

(――っ!?、体幹強ぇっ!、おまけに、速ぇぞぉ?!)

ソウタは、編み笠男の瞬錬な動きに驚き、体を退きながら目を見張る。

「ちぃっ!」

編み笠男の斬撃を再び受け止めたソウタは、距離を取るどころか、更に詰め寄られた事に苛立つ。

編み笠男は、一切攻撃を緩めず、次から次へとソウタに斬撃を打ち込む!

(ほう――やるな。

これだけ崩しにかかっても、楽に捌き続けるとは)

(なんだコイツ?、これだけの連撃しながら、息一つ乱してねぇぞぉ?!)

編み笠男は、感心した様子でニヤけ、ソウタは、相手の力量に困惑して顔を歪める。


そんな状況の最中、先に刃を引いたの編み笠男――ソウタの刀身まあいから、二つ半程度離れた位置にまで下がる。

距離を取った編み笠男は、低い姿勢で構え――刀を、素早く鞘に収めた。

(……退いた?!、いや――"居合い"か!)

編み笠男の意図に気付いたソウタも、ジリジリと自分も低い姿勢を取り、編み笠男の居合い抜きに備える。

(コイツぁ……出し惜しみは、出来ねぇかもな)

これまでの編み笠男の動きや、彼の醸す雰囲気に、ソウタは光の刀を抜く覚悟を決めて、実刀の刀身を外し、光刃を晒した!


「ふむ、やっと、抜いてくれたか」

光の刀を見ても、編み笠男はまったく動じず――逆に、そんな戯れ言を呟き、嬉しそうに口元を緩める。

「――てぇこたぁ、俺が光刃コイツを持ってると、見越して襲って来たのかい?、随分と酔狂なお侍さんだ」

ソウタは、編み笠男の反応と、聴こえた呟きに呆れ、苦笑を浮べてこめかみを震わせる。


――編み笠男は、笑顔のまま、低い姿勢で一気に駆け出す!

対したソウタは動かず、近付いて来る編み笠男の手元に意識を集中させ、足下には地面に根を張った様に力を込めさせる。

猛然と鞘の中を刃に奔らせ、編み笠男の刀が抜かれ――ソウタは光の刀を、刃ごと編み笠男を斬り伏せる勢いで振り被る!

光の刀は――編み笠男の刀を圧し折り、光刃はそのまま編み笠男の首筋へと向かう!


「――くぅ!」

――が!、まさに紙一重のタイミングで、編み笠男は上半身を仰け反らせて光刃を避けた!

「くっ……はぁ!」

二人は、密着に近い体で交差し、そのまま互いに動きを止めた。

編み笠男は、切っ先を折られた刀をダラリと下げ、ソウタは、振り抜いた光刃を天に向けたまま静止する――両者共に、渾身の一撃を放った故であろう。


「――えっ!?」

振り抜かれた光の刃を受け、蒸発された形で編み笠を失った男の素顔を見て――ソウタは、驚愕の声を挙げ、慌てて交差状態を解き、後ろへと下がる。

「やれやれ――結構な業物に、相当な界気を込めたつもりだったのだがな。

あっさりと折られるとは……流石は、当世の刀聖と光の太刀か」

そう呟く編み笠――いや、"謎の男"は、見事に折られた愛刀の惨状を、まじまじと見詰めた。

「なぁるほど、アンタ――いや、貴殿あなたなら、刀聖おれとここまで殺り合えても納得だ」

ソウタは苦笑し、眼前の謎の男に敬意を表して、光の刀を下げる。


そう――この謎の男は、ツクモの者なら誰もが知っていて、誰もが認める武勇を誇る男だった。


「十五年前、三大会前の大武会――当時、スヨウの"次期国守"の身に有りながら、素性を隠してそれに出場――駿足の居合いを武器に、見事優勝を掻っ攫った――」

ソウタは、冷や汗を頬に垂らしながら、そう呟いて、ゴクリと生唾を呑み――

「――『無双国守むそうくにもり』、スヨウノ・ノブタツ!」

――眼前に立つ、先日までの敵国の君主と対峙した。


「ふっ……そなたの様な若人でも、我の若気の到りを知っておるのか……恥ずかしいのう」

ノブタツは破顔し、折られた刀を鞘に仕舞う。


「――御家方様っ!」

行商や、巡礼者に扮した、近衛や暗衆と思しき一団が、ソウタと対峙する君主の身を案じ、木立の辺りに慌てて参じた。


「これこれ――我一人で良いと、言うたであろう?」

わらわらと集まってきた、近衛たちの慌て様に、ノブタツは苦笑いを見せる。

「それに――光の太刀の姿も、観ていたのであろう?

つまり、うぬらが束になっても、まったく歯が立たぬのは必至の相手――大人しく、退いておるのが賢明であろうて?」

「かっ!、勝てぬ相手とて、丸越しの君主を放って置いては、ツクモ武士の名折れにございますっ!」

呆れ気味の君主の言葉に、近衛の一人は、恐怖からか声を震わせて応じる。


「どうして――スヨウ国守あなたみたいのが、街道こんなとこに居るのさ?」」

ソウタは、光の刀を敵意を放つ護衛たちの方へ向けながら、意外過ぎる眼前のVIPに訳を質す。

「なぁに、此度の戦に関して、大巫女様への弁明の帰りに――龍の紋の荷を抱えた、コウオウの使者らしき者が居ると聞き、その使者に立ったという刀聖に、ちと挨拶をと思うてな」

ノブタツは腕組みをして、一言ずつ頷きながら、意図を答える。

「……」

ソウタは、飄々としたノブタツの返答に、苛立ちを模様して、柄の握りを強める。


その様子を見やり、ノブタツは――

「――どうじゃ刀聖?、とりあえず……光の太刀を収めてはくれぬか?

及び腰ばかりとはいえ、五人の直衛を付けた無双国守われ死合しおうのは――そなたとて鎧袖一触、とは行かぬであろう?

中腹の宿場にて、粗末とはなるであろうが、一席設ける故――我に付き合うてはくれぬか?」

――と、柔和な物腰で、休戦てうちを提案する。


ソウタはその提案に、ノブタツの顔を一点に睨みながら――

「……わかった」

――と、光刃を収めながら応えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...