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光刃現眼
ホウリ平原の戦い
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(――ちぃっ!、やっぱり!、初めての殺しに、"アテられて"んじゃねぇか!)
竦むカオリの姿に、やはり杞憂は間違っていなかったと気付いたソウタは、悔しげに歯軋りを催す。
「カオリさん!、カオリさん!、敵!、敵、来てる!」
他の義兵たちも、ソウタの叫びで、カオリの異変に気付く。
「ソッ!、ソウタ……カオリはどうしたの?!」
タマなどは、心底動転して、馬を並べているソウタに状況を問う。
「初めての戦で、気がおかしくなってる!、おいっ!、カオリさん!」
そんなソウタの声は、今のカオリには聞こえず――迫る敵兵の気迫に圧倒され、瞳が虚ろに変じ、その兵の姿しか見えない。
それ以上に、その気迫に恐怖まで感じ、身体中には悪寒が奔っていた。
「……くそっ!、しゃーねぇかぁ!」
ソウタは、ほんの一瞬、悩む素振りを見せて――
「――カオリィィィッ!!!!!」
――バチィッ!
――と、平手でカオリの頬を叩いたっ!
「――っ?!」
その衝撃と鋭い痛みに、カオリは我に返る。
(よしっ!)
その反応に、ソウタは気付いて――っ
「戦えなくても良いっ!!、合図だけはしろ!!!、俺らの"将"は、アンタなんだからっ!」
――と、一喝した!
カオリは一瞬、まだ呆けていたが、ソウタの一喝と、自分を注視している、有志隊の面々の眼差しを観て、全てを理解した様で一つ、大きく頷いてから――
「――とっ、突撃ぃぃぃぃぃっ!!!!!」
――そう叫んで、長槍を掲げ、敵軍団への突撃を命じた!
「よぉぉぉっし!、大暴れするよぉ~~~~~っ!」
その号令に、タマは笑みを浮べて駆け出し、先頭を切って突進し――
「さて、矢はまだ――終わってないぞ!」
――ギンは、背中の籠から矢を取り出し、風の界気を纏わせながら、弦につがえ――
「――おおおおぉぉぉぉぉっ!」
――他の義兵たちも、各々の武器を掲げて突撃して行った。
そして、ソウタは、まだ駆け出さず、皆を見送るカオリと、馬首を並べたままだ。
「ソウタ殿、助かりました……そして、お見苦しい醜態を、晒してしまい――」
カオリは、今の醜態を心底悔み、口を真一文字に結んでうな垂れる。
「虚勢を張れてた分だけ、立派なモンさ――」
ソウタは、"あえて"なのか、カオリの弁明には一切触れず――
「――初めて、人を斬った時……俺は、飯も喰えなかったし、励ましてくれようとした幼馴染には、謝りきれねぇ程の"酷ぇコト"もした。
それから比べりゃあ、アンタはやっぱり"女傑"だよ」
――と、自分の経験らしき事を語りながら、意気消沈したカオリへ笑顔を向ける。
そして、ソウタは直ぐに、険しい表情へと変えて――
「戦えなくても良いとは言ったけど、自分の身ぐらいは守れるよね?
いつまでも、護衛をしてるってワケには――」
――と、激戦が始まった最前線を指差し、自分も前線に出たいという意志を伝える。
「――何を仰る!、既に吹っ切れ申した!!、私も、戦線に加わりますぞ!!!」
カオリは長槍を掲げ、戦える事を主張する。
「そうかい、じゃあ――」
ソウタは、腰からゆっくりと抜刀して――
「――一暴れましょうかぁ!、一緒に!、はぁっ!」
――と、カオリの力強い返答に応じ、テンの横腹をかかとで叩き、襲歩の合図を送る!
「はいっ!!!、やぁっ!」
カオリも同様に、愛馬の横腹を蹴って一気に駆け出した!
「むうぅ、凄まじいな……」
丘の上の本陣で、戦況を見守るカツトシは、腕を組んで、唸り声を交えてそう呟く。
彼が"凄まじい"と、評したのは、戦場を蹂躙する有志隊の働きに対してだ。
カオリの号令から始まった、有志隊の突撃は――瞬く間に、スヨウ軍の最前線を呑み込み、既に敵の中核に迫る位置にまで進攻していた。
「自軍じゃから、安心して観れるが――コレが敵方だったらと思うと、肝が冷えるわい」
カツトシは少し身震いをして、遠くに見える栃栗毛の馬に跨る、ソウタの馬上姿を見やる。
「カオリとソウタ殿――だけではない様ですね。
そういえば、コケツが者だという猫族や、えらく弓に長けた狼族も居ると、カオリが喜々として語っていましたが」
シュウイチは、ここから観ても目立つ活躍をしている、小柄な猫族の少女や、次々と後列から押し寄せようとしている敵の後詰めを、的確に射抜いてみせている、青毛の狼族を凝視する。
「敵は、完全に崩れておるな――よし!、弓隊!、界気隊は前へ!、今度は、コチラが総攻めじゃあっ!、一気に敵軍を追い払う!」
カツトシは、立ち上がって手を振り上げ、総攻めの指示を出した!
「むうっ、動きが早い!、カオリだけではない……とでも言うのか?」
スヨウ軍の最後方で、馬上から戦況を見渡すマサノリは、分の悪い状況に思わず唸る。
「あっ?!、おじいちゃん!、弓隊と界気隊が、丘を下り始めてるよっ!」
リノは、マサノリの肩を叩き、丘の中腹を指差す。
「ん~~~っ?」
リノを声から、マサノリは目を凝らして、丘の中腹を見やり――
「――よしっ!、リノ!、でかしたぁ!、飛翔部隊への狼煙を上げよ!」
――と、一早く気付いた義娘を賞賛してから、手勢に狼煙を上げる指示を出す!
――ドンッ!、ヒュゥゥゥッ~……
(――狼煙が上がった!、これで!、飛翔部隊が敵本陣を……)
――と、苦戦を強いられている、主戦場の最中のスヨウ兵たちは皆、ニヤリと笑って勝利を確信した。
……だが、丘の向こうからは、鳳族の羽ばたきどころか、野鳥の羽音すら響かない!
「どっ!、どうした事かぁ?!」
マサノリは激しく狼狽し、両拳を強く握って怒鳴る。
その時、ついに、鳳族の羽音が聞こえたが――それは、マサノリの側からであった。
「もっ、申し、上げますぅ……」
羽音の主は、低空を飛んで来た、傷だらけの鳳族の青年だった。
「?!、どっ!、どうしたの?!」
リノは、居の一番にその鳳族の青年に駆け寄る。
「ひっ、飛翔部隊、さっ、昨夜、敵の奇襲を受け――壊、滅ぅ……
衛、生兵を……要請、すぅ……」
鳳族の青年は――そこまでを言って、果てた。
「……」
その青年の姿と、報告の内容を噛み締める様に、マサノリは深く目を閉じ――
「――全軍に、撤退の布れを……潮時じゃあ」
――唇を強く噛んで、リノへ撤退の指示を命じた。
「――退け!、退けぇい!、負け戦じゃあ!」
撤退の指示の伝播で、次々と敗走する兵たちを見送る様に、マサノリは鳳凰紋の軍旗を自ら振るって、その指示が前線にも行き渡る様に叫びを上げる。
「――深追いはならぬ!、我らはっ!、皇領の専守を芯とする皇軍!、殺戮を旨としているのではなぁいっ!」
一方――勝った方のカツトシは、側のシュウイチに、こちらも金糸龍の旗印を振り上げさせ、追撃禁止の布れを知らしめる。
「終わりましたなぁ!、大勝利です!」
カオリは、満面の笑みで、蜘蛛の子を散らす様に敗走する、スヨウ兵の背中を見やる。
「そう、ですねぇ……」
ソウタも、同じ様に敵の敗走を見ていたが――彼の方は、何とも、賦に落ちない素振りをしている。
「――"ココ"、かなぁ?」
ソウタは、何やらそんな独り言を微かにつぶやくと、テンの横腹を蹴り、また襲歩を命じた。
「えっ?!、ソウタ殿っ!?、いっ、何処へぇっ?」
カオリは、ふいと駆け出した、鞍上のソウタを慌てて呼び止める。
「あっ、ちょいと野暮用――追撃じゃあないから、安心してぇ~!」
呼び止めるカオリの声に、ソウタはそう、手を振って応じた。
「あっ……」
カオリは、その時のソウタの穏やかな表情に、何故か――表情とは真逆な、決意と覚悟に満ちた眼差しに観え、掛ける言葉を失っていた。
「――ん?、あれは……ソウタ殿では?」
丘の上から戦場を見渡すカツトシは、たった一騎で南へと駆け出す、見覚えのある派手な栃栗毛の馬を指差す。
「なんじゃ?、一騎のみで……追撃?」
マサノリは、不審な動きを見せる皇軍の一騎が、コチラに駆けて来る姿を視認する。
「おじいちゃん!、もう退こう!、大方はもう後方まで退いてるし、向こうも追撃はしないって――あれ?」
馬に跨り、義父にも敗走を促そうと、リノはマサノリと馬首を並べる。
「なんだろ?、使者……かなぁ?」
リノも、不思議そうにその一騎を凝視する。
「……何でしょうね?」
西の丘から観戦中のシゲマルも、不可思議なその一騎に目を奪われ――
「――単騎で追撃ぃ?、しかも、ならぬと言われながらとは……随分と血の気の多い兵なのでしょうな」
――と、ユキムネは嘲笑う様に、その一騎を指差した。
(あ~あ、あの兵士――きっと、こっ酷く叱られるわよぉ?」
その側で身を潜めるハナは、気の毒そうにその一騎を見やる。
そんな、大注目の状況でソウタは、丁度、最初に両軍が衝突した辺りの、平原の真ん中でテンの脚を止めた。
「――さあて、この辺で良いか……よっ!」
ソウタは、一人で、勝手に納得した様で、ヒョイとテンの背から飛び降りると、"愛刀の刀身"を草原に突き立てた。
そして、ふぅぅぅぅぅっ~!――と、一気に大きく息を吸い、辺りを見渡しながら、大きな声でこう叫んだ。
「――やあやあやあっ!、遠からん者は音に聞けぇ!、近らば寄って目にも観よっ!」
大道芸人の呼び込みの様な、ベタな口上を上げてから、ソウタは――突き立てた刀身から柄を外し、眩い閃光と共に、光の刀を抜き放った!
竦むカオリの姿に、やはり杞憂は間違っていなかったと気付いたソウタは、悔しげに歯軋りを催す。
「カオリさん!、カオリさん!、敵!、敵、来てる!」
他の義兵たちも、ソウタの叫びで、カオリの異変に気付く。
「ソッ!、ソウタ……カオリはどうしたの?!」
タマなどは、心底動転して、馬を並べているソウタに状況を問う。
「初めての戦で、気がおかしくなってる!、おいっ!、カオリさん!」
そんなソウタの声は、今のカオリには聞こえず――迫る敵兵の気迫に圧倒され、瞳が虚ろに変じ、その兵の姿しか見えない。
それ以上に、その気迫に恐怖まで感じ、身体中には悪寒が奔っていた。
「……くそっ!、しゃーねぇかぁ!」
ソウタは、ほんの一瞬、悩む素振りを見せて――
「――カオリィィィッ!!!!!」
――バチィッ!
――と、平手でカオリの頬を叩いたっ!
「――っ?!」
その衝撃と鋭い痛みに、カオリは我に返る。
(よしっ!)
その反応に、ソウタは気付いて――っ
「戦えなくても良いっ!!、合図だけはしろ!!!、俺らの"将"は、アンタなんだからっ!」
――と、一喝した!
カオリは一瞬、まだ呆けていたが、ソウタの一喝と、自分を注視している、有志隊の面々の眼差しを観て、全てを理解した様で一つ、大きく頷いてから――
「――とっ、突撃ぃぃぃぃぃっ!!!!!」
――そう叫んで、長槍を掲げ、敵軍団への突撃を命じた!
「よぉぉぉっし!、大暴れするよぉ~~~~~っ!」
その号令に、タマは笑みを浮べて駆け出し、先頭を切って突進し――
「さて、矢はまだ――終わってないぞ!」
――ギンは、背中の籠から矢を取り出し、風の界気を纏わせながら、弦につがえ――
「――おおおおぉぉぉぉぉっ!」
――他の義兵たちも、各々の武器を掲げて突撃して行った。
そして、ソウタは、まだ駆け出さず、皆を見送るカオリと、馬首を並べたままだ。
「ソウタ殿、助かりました……そして、お見苦しい醜態を、晒してしまい――」
カオリは、今の醜態を心底悔み、口を真一文字に結んでうな垂れる。
「虚勢を張れてた分だけ、立派なモンさ――」
ソウタは、"あえて"なのか、カオリの弁明には一切触れず――
「――初めて、人を斬った時……俺は、飯も喰えなかったし、励ましてくれようとした幼馴染には、謝りきれねぇ程の"酷ぇコト"もした。
それから比べりゃあ、アンタはやっぱり"女傑"だよ」
――と、自分の経験らしき事を語りながら、意気消沈したカオリへ笑顔を向ける。
そして、ソウタは直ぐに、険しい表情へと変えて――
「戦えなくても良いとは言ったけど、自分の身ぐらいは守れるよね?
いつまでも、護衛をしてるってワケには――」
――と、激戦が始まった最前線を指差し、自分も前線に出たいという意志を伝える。
「――何を仰る!、既に吹っ切れ申した!!、私も、戦線に加わりますぞ!!!」
カオリは長槍を掲げ、戦える事を主張する。
「そうかい、じゃあ――」
ソウタは、腰からゆっくりと抜刀して――
「――一暴れましょうかぁ!、一緒に!、はぁっ!」
――と、カオリの力強い返答に応じ、テンの横腹をかかとで叩き、襲歩の合図を送る!
「はいっ!!!、やぁっ!」
カオリも同様に、愛馬の横腹を蹴って一気に駆け出した!
「むうぅ、凄まじいな……」
丘の上の本陣で、戦況を見守るカツトシは、腕を組んで、唸り声を交えてそう呟く。
彼が"凄まじい"と、評したのは、戦場を蹂躙する有志隊の働きに対してだ。
カオリの号令から始まった、有志隊の突撃は――瞬く間に、スヨウ軍の最前線を呑み込み、既に敵の中核に迫る位置にまで進攻していた。
「自軍じゃから、安心して観れるが――コレが敵方だったらと思うと、肝が冷えるわい」
カツトシは少し身震いをして、遠くに見える栃栗毛の馬に跨る、ソウタの馬上姿を見やる。
「カオリとソウタ殿――だけではない様ですね。
そういえば、コケツが者だという猫族や、えらく弓に長けた狼族も居ると、カオリが喜々として語っていましたが」
シュウイチは、ここから観ても目立つ活躍をしている、小柄な猫族の少女や、次々と後列から押し寄せようとしている敵の後詰めを、的確に射抜いてみせている、青毛の狼族を凝視する。
「敵は、完全に崩れておるな――よし!、弓隊!、界気隊は前へ!、今度は、コチラが総攻めじゃあっ!、一気に敵軍を追い払う!」
カツトシは、立ち上がって手を振り上げ、総攻めの指示を出した!
「むうっ、動きが早い!、カオリだけではない……とでも言うのか?」
スヨウ軍の最後方で、馬上から戦況を見渡すマサノリは、分の悪い状況に思わず唸る。
「あっ?!、おじいちゃん!、弓隊と界気隊が、丘を下り始めてるよっ!」
リノは、マサノリの肩を叩き、丘の中腹を指差す。
「ん~~~っ?」
リノを声から、マサノリは目を凝らして、丘の中腹を見やり――
「――よしっ!、リノ!、でかしたぁ!、飛翔部隊への狼煙を上げよ!」
――と、一早く気付いた義娘を賞賛してから、手勢に狼煙を上げる指示を出す!
――ドンッ!、ヒュゥゥゥッ~……
(――狼煙が上がった!、これで!、飛翔部隊が敵本陣を……)
――と、苦戦を強いられている、主戦場の最中のスヨウ兵たちは皆、ニヤリと笑って勝利を確信した。
……だが、丘の向こうからは、鳳族の羽ばたきどころか、野鳥の羽音すら響かない!
「どっ!、どうした事かぁ?!」
マサノリは激しく狼狽し、両拳を強く握って怒鳴る。
その時、ついに、鳳族の羽音が聞こえたが――それは、マサノリの側からであった。
「もっ、申し、上げますぅ……」
羽音の主は、低空を飛んで来た、傷だらけの鳳族の青年だった。
「?!、どっ!、どうしたの?!」
リノは、居の一番にその鳳族の青年に駆け寄る。
「ひっ、飛翔部隊、さっ、昨夜、敵の奇襲を受け――壊、滅ぅ……
衛、生兵を……要請、すぅ……」
鳳族の青年は――そこまでを言って、果てた。
「……」
その青年の姿と、報告の内容を噛み締める様に、マサノリは深く目を閉じ――
「――全軍に、撤退の布れを……潮時じゃあ」
――唇を強く噛んで、リノへ撤退の指示を命じた。
「――退け!、退けぇい!、負け戦じゃあ!」
撤退の指示の伝播で、次々と敗走する兵たちを見送る様に、マサノリは鳳凰紋の軍旗を自ら振るって、その指示が前線にも行き渡る様に叫びを上げる。
「――深追いはならぬ!、我らはっ!、皇領の専守を芯とする皇軍!、殺戮を旨としているのではなぁいっ!」
一方――勝った方のカツトシは、側のシュウイチに、こちらも金糸龍の旗印を振り上げさせ、追撃禁止の布れを知らしめる。
「終わりましたなぁ!、大勝利です!」
カオリは、満面の笑みで、蜘蛛の子を散らす様に敗走する、スヨウ兵の背中を見やる。
「そう、ですねぇ……」
ソウタも、同じ様に敵の敗走を見ていたが――彼の方は、何とも、賦に落ちない素振りをしている。
「――"ココ"、かなぁ?」
ソウタは、何やらそんな独り言を微かにつぶやくと、テンの横腹を蹴り、また襲歩を命じた。
「えっ?!、ソウタ殿っ!?、いっ、何処へぇっ?」
カオリは、ふいと駆け出した、鞍上のソウタを慌てて呼び止める。
「あっ、ちょいと野暮用――追撃じゃあないから、安心してぇ~!」
呼び止めるカオリの声に、ソウタはそう、手を振って応じた。
「あっ……」
カオリは、その時のソウタの穏やかな表情に、何故か――表情とは真逆な、決意と覚悟に満ちた眼差しに観え、掛ける言葉を失っていた。
「――ん?、あれは……ソウタ殿では?」
丘の上から戦場を見渡すカツトシは、たった一騎で南へと駆け出す、見覚えのある派手な栃栗毛の馬を指差す。
「なんじゃ?、一騎のみで……追撃?」
マサノリは、不審な動きを見せる皇軍の一騎が、コチラに駆けて来る姿を視認する。
「おじいちゃん!、もう退こう!、大方はもう後方まで退いてるし、向こうも追撃はしないって――あれ?」
馬に跨り、義父にも敗走を促そうと、リノはマサノリと馬首を並べる。
「なんだろ?、使者……かなぁ?」
リノも、不思議そうにその一騎を凝視する。
「……何でしょうね?」
西の丘から観戦中のシゲマルも、不可思議なその一騎に目を奪われ――
「――単騎で追撃ぃ?、しかも、ならぬと言われながらとは……随分と血の気の多い兵なのでしょうな」
――と、ユキムネは嘲笑う様に、その一騎を指差した。
(あ~あ、あの兵士――きっと、こっ酷く叱られるわよぉ?」
その側で身を潜めるハナは、気の毒そうにその一騎を見やる。
そんな、大注目の状況でソウタは、丁度、最初に両軍が衝突した辺りの、平原の真ん中でテンの脚を止めた。
「――さあて、この辺で良いか……よっ!」
ソウタは、一人で、勝手に納得した様で、ヒョイとテンの背から飛び降りると、"愛刀の刀身"を草原に突き立てた。
そして、ふぅぅぅぅぅっ~!――と、一気に大きく息を吸い、辺りを見渡しながら、大きな声でこう叫んだ。
「――やあやあやあっ!、遠からん者は音に聞けぇ!、近らば寄って目にも観よっ!」
大道芸人の呼び込みの様な、ベタな口上を上げてから、ソウタは――突き立てた刀身から柄を外し、眩い閃光と共に、光の刀を抜き放った!
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