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知り過ぎた者たち
知り過ぎた者たち(前編)
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「――!?」
握られた裾から伝わる、鬼気迫るユキの様子を、鋭敏に感知したリュウジは、書斎の障子を蹴破り、素早く刀を抜いて、ヨシゾウたちに刃を突き付けた!
「――おうおうおうっ!、スヨウのお侍さん……ヨクセの頭領に、因縁を付けるったぁ、どういう了見――」
リュウジが啖呵を切り、ヨシゾウたちへ向けて凄んでいると、それを遮る様に、後ろに居るユキが――
「――お頭!、違います!、天井裏ぁっ!」
――と、彼女が『見ている』真っ赤に染まった界気の乱れは、天井付近から放たれていると伝える。
――ガタッ……
その時!、屋根裏から、足音の様な音が微かに鳴った!
「――ちぃっ!」
リュウジは舌を鳴らして、刀を直ぐに退き、その刃を、今度は足音らしき音が聴こえた部分に突き刺し、その切っ先は"何か"を捉えた!
「――リュウジぃ!」
突然、目の前で展開された刃傷劇に臆する事無く、オリエは天井裏への攻撃の成果をリュウジに問う。
「手応えは……あった。
だが、こいつぁ逃げられたな……」
ズッと、天井から刀を抜いたリュウジは、切っ先に滲む血痕を見せて、そう答える。
「――いっ!、いきなり!、何のつもりだぁ?!」
唐突に、リュウジから刃を突き付けれた恰好のサスケは、側に置いた鞘を手に取り、抜刀する態度を示す!
「『何のつもりだぁ?!』は、コッチのセリフさねっ!!」
――と、オリエはサスケ以上に激昂して見せて、彼の胸倉にむんずと掴みかかる!
その迫力に気圧されたサスケは、思わず柄から手を離してしまい、オリエの成すがままに壁に圧しつけられる!
「心配して、探しに来ましたって"フリ"をして!、やっぱり、邪魔なレンを始末しに来たのかい?!、天井裏に、暗衆まで仕込む、念の要り様でさぁ!?」
「――?!、レンを始末!?、暗衆?!、何を言って……?」
オリエの凄まじい勢いと、彼女の口から次々と放たれる、覚えの無いキーワードの羅列に、サスケは混乱して答えに困る。
「――とぼけんじゃねぇよ!」
苛立つオリエは、サスケを圧し付けている壁を叩いて――
「――てめぇらが、戦おっ始めるこじ付けに!、自作自演で虐殺事件をでっち上げたのを!、その渦中から生き残ったこの娘は、てめぇの眼ん玉で全部見てんだっ!
おまけにっ!、その生き証人を救ったのがっ!、まさかの"当世の刀聖"サマと来たら!、そりゃあどっかに、タレコまれるワケにゃあイカねぇと、早々に荷狩りまでして決着急いで、この娘もサッサと殺しちまおうとぉ!、方々はるばる探し回って来たんだろうがぁっ!?」
――と、捲くし立て、凄い形相で睨み付ける!
「?!」
「えっ……!」
「――刀聖、だとぉ?!」
――順に、ヨシゾウ、ユキ、リュウジが驚きの態度と声を挙げ、壁に圧し付けられているサスケは、捲くし立てられた言葉の意味を、上手く咀嚼出来ずに言葉を失った。
「――頭領!、お待ちくだされ!」
――と、ヨシゾウは必死の形相で、サスケの解放を懇願する!
「仰る……ヤマカキの"真相"も、此度の暗衆らしき者の事も、我らには、一切、与り知らぬ事っ!
我らは、真にっ!、娘の無事の確認を――」
「――だから!、とぼけんじゃないってのよ!
リュウジっ!、アタシが責任持つから、こいつら殺しちまいな!
スヨウは多分――街に潜ませてる暗衆を全員、アタシらの命獲ろうと、注ぎ込んでくる……たかが二人でも、先にこいつらを片付けとかねぇと、厄介なコトに――」
オリエは、ヨシゾウの懇願を一蹴し、冷酷なまでの文言で、リュウジに彼らの殺害を指示する。
その言葉に、我に返ったサスケが、もう一度、落とした刀の柄に手を伸ばす――
「――サスケぇっ!、抜刀は成らぬ!、正論は万事、そちらの側にある!」
――が、ヨシゾウは彼を一喝して、抜刀を控えるように諭す。
「たっ、隊長――」
「――合点が行った。
あの、面妖な我が軍の兵たちの成り様――村の女人たちを慰みモノとし、陵辱を働いていたと思えば、それ以上の根拠は……浮かばぬ。
それに、遺体を初見した近衛一軍の報告に合った、賊が一人だったのかと思えてしまう程、兵たちが同じ切り口で殺められている点や、隊長と副官のみにあったという、"不可思議な傷口"も――刀聖様の所業ならば、その稀有なる武勇と、光刃に因ればあるいはと、全て説明が着くのだ……」
ヨシゾウは、そこまで言うと、ボロボロと涙を溢し――
「――我が軍が、仲間たちが……あのような、コトをっ!
しかも、隅々まで、あの惨状を見分しておきながら……それに気付かない、私は……っ!」
――と、悔んで見せた。
その姿を見せ付けられたサスケは、柄から手を離し、崩れ落ちる様に膝を折る。
「――姉さん、この人たちは、本当に何も知らないようです」
ダメ押しとばかりに、ユキの界気眼が、彼らが潔白であるコトを示している事がオリエに伝えられる。
「……じゃあ、天井裏に居たってのは――」
「――娘の無事を、一早く国元に知らせねばと、私が暗衆に渡りを着けました。
暗衆は――我らと違い、ヤマカキでの事を踏まえた上で動いていたのでしょう」
オリエの尋問に、ヨシゾウは、此度の事は知らぬが故の不可抗力である事を、再び告げる。
「ちっ!、生きてココに居る事が、筒抜けってワケかい……サイアクだねぇ」
オリエは舌を鳴らし、困惑した表情で頭を抱える。
「街に、潜んでる暗衆は何人だ?、五軍の小隊長ぐらいなら、それぐらいは把握してんだろ?」
「?!、それは……」
オリエが聞いたのは、重大な軍事機密事項である――第五軍のヨシゾウが、一介の流者に伝える事を、躊躇うのは無理はない。
「アンタ――これだけのコトを知っちまって、スヨウに戻れるとでも、思ってんのかい?
アンタらも、アタシらも……後戻りが出来ねぇくらいに"知り過ぎちまった"んだ――ココは、どうにか生き残るために、隠し事はナシにしようや?」
オリエは、現状を冷静に考えるようにヨシゾウへ告げ、彼に情報提供を諭す。
「……私が、知るのは、八名――」
――と、ヨシゾウが覚悟を決め、機密を話し始めた、その時――
「?!、姉さん!、庭に八つ!、"殺意の色"をしている!」
――ユキが、暗衆の襲撃を告げる言葉を発した!
「――早ぇな、おい!、お侍さんたちよぉ?」
――と、それを聞いたリュウジは、ドスの峯を肩に乗せ、眼下にへたり込んでいるヨシゾウたちへ、その鋭い眼光を向けながら、そう声を掛けた。
「"抜こう"としてたんだ――その提げた鞘は、別に錆付いてるワケじゃねぇんだろ?
てめぇらの、情けなさを悔いてんのなら……あの嬢ちゃん、てめぇらの刃で、守ってやりゃあどうなんだ?」
それだけを言って、リュウジは刀を持って、庭に出ようと居間に隣接する縁側へと足を向ける。
それを聞いて、侍二人は――
「……隊長!」
「ああ!」
――と、素早く抜刀し、リュウジに付き従う様に庭へと向く。
その際、サスケは――
「――レン、生きて戻って来れたら、村であった本当の事を……教えて、くれよな?」
――それだけを言って、縁側から庭に出ようと駆け出した。
「――っ!?」
庭に潜む様に、屋敷の母屋を目指す暗衆たちは、前方からの人の気配に気付いて立ち止まり、黒い頭巾で頭を覆った、頭目らしき男が手をかざして、皆を制止する。
「――コウスケ殿!、ココに来ているのは承知!、姿を出せい!」
――と、ヨシゾウは高らかに声を挙げ、先程渡りを着けたという、暗衆のコウスケを呼び出す。
頭目らしき男――コウスケは、怪訝な表情を覗かせ、ヨシゾウの前へと出る。
「ヨシゾウさん、何のつもりです?
部外者の前での、我らへの声掛けは――よろしくないでしょうよ?」
頭に巻いた頭巾をずらし、口元を現したコウスケは、鋭い目線でヨシゾウを睨む。
ヨシゾウは、月明かりのおかげで少し見え始めた、コウスケの肩に巻かれた包帯状の布切れに目をやる。
「その肩の傷――先程、会うた時は無かったな?」
ヨシゾウも、相手の目線に呼応する様にキッと睨み付け、柄の握りを強めた。
「――ええ、ちょっと転んで、擦り剥いてしまい――」
「――とぼけるなぁっ!、天井裏に潜んでいた際に受けた、刀傷に相違あるまいっ?!」
ヨシゾウは語気を強め、刀の切っ先をヨシゾウに向ける。
その彼の厳しい対応を見やり、コウスケはニヤリと笑みを浮かべ――
「――はい、そうですけど?
スヨウの邪魔となりそうな、知り過ぎた小娘を、どう始末しようかなぁとねぇ!」
――と、イヤらしい言い方で見得をきり、スッと背中の小太刀を抜いた!
庭中に、ザワッとした緊張が奔ると、ゾロゾロと周りから5人の黒頭巾が姿を現した!
「ヨシゾウさぁ~ん!、もう一度言いますよぉ?、何のつもりなんですかぁ?!
スヨウのために動いている俺たちに、刃を向けて来るだなんてさぁ!?」
コウスケはトントンと小太刀を弄びながら、挑発する様な文言で、ヨシゾウの姿勢を揶揄する。
「――黙れ!、スヨウのためと言うなら!、その同胞であるはずレン嬢を、殺そうとする事こそが本末転倒!、愚の骨頂であろうよ?!」
ヨシゾウがそう凄むと、コウスケはさらにバカにした態度で――
「――あ~あ、コレだから、正規兵は、融通が利かなくて使えねぇんだよ……だから、黒面さんも、策の根っこからは遠ざけんだ」
――と、呆れた様子で頭上の月を仰ぐ。
「黒面――?!、もしや、最近御家方様の肝煎りで、いきなり流者から一軍の参謀に召された、ユキムネ殿の事か?、
思えば――暗衆が、ヤマカキの星石鉱山に関しての、コウオウとのイザコザを……五軍に報告したのも、かの者が仕官してから――」
ヨシゾウはそう呟き、イラつくコウスケの態度を我慢して、疑問を投げ掛ける。
「――惜しいねぇ、そんなにポンポンとモノ解りが良いなら……策の根っこから遠ざけられたりせずに、こんなトコで殺される事も無かっただろうにさ」
コウスケは、ヨシゾウに向けてそう言い捨て、哀れみの視線を送る。
それが答えと察したヨシゾウは、眉間にシワを寄せ――
「――ナメるな!、私はどう思っても!、これがっ!、我が国のためになる所業とは思えぬわ!」
――と激昂し、コウスケの哀れみを一瞥で返し睨みつけた。
「けっ!、死体になってからっ!、後悔するんだなぁ!、堅物オヤジぃ!」
そのコウスケのセリフが合図だった様に、暗衆たちは一斉にヨシゾウたちの方に殺到し出した!
それを見やり、リュウジは頭頂部のつむじを掻きながら――
「――ひい、ふう、みぃ……」
――と、迫る暗衆たちの頭数を数え出した。
「――とりあえず、六つか。
小僧!、おっさん!、一人で二人ずつ――殺れるか?」
リュウジは、指を二本掲げ、ヨシゾウたちに同意を問うた。
「やるしか――無いでしょうよ!」
――と、サスケは力強く返し――
「――無論だ!、五軍とて、戦えてこそ、武人としての禄を食んでおるっ!!
あと!、お主とは歳が近いと見受ける!、"おっさん"は訂正せい!」
ヨシゾウはそう言いながら、コウスケをターゲツトに定めて駆け出した!
「けっ!、違ぇねぇ!、――おらぁっ!、いくぞぉ!」
ヨシゾウの指摘に、リュウジはニヤッと笑って見せて、ダラリと下段に構えていた刀を振りかざし、襲い来る暗衆たちへ向けて突進した!
握られた裾から伝わる、鬼気迫るユキの様子を、鋭敏に感知したリュウジは、書斎の障子を蹴破り、素早く刀を抜いて、ヨシゾウたちに刃を突き付けた!
「――おうおうおうっ!、スヨウのお侍さん……ヨクセの頭領に、因縁を付けるったぁ、どういう了見――」
リュウジが啖呵を切り、ヨシゾウたちへ向けて凄んでいると、それを遮る様に、後ろに居るユキが――
「――お頭!、違います!、天井裏ぁっ!」
――と、彼女が『見ている』真っ赤に染まった界気の乱れは、天井付近から放たれていると伝える。
――ガタッ……
その時!、屋根裏から、足音の様な音が微かに鳴った!
「――ちぃっ!」
リュウジは舌を鳴らして、刀を直ぐに退き、その刃を、今度は足音らしき音が聴こえた部分に突き刺し、その切っ先は"何か"を捉えた!
「――リュウジぃ!」
突然、目の前で展開された刃傷劇に臆する事無く、オリエは天井裏への攻撃の成果をリュウジに問う。
「手応えは……あった。
だが、こいつぁ逃げられたな……」
ズッと、天井から刀を抜いたリュウジは、切っ先に滲む血痕を見せて、そう答える。
「――いっ!、いきなり!、何のつもりだぁ?!」
唐突に、リュウジから刃を突き付けれた恰好のサスケは、側に置いた鞘を手に取り、抜刀する態度を示す!
「『何のつもりだぁ?!』は、コッチのセリフさねっ!!」
――と、オリエはサスケ以上に激昂して見せて、彼の胸倉にむんずと掴みかかる!
その迫力に気圧されたサスケは、思わず柄から手を離してしまい、オリエの成すがままに壁に圧しつけられる!
「心配して、探しに来ましたって"フリ"をして!、やっぱり、邪魔なレンを始末しに来たのかい?!、天井裏に、暗衆まで仕込む、念の要り様でさぁ!?」
「――?!、レンを始末!?、暗衆?!、何を言って……?」
オリエの凄まじい勢いと、彼女の口から次々と放たれる、覚えの無いキーワードの羅列に、サスケは混乱して答えに困る。
「――とぼけんじゃねぇよ!」
苛立つオリエは、サスケを圧し付けている壁を叩いて――
「――てめぇらが、戦おっ始めるこじ付けに!、自作自演で虐殺事件をでっち上げたのを!、その渦中から生き残ったこの娘は、てめぇの眼ん玉で全部見てんだっ!
おまけにっ!、その生き証人を救ったのがっ!、まさかの"当世の刀聖"サマと来たら!、そりゃあどっかに、タレコまれるワケにゃあイカねぇと、早々に荷狩りまでして決着急いで、この娘もサッサと殺しちまおうとぉ!、方々はるばる探し回って来たんだろうがぁっ!?」
――と、捲くし立て、凄い形相で睨み付ける!
「?!」
「えっ……!」
「――刀聖、だとぉ?!」
――順に、ヨシゾウ、ユキ、リュウジが驚きの態度と声を挙げ、壁に圧し付けられているサスケは、捲くし立てられた言葉の意味を、上手く咀嚼出来ずに言葉を失った。
「――頭領!、お待ちくだされ!」
――と、ヨシゾウは必死の形相で、サスケの解放を懇願する!
「仰る……ヤマカキの"真相"も、此度の暗衆らしき者の事も、我らには、一切、与り知らぬ事っ!
我らは、真にっ!、娘の無事の確認を――」
「――だから!、とぼけんじゃないってのよ!
リュウジっ!、アタシが責任持つから、こいつら殺しちまいな!
スヨウは多分――街に潜ませてる暗衆を全員、アタシらの命獲ろうと、注ぎ込んでくる……たかが二人でも、先にこいつらを片付けとかねぇと、厄介なコトに――」
オリエは、ヨシゾウの懇願を一蹴し、冷酷なまでの文言で、リュウジに彼らの殺害を指示する。
その言葉に、我に返ったサスケが、もう一度、落とした刀の柄に手を伸ばす――
「――サスケぇっ!、抜刀は成らぬ!、正論は万事、そちらの側にある!」
――が、ヨシゾウは彼を一喝して、抜刀を控えるように諭す。
「たっ、隊長――」
「――合点が行った。
あの、面妖な我が軍の兵たちの成り様――村の女人たちを慰みモノとし、陵辱を働いていたと思えば、それ以上の根拠は……浮かばぬ。
それに、遺体を初見した近衛一軍の報告に合った、賊が一人だったのかと思えてしまう程、兵たちが同じ切り口で殺められている点や、隊長と副官のみにあったという、"不可思議な傷口"も――刀聖様の所業ならば、その稀有なる武勇と、光刃に因ればあるいはと、全て説明が着くのだ……」
ヨシゾウは、そこまで言うと、ボロボロと涙を溢し――
「――我が軍が、仲間たちが……あのような、コトをっ!
しかも、隅々まで、あの惨状を見分しておきながら……それに気付かない、私は……っ!」
――と、悔んで見せた。
その姿を見せ付けられたサスケは、柄から手を離し、崩れ落ちる様に膝を折る。
「――姉さん、この人たちは、本当に何も知らないようです」
ダメ押しとばかりに、ユキの界気眼が、彼らが潔白であるコトを示している事がオリエに伝えられる。
「……じゃあ、天井裏に居たってのは――」
「――娘の無事を、一早く国元に知らせねばと、私が暗衆に渡りを着けました。
暗衆は――我らと違い、ヤマカキでの事を踏まえた上で動いていたのでしょう」
オリエの尋問に、ヨシゾウは、此度の事は知らぬが故の不可抗力である事を、再び告げる。
「ちっ!、生きてココに居る事が、筒抜けってワケかい……サイアクだねぇ」
オリエは舌を鳴らし、困惑した表情で頭を抱える。
「街に、潜んでる暗衆は何人だ?、五軍の小隊長ぐらいなら、それぐらいは把握してんだろ?」
「?!、それは……」
オリエが聞いたのは、重大な軍事機密事項である――第五軍のヨシゾウが、一介の流者に伝える事を、躊躇うのは無理はない。
「アンタ――これだけのコトを知っちまって、スヨウに戻れるとでも、思ってんのかい?
アンタらも、アタシらも……後戻りが出来ねぇくらいに"知り過ぎちまった"んだ――ココは、どうにか生き残るために、隠し事はナシにしようや?」
オリエは、現状を冷静に考えるようにヨシゾウへ告げ、彼に情報提供を諭す。
「……私が、知るのは、八名――」
――と、ヨシゾウが覚悟を決め、機密を話し始めた、その時――
「?!、姉さん!、庭に八つ!、"殺意の色"をしている!」
――ユキが、暗衆の襲撃を告げる言葉を発した!
「――早ぇな、おい!、お侍さんたちよぉ?」
――と、それを聞いたリュウジは、ドスの峯を肩に乗せ、眼下にへたり込んでいるヨシゾウたちへ、その鋭い眼光を向けながら、そう声を掛けた。
「"抜こう"としてたんだ――その提げた鞘は、別に錆付いてるワケじゃねぇんだろ?
てめぇらの、情けなさを悔いてんのなら……あの嬢ちゃん、てめぇらの刃で、守ってやりゃあどうなんだ?」
それだけを言って、リュウジは刀を持って、庭に出ようと居間に隣接する縁側へと足を向ける。
それを聞いて、侍二人は――
「……隊長!」
「ああ!」
――と、素早く抜刀し、リュウジに付き従う様に庭へと向く。
その際、サスケは――
「――レン、生きて戻って来れたら、村であった本当の事を……教えて、くれよな?」
――それだけを言って、縁側から庭に出ようと駆け出した。
「――っ!?」
庭に潜む様に、屋敷の母屋を目指す暗衆たちは、前方からの人の気配に気付いて立ち止まり、黒い頭巾で頭を覆った、頭目らしき男が手をかざして、皆を制止する。
「――コウスケ殿!、ココに来ているのは承知!、姿を出せい!」
――と、ヨシゾウは高らかに声を挙げ、先程渡りを着けたという、暗衆のコウスケを呼び出す。
頭目らしき男――コウスケは、怪訝な表情を覗かせ、ヨシゾウの前へと出る。
「ヨシゾウさん、何のつもりです?
部外者の前での、我らへの声掛けは――よろしくないでしょうよ?」
頭に巻いた頭巾をずらし、口元を現したコウスケは、鋭い目線でヨシゾウを睨む。
ヨシゾウは、月明かりのおかげで少し見え始めた、コウスケの肩に巻かれた包帯状の布切れに目をやる。
「その肩の傷――先程、会うた時は無かったな?」
ヨシゾウも、相手の目線に呼応する様にキッと睨み付け、柄の握りを強めた。
「――ええ、ちょっと転んで、擦り剥いてしまい――」
「――とぼけるなぁっ!、天井裏に潜んでいた際に受けた、刀傷に相違あるまいっ?!」
ヨシゾウは語気を強め、刀の切っ先をヨシゾウに向ける。
その彼の厳しい対応を見やり、コウスケはニヤリと笑みを浮かべ――
「――はい、そうですけど?
スヨウの邪魔となりそうな、知り過ぎた小娘を、どう始末しようかなぁとねぇ!」
――と、イヤらしい言い方で見得をきり、スッと背中の小太刀を抜いた!
庭中に、ザワッとした緊張が奔ると、ゾロゾロと周りから5人の黒頭巾が姿を現した!
「ヨシゾウさぁ~ん!、もう一度言いますよぉ?、何のつもりなんですかぁ?!
スヨウのために動いている俺たちに、刃を向けて来るだなんてさぁ!?」
コウスケはトントンと小太刀を弄びながら、挑発する様な文言で、ヨシゾウの姿勢を揶揄する。
「――黙れ!、スヨウのためと言うなら!、その同胞であるはずレン嬢を、殺そうとする事こそが本末転倒!、愚の骨頂であろうよ?!」
ヨシゾウがそう凄むと、コウスケはさらにバカにした態度で――
「――あ~あ、コレだから、正規兵は、融通が利かなくて使えねぇんだよ……だから、黒面さんも、策の根っこからは遠ざけんだ」
――と、呆れた様子で頭上の月を仰ぐ。
「黒面――?!、もしや、最近御家方様の肝煎りで、いきなり流者から一軍の参謀に召された、ユキムネ殿の事か?、
思えば――暗衆が、ヤマカキの星石鉱山に関しての、コウオウとのイザコザを……五軍に報告したのも、かの者が仕官してから――」
ヨシゾウはそう呟き、イラつくコウスケの態度を我慢して、疑問を投げ掛ける。
「――惜しいねぇ、そんなにポンポンとモノ解りが良いなら……策の根っこから遠ざけられたりせずに、こんなトコで殺される事も無かっただろうにさ」
コウスケは、ヨシゾウに向けてそう言い捨て、哀れみの視線を送る。
それが答えと察したヨシゾウは、眉間にシワを寄せ――
「――ナメるな!、私はどう思っても!、これがっ!、我が国のためになる所業とは思えぬわ!」
――と激昂し、コウスケの哀れみを一瞥で返し睨みつけた。
「けっ!、死体になってからっ!、後悔するんだなぁ!、堅物オヤジぃ!」
そのコウスケのセリフが合図だった様に、暗衆たちは一斉にヨシゾウたちの方に殺到し出した!
それを見やり、リュウジは頭頂部のつむじを掻きながら――
「――ひい、ふう、みぃ……」
――と、迫る暗衆たちの頭数を数え出した。
「――とりあえず、六つか。
小僧!、おっさん!、一人で二人ずつ――殺れるか?」
リュウジは、指を二本掲げ、ヨシゾウたちに同意を問うた。
「やるしか――無いでしょうよ!」
――と、サスケは力強く返し――
「――無論だ!、五軍とて、戦えてこそ、武人としての禄を食んでおるっ!!
あと!、お主とは歳が近いと見受ける!、"おっさん"は訂正せい!」
ヨシゾウはそう言いながら、コウスケをターゲツトに定めて駆け出した!
「けっ!、違ぇねぇ!、――おらぁっ!、いくぞぉ!」
ヨシゾウの指摘に、リュウジはニヤッと笑って見せて、ダラリと下段に構えていた刀を振りかざし、襲い来る暗衆たちへ向けて突進した!
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