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深淵
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「――レン~!、行くわよぉ~!」
威厳を放つ、木造の巨大な門の前で、オリエはそう声高にレンを呼んだ。
「はっ、はいっ!」
――と、門の中からレンはそそくさと慌しく、風呂敷に包まれた荷物を大事そうに抱えて出て来た。
「なぁに、そんなに慌てなさんな。
今日は何も、商談の類じゃあなく、娼街ん中で食堂開いている、知り合いの婆さんトコへ、茶飲みがてらに菓子を届けるだけなんだからさぁ」
――と、オリエは微笑ましい表情で、風呂敷の上をポンポンと軽く叩く。
「いっ、いえ。
今の私は、全てが勉強中の身の上ですから、常に緊張しているぐらいが、丁度良いのだと思っています」
対するレンは、キリっと身を正し、スッと付き従う様にオリエの後ろに立つ。
――レンが、オリエの下で働き出して7日が過ぎた。
つまり、今はヤマカキ事件から9日が経った、オウビの昼下がり――レンは、屋敷の家事を中心に、ヨクセの本店や常客への使い、オリエが屋敷不在の場合の来客への対応など、この7日間で様々な仕事を経験していた。
「――ホント、アンタが来てくれて助かってるよ。
特に、アンタの来客対応のおかげで、大口の注文を一つ、取れたしねぇ♪」
オリエは嬉しそうに、後ろに付き従うレンに語り掛けながら歩く。
「いえ、私は当たり前に、お茶をお出ししただけで……」
「――それが良かったのさぁ♪
約束も無く、直接にアタシを訪ねて来たお客だったからねぇ……留守番が居なかったら、他所に依頼が行っちまったトコだったんだよ」
レンの活躍でまとまった仕事というのは、海路を用いた北コクエへの反物の輸送案件――スヨウとコウオウが緊張状態というリスクで、困難となってしまった、路に因る北への輸送を、海路へとシフトする動きは――"ツクモ随一"の港町であるオウビには、まさに恰好のビジネスチャンス。
しかも、荷狩りが横行し出したとの報を受け、急に輸送プランが飛んだ作り手は、海路輸送を模索する事に手を焼いている状況――一歩の違いで、大口の契約を逃がす可能性は高いのである。
「"それに応対した娘は、礼儀も良くて、おまけに見目麗しい美少女だった!"――って、たいそう評判らしくてさぁ。
アンタ目当ての依頼も多いって、店先では言ってたねぇ」
――そう、オリエはニタニタと笑い、からかう様にレンにそう言って、振り向いて彼女の頬を人差し指で突く。
レンは、照れ臭そうに、顔を紅潮させて――
「そっ、そんな冗談ばかり言って……からかわないでくださいよぉ」
――と、オリエに抗議する口調で言う。
「アハハ!、そういや――ソウタは今頃、どうしているのかねぇ?」
進行方向に向き直りながら、思い付いた様に、オリエが突然、ソウタの話題に触れると、みるみるとレンの顔色は、先程の照れ隠しとは比較にならないほど、顔中が紅く染まる。
それを、横目で見ていたオリエは――
(あらぁ~……こりゃあ、本気で惚れてるわ。
でも、カタブツのアイツが、連れて来る間に"手を出した"とは、思い難いし……)
――レンの動揺っぷりに、彼女のソウタに対する感情をそう邪推した。
(――一気に火を点けたのは、別れ際に厩で会ったっていう時……かしら?
ソウタって――決して、美形じゃあないけど、自覚無しに、オンナ心を鷲掴みにする様な、言動や行動をするのよねぇ……自覚無しに)
オリエは、心中でソウタの人となりをそう評し、いつの間にか好かれているという、彼の特性とでも言うべきな大事なトコロを、2度も挙げて振り返った。
「ソッ!、ソウタさんが随伴した、商隊のトウベイさん――でしたっけ?
あの方のお話では、用がある女性……の下に、再び伺う用が出来たと聞いたのが、最後だと仰っていましたね」
――と、レンは、ソウタが会いに行ったという"女性"の事を、あからさまに気にしているのが解る言い方で、オリエの話のフリに応じる。
ちなみに――トウベイが金糸龍の指輪の意味を思い出し、会いに行った相手が、まさか皇だと知るのは、まだ若干後の事である。
「うん、トウベイと別れてから――今日でだいたい四日でしょ?
テンの脚なら、軽~く翼域を出ちゃうぐらい経ってるから、どうしてるのかと思ってね」
ソウタが商隊に加わり、オウビを発ってからオウクまでが2日半――支店の宿舎に一泊して計3日、その後の彼の動向を知る由が無いオリエは、レンの様子を見るに連れ、ふと頭を過ぎった疑問を吐露したのである。
「――てっきり、アンタの事を気にして、オウクでの用が済んだら、とんぼ返りして来ると、思ってたんだがね」
オウクからオウビまでは、荷無しならば1日半で着ける距離――用を済ませて、とんぼ返りをしたならば、悠々に着いているほど、時は経っている。
「――何か、大変な用がある様子でしたから、早々には戻られないと思っています」
レンは、別れ際のソウタの背中を思い返し、寂しそうにつぶやいた。
「――まっ、刀聖としても、イロイロと動かなくちゃならない時勢だしねぇ」
オリエは、そう言いながら、ふと目に止まった、路地に捨てられていた新聞を拾い上げる。
そこには――
『スヨウ第三軍、国境を越え皇国領に侵攻――コウオウでは、これに対し義兵隊が組織される報も――』
――という、戦時を告げる見出しが躍っていた。
その見出しを見たレンは――
「戦――始まるんですね」
――と、うつむきながら呟く。
「アイツ……"参戦するかも"って、ボソッと言ってたし――戻らないのは、そのせいかもね」
オリエは口を真一文字に結び、怪訝な表情を見せて、路地に置かれたくずかごに新聞を捨てた。
「ソウタさんが、戦に……」
レンは、背中をブルっと震わせ、心配そうにボソッとつぶやく。
レンは先日、皇の占報を見聞きした際、ソウタが言い渋っていた、ヤマカキ村襲撃の犯人が――スヨウ国境警備隊だったという事実を、オリエから伝え聞いていた。
彼女は――生まれ育った国が、自分たちに対して行った蛮行に、驚きも、うろたえもしなかった。
ただ、それから救ってくれた、ソウタに対する感謝の意を、再度述べただけで。
そんな達観した様と、今の彼女の懸命さを、ふと、思い返してオリエは――
(――過ぎたコトより、これからのコト、か。
可愛い顔してる割に、ホント、強い娘だよねぇ)
――と、関心していた。
そして、オリエは――
「あらあら?、戦は、心配するトコかい?、戦の現人神みてぇな、"刀聖サマ"を向こうに回してさぁ?」
――と、ケラケラと笑い声も混ぜて、レンをからかう。
「そう――なんですけど、私は、ソウタさんが戦っている姿を見た事が無いので……"お優しい方"という印象しかないのです」
レンは、ソウタの表情や言動を思い返し、不安げ声でそう言う。
「ああ、そっかぁ……森の中に、隠れていたんだっけ?、
なら、頼りがいの無いオトコだと思っても、仕方ないかぁ」
オリエも、ソウタの様子を思い浮かべ、苦笑しながら頬をポリポリと掻く。
「そっ!、そこまでは言ってませんよぉ!
優しくて……実は、強くて――とっても、素敵な方だと思っています!」
――と、レンは自分がソウタに抱く、彼への評をそう口にした。
結構、大胆な事を口走っている、自覚をせずに。
それを、聞いていたオリエは――
「――アハハ!、悪かったねぇ。
そんなに"素敵"だと思ってるオトコを、バカにされちゃあ、気分の良いモンじゃないわよねぇ?」
――と、爆弾発言に気付かせる様なエサを撒いて、更にレンをからかう。
「っ?!、オリエさぁ~ん~~~!」
レンは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにうつむきながら、オリエに抗議の視線を送る。
それを見てオリエは、憚る事無く笑い声を漏らし――
「――アハハハハッ!
あ~あっ!、笑ったわぁ……誰かが、側に居るのって、こーいうハナシを出来るのが良いのよねぇ」
――と、噛み締める様につぶやく。
「――レン」
そして、オリエはじっと、レンの目を覗き込んで――
「この七日間で、アンタがした一番の貢献はさ……"こーいう時間"を、くれたコトさ」
――と、嬉しそうな笑顔を見せて、彼女の額を人差し指でツンと突いた。
「オリエさん……」
レンは、オリエの言葉に寂しさを感じ、哀れむ様に彼女の瞳を見詰める。
「なんだか、辛気臭くしちまったかねぇ?
でも、死んだアンタの前任――おトキさんはさ?、アタシが子供の頃から、オヤジの下で屋敷を仕切っててね。
"拾われて来た"、アタシの世話も任されてて――母親代わり、みてぇなモンを亡くしたから、ちょいと落ち込んでたのさ」
オリエは足元の小石を蹴り、照れた様にレンから目を背ける。
「えっ?!、拾われ……って」
レンは、ふいとオリエが言った、彼女の素性に驚く。
「ん?、ああ、そういや、アンタは知らないんだったか。
アタシは、先代の養女さ――ヨクセを起こした、先代には子供が……跡取りが居なくてね。
とある娼婦が、売春の果てにデキちまった、捨てられちまうはずの赤子を……オヤジが拾って、商いのノウハウを叩き込んで、跡取りに仕立てたのが、このアタシ――」
オリエは自分を指差しして、淡々とそう説明する。
「――オウビの衆には、有名なハナシだから、つい知ってるモンだと思っちまったよ」
そう言ってオリエは、遠くに見えてきた、うらびれた街並みに目をやる。
「そんな生まれ、だからなんだろうねぇ……こんな薄汚ぇトコに、つい、足が向いちまうのはさ」
そう、オリエはつぶやき、目線をレンへと移し――
「勉強中だってんなら、見聞きさせてあげるよ――そのために、連れて来たんだしね。
この街の"汚ぇ部分"ってヤツをさ♪」
――と、ニヤリと笑って言った。
威厳を放つ、木造の巨大な門の前で、オリエはそう声高にレンを呼んだ。
「はっ、はいっ!」
――と、門の中からレンはそそくさと慌しく、風呂敷に包まれた荷物を大事そうに抱えて出て来た。
「なぁに、そんなに慌てなさんな。
今日は何も、商談の類じゃあなく、娼街ん中で食堂開いている、知り合いの婆さんトコへ、茶飲みがてらに菓子を届けるだけなんだからさぁ」
――と、オリエは微笑ましい表情で、風呂敷の上をポンポンと軽く叩く。
「いっ、いえ。
今の私は、全てが勉強中の身の上ですから、常に緊張しているぐらいが、丁度良いのだと思っています」
対するレンは、キリっと身を正し、スッと付き従う様にオリエの後ろに立つ。
――レンが、オリエの下で働き出して7日が過ぎた。
つまり、今はヤマカキ事件から9日が経った、オウビの昼下がり――レンは、屋敷の家事を中心に、ヨクセの本店や常客への使い、オリエが屋敷不在の場合の来客への対応など、この7日間で様々な仕事を経験していた。
「――ホント、アンタが来てくれて助かってるよ。
特に、アンタの来客対応のおかげで、大口の注文を一つ、取れたしねぇ♪」
オリエは嬉しそうに、後ろに付き従うレンに語り掛けながら歩く。
「いえ、私は当たり前に、お茶をお出ししただけで……」
「――それが良かったのさぁ♪
約束も無く、直接にアタシを訪ねて来たお客だったからねぇ……留守番が居なかったら、他所に依頼が行っちまったトコだったんだよ」
レンの活躍でまとまった仕事というのは、海路を用いた北コクエへの反物の輸送案件――スヨウとコウオウが緊張状態というリスクで、困難となってしまった、路に因る北への輸送を、海路へとシフトする動きは――"ツクモ随一"の港町であるオウビには、まさに恰好のビジネスチャンス。
しかも、荷狩りが横行し出したとの報を受け、急に輸送プランが飛んだ作り手は、海路輸送を模索する事に手を焼いている状況――一歩の違いで、大口の契約を逃がす可能性は高いのである。
「"それに応対した娘は、礼儀も良くて、おまけに見目麗しい美少女だった!"――って、たいそう評判らしくてさぁ。
アンタ目当ての依頼も多いって、店先では言ってたねぇ」
――そう、オリエはニタニタと笑い、からかう様にレンにそう言って、振り向いて彼女の頬を人差し指で突く。
レンは、照れ臭そうに、顔を紅潮させて――
「そっ、そんな冗談ばかり言って……からかわないでくださいよぉ」
――と、オリエに抗議する口調で言う。
「アハハ!、そういや――ソウタは今頃、どうしているのかねぇ?」
進行方向に向き直りながら、思い付いた様に、オリエが突然、ソウタの話題に触れると、みるみるとレンの顔色は、先程の照れ隠しとは比較にならないほど、顔中が紅く染まる。
それを、横目で見ていたオリエは――
(あらぁ~……こりゃあ、本気で惚れてるわ。
でも、カタブツのアイツが、連れて来る間に"手を出した"とは、思い難いし……)
――レンの動揺っぷりに、彼女のソウタに対する感情をそう邪推した。
(――一気に火を点けたのは、別れ際に厩で会ったっていう時……かしら?
ソウタって――決して、美形じゃあないけど、自覚無しに、オンナ心を鷲掴みにする様な、言動や行動をするのよねぇ……自覚無しに)
オリエは、心中でソウタの人となりをそう評し、いつの間にか好かれているという、彼の特性とでも言うべきな大事なトコロを、2度も挙げて振り返った。
「ソッ!、ソウタさんが随伴した、商隊のトウベイさん――でしたっけ?
あの方のお話では、用がある女性……の下に、再び伺う用が出来たと聞いたのが、最後だと仰っていましたね」
――と、レンは、ソウタが会いに行ったという"女性"の事を、あからさまに気にしているのが解る言い方で、オリエの話のフリに応じる。
ちなみに――トウベイが金糸龍の指輪の意味を思い出し、会いに行った相手が、まさか皇だと知るのは、まだ若干後の事である。
「うん、トウベイと別れてから――今日でだいたい四日でしょ?
テンの脚なら、軽~く翼域を出ちゃうぐらい経ってるから、どうしてるのかと思ってね」
ソウタが商隊に加わり、オウビを発ってからオウクまでが2日半――支店の宿舎に一泊して計3日、その後の彼の動向を知る由が無いオリエは、レンの様子を見るに連れ、ふと頭を過ぎった疑問を吐露したのである。
「――てっきり、アンタの事を気にして、オウクでの用が済んだら、とんぼ返りして来ると、思ってたんだがね」
オウクからオウビまでは、荷無しならば1日半で着ける距離――用を済ませて、とんぼ返りをしたならば、悠々に着いているほど、時は経っている。
「――何か、大変な用がある様子でしたから、早々には戻られないと思っています」
レンは、別れ際のソウタの背中を思い返し、寂しそうにつぶやいた。
「――まっ、刀聖としても、イロイロと動かなくちゃならない時勢だしねぇ」
オリエは、そう言いながら、ふと目に止まった、路地に捨てられていた新聞を拾い上げる。
そこには――
『スヨウ第三軍、国境を越え皇国領に侵攻――コウオウでは、これに対し義兵隊が組織される報も――』
――という、戦時を告げる見出しが躍っていた。
その見出しを見たレンは――
「戦――始まるんですね」
――と、うつむきながら呟く。
「アイツ……"参戦するかも"って、ボソッと言ってたし――戻らないのは、そのせいかもね」
オリエは口を真一文字に結び、怪訝な表情を見せて、路地に置かれたくずかごに新聞を捨てた。
「ソウタさんが、戦に……」
レンは、背中をブルっと震わせ、心配そうにボソッとつぶやく。
レンは先日、皇の占報を見聞きした際、ソウタが言い渋っていた、ヤマカキ村襲撃の犯人が――スヨウ国境警備隊だったという事実を、オリエから伝え聞いていた。
彼女は――生まれ育った国が、自分たちに対して行った蛮行に、驚きも、うろたえもしなかった。
ただ、それから救ってくれた、ソウタに対する感謝の意を、再度述べただけで。
そんな達観した様と、今の彼女の懸命さを、ふと、思い返してオリエは――
(――過ぎたコトより、これからのコト、か。
可愛い顔してる割に、ホント、強い娘だよねぇ)
――と、関心していた。
そして、オリエは――
「あらあら?、戦は、心配するトコかい?、戦の現人神みてぇな、"刀聖サマ"を向こうに回してさぁ?」
――と、ケラケラと笑い声も混ぜて、レンをからかう。
「そう――なんですけど、私は、ソウタさんが戦っている姿を見た事が無いので……"お優しい方"という印象しかないのです」
レンは、ソウタの表情や言動を思い返し、不安げ声でそう言う。
「ああ、そっかぁ……森の中に、隠れていたんだっけ?、
なら、頼りがいの無いオトコだと思っても、仕方ないかぁ」
オリエも、ソウタの様子を思い浮かべ、苦笑しながら頬をポリポリと掻く。
「そっ!、そこまでは言ってませんよぉ!
優しくて……実は、強くて――とっても、素敵な方だと思っています!」
――と、レンは自分がソウタに抱く、彼への評をそう口にした。
結構、大胆な事を口走っている、自覚をせずに。
それを、聞いていたオリエは――
「――アハハ!、悪かったねぇ。
そんなに"素敵"だと思ってるオトコを、バカにされちゃあ、気分の良いモンじゃないわよねぇ?」
――と、爆弾発言に気付かせる様なエサを撒いて、更にレンをからかう。
「っ?!、オリエさぁ~ん~~~!」
レンは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにうつむきながら、オリエに抗議の視線を送る。
それを見てオリエは、憚る事無く笑い声を漏らし――
「――アハハハハッ!
あ~あっ!、笑ったわぁ……誰かが、側に居るのって、こーいうハナシを出来るのが良いのよねぇ」
――と、噛み締める様につぶやく。
「――レン」
そして、オリエはじっと、レンの目を覗き込んで――
「この七日間で、アンタがした一番の貢献はさ……"こーいう時間"を、くれたコトさ」
――と、嬉しそうな笑顔を見せて、彼女の額を人差し指でツンと突いた。
「オリエさん……」
レンは、オリエの言葉に寂しさを感じ、哀れむ様に彼女の瞳を見詰める。
「なんだか、辛気臭くしちまったかねぇ?
でも、死んだアンタの前任――おトキさんはさ?、アタシが子供の頃から、オヤジの下で屋敷を仕切っててね。
"拾われて来た"、アタシの世話も任されてて――母親代わり、みてぇなモンを亡くしたから、ちょいと落ち込んでたのさ」
オリエは足元の小石を蹴り、照れた様にレンから目を背ける。
「えっ?!、拾われ……って」
レンは、ふいとオリエが言った、彼女の素性に驚く。
「ん?、ああ、そういや、アンタは知らないんだったか。
アタシは、先代の養女さ――ヨクセを起こした、先代には子供が……跡取りが居なくてね。
とある娼婦が、売春の果てにデキちまった、捨てられちまうはずの赤子を……オヤジが拾って、商いのノウハウを叩き込んで、跡取りに仕立てたのが、このアタシ――」
オリエは自分を指差しして、淡々とそう説明する。
「――オウビの衆には、有名なハナシだから、つい知ってるモンだと思っちまったよ」
そう言ってオリエは、遠くに見えてきた、うらびれた街並みに目をやる。
「そんな生まれ、だからなんだろうねぇ……こんな薄汚ぇトコに、つい、足が向いちまうのはさ」
そう、オリエはつぶやき、目線をレンへと移し――
「勉強中だってんなら、見聞きさせてあげるよ――そのために、連れて来たんだしね。
この街の"汚ぇ部分"ってヤツをさ♪」
――と、ニヤリと笑って言った。
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