流れ者のソウタ

緋野 真人

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襲撃

襲撃(後編)

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「――?!」

ただならぬ雰囲気を悟った2人は、サッと武器えものに手を掛ける。

続いて、不自然な突風が焚き火を襲い、唯一の明かりとなっていたソレは、あっさりと消えてしまった!


「これは――"風の界気"?!、ギン――っ!」

ソウタは、突風から顔を背けながら、風が来る方へ向けて指を指し、ギンに声を掛けた。


「ああっ!」

ギンは、瞬時にソウタが言わんとしているコトを察し、素早く矢を弓につがえ、風が来る方へ矢を放つ!


「――ぐぅ?!」

矢が飛んだ方から、矢が何かに刺さった音と、誰かのうめき声が聞こえ、その音と同時に、突風は止んだ。


今度は、突風から、取って替わったかの様に、今度はその方角から、2つの影が猛然と二人に襲い掛かるっ!


「――っ!!!!」


――ソウタは刀、ギンは護身防具の小手で、2つの影から放たれた斬撃を受け止めた!




「――♪、うふふ、美味しっ♪」

――同じ頃、施設内の食堂に居たタマは、デザートとして出された果物を幸せそうに頬張っていた。


タマが、一個目を食べ終え、2個目を丸ごと口に銜え様とした――その時っ!

「――っ?!」

――タマは、外から妙な気配を感じ、外の様子を伺おうと、果物を銜えたまま、施設の玄関へ向かおうとした――その刹那!、突如、窓ガラスが割れる音や、戸を破壊する音が響き、5~6人の黒ずくめのヒトが、一斉に押し入って来た!


「――なっ!、何だ?!、一体……ぐあっ?!」

玄関に一番近い場所に居た荷役が、黒ずくめのヒトの刀で斬られ、悲鳴を挙げる!


「!!!!!、襲撃だあっ!」


置くに居たトウベイがそう叫ぶと、荷役たちは慌てふためいて逃げ始め、ソウタとギン以外の護衛の3人も、一斉に武器を手に取る!


押し入って来た、5~6名の黒ずくめのヒトに対し、タマを含めても4人しか、ロクに戦える者が居ない上……奇襲を受けた形になったため、施設内は混乱状態に陥っていて、状況は人数差以上に不利である。

さらに――

「ぐわっ!」

――黒ずくめのヒトたちは、かなりの手だれの様で、腕に覚えのある護衛衆でも、一筋縄では行かないらしく、苦戦を強いられている!

そのため――

「うっ!、うわあああああああっ!」

――手から余る、数人の襲撃者は、他の商隊員を襲い放題である!


大混乱――大乱戦の坩堝と化した施設内で、タマは無言のまま――

「――ぐおぁっ!?」

――と、重~い音が響く正拳突きを、襲撃者のみぞおちに決め、無言の原因でもある"銜えたままの果物"を噛み砕き、ボトボトとその残骸を床に落とす。

そのままタマは、襲い放題状態の襲撃者の下に向かい――

「――ぎゃぁっ?!」

――鮮烈な飛び回し蹴りを、襲撃者の首筋に入れて倒すと、構えを直す間も無く、その襲撃者の顔面を踏みつけた!


その状態のまま、タマは、踏みつけた襲撃者たちを睨んで――

「――アタシはねぇっ!、食事と睡眠を邪魔されるのがっ!!、何よりもムカツクのよぉっ!!!」

――と、そう啖呵を切って、襲撃者の顔を踏み台にして駆け出し、次の敵へと襲い掛かった。





外に置かれた荷車の側で、襲撃者と対峙しているソウタとギンは、この暗闇に手を焼いて決め手を欠いていた。


苛立った表情のソウタは――

("アレ"を抜けば、その光に照らされて、俺もギンも有利になるが――知られたくねぇコトを晒すコトになっから、"アレ"は気安く抜けるモンじゃねぇしなぁ……)

――"アレ"こと、光の刀を、刀身を外して抜き放つかどうかを悩んでいた。

(――こーいう時が面倒だな、誰かと一緒に旅をするってのは)

そうは思いながらも、ソウタは先程の手合わせでも見せた、嘲笑う様な表情で余裕を覗かせている。


「……!」

――その表情が癇に障ったのか、一人の襲撃者は動きの勢いを変え、ソウタへ向けて仕掛ける!


ソウタも、それに応じる様に、一気に距離を詰め、アッサリと襲撃者の斬撃を峰で払い、そのまま振り下ろされた、刃の一撃で斬り伏せる!

「――?!」

その、圧倒的な強さを目の当たりにし、もう一人の襲撃者は標的を荷車に変え、荷を燃やそうと、瞬時に生成した火の界気を加えた、紅い光の飛礫を荷車へ向けて放つ!

「――ちいっ!」

ソウタも、光の飛礫を生成して迎撃するが、数発は打ち損じてしまう。

「!」

そこに、敵が一人減った事で、弓を使える分だけ距離を取れたギンは、一矢に白く光る風の界気を纏わせ、荷車へと放った!

放たれた白き一矢は、紅い光の飛礫をその風の界気で吹き飛ばし、荷車の手前の地面に突き刺さった。


「――上手いっ!」

ソウタは、そう言って褒める視線をギンに送りながら、打つ手を失った体の襲撃者を、袈裟懸け一刀が下に斬り捨てた。


ソウタは、間髪を入れずに、先程風の界気が放たれた方へ走り――

「――おっと!、動くんじゃぁねぇぞ?、聞きてぇコトもあるしな」

――と、最初にギンに射抜かれ、動けずに居た残りの襲撃者に、刀を突きつけた。

「――おめぇら、どこぞの"暗衆"だろ?

その、小太刀ハンパな長さの武器を使ってんのが、何よりの特徴だぜ?」

「……貴様こそ、"ソレ"を知っているのは……"只の流者"、ではあるまい?」

襲撃者は、表情を変えず、冷汗一つ垂らさずに、冷ややかな目線をソウタへ向ける。

「――なぁに、ちょいと"暗衆ソッチの知り合いが居るだけさ」

「ふっ……ならば、暗衆そういう者が、こうなった時――"ナニ"をするのかも、知っているはずだが?」

襲撃者は――そう言って、ニヤリと笑った。

「――っ?!、バカっ!、止め……っ!」

その、"ナニか"に気付いたソウタは、襲撃者の頭巾を剥ぎ、急いで片手を口内へ突っ込もうとする。

――だが、手を入れ終える前に、襲撃者は口元から血を流し、口から何かを吐き出す。

「――ちいっ!、舌を噛み切りやがったっ!」

吐き出されたのは、舌先の肉片――襲撃者は、血を口内から垂れ流しながら、笑みを浮かべたまま絶命した。


「――ソウタ!」

ソウタが、倒れ込む襲撃者を一瞥していると、宿舎の方から慌てた様子のトウベイが駆けて来た。

「トウベイさん!、無事だったか!、宿舎の方も、何やら騒がしいってコトは――」

「――ああ!、宿舎にもだ!、おタマちゃんや皆が応戦しているが、苦戦してる!」

「――っ!?、随分と襲って来た人数が少ないと思ったら、本命はそっちか!、解かった!、ギンっ!、行こう!」

ソウタは頷きながら、ギンへ声を掛け、二人は宿舎へと走り出した。


宿舎内での戦闘は、外での一戦を終えたソウタとギンが加勢した事と、タマが奮闘してヤツらを蹂躙していた事もあり、アッサリと商隊護衛衆の勝利に終わった。


――だが、外の連中と同じく、致命傷を受けていなかったはずの襲撃者ですら、次々と絶命していて……この襲撃の真相は、文字通りに闇夜の中に消えたのである……





――明けて早朝の青空へ向け、キセルの先から煙が立ち昇る。

「はぁ……やれやれだな」

キセルを吹かしているのは、憔悴した表情のトウベイである。

今の一服は、黒ずくめの一団の襲撃から一夜明け、ようやく安堵出来た故の一服だ。

「荷物は……幸い、無事だったし、襲ったワケを調べんのは、元々クリ社の仕事じゃあるが――なんか、シャクに障るオチだったぜ」

トウベイは、妙に爽やかな朝の空を見上げ、もう一度キセルを吹かす。

「トウベイさん……煙草、身体に悪いぜ?、丁度、障り出す歳頃なんだしよ」

ヤツらに蹴破られた、宿舎の壁の瓦礫を片付けていたソウタは、キセルの煙に顔をしかめながらそう言った。

「――しゃーねぇだろ?、お前らのおかげで、死者出しちまうのは免れたが、荷役や世話人からも、結構な数のけが人が出たんだ。

逆立った気を治めるためだから、不可抗力だぜ」

トウベイは、そう言い訳して、もう一服吹かす……


ソウタは、そんなトウベイの姿を見ながら、昨夜の黒ずくめの一団に関して、頭を巡らす。


(――オウク行きの荷ばかりを狙うってコトは、今の時勢じゃ、動機は――間違いなく、物量でスヨウを有利にさせるための"荷狩り"。

しかも、荷役まで襲って、次の荷を送るのを、躊躇わせるのが根っこの魂胆だと見て良い……それにしても、本格的な会戦前から、暗衆まで使って荷狩りをするってのは、少々解せねぇな。

考えられるのは――スヨウは、よっぽど、早期決着を望んでるってコトか?)

ソウタは、瓦礫置き場に瓦礫を投げ入れ、オウクへ通ずる方の街道を見据えた。
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