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異世界のリアル

飛竜、来臨

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「くっ、おぉぉぉぉっ!!!!!」

 猛烈な風切り音と共に、客船の甲板に向けて急降下して来る竜――リンダの背の上に居るコータは、その重圧と風圧をモロに受けてひしゃげた表情をしながら、振り落とされそうになるのを必死に堪えていた。



「むっ⁈、別の船から何人かが――海賊か?、あっ!、船員を切りつけたっ⁉」

 ほんの少しだけ時を遡ってみると――リンダの上で遠眼鏡越しに状況を伺っていたアイリスが、更に険しい顔を見せて、相変らずの羅列実況をコータとクレアに聴かせていた。

「切りつけたって……では、怪我人が居るのですね?」

「ええ、まあ、ココから観ても、命に関わる程の深手ではなさそうですが……っ⁈、なんとぉ!、護衛衆との戦闘に発展した様です!」

 クレアが医療に従事している者らしく、怪我人の有無をアイリスに確かめたが、それを遮る様に更なる状況の悪化が告げられる。


「コータ様、如何なさいますか?」

 アイリスは遠眼鏡を目から離して振り向くと、振り返ってコータの指示を仰いだ。

「如何って、どう観ても見過ごせる様な只事じゃあねぇでしょうが⁉、リンダの高度を下げてくれっ!」

 コータは迷い無く、有無を言わせぬ勢いでそう指示を告げた。

「――解り申したぁっ!」

 アイリスは、何やら安堵と嬉しさが混じった快活な笑顔を見せ、手綱を握る手の力を強める。

「ではコータ様、クレア様、急降下を仕掛けますので、しっかりと掴まってくだされっ!」

「――へっ?、掴まるって言っても、それらしいモノは何も……」

 アイリスは気合が伝わる背中で、二人にそう要請するが、コータは鞍の上を見渡して要請の意図を解せずに戸惑って見せた。


 確かに、鞍の上にあるのは御者の足を固定する鐙があるのみ……一体、何に掴まれと、アイリスは言っているのか?


「はいっ!、コータ様――失礼、致しますよぉっ!!」


 ――と、アイリスの要請と同時にクレアは、戸惑うコータの背に抱き着く体で覆い被さり、その勢いのままアイリスの太腿にしがみ付く

「えええええっ⁉、ちょっとナニをっ……!!!!!」

「デュルゴの急降下時は、最も安定している御者の足にしがみ付くのが通例にございますっ!、さあっ!、アイリスの太股を掴んでくださいっ!」

 今の状況を更に解り易く描写すれば、アイリスとクレアがコータの身体を真ん中に挟んでいる体勢――さながら、濃厚な3……いや、この先は自主規制しておくのが適当であろう。

「うぅぅぅ、俺はそんなつもりじゃ、そんなつもりじゃないからなぁぁぁっ!!!!!」

 コータが言い訳染みた叫びと共に、意を決してアイリスの太股を掴んだトコロで、リンダの急降下は始まったっ!



(うほほ♪、顔の前には女近衛の引き締まった尻と太腿――背には柔らかい銀髪医女の胸とは、お主もやりおるのぉ♪)

(そっ、そんな余裕、あるかぁぁぁぁっ⁉、この状況でぇぇぇぇっ!!!!)

 精神世界のサラキオスから、そんな下世話な揶揄を受けたが…言葉のとおりにコータは、それに応じる事も出来ずに居た。


『――コータは飛行魔法を扱えるよね?、ラッキースケベ展開にするためのわざとだろ、コレ……』


 ――と、思われるのは当然であろうが、コレには設定……もとい、ちょっとした事情の違いが関わって来る。

 まず、急降下における速度は、飛行魔法を用いたヒトより、重さがある分だけ竜の方が早い事が一点。

 そして、高度が上がる程、飛行魔法を司っているという『大気中の精霊力』の濃度が薄いらしく、墜落事故をを起こす危険性があるため、通常に竜の飛行が許されている高度からの飛行魔法を使っての飛び降り等は、竜に乗る上での厳禁項目として国際法規にも謳われていると、コータはアイリスから言われていた。

『所詮はなんでもアリ』

 ――と、言われてはまさにそのとおりではあるが、それがファンタジー異世界の強みであるとも言えよう。



 『――グワワァァァァァッッ!!!!!』


 客船の甲板に降り立ったリンダは、周りの眼下に立っている武器を提げた海賊と護衛衆の両勢を見下ろし、それらをぐるりと威嚇する様で睨み付けながら、獰猛に聞こえる唸り声を上げたっ!

「――ぅっ!、一体何だってんだいっ⁈、海のド真ん中で、デュルゴが降って来るってぇのはぁっ!」

「それはコチラのセリフだぁっ!!!、『ランジュルデ卿』――アデナ・サラギナーニア様の領海で、不逞な強奪を謀るとは良い度胸だなぁっ!、海賊どもよぉっ!」

 女海賊が状況の急変に不満を嘯くトコロに、それを制する体で鞍上からアイリスが呼ばわった。

「うぅ……アイリス、そんなんは良いから、キミはリンダの翼で、燃えてる船の消火を。

 俺はココで降りるから、思いっきりやっちゃって構わない。

 クレアさんも――ココで降りて、怪我人の手当てを、ね?」

 ――と、コータは例の体勢のまま、チラリと辺りを見渡し、二人へ実に的確な指示を送る。

「解りましたっ!」

 クレアは小規模の飛行魔法を用いて、負傷者の下へと飛び出す。

「しっ、しかし私は、コータ様の近衛ロトバで……」

「良いって言ってるだろ?、そもそも魔神モードのある俺に、ホントは護衛なんてムダなんだろうしね♪」

 ――と、命令に反対するアイリスに、コータはそう真理を説いてニヤリと笑った。

(⁉、私が……一種の監視役として送られている事も、お見通しという事か)

 コータの達観した言葉に、新しき主の鋭い洞察の意味を悟ったアイリスは……

「……解かり申した、それでも、くれぐれもお気をつけてっ!」

 ――と、呆れた様な笑い声と笑顔をその主へと送り、おもむろにリンダの背から降りて行くコータに向かって、臣下として当然の言葉を告げてリンダに浮上の指示を伝えた。


「――よっと」

「えっ⁉、コータさんっ⁉」

 再び飛び立とうとしている竜の背から降りて来た者が、見知ったその人だと解った時――チュンファは驚きと戸惑いと、そして、嬉しさが入り混じった声を上げた。

「おっ?、チュンファちゃんが乗ってる船だったとはね……ちょっと驚き」

 チュンファを視認したコータも、偶然の再会に驚いてみせた。
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