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姉妹
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丁度その時、会話の締めくくりが合図だったかの様に馬車は停まった。
「姫様――着きましてございます」
――という、騎馬で並走していた、ローランの渋めの声音で告げられた、窓の外からの声掛けに応じ、ミレーヌとコータは頷き合って、馬車のドアが開くのを待つ。
小振りのドアが開き、先に外へと出たミレーヌの金髪が、そよ風に触れた瞬間――もう、コータも聞き慣れてしまった、その場に集まった者たちが畏まり、跪いている事を示す音が響く。
「――ミレーヌ様、ご尊顔を拝し、恐悦至極……」
「――!、姉様ぁっ!!!」
何者かに因る定例の言上が始まろうとするのも構わず、ミレーヌは馬車から駆け下り、その言上の主と思しき跪いている女性を唐突に抱き締めた。
(――ってぇ事は、この人がミレーヌちゃんの……)
ミレーヌに続いて、馬車から降りようとするコータは、目の前で展開されている姉妹の抱擁を見やりながら、ゆっくりと馬車から降り始める。
丁度、ミレーヌの姿がブラインドの体を成し、まだそのウワサの姉の顔こそは視認出来ないが、その周りに揺らぐ、長い髪の色は確かに"銀色"――陽光が照らすと、その先が透けて見えそうな程に閃く銀髪である。
「――姉様っ!、姉ぇ様っ!!、姉ぇ様ぁっ!!!」
「ミッ、ミレーヌ様、その畏れ多い呼び名は……」
顔をしかめている自分の臣下たちに、御意を示す意味でミレーヌは、姉の懇願を無視する体で、わざとらしくその呼び名を連呼し、その愛おしい姉の身体を抱き締める力を強める。
「――あっ、姉様、この方が……この世界を救う事に協力してくれた、コータさんです」
コータが馬車から降り立ったのを見やり、ミレーヌは小さく笑顔を見せながら、互いの視線から避けてみせた。
「――ふぅ、はぁ……初めて、御目にかかりまする――アデナ・サラギナーニア様。
ミレーヌ姫因り、御身の医務に携わる任を仰せつかりました――クレア・エルフィ・ホルラナラにございます」
「――っ⁉」
一旦――息を整える素振りに続き、緊張した面持ちで改めて自分への言上を述べる、銀髪のエルフィ女性の姿を前にしたコータは、思わず息を呑み……そして、その美麗な顔立ちと物越しに目を見張った。
――
――――
――――――
「――粗末に散らかった場ゆえ、高貴な方をお迎えするには心苦しいですが……」
「いえいえ♪、ヒュマドの皆様の好意で施設を間借りしている事は、この非常時では王族も民も無きモノでございますから♪」
会見の場――いや、正確にはコータの診療のために通された、エルフィ族の難民キャンプに設けられている診療所の中で、クレアは神妙に、ミレーヌは何やら楽し気に……
「――っ……」
――そして、コータは、カチコチと妙に緊張した様子で部屋の中へと入った。
(――お前の身体に憑依してから、もう一月じゃ……言わんでも解るぞ。
『めっちゃタイプ』じゃろ?、この銀髪医女は?)
(なななななっ!!!!、何を言い出すのかなぁ?、この魔神様は!!!)
例の精神世界では、サラキオスが得意気にコータをからかい、対するコータは冷や汗混じりに、弁明染みた否定をしていた。
(ふっ……元々『その手の任務』への懸念は、必要無いと重々理解していたが――これほどの美形が同僚となるなら、私程度では尚更それは無さそうだな)
護衛として、コータの横に立ったアイリスの目からしても、クレアの美貌はそれほどのモノらしく――彼女はそう、心中の中で呆れていた。
(ホビルやドワネ――それに、横に立つヒュマドが寄越した女子たちは、まだまだ青い面を残した、若い年頃の者ばかりじゃったが……この医女には、それらにはまだ無い、25という年頃らしい程よく熟し始めた色気がある。
ふふ、エルフィの小娘めぇ……ウチの依り代殿の事をよう解って居るわい♪)
サラキオスが納得した様に言っている事を、見透かした様にミレーヌは……
(♪~~っ!!、思ったとぉ~りっ!、コータさんは、きっと姉様の事を気に入ってくれると思っていたのよっ!)
――と、彼女はチラチラとコータの反応を見て、心中では力強いガッツポーズをしていた。
(――記憶を辿ると、お前は……異界語で言うトコロの『なーすふぇち』であろうしな……片抜けの入院先で、世話を焼く看護師にときめいておった様じゃから)
(やめてぇ~~っ!!!!、それって、性癖というよりは黒歴史だからっ!)
精神世界での攻防が続いている事はさておき、そんな構図で始まったお見合い――ではなく、姉妹の会談は始まった。
「まずは、魔神封じの旅から無事の御帰還、エルフィが民の一人として喜びを申し上げます」
「ありがとうございます♪、姉様♪」
儀礼的にではあるが、妹に無事だった事の喜びを述べる姉に、妹は嬉しそうに満面の笑みで応える。
「ところで姉様――先程の言上は、書状に記したアデナ・サラギナーニア……コータさんの、御身の事をお任せする件、お請け頂けると思ってよろしいのですね?」
「はい、もちろんにございます――世を救う道筋を立てて頂いた、アデナ・サラギナーニア様の下に参じるは、エルフィ……いえ、このクートフィリアの民にとって、誉れと呼べる申し出でございます故」
ミレーヌの問いに、快諾の意思を示したクレアは、何やら恥ずかしそうに俯いているコータの顔をチラリと見やり、昨日届いたミレーヌからの書状の文面を思い出す……
『――姉様、新たなサラギナーニアであられる、コータさんには片抜けを患った経緯がございます。
片抜けは、医療魔法に長ける姉様ならお解りでしょうが、発症後の健康管理が大事と言われる病ゆえ、万が一に再発の末、他界される事にでもなろうモノなら、また、この世が魔神の脅威に晒される事になり兼ねませぬ。
つきましては、そのコータさん専属の医療魔法士として、是非とも姉様を推挙させて頂きたいのです。
これは姉様が、エルフィの下ではその素晴らしい御力を充分に発揮出来ていない事を、重々承知した上でのお願いにございます』
(――この銀髪を理由に、私の診療や看護を拒むエルフィ族は多い……
それを踏まえての要請とは、本当に思慮深い妹を持ったモノです)
文脈に伝わる妹の心遣いに、クレアはそれを噛み締める様に喜んでいた。
『治るのではなく、呪われた魔力のせいで悪化する』、『治療を受けたら、髪の色が抜けて銀髪にされてしまう』――などとの、ありもしない事例の風説が拡がり、この難民キャンプでのクレアの仕事は、人目には触れない様に、薬の調合などの裏方にまわる事を余儀なくされていた。
『――【追伸】コータさんは、とてもお優しくて素敵な殿方です。
妹の私としては、姉様にはコータさんの様な御方の下に嫁いでくれたなら……などと思っています♪』
(……とはいえ『行かず後家』となるのが迫っている、姉の縁談までをも心配するのは――少し、思慮が深過ぎますっ!)
――と、回想が追伸の部分に及んだ所で、クレアは眉間にシワを寄せ、妹の更なる心遣いには不満を示すのだった。
これだけの美貌の持ち主が、その様な状況に居る理由とはやはり、銀髪の呪い云々なのは、わざわざ言うまでもなかろう……
「姫様、そろそろ出立式への出席が迫っております」
「あら?、もうそんな……では姉様、その間にコータさんの診療をお願いしても?」
会談を遮る様に飛んだ、ローランからの進言にミレーヌは、不満と喜びが入り混じった表情で、後の事をクレアに尋ねた。
「えっ、ええ……無論にそのつもりですが」
チラリとコータの表情を伺いながら、クレアはそう応じ……
(――おいおい何だよ、この『後は、若い二人に』的な展開はっ⁉)
――と、コータは何やら赤面を催して、流れの突端を開いたローランに睨み気味の目線を送る。
「おっ、俺も出席する必要があるんだろ?、チュンファの事もあるしぃ……」
「いえいえ~♪、私は王族としての諸々というか、式次第の打ち合わせがあるだけで、コータさんには式の本番にさえ間に合ってくれれば……うふ♪」
――と、流れを塞き止めようとするコータの足掻きを、ミレーヌは楽し気にはらりとかわす。
「――ではコータ様、私は小屋の外へと退かせて頂きます。
医療魔法での診療では、少々"私的な部分にも触れる"ため、同席は控えるべきと存じますので」
コータの隣のアイリスも、ミレーヌの意図を汲んでか、いそいそと彼女らと共に部屋から出ようとする。
「えっ⁉、私的な何某に触れるって、どーいう……」
コータの疑義に応える間も無く、彼女ら3人は扉の外へと消えた……
「――ふぅ、ではコータ様……」
不安気に扉の方へと手を延ばしているコータに、クレアは……
「――始めますので、服を脱いでください」
――と、少し恥ずかしそうに目を背けながらそう言った。
「姫様――着きましてございます」
――という、騎馬で並走していた、ローランの渋めの声音で告げられた、窓の外からの声掛けに応じ、ミレーヌとコータは頷き合って、馬車のドアが開くのを待つ。
小振りのドアが開き、先に外へと出たミレーヌの金髪が、そよ風に触れた瞬間――もう、コータも聞き慣れてしまった、その場に集まった者たちが畏まり、跪いている事を示す音が響く。
「――ミレーヌ様、ご尊顔を拝し、恐悦至極……」
「――!、姉様ぁっ!!!」
何者かに因る定例の言上が始まろうとするのも構わず、ミレーヌは馬車から駆け下り、その言上の主と思しき跪いている女性を唐突に抱き締めた。
(――ってぇ事は、この人がミレーヌちゃんの……)
ミレーヌに続いて、馬車から降りようとするコータは、目の前で展開されている姉妹の抱擁を見やりながら、ゆっくりと馬車から降り始める。
丁度、ミレーヌの姿がブラインドの体を成し、まだそのウワサの姉の顔こそは視認出来ないが、その周りに揺らぐ、長い髪の色は確かに"銀色"――陽光が照らすと、その先が透けて見えそうな程に閃く銀髪である。
「――姉様っ!、姉ぇ様っ!!、姉ぇ様ぁっ!!!」
「ミッ、ミレーヌ様、その畏れ多い呼び名は……」
顔をしかめている自分の臣下たちに、御意を示す意味でミレーヌは、姉の懇願を無視する体で、わざとらしくその呼び名を連呼し、その愛おしい姉の身体を抱き締める力を強める。
「――あっ、姉様、この方が……この世界を救う事に協力してくれた、コータさんです」
コータが馬車から降り立ったのを見やり、ミレーヌは小さく笑顔を見せながら、互いの視線から避けてみせた。
「――ふぅ、はぁ……初めて、御目にかかりまする――アデナ・サラギナーニア様。
ミレーヌ姫因り、御身の医務に携わる任を仰せつかりました――クレア・エルフィ・ホルラナラにございます」
「――っ⁉」
一旦――息を整える素振りに続き、緊張した面持ちで改めて自分への言上を述べる、銀髪のエルフィ女性の姿を前にしたコータは、思わず息を呑み……そして、その美麗な顔立ちと物越しに目を見張った。
――
――――
――――――
「――粗末に散らかった場ゆえ、高貴な方をお迎えするには心苦しいですが……」
「いえいえ♪、ヒュマドの皆様の好意で施設を間借りしている事は、この非常時では王族も民も無きモノでございますから♪」
会見の場――いや、正確にはコータの診療のために通された、エルフィ族の難民キャンプに設けられている診療所の中で、クレアは神妙に、ミレーヌは何やら楽し気に……
「――っ……」
――そして、コータは、カチコチと妙に緊張した様子で部屋の中へと入った。
(――お前の身体に憑依してから、もう一月じゃ……言わんでも解るぞ。
『めっちゃタイプ』じゃろ?、この銀髪医女は?)
(なななななっ!!!!、何を言い出すのかなぁ?、この魔神様は!!!)
例の精神世界では、サラキオスが得意気にコータをからかい、対するコータは冷や汗混じりに、弁明染みた否定をしていた。
(ふっ……元々『その手の任務』への懸念は、必要無いと重々理解していたが――これほどの美形が同僚となるなら、私程度では尚更それは無さそうだな)
護衛として、コータの横に立ったアイリスの目からしても、クレアの美貌はそれほどのモノらしく――彼女はそう、心中の中で呆れていた。
(ホビルやドワネ――それに、横に立つヒュマドが寄越した女子たちは、まだまだ青い面を残した、若い年頃の者ばかりじゃったが……この医女には、それらにはまだ無い、25という年頃らしい程よく熟し始めた色気がある。
ふふ、エルフィの小娘めぇ……ウチの依り代殿の事をよう解って居るわい♪)
サラキオスが納得した様に言っている事を、見透かした様にミレーヌは……
(♪~~っ!!、思ったとぉ~りっ!、コータさんは、きっと姉様の事を気に入ってくれると思っていたのよっ!)
――と、彼女はチラチラとコータの反応を見て、心中では力強いガッツポーズをしていた。
(――記憶を辿ると、お前は……異界語で言うトコロの『なーすふぇち』であろうしな……片抜けの入院先で、世話を焼く看護師にときめいておった様じゃから)
(やめてぇ~~っ!!!!、それって、性癖というよりは黒歴史だからっ!)
精神世界での攻防が続いている事はさておき、そんな構図で始まったお見合い――ではなく、姉妹の会談は始まった。
「まずは、魔神封じの旅から無事の御帰還、エルフィが民の一人として喜びを申し上げます」
「ありがとうございます♪、姉様♪」
儀礼的にではあるが、妹に無事だった事の喜びを述べる姉に、妹は嬉しそうに満面の笑みで応える。
「ところで姉様――先程の言上は、書状に記したアデナ・サラギナーニア……コータさんの、御身の事をお任せする件、お請け頂けると思ってよろしいのですね?」
「はい、もちろんにございます――世を救う道筋を立てて頂いた、アデナ・サラギナーニア様の下に参じるは、エルフィ……いえ、このクートフィリアの民にとって、誉れと呼べる申し出でございます故」
ミレーヌの問いに、快諾の意思を示したクレアは、何やら恥ずかしそうに俯いているコータの顔をチラリと見やり、昨日届いたミレーヌからの書状の文面を思い出す……
『――姉様、新たなサラギナーニアであられる、コータさんには片抜けを患った経緯がございます。
片抜けは、医療魔法に長ける姉様ならお解りでしょうが、発症後の健康管理が大事と言われる病ゆえ、万が一に再発の末、他界される事にでもなろうモノなら、また、この世が魔神の脅威に晒される事になり兼ねませぬ。
つきましては、そのコータさん専属の医療魔法士として、是非とも姉様を推挙させて頂きたいのです。
これは姉様が、エルフィの下ではその素晴らしい御力を充分に発揮出来ていない事を、重々承知した上でのお願いにございます』
(――この銀髪を理由に、私の診療や看護を拒むエルフィ族は多い……
それを踏まえての要請とは、本当に思慮深い妹を持ったモノです)
文脈に伝わる妹の心遣いに、クレアはそれを噛み締める様に喜んでいた。
『治るのではなく、呪われた魔力のせいで悪化する』、『治療を受けたら、髪の色が抜けて銀髪にされてしまう』――などとの、ありもしない事例の風説が拡がり、この難民キャンプでのクレアの仕事は、人目には触れない様に、薬の調合などの裏方にまわる事を余儀なくされていた。
『――【追伸】コータさんは、とてもお優しくて素敵な殿方です。
妹の私としては、姉様にはコータさんの様な御方の下に嫁いでくれたなら……などと思っています♪』
(……とはいえ『行かず後家』となるのが迫っている、姉の縁談までをも心配するのは――少し、思慮が深過ぎますっ!)
――と、回想が追伸の部分に及んだ所で、クレアは眉間にシワを寄せ、妹の更なる心遣いには不満を示すのだった。
これだけの美貌の持ち主が、その様な状況に居る理由とはやはり、銀髪の呪い云々なのは、わざわざ言うまでもなかろう……
「姫様、そろそろ出立式への出席が迫っております」
「あら?、もうそんな……では姉様、その間にコータさんの診療をお願いしても?」
会談を遮る様に飛んだ、ローランからの進言にミレーヌは、不満と喜びが入り混じった表情で、後の事をクレアに尋ねた。
「えっ、ええ……無論にそのつもりですが」
チラリとコータの表情を伺いながら、クレアはそう応じ……
(――おいおい何だよ、この『後は、若い二人に』的な展開はっ⁉)
――と、コータは何やら赤面を催して、流れの突端を開いたローランに睨み気味の目線を送る。
「おっ、俺も出席する必要があるんだろ?、チュンファの事もあるしぃ……」
「いえいえ~♪、私は王族としての諸々というか、式次第の打ち合わせがあるだけで、コータさんには式の本番にさえ間に合ってくれれば……うふ♪」
――と、流れを塞き止めようとするコータの足掻きを、ミレーヌは楽し気にはらりとかわす。
「――ではコータ様、私は小屋の外へと退かせて頂きます。
医療魔法での診療では、少々"私的な部分にも触れる"ため、同席は控えるべきと存じますので」
コータの隣のアイリスも、ミレーヌの意図を汲んでか、いそいそと彼女らと共に部屋から出ようとする。
「えっ⁉、私的な何某に触れるって、どーいう……」
コータの疑義に応える間も無く、彼女ら3人は扉の外へと消えた……
「――ふぅ、ではコータ様……」
不安気に扉の方へと手を延ばしているコータに、クレアは……
「――始めますので、服を脱いでください」
――と、少し恥ずかしそうに目を背けながらそう言った。
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