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2 マコト君と悠斗君
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「ごめんね手伝わせちゃって」
マスターがわたしと悠斗君に賄いのチャーハンを出してくれながら言った。手伝ったと言ったって、注文の品を何度かテーブルに運んだり、お客が帰ったあとに食器を下げたりしただけだ。たいしたことはしていない。それにわたしが悠斗君に突然仕事を頼んだのは、実はわざとだ。その方が彼もあとのご飯を食べやすいんじゃないかと思ったのだ。
「うわ。めっちゃ美味い」
一口頬張って悠斗君が言った。わたしも食べてみる。たしかに美味しい。中華料理屋にも負けてないと思った。さすが料理上手のマスターだ。
「そのチャーハン、金華ハムが入ってるんだよ」
まんざらでもない顔でマスターが言った。
「何ですかそれ。悠斗君知ってる?」
悠斗君は横に首を振る。
「金華ハムっていうのはね、金華豚っていう豚を原料にした、まあ一言で言えば希少な高級ハムだよ」
「それってやっぱり清風さんのリクエストですか?」
「リクエストっていうか、今日昼間来たときに持って来てくれたんだよ。豪華な感じのぶ厚い紙袋差し出してさ。よかったら使ってって。どうやって手に入れたのか知らないけど」
「なかなか手に入らないものなんですか?」
「まあ、どこにでも売ってるようなものじゃないよね」
「そうなんだ? さすがは清風さんですね」
「清風さんって、いったい何者なんですか?」
そう言って悠斗君はまたチャーハンを頬張った。食べっぷりがよくて、見ていて気持ちいい。
「あの人ねえ、すっごくいいとこのお坊ちゃんなんだよ」
「そうなんですか!?」
悠斗君は清風さんのことについては何にも聞いていないらしい。おばあちゃんのバタバタでそんな余裕はなかったのだろう。
「雅楽川物産とか、雅楽川重工とか、雅楽川生命とか、とにかく雅楽川なんとかってたくさん聞くでしょう? そのどれがそうなのかは知らないけど、清風さんのご先祖は雅楽川財閥の人なんだって。つまりすっごくセレブってわけ」
「そうなんですか。なんでそんな人が尾道におるんですか?」
「それは……」
わたしの口から話していいものかちょっと迷ったけれど、清風さん本人が全てさらけ出している今、隠すことでもないと思い、今に至った状況を悠斗君に説明した。
「そういうことだったんですか。最近あそこの屋敷の近くを通ったら人がおる気配があったけえ、珍しいなあと思っとったんです。まさか清風さんの別荘じゃったなんて」
「ねえ悠斗君、清風さんの話し方、最初に聞いたときはやっぱり驚いた?」
「まあ少しは……」
「少しだけ?」
「ああそうなんか、って思ったぐらいかな。俺の周りにはおらんけど、テレビではああいう人よく見るけえ、まあ、そうなんじゃなと」
なんかちょっと悔しい。わたしは打ちのめされた気分だったのに。でも考えてみれば、悠斗君はクールなときの清風さんを知らないのだからあの激しいギャップは感じないわけで、インパクトはあったにせよ、それはそれとしてすんなり受け入れてもおかしくはない。わたしだって最初から今の清風さんと会っていれば、きっと悠斗君と同じような反応だった……かもしれない。
「すごくかっこいいですよね。やさしいし」
「え?」
「え?」
悠斗君と顔を見合わせる。
「違いますよ? そういうことじゃないですよ? 何ていうか、ジェントルマンっていうか、もちろん顔もかっこいいですけど、でも俺的にはそういう方向じゃなくて……」
「わたし何にも言ってないじゃない。なに慌てて否定してんの? 余計怪しいんですけど」
「いや、だって今、『そっちなの?』的な目で見たじゃないですか」
「見てないよ」
「見ましたって」
奥さんが面白がって会話に入ってくる。
「でも清風君ぐらいキレイな顔してたら、男でもちょっとグラッときたりしないの?」
「しないです」
「お肌もすごくキレイじゃない?」
「しないです」
「ホントに?」
「しない……です……」
「あ、今迷った」
悠斗君は本当にちょっと迷ったような顔をした。
「奥さん、悠斗君困ってるじゃないですか」
「いいじゃな~い。若くて美しい男の子どうしの恋愛ものって今流行ってるんでしょ? 清風君と悠斗君なら、咲和ちゃんもちょっと見てみたくない?」
「見てみたくないです!」
とも、言い切れないような……。
「とにかく、そんなこと言って困らせたら悠斗君もう来ませんよ。ねえ」
悠斗君は苦笑いしている。
マスターがわたしと悠斗君に賄いのチャーハンを出してくれながら言った。手伝ったと言ったって、注文の品を何度かテーブルに運んだり、お客が帰ったあとに食器を下げたりしただけだ。たいしたことはしていない。それにわたしが悠斗君に突然仕事を頼んだのは、実はわざとだ。その方が彼もあとのご飯を食べやすいんじゃないかと思ったのだ。
「うわ。めっちゃ美味い」
一口頬張って悠斗君が言った。わたしも食べてみる。たしかに美味しい。中華料理屋にも負けてないと思った。さすが料理上手のマスターだ。
「そのチャーハン、金華ハムが入ってるんだよ」
まんざらでもない顔でマスターが言った。
「何ですかそれ。悠斗君知ってる?」
悠斗君は横に首を振る。
「金華ハムっていうのはね、金華豚っていう豚を原料にした、まあ一言で言えば希少な高級ハムだよ」
「それってやっぱり清風さんのリクエストですか?」
「リクエストっていうか、今日昼間来たときに持って来てくれたんだよ。豪華な感じのぶ厚い紙袋差し出してさ。よかったら使ってって。どうやって手に入れたのか知らないけど」
「なかなか手に入らないものなんですか?」
「まあ、どこにでも売ってるようなものじゃないよね」
「そうなんだ? さすがは清風さんですね」
「清風さんって、いったい何者なんですか?」
そう言って悠斗君はまたチャーハンを頬張った。食べっぷりがよくて、見ていて気持ちいい。
「あの人ねえ、すっごくいいとこのお坊ちゃんなんだよ」
「そうなんですか!?」
悠斗君は清風さんのことについては何にも聞いていないらしい。おばあちゃんのバタバタでそんな余裕はなかったのだろう。
「雅楽川物産とか、雅楽川重工とか、雅楽川生命とか、とにかく雅楽川なんとかってたくさん聞くでしょう? そのどれがそうなのかは知らないけど、清風さんのご先祖は雅楽川財閥の人なんだって。つまりすっごくセレブってわけ」
「そうなんですか。なんでそんな人が尾道におるんですか?」
「それは……」
わたしの口から話していいものかちょっと迷ったけれど、清風さん本人が全てさらけ出している今、隠すことでもないと思い、今に至った状況を悠斗君に説明した。
「そういうことだったんですか。最近あそこの屋敷の近くを通ったら人がおる気配があったけえ、珍しいなあと思っとったんです。まさか清風さんの別荘じゃったなんて」
「ねえ悠斗君、清風さんの話し方、最初に聞いたときはやっぱり驚いた?」
「まあ少しは……」
「少しだけ?」
「ああそうなんか、って思ったぐらいかな。俺の周りにはおらんけど、テレビではああいう人よく見るけえ、まあ、そうなんじゃなと」
なんかちょっと悔しい。わたしは打ちのめされた気分だったのに。でも考えてみれば、悠斗君はクールなときの清風さんを知らないのだからあの激しいギャップは感じないわけで、インパクトはあったにせよ、それはそれとしてすんなり受け入れてもおかしくはない。わたしだって最初から今の清風さんと会っていれば、きっと悠斗君と同じような反応だった……かもしれない。
「すごくかっこいいですよね。やさしいし」
「え?」
「え?」
悠斗君と顔を見合わせる。
「違いますよ? そういうことじゃないですよ? 何ていうか、ジェントルマンっていうか、もちろん顔もかっこいいですけど、でも俺的にはそういう方向じゃなくて……」
「わたし何にも言ってないじゃない。なに慌てて否定してんの? 余計怪しいんですけど」
「いや、だって今、『そっちなの?』的な目で見たじゃないですか」
「見てないよ」
「見ましたって」
奥さんが面白がって会話に入ってくる。
「でも清風君ぐらいキレイな顔してたら、男でもちょっとグラッときたりしないの?」
「しないです」
「お肌もすごくキレイじゃない?」
「しないです」
「ホントに?」
「しない……です……」
「あ、今迷った」
悠斗君は本当にちょっと迷ったような顔をした。
「奥さん、悠斗君困ってるじゃないですか」
「いいじゃな~い。若くて美しい男の子どうしの恋愛ものって今流行ってるんでしょ? 清風君と悠斗君なら、咲和ちゃんもちょっと見てみたくない?」
「見てみたくないです!」
とも、言い切れないような……。
「とにかく、そんなこと言って困らせたら悠斗君もう来ませんよ。ねえ」
悠斗君は苦笑いしている。
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