27 / 46
2 マコト君と悠斗君
14
しおりを挟む
夕方バイトが終わると、なんとなく自転車で悠斗君の家の方に向かった。
押しかけようとかそういうことではないけれど、偶然会ったりしないかな、ぐらいの期待はしていた。そのくらいの気軽さで、もう一度リーフでのご飯に誘ってみたかった。それに清風さんと三人での焼肉も流れてしまっている。これはこれでぜひ行きたい。
そう都合よく会うことはないまま悠斗君の家に着くと、まだ帰って来てはいないようだった。
夏休みだけれど、部活か何かで遅くなっているのか、それともおばあちゃんのお見舞いに行っているのか、あるいは友達とどこかに出かけているのかもしれない。
少し待ってみてもいいけれど、それだと気軽どころか待ち伏せしているみたいで悠斗君も気を悪くするかもしれない。仕方がないので帰ることにした。
今夜にでも、清風さんと三人で改めて焼肉に行こうと誘ってみようかな。そんなことを考えながら自転車をこいでいると、少し先の角から出てきた自転車乗りの男子高校生が、その先にあるコンビニの前で停まった。
「悠斗君!」
思わず叫んだ。制服姿の悠斗君がこちらを振り向く。わたしは彼のそばまで行って自転車を止めた。
「今帰り?」
「ああ、はい」
「学校だったの?」
「今日はバスケの対外試合だったんです」
通行人が邪魔そうにわたしたちを避けて通った。わたしたちは自転車を下りて少し端に寄った。
「何か買い物?」
「晩飯、買って帰ろうかなと思って」
「ここってちょっと遠回りじゃない?」
「そうですけど、いっつも同じコンビニじゃ飽きるけえ、いろいろ変えるんです」
「リーフには食べに行かないの? マスター、おいでって言ってたじゃない」
「うん……。でも、逆に行きづらいです。お金払いますって言っても多分いいって言いそうじゃし。知らない人に、そんなに世話になれないですよ」
思っていたとおりだ。でもここで引いたら、マスターたちの善意も無駄になる。マスターは悠斗君にご飯を食べにおいでと言った翌日から、高校生の男の子が喜びそうなメニューをいろいろ考えたりしているのだ。マスターと奥さんには子供がいないから、そういうふうにお世話をしてあげられるのがうれしいのかもしれない。もちろん、わたしにもよくしてくれる。
「たしかに、そういうのあるかもね……。でもね、マスターたち、待ってるんだよね。悠斗君のこと気にかけてるの。あの人たちおせっかいだから。でもいい人たちなんだよ? はっきり言って、ウザい?」
「いえ、そういうんじゃ……ないですけど……」
本当のところは多少そう思っているのかもしれない。でも高校生にしてみればそう感じるのが普通だろう。
「ねえ、今から一緒にリーフ行かない? 二人なら行きやすいでしょ? 一回ぐらい行ってあげないと、マスターたちも逆にかわいそうじゃない?」
「はあ……」
わたしはまた少し強引に、悠斗君を誘ってリーフに向かった。
「あら咲和ちゃん忘れ物? ……あら、いらっしゃい」
そう言った奥さんに、悠斗君はぺこっと会釈をした。奥さんがカウンターの奥に声をかけると、マスターが顔を出した。
「おう。いらっしゃい。待ってたよ」
悠斗君はまたぺこっと頭を下げた。
「帰りにばったり会ったんで一緒に来ちゃいました」
わたしは言った。
「おう。いいよ。じゃあ咲和ちゃんにも美味い賄い食べてもらおうかな。ちょっと待ってて」
悠斗君と二人、カウンター席に腰を下ろす。
「迷惑じゃなかったですかね? なんか忙しそうだし」
悠斗君が小声でわたしに言った。たしかにお客さんがけっこう入っていて、マスターも奥さんもバタバタしている。今日は彩さんもいないし、間が悪かったかもしれない。と思っているとまたお客さんが入って来た。
「あ、奥さん、わたしが」
わたしは席を立ってカウンターの中に入り、お冷とおしぼりを用意した。そうしている間に、先のお客さんが注文していたオムライスが二つ出来上がった。奥さんは別のお客さんのコーヒーの準備をしている。
「マスター、これ何番ですか?」
「二番」
わたしは居心地悪そうに座っている悠斗君に向かって言った。
「悠斗君ごめん。悪いんだけどこのオムライス二つ、窓際の奥から二番目のテーブルに持って行ってくれない? おまたせしましたーって言って置いてくればいいから」
「えっ、あ、はい」
悠斗君は戸惑いながら立ち上がった。そして手を伸ばしてカウンター越しにわたしからお皿を受け取ると、そうっと動いて、席へと運んで行った。
押しかけようとかそういうことではないけれど、偶然会ったりしないかな、ぐらいの期待はしていた。そのくらいの気軽さで、もう一度リーフでのご飯に誘ってみたかった。それに清風さんと三人での焼肉も流れてしまっている。これはこれでぜひ行きたい。
そう都合よく会うことはないまま悠斗君の家に着くと、まだ帰って来てはいないようだった。
夏休みだけれど、部活か何かで遅くなっているのか、それともおばあちゃんのお見舞いに行っているのか、あるいは友達とどこかに出かけているのかもしれない。
少し待ってみてもいいけれど、それだと気軽どころか待ち伏せしているみたいで悠斗君も気を悪くするかもしれない。仕方がないので帰ることにした。
今夜にでも、清風さんと三人で改めて焼肉に行こうと誘ってみようかな。そんなことを考えながら自転車をこいでいると、少し先の角から出てきた自転車乗りの男子高校生が、その先にあるコンビニの前で停まった。
「悠斗君!」
思わず叫んだ。制服姿の悠斗君がこちらを振り向く。わたしは彼のそばまで行って自転車を止めた。
「今帰り?」
「ああ、はい」
「学校だったの?」
「今日はバスケの対外試合だったんです」
通行人が邪魔そうにわたしたちを避けて通った。わたしたちは自転車を下りて少し端に寄った。
「何か買い物?」
「晩飯、買って帰ろうかなと思って」
「ここってちょっと遠回りじゃない?」
「そうですけど、いっつも同じコンビニじゃ飽きるけえ、いろいろ変えるんです」
「リーフには食べに行かないの? マスター、おいでって言ってたじゃない」
「うん……。でも、逆に行きづらいです。お金払いますって言っても多分いいって言いそうじゃし。知らない人に、そんなに世話になれないですよ」
思っていたとおりだ。でもここで引いたら、マスターたちの善意も無駄になる。マスターは悠斗君にご飯を食べにおいでと言った翌日から、高校生の男の子が喜びそうなメニューをいろいろ考えたりしているのだ。マスターと奥さんには子供がいないから、そういうふうにお世話をしてあげられるのがうれしいのかもしれない。もちろん、わたしにもよくしてくれる。
「たしかに、そういうのあるかもね……。でもね、マスターたち、待ってるんだよね。悠斗君のこと気にかけてるの。あの人たちおせっかいだから。でもいい人たちなんだよ? はっきり言って、ウザい?」
「いえ、そういうんじゃ……ないですけど……」
本当のところは多少そう思っているのかもしれない。でも高校生にしてみればそう感じるのが普通だろう。
「ねえ、今から一緒にリーフ行かない? 二人なら行きやすいでしょ? 一回ぐらい行ってあげないと、マスターたちも逆にかわいそうじゃない?」
「はあ……」
わたしはまた少し強引に、悠斗君を誘ってリーフに向かった。
「あら咲和ちゃん忘れ物? ……あら、いらっしゃい」
そう言った奥さんに、悠斗君はぺこっと会釈をした。奥さんがカウンターの奥に声をかけると、マスターが顔を出した。
「おう。いらっしゃい。待ってたよ」
悠斗君はまたぺこっと頭を下げた。
「帰りにばったり会ったんで一緒に来ちゃいました」
わたしは言った。
「おう。いいよ。じゃあ咲和ちゃんにも美味い賄い食べてもらおうかな。ちょっと待ってて」
悠斗君と二人、カウンター席に腰を下ろす。
「迷惑じゃなかったですかね? なんか忙しそうだし」
悠斗君が小声でわたしに言った。たしかにお客さんがけっこう入っていて、マスターも奥さんもバタバタしている。今日は彩さんもいないし、間が悪かったかもしれない。と思っているとまたお客さんが入って来た。
「あ、奥さん、わたしが」
わたしは席を立ってカウンターの中に入り、お冷とおしぼりを用意した。そうしている間に、先のお客さんが注文していたオムライスが二つ出来上がった。奥さんは別のお客さんのコーヒーの準備をしている。
「マスター、これ何番ですか?」
「二番」
わたしは居心地悪そうに座っている悠斗君に向かって言った。
「悠斗君ごめん。悪いんだけどこのオムライス二つ、窓際の奥から二番目のテーブルに持って行ってくれない? おまたせしましたーって言って置いてくればいいから」
「えっ、あ、はい」
悠斗君は戸惑いながら立ち上がった。そして手を伸ばしてカウンター越しにわたしからお皿を受け取ると、そうっと動いて、席へと運んで行った。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。


五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
流星の徒花
柴野日向
ライト文芸
若葉町に住む中学生の雨宮翔太は、通い詰めている食堂で転校生の榎本凛と出会った。
明るい少女に対し初めは興味を持たない翔太だったが、互いに重い運命を背負っていることを知り、次第に惹かれ合っていく。
残酷な境遇に抗いつつ懸命に咲き続ける徒花が、いつしか流星となるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる