尾道海岸通り café leaf へようこそ

川本明青

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2 マコト君と悠斗君

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 夕方バイトが終わると、なんとなく自転車で悠斗君の家の方に向かった。

 押しかけようとかそういうことではないけれど、偶然会ったりしないかな、ぐらいの期待はしていた。そのくらいの気軽さで、もう一度リーフでのご飯に誘ってみたかった。それに清風さんと三人での焼肉も流れてしまっている。これはこれでぜひ行きたい。

 そう都合よく会うことはないまま悠斗君の家に着くと、まだ帰って来てはいないようだった。

 夏休みだけれど、部活か何かで遅くなっているのか、それともおばあちゃんのお見舞いに行っているのか、あるいは友達とどこかに出かけているのかもしれない。

 少し待ってみてもいいけれど、それだと気軽どころか待ち伏せしているみたいで悠斗君も気を悪くするかもしれない。仕方がないので帰ることにした。

 今夜にでも、清風さんと三人で改めて焼肉に行こうと誘ってみようかな。そんなことを考えながら自転車をこいでいると、少し先の角から出てきた自転車乗りの男子高校生が、その先にあるコンビニの前で停まった。

「悠斗君!」

 思わず叫んだ。制服姿の悠斗君がこちらを振り向く。わたしは彼のそばまで行って自転車を止めた。

「今帰り?」

「ああ、はい」

「学校だったの?」

「今日はバスケの対外試合だったんです」

 通行人が邪魔そうにわたしたちを避けて通った。わたしたちは自転車を下りて少し端に寄った。

「何か買い物?」

「晩飯、買って帰ろうかなと思って」

「ここってちょっと遠回りじゃない?」

「そうですけど、いっつも同じコンビニじゃ飽きるけえ、いろいろ変えるんです」

「リーフには食べに行かないの? マスター、おいでって言ってたじゃない」

「うん……。でも、逆に行きづらいです。お金払いますって言っても多分いいって言いそうじゃし。知らない人に、そんなに世話になれないですよ」

 思っていたとおりだ。でもここで引いたら、マスターたちの善意も無駄になる。マスターは悠斗君にご飯を食べにおいでと言った翌日から、高校生の男の子が喜びそうなメニューをいろいろ考えたりしているのだ。マスターと奥さんには子供がいないから、そういうふうにお世話をしてあげられるのがうれしいのかもしれない。もちろん、わたしにもよくしてくれる。

「たしかに、そういうのあるかもね……。でもね、マスターたち、待ってるんだよね。悠斗君のこと気にかけてるの。あの人たちおせっかいだから。でもいい人たちなんだよ? はっきり言って、ウザい?」

「いえ、そういうんじゃ……ないですけど……」

 本当のところは多少そう思っているのかもしれない。でも高校生にしてみればそう感じるのが普通だろう。

「ねえ、今から一緒にリーフ行かない? 二人なら行きやすいでしょ? 一回ぐらい行ってあげないと、マスターたちも逆にかわいそうじゃない?」

「はあ……」

 わたしはまた少し強引に、悠斗君を誘ってリーフに向かった。


「あら咲和ちゃん忘れ物? ……あら、いらっしゃい」

 そう言った奥さんに、悠斗君はぺこっと会釈をした。奥さんがカウンターの奥に声をかけると、マスターが顔を出した。

「おう。いらっしゃい。待ってたよ」

 悠斗君はまたぺこっと頭を下げた。

「帰りにばったり会ったんで一緒に来ちゃいました」

 わたしは言った。

「おう。いいよ。じゃあ咲和ちゃんにも美味い賄い食べてもらおうかな。ちょっと待ってて」

 悠斗君と二人、カウンター席に腰を下ろす。

「迷惑じゃなかったですかね? なんか忙しそうだし」

 悠斗君が小声でわたしに言った。たしかにお客さんがけっこう入っていて、マスターも奥さんもバタバタしている。今日は彩さんもいないし、間が悪かったかもしれない。と思っているとまたお客さんが入って来た。

「あ、奥さん、わたしが」

 わたしは席を立ってカウンターの中に入り、お冷とおしぼりを用意した。そうしている間に、先のお客さんが注文していたオムライスが二つ出来上がった。奥さんは別のお客さんのコーヒーの準備をしている。

「マスター、これ何番ですか?」

「二番」

 わたしは居心地悪そうに座っている悠斗君に向かって言った。

「悠斗君ごめん。悪いんだけどこのオムライス二つ、窓際の奥から二番目のテーブルに持って行ってくれない? おまたせしましたーって言って置いてくればいいから」

「えっ、あ、はい」

 悠斗君は戸惑いながら立ち上がった。そして手を伸ばしてカウンター越しにわたしからお皿を受け取ると、そうっと動いて、席へと運んで行った。
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