上 下
39 / 49

第39話 ゴーストハンター高島聖の任務記録:失われた神々と八岐大蛇の影 ④

しおりを挟む
【高島聖side】

 メドーサの攻撃だと思われる水の矢に追い掛け回され、今の現在位置は正直把握できていない。走っていた方角と時間から考えると……京都の方角かしら

 夢中で走っていたのであくまで憶測だが、走ってきた方角から考えるとそっちの方角だろう。来た道を引き返せば良いんだろうが、山道を水の矢に追い掛け回され逃げてきたので引き返せるかどうかも怪しい。この近くに住んでいる人間を探したほうがいいだろう。

「アタシ達はこの場所に追い込まれたのか?」

 ヒカリちゃんの言葉……確かにその可能性は極めて高い

「確かに、その可能性が高いッスね。
この周囲がメドーサのホームグラウンドなのかもしれないッス」

 今の現在場所が判らないけど、方角的には一番最初に破壊された神社の方角だ。

「まずは現在位置の確認ッス。聖ちゃん近くに何か見えないか見て欲しいッス」

「了解 !」

 返事を返したヒカリちゃんを見ながら車のトランクに地図を乗せて、

「うーん。場所的にはここら辺かな?」

 場所の把握をしないことには帰る事も出来ない。いやそれ以上にこの場所に追い込まれたという事を考えると……メドーサが襲ってくるかもしれない。

 こんな山の中でと思うかもしれないが、山の中には水脈がある。それを利用されるとまず間違いなく勝率はない……それに逃げる事を前提にしていたが、ホームグラウンドに連れ込んだボク達を逃がしてくれるだろうか。

◇◇


「聖、近くに神社みたいのがあるよ?」
 チビを偵察に出していたヒカリちゃんが教えてくれた。
 やはり、ヒカリちゃんはアヤカシ使いの才能があるようだ。
 それにしても神社か……もしかすると報告にあった。あの神社かもしれない……詳しい場所は知らないが、確か人の住んでいる場所も近いはずだから、そこを目的地にすれば良いだろう。
 ただし……罠と言う可能性も充分に考えられる、ヒカリちゃんも同じ結論になったのか

 

「メドーサの罠かもしれないのか?」

 

ヒカリちゃんがそう呟く。 流石、頭の回転は速いわね。

「ええ。その可能性は充分にあるッス」

 むしろその可能性しかない、トランクから除霊具を取り出す。一番最初に取り出したのはAランクの防護札

 

「じゃあヒカリちゃんは10枚ッス。しっかり身につけて欲しいッス」

 

ボクは霊力の護りがある。霊力をコントロールできないヒカリちゃんに多めに持たせるのは当然だ。

 

「りょ 了解」

 

ワンピースの裏と表に札を貼っているヒカリちゃんを見ながらボクは近くの茂みに向かった。

 二人で茂みの中に入り上着を脱いで下着姿になり、その下着も脱いで裸になる

「や、やっぱり女同士でも恥ずかしいな」


顔を紅くするヒカリちゃん。それはボクも同じなので言わないでと言い、素肌に直接防護札を貼り付けていく。これがあるとないとでは全然違う。

「ヒカリちゃんも早くしてね」

 

ボクが張り終わってもなお胸と腹にしか貼ってないヒカリちゃんにそう声をかけ、服を着なおして車の方に向かう。

 ようやく、服を着直したヒカリちゃんは、

「……ん~ ?」

ヒカリちゃんが腕を組んで難しい顔をしていた。なにか考え事をしている様子だ

「どうかしたの?」

「いや? なんか、ここを知ってるような気がして。おかしいよな」

 そう苦笑するヒカリちゃん。
 だけどそれはもしかすると霊感に目覚めつつあるのかもしれない。

 まだ頬に若干赤みの残っているヒカリちゃんが合流した所で、トランクから破魔札や霊体ボウガンを取り出し、更にもう1つ

「これは水神符って言う稀少なお札ッス。 水の流れを断ち切るものでメドーサには効果的だから一応、ヒカリちゃんも持っておいて欲しいッス」

 使えるかどうかは判らないが、お守り代わりに持たせる。 もしかすると何らかの才能に目覚め可能性もあるので持たせておこう。近くを浮いているチビに、

「それじゃあ案内してくれる?」

「みみー !」

 ゆっくりと先導してくれるちゃんに案内され神社に向かう。山の中腹に面しているその神社からは近くの町が見える。

思ったよりも都心なのかもしれない。

 近くに道路も見えるので上手く運転すれば道路に出れる。特注車だから多少の悪路も問題ない、そのための道順を確認していると

「なんだろう ?  この神社の奥にある岩、なんか文字が刻んであるけど?」

 神社を調べるように言っておいたヒカリちゃんの声が聞こえる。 何か見つけたのかしら?ボクが振り返ろうとした瞬間、



「……ようこそ。私の城に」

 静かだが嫌に耳に響く声。その声に懐の破魔札を引き抜きながら振り返る。私の視界に飛び込んできたのは大量の水


「しまっ!」

 やはり罠だった。この神社はミズチの領域だったのだ、ボクから離れていたヒカリちゃんが真っ先に水に飲まれ

 

「のあぁぁぁぁ!!」

 その濁流のような水がヒカリちゃんを攫いその姿を飲み込む。咄嗟に水神符で水の流れを断ち切ろうとするが……駄目だ!間に合わない!!!

 

「ヒカリちゃん !」

「みー!」

 



 

ボクとチビの悲鳴が重なるがそれは一瞬で消える。ボクもまたミズチの放ったであろう水へ飲み込まれてしまったからだ……



◇◇◇◇◇

【???side】

「……成功」

 この場所に上手くおびき出し、全員を私の異界の飲み込むことが出来た。後はあの女を見極めるだけ……私の加護を持つ女。その魂はあの時と変らない、だけど今はどうなのか判らない。それを見極めるためには私の異界が一番良い……私も異界に潜ろうとすると

「待ちな。今すぐ飲み込んだ奴を吐き出せ、蛇」

私の背中に当たる鋭い切っ先。この感じは多分槍……それに同属と言うのも判る。

「……蛇は失礼。そっちの方が蛇」

「言われてみればそうだね」

 軽口を叩いてはいるが、切っ先はいつでも私を貫ける姿勢のままだ、体が水である私を貫けはしないが……ダメージは受ける。槍の切っ先を覆っている魔力はかなりの密度だ。実体をなくす事のできる私でもダメージは避けられない。

「もう1度言うよ。今飲み込んだ連中を吐き出せ」

 その声は静かだが、いつでも貫く事ができるんだぞと言う意思を感じる。私の領域で私が気付かなかったことも加味して考えるとこの槍の持ち主はかなりの強者だと判る。だけど……「……断る !」

 私には私の目的がある。だから吐き出すつもりはないと言うと、切っ先が私の背を穿とうとする。
それよりも早く「……シッ!」

 横っ飛びしながらその切っ先を交わすと同時に右手を振るう。手の平に溜まっていた水が三日月状になりとんでいく。

「ちっ !」
 
 舌打ちしながら刃を交わす龍族。手を振り水の刃を飛ばす。普段ならこんな山の中で使うことのできない能力だが、ここは私の城。あの人が私の為に作った神社だ。ここにいる限り、私の水は尽きることはない。

「……敵対の意図はないが、迫り来る敵は振り払う。互いに武器を引いて話をしよう」

 紫の髪をした龍族にそう声をかける。神気ではなく、魔力を纏っている所を見ると魔族だろう、私もそちら側なので別に嫌悪感はない。

「話の内容によるね。私にも私の都合があるんだよ !」

槍を構えるのはやめたが鋭い視線は依然私に向けられている。一瞬で間合いを詰める事も可能だろう……

「……私はあの妖怪を連れた少女を見極めたいだけ。 攻撃はするが殺す気はないし終われば怪我は治す。 だから、邪魔をしないで欲しい」

 私は遠距離型なので近接はあまり得意ではない、ここは穏便に話を進めたい。無論戦いとなれば負けはしないが、勝てもしないと言うのは互いに判っている。

「殺さないって言う保証は?」

「……大蛇オロチの系譜。ミズチの名の下に誓う」

 その言葉に肩を竦める龍族。日本神話に登場する八岐大蛇。その正体は斐伊川の化身と言う説がある、だから火を司る龍である八岐大蛇だが、水を司る面もある。私はその面を継いでいる……とは言え攻撃性は殆ど継承されていないが……

「OK。判った信じよう」

 八岐大蛇の名は龍族の中では有名だ。取り分け龍族の中では龍神帝王と並び立つと言われる最強の龍種。その名前はとても力がある。

「……ありがとう。貴女も来る?」

 ゲートを作りながら訪ねるとその龍族は槍を消して、服を調えながら

「メドーサだ。お前は?」

 私の名を尋ねて来る龍族。私はミズチ……だけど別の名前もある。あの人が加護の代わりに授けてくれた名前

 

「……ミオ」

 人間に与えられた名前なんてと思うかもしれないが、私にとっては特別な名前。

「ミオだね、よろしく。じゃあ頼むよ」

「……判った」

 私はメドーサを連れ、異界の中へと飛び込んだ……あの人間達をここに追い込んだのも、見極めるため……あの人の転生者を……裏切ってくれるな……
 人間は嫌いだけど、あの人は信じたい……私はそんな事を考えながら自分の世界へと足を踏み入れたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

処理中です...