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第35話 妖怪娘たちと悪戯好きの小悪魔♪ 後編

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【九十九里浜右京side】

「ウチも、もっと頑張らなあかんな ! チビに好かれるために」

 その言葉を聞いて、みんなで笑い合う。小さい妖怪のチビを囲んで、文芸部の部室はいつになく賑やかで暖かい雰囲気に包まれた……なんて、ええ感じで終わったけど、納得いくかいな!!


 真雪も笑っとるけど目が笑ってへんし、ネイだって顔が引きつってる。
 だいたい、卑怯やんか!
 人は動物とか赤ちゃんに弱いのに、両方出してくるなんて!
ヒカリの奴、『ウチは興味あれへん』って顔と態度しとったくせに、しっかりエースの関心を引くなんてズルいわ!

 エースもエースや!いくら、チビグレムリンが可愛いから言うて、ヒカリと楽しそうに笑いあっとったら、ウチの……ウチらの立場が無いやんか!
 ほんま、むしゃくしゃするわ。真雪もネイも幼馴染みで親友やけどライバルでもあるんや。
とにかく、ここでヒカリに出し抜かれるわけにはいかへん。
他の二人も、それが分かってるから別行動してるんやから!

 そんなことを考えながら歩いてると、聖が妙な店に入っていった。

─── 幻想道具店 ───

こんな店、あったかいな?
何はともあれ、聖が入っていった店を覗くと、中から争うような声が聞こえてきた。

「これが、永久超電動歯ブラシ。  んでもって、これが『女神タワシ』。  さらにスゴい新発明品が、このユリリン式ハシの持ち方矯正機 !
 特許使用料は利益の50パーセントで良いのじゃ !
 とりあえず、一千万ほど手付けに欲しいのじゃ ! 」

「悪いけど、間に合ってるアルヨ !」

「それじゃ、これはどうじゃ !
 ボタンを押すと背中をかいてくれる『全自動孫の手』なのじゃ !」

「アホかいっ !」

「頼むのじゃ !  研究費を使い過ぎたから見つかると、明日菜ちゃんに怒られるのじゃ !」

「ワタシの知ったこっちゃないアルヨ !」

 店の店主らしき怪しげなおっさんと、ウチらくらいの少女が言い合いをしてた。
ところで、聖はどこに行ったんやろ。あたりを捜していると、商品棚の高いところに……ホレ薬があった。

おーっ、全人類の夢と希望があそこに!
アレさえあれば、エースはウチのもんになるんやね。

 チラッと見ると、さっきの少女と店主が何か話してる。周りを見ても聖の姿は見えへん。

今しかない!そ~っと、手を伸ばすけど届かへん。
もう……ちょっと、と指先がホレ薬のビンに触れた。

「みー♪」と鳴きながら、パタパタと飛んできたチビグレムリン
ウチとホレ薬のビンを見比べてる。

「ええ子やから、そのビンを取ってくれる?」とチビがにやりと笑いながらうちからビンを遠ざけた。

 チビは、まるで小悪魔のようにニヤリと笑いながら、ホレ薬のビンを持っていってしもた。
「え、ちょっと待って!それ、ウチのなんやから!」と叫ぶけど、チビはそのまビンを高く掲げて、まるで勝ち誇ったかのように飛び跳ねとる。

「みー♪」と楽しそうに鳴くチビに、ウチは焦りを感じた。このまやとエースをゲットするチャンスが逃げてまう!
「お願い、チビ!そのビンを返して!」と必死に訴えるけど、チビは「みー みー みーあかんあかん!これはうちの宝物やから!」って言ってる気がする。

 そうか、そうくるか!  ウチは人をからかうのは好きやけど、からかわれるのは嫌いやねん!
ウチのジャンプ力を舐めんといてよね。

タメを作ってから、思いっきりチビが持ってるホレ薬のビンに向けてジャンプしたんや。

ポロッと、チビの手から離れたものの、ホレ薬のビンは棚に当たって、ガチャン……パッシャと店主と話してた少女にかってしまった。



「ああーっ、なんてことを !  人類の夢と希望がー っ !」

 店内は一瞬静まり返った。ホレ薬のビンが棚に当たった瞬間、まるで時間が止まったかのようだった。店主と少女の目が驚愕に見開かれ、次の瞬間、ビンは床に落ちて割れ、透明な液体が周囲に広がった。

「みー♪」とチビが私の肩に飛び乗り、興味津々で床の液体を見つめている。まるでこの状況を楽しんでいるかのようだ。

「妾は潮来由利凛いたこ ゆりりん。 貴女の名前を教えてくれる ? 」

 本当は教えたくないんやけど、瓶の中身を彼女にぶち撒けてもた手前、断れへんねん。

「ウチの名前は九十九里浜右京や。
 濡らしてもうたんはわざとやないで、ほんまごめんな」

 彼女ユリリンは ニッコリ笑いながら、

「右京ちゃんか、良い名前なのじゃ……右京ちゃん……愛しているのじゃ ! 」

  グワッと飛び掛かるユリリンを紙一重で避けた。

「なんや、なんや !」と驚くも……

「愛しているのじゃ !  愛しているのじゃ !」とウチを追いかけ回すユリリンを名乗る少女。

「このホレ薬は強力過ぎて発売が中止に成ったものよ !
 いったん効用したら相手の背骨が折れるまで抱きしめて窒息するまでキスするね !」

 そんな危ないもん置いとったらあかんで!


 ウチは必死に逃げた。ユリリンの追跡を振り切るために、店の外へと飛び出す。心臓がバクバクしている。

「待つのじゃ、右京ちゃん!」ユリリンの声が背後から迫ってくる。彼女の足音がどんどん近づいてくるのを感じながら、ウチは必死に走った。周りの景色が流れていく。人々の視線が集まる中、ウチはただ逃げることしか考えられなかった。

「お願い、誰か助けて!」心の中で叫ぶが、誰も助けてくれそうにない。そうこうしているうちに、ウチは校舎の裏手にある小道に飛び込んだ。ここなら、少しは隠れられるかもしれん。息を整えながら、木の陰に身を潜めた。

「何処に行ったのじゃ、右京ちゃん!」ユリリンの声が遠くに聞こえる。少しだけホッとして、ウチはその場でしゃがみ込んだ。だが、すぐにその安心感は消え去った。チビが肩に留まっているのを思い出したからだ。

「チビ、あんたの悪戯のせいやで!」ウチは小声で言ったが、チビは「みー♪」と楽しそうに鳴くばかり。どうやら、チビはこの状況を楽しんでいるらしい。

「ほんまに、あんたは小悪魔やな!」ウチは思わず呟いた。チビはニヤリと笑い、ウチの頭を軽くついた。どうやら、チビはウチをからかうのが好きみたいや。

その時、ウチの耳にユリリンの声が再び響いた。
「右京ちゃん、どこにいるのじゃ? 早く出てきてほしいのじゃ!」
 その声は、少しずつ近づいてきている。ウチは焦りを感じた。ここで捕まったら、どうなるのか想像するだけで恐ろしい。

「どうしよう、どうしよう……」ウチは頭を抱えた。逃げる道を考えながら、ふと目に入ったのは、ゴミ捨て場にあった大きなトランクバッグやった。あれなら、隠れることができるはず。

「みー♪」とチビが鳴く。トランクバッグに逃げ込む時間はない!ウチはチビを抱き上げ、木に飛びついた。必死に枝を掴みながら、上へと登っていく。ユリリンの声がさらに近づいてくる。
「右京ちゃん、もうあきらめるのじゃ! 逃げないでほしいのじゃ!」

「逃げるに決まってるやん!」ウチは心の中で叫びながら、木の上で身を縮めた。ユリリンが下に来るのを待つ。彼女が近づいてきた瞬間、ウチは思い切って叫んだ。「チビ、行け!」

チビはウチの指示を理解したのか、空へと飛び立った。ユリリンの目がチビに向く。「あ、何じゃろアレは!?」その瞬間、ウチは木から飛び降り、地面に着地した。

「今や!」ウチは全速力で走り出した。ユリリンの驚いた声が後ろから聞こえる。「待つのじゃ、右京ちゃん!」

ウチは校舎の裏手を駆け抜け、校庭を横切って、文芸部の部室へと向かった。ドアを開けて飛び込むと、真雪とネイが驚いた顔で振り向いた。

「どうしたの、右京?」真雪が心配そうに聞く。

「ユリリンが……!」ウチは息を切らしながら説明しようとしたが、言葉が上手く出てこない。とにかく、あのホレ薬のことを伝えなあかん!

かくかくしかしかこうこう説明魔法で大変やねん!」こういう時は魔女見習いで良かったと思うわ。  

しかし、二人は胡散臭そうな目ぇしながらネイはケタケタと笑い、真雪はお上品に口元を隠してクスクスと笑ってる。  

信じてへんな、二人とも! その時、チビがパタパタと二人の頭の上に飛んできて、アノホレ薬の小瓶のフタを器用に開けて……二人の頭にぶち撒けた!  

まだ有ったんかいな、あのホレ薬!

バタン、と突然に部室のドアが開いて……
「右京ちゃん、見~つけたのじゃ !」

「ウチ、可怪おかしいちゃ ! 何故だか、右京が欲しく成ったっちゃ !」

「あらあらまあまあ、わたくしとしたことが……こんな身近に理想的な人に気が付かないとは。
 ねえ、右京。  私と悠久ゆうきゅうの時を過ごさないかしら ? 」

 まさに四面楚歌や。前門には雪女と雷娘、後門には謎の美少女、上ではチビ小悪魔が高みの見物をして笑ってる。今日は厄日なんやろか!

 ウチ、絶体絶命のピンチや!って絶望してたら……  

バシャッ!バケツで大量の液体をウチらにぶち撒けた謎の美女がゼーゼーと息を切らしながらたずんでた。

「ホレ薬の中和剤よ !  由利凛が迷惑をかけたわね。
 彼女はコチラで回収して行くから、これで失礼するわ。
 何か有ったら連絡してくださいね 」

 謎の美女がウチに渡した名刺には、

─────────────────────


大江戸 明日菜(おおえど あすな)

代表取締役社長 | CEO
大江戸グローバル株式会社(大江戸グループ)
〒100-0001 東京都千代田区千代田◌―◇―☆
電話: 03-1234-5678
メール: megami.atena@dokoda.co.jp
ウェブサイト: www.megamijimusho.co.jp

──────────────────────

「明日菜ちゃん、堪忍なのじゃ !
 これには、マリアナ海溝より深い訳があるのじゃ !」

「はいはい。  言い訳は帰ってから聞くわよ、ユリリン 」

 嵐が去るように帰って行く二人やったな。  
そんで……ネイと真雪も正気に戻ったみたいや。  
とりあえず、ウチらは助かったみたいやな。  
そして、いつの間にかチビの姿はなかった……逃げたな、小悪魔め!









◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 一方その頃、聖は幻想道具店の二階でゴーストハンターの仕事で使う御札や精霊石を買い漁っていた。






※作者より

 ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
 今日でファンタジー小説大賞が終わりますね。

 次回からは、しています。
 これからも、よろしくお願いします。
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