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第30話 呪いの人形

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 ◇◇◇ 少し時間をさかのぼります ◇◇◇

 ── たいていの女の子は着せ替え人形で遊びます。
 やがて、大人になり人形は何処かへ消えてしまいます。
 でも……不思議なことに捨てた記憶のある人はあまりいないようです ──



【藤崎光side】

 真雪からRAINが来たけど丁度、BL小説のクライマックスを読んでいたので断った。
 みんなで集まるようだったけど別に良いよね、お客様も居ることだし。

「ヒカリちゃん。 このラノベの続きある~ ?」
 エースくんの双子の姉である八重さんが遊びに来ているのだから文句は言われ無いだろう。
 この間、エースくんの家に遊びに行った時に仲良しに成った訳だ。

 え~っと、この辺に……ラノベの続きを探していると、コトリと人形が本だなから落ちた。

「わぁー、懐かしい~。 ソフィー人形だぁ~ !
私も小さな頃に遊んでいたの~ 」

 八重さんもソフィー人形派だったのか。
 私達が小さな頃、女の子はソフィー人形派かフカちゃん人形派に別れていたもんだ。


 その瞬間、部屋の空気が一変した。薄暗い室内で、ソフィー人形の目がまるで生きているかのように光を反射している。八重さんに追いて来た子犬のダイフクモチが人形を口に咥えてアタシ達から人形を引き離した。
 そして、八重さんの影から何処かで見たようなトリさんが飛び出してきた。

「ヒカリちゃん、これ……どこで見つけたんだホ?」

「本棚に飾ってあったよ。昔、子供の頃のものだけど、どうして?」

「この人形、私の家にもあったのぉ~。だけど、ある日突然、姿を消したの。捨てた記憶もないのにぃ~……」

八重さんの言葉に、私の心臓が高鳴る。私も、幼い頃に遊んでいた。
むしろ、あの人形には特別な思い出が詰まっている。私たちが遊んでいた頃、ソフィーは私たちの友達だった。

 バタン ! 突然、閉めていた窓が開いて真っ黒い煙のようなモノが人の顔を形どった……アレはソフィー !

 ── おいで…… ──  煙から声が聞こえたかと思うと、ダイフクモチが咥えていた人形が反応して、トコトコと煙に向かって歩きだし吸い込まれてしまった。
 真っ黒い煙の顔が、アタシ達をにらんだかと思ったら、八重さんの影から次々と異様なモノ達が飛び出して来て、アタシ達を守るように立ちはだかった。
 そうか、アレが右京の言っていた八重さんの式神か。
 元々は、普通?の妖怪や幻獣などが彼女八重を慕って自ら彼女の式神に成ったと云う。

 窓の外には怪しげに空間がゆがんでいる。
 先ほどのトリさんが、何処からかオペラグラスを取り出し窓の外の空間を見た。

「窓に異界に通じる穴があるんだホ !
まだ、完全にふさがって無いんだホ 」

「異界って ? 」と、アタシが疑問をぶつけると、
「異次元、霊界、亜空間、……とにかく別の世界なんだホ。  ひょっとしたら、妖魔の巣かも知れないだホ 」

 このまま、闇雲に突入しても酷い目にあうことは火を見るよりあきらかだ。 とにかく情報を集めよう。

 アタシたちは、Web上にあるソフィー人形のことを調べ始めた。ネットで検索しても、あまり情報は出てこなかったが、あるサイトで「ソフィー人形の呪い」という言葉を見つけた。

「呪い?」アタシは驚いた。「それって、どういうこと?」

「昔、ソフィー人形を持っていた女の子が、ある日突然姿を消したっていう話があるんだホ。彼女の友達も、同じように人形を捨てたはずなのに記憶がないって書いてあるんだホ 」

アタシは、その話を聞いて恐怖に包まれた。もしかしたら、アタシたちもその呪いに巻き込まれているのかもしれない。

「私、ソフィーちゃんを捨てた記憶がないのよぉ~。でも、ソフィーちゃんが私たちを呼んでいるのなら、何かしなければならないと思うのぉ~」八重さんは決意を固めたようだった。

 問題は移動手段だ。  何処かのアニメみたいに舞空術なんて使えるワケが無い。 アタシが考え込んでいると、八重さんの影から一頭のペガサスが現れた。

「シルバーよ。 可愛いでしょう~ 」

 名前はともかく、確かに可愛いと思うけど……セレスティアとかゼピュロスとか思い付かなかったのかね。

「お父さんが名前を考えてくれたのぉ~。  素敵な名前でしょう~ 」

 一瞬、ペガサスが嫌そうな顔を見逃さなかった。
 さしずめ、八重さんの使い魔に成るのを了承したものの名付けには不満と言ったところなのかな。
 でも、そうか、ペガサスなら空を飛べるから問題ないか。

「アデュー。 ボクは、そろばん塾があるから失礼するんだホ ! 」と、言い残して逃げようとするトリさんを捕まえた。 逃がして成るものか !


 ガシッと逃がさないように、しっかりトリさんの足を捕まえていると、

「待ってぇ~、トリさん! 私たちも一緒に行くからぁ~、教えてぇ~!」と八重さんが懇願こんがんすると、

 トリさんは少し困った顔をしたが、結局はアタシたちの熱意に押されて頷いた。
「分かったホ。だけど、気を付けるんだホ。異界には危険がいっぱいだからなんだホ!」

アタシたちはペガサスに乗り、窓の外の異界へと飛び立った。空を飛ぶ感覚は、まるで夢の中にいるようだった。下を見下ろすと、見慣れた街がどんどん小さくなっていく。異界の入口が見えてきた。そこには、黒い霧が渦巻き、異様な音が響いていた。

「ここが異界なのねぇ~……」と、八重さんが呟く。

「気を付けて、何が出てくるかわからないから!」
アタシは心の中で警戒を強めた。

 ペガサスが異界の入口に近づくと、突然、黒い霧から無数の手が伸びてきた。アタシたちを引き込もうとしている。 八重さんの式神たちが一斉に立ち向かうが手の数は多い。
 アタシたちは必死にペガサスを操り逃げようとした。

「ヒカリちゃん、あの人形を取り戻さないとぉ~!」八重さんが叫ぶ。

「でも、どうやって!?」

その時、私の目に異界の中心に輝く光が映った。それは、まるでソフィー人形のようだった。「あれだ!あの光を目指そう!」

 ペガサスはその指示に従い、光に向かって突進した。手が私たちを掴もうとするが、式神たちがそれを防いでくれる。やがて、私たちは光の中に辿り着いた。

 そこには、遊び場が広がっていた。色とりどりの人形たち、ソフィーのボーイフレンドのアッシー君、メッシー君、ミツグ君、キープ君、ホイホイ君、キープ君人形達が楽しそうに遊んでいる。彼ら彼女らは、私たちを見つめて微笑んでいた。

「ソフィーちゃん~!」八重さんが叫ぶ。

「戻って来て、アタシたちのところへ!」アタシは手を伸ばしていた。

 しかし、ソフィー人形達はゆっくりと後退し、黒い霧の中に消えてしまった。
「待ってぇ~!どうして行っちゃうのぉ~!?」

その瞬間、異界の空間が揺れ、周囲が崩れ始めた。私たちは急いでペガサスに乗り込み、逃げ出そうとしたが、黒い霧が私たちを包み込み視界が真っ暗になった。

「ヒカリちゃん、しっかりしてぇ~!」
八重さんの声が遠くに聞こえる。

私は必死に意識を保とうとしたが、次第に力が抜けていく……最後に見たのは、ソフィー人形の微笑みだった。

◇◇◇

目を開けると、私は自分の部屋にいた。周りには何も変わらない日常が広がっている。どうやら、夢だったのか?でも、心の奥にはあの異界の記憶が鮮明に残っている。

「ヒカリちゃん、起きたぁ~?」八重さんの声が聞こえた。

「八重さん……アタシたち、異界に行ったの?」

「うん、でも、どうやって戻ったのかは分からないのぉ~。 ソフィーちゃんは、私たちに助けを呼んでいたのかもしれないねぇ~。」

アタシは、アノ人形が私たちに何を伝えたかったのか考えた。
 もしかしたら、アタシたちが忘れてしまった大切な思い出や、友達との絆を取り戻すための旅だったのかもしれない。

「もう一度、ソフィーちゃんに会いたいよぉ~……」八重さんが呟いた。

その時、窓の外から微かな声が聞こえた。

「おいで……」

アタシ達はその声に導かれるように、再び窓の外を見つめた。
 そこには、あの黒い霧が漂っていた。アタシの心は高鳴り、再び冒険が始まる予感がした……。


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