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第24話 妖魔シャドウリーパー

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【藤崎光side】

 教室でネイや右京、真雪とおしゃべりをしていたら、対馬つしましのぶが話しかけてきた。

「ちょっと藤崎さん、雷門さん。私達これから図書室の掃除なんだから、いつまでも話していないで行くわよ !」


「「図書室の掃除 ?」」

 アタシとネイが声を揃えて聞くと、しのぶが首を縦に振って答える。

「そうよ。ほら ? 藤崎さん達って、この間休んでいたでしょ ? その日に私達のクラスが図書室の掃除をするって、急に決まったの」

 もしかして、アノ黄泉路の件の時か !

 どうやらアタシ達が黄泉路の事件で休んでいる時に決まったらしく、アタシ達はしのぶの言葉に従い、他のクラスメイト達と一緒に図書室へと向かうことにした。

「エースくん達、男子は一緒に掃除しないの ?」と、対馬しのぶに聞いて見ると、

「男子は、炎天下の中でグラウンドの草抜きと石拾いよ。   アッチが良かったかしら ?」

 いえいえ、滅相もございません !

「ほんまに……。なんでウチらが図書室の掃除なんかせなあかんのよ」

「何を言っているの !  学校の掃除も私達生徒の役目よ。決まったことに、いつまでも文句を言わない方が良いわ 」

図書室の掃除がよほど嫌なのか、図書室の前で右京が愚痴を言う。それに対して先頭を歩いていた真雪が反論して図書室の扉を開くと、図書室の中はすでに先客で満員状態となっていた。

 図書室の先客は学園の生徒や教師だけではなく、普通の人のような者もいれば、人どころか普通の生物ではない者もいて、しかもそのほとんどが「紙のように」身体の厚みがなかった。

 あきらかに人外の者達が大勢いる図書室の様子に、アタシや対馬を初めとするクラスメイト達は驚き言葉を失っていた。

「た、助けてください !」

 図書室の中から金髪で青い目をした、外国人の女性がアタシ達の元へとやって来た。

「あ、あの……お騒がせしてすみません。 私は『ピーターパン』の絵本から来たウェンディと言います。
 実は今、この図書室に恐ろしい妖魔が現れていて、私達本の世界の住人達は現実世界に逃げてきたのです」

 金髪の女性、ウェンディの言葉にアタシ達を初めとする全ての女子生徒達が理解できずに困惑していた。

真雪がウェンディに、その図書室に現れた恐ろしい妖魔について詳しく聞こうとした時、図書室の奥から複数の悲鳴が聞こえてきた。

 アタシ達が悲鳴が聞こえてきた方を見ると、そこにはタキシードを着た一人の男が立っていたのだが、その男の顔には異常なまでに大きな口しかなく不気味でいやらしい笑みを浮かべていた。

「 っ !?  シャドウリーパー ! 」

 普段、エースくんの影の中に居るサファイアが飛び出して来て驚いていた…………エースくん達が炎天下の中で草抜きをするから、アタシの影の中に逃げて来たのだろう。

「絵画に宿る魂を食べるだよ !映画の世界に潜んで映画の登場人物達を食べたりもする迷惑な妖魔なんだ 」

 アタシがネイの方を見ると、「ウチ、あんなの知らないっちゃ」と首を振って否定した。

「あれはれっきとした妖魔だよ。奴の主食は絵に宿る魂で、図書室にある本の絵を食べに来たんだろうね」

 ウェンディがうなずきながら、
「そうです。この図書室にある本は古い本も多いので、それがシャドウリーパーを引き寄せた原因なのかも……いけないっ !?」

「ギヒィッ!」

 ウェンディの言葉の途中でシャドウリーパーは、獲物を見つけたのか奇妙な声を上げて駆け出した。その先にはやはり現実世界に逃げてきた本の世界の住人達がいて、シャドウリーパーは彼らに食らいつこうとするのだが……


「待って、ウェンディ!」アタシは思わず叫んだ。
 図書室の中は混乱に包まれ、恐怖に怯える本の住人たちが逃げ惑っている。シャドウリーパーの異様な笑みが、まるで獲物を狙う獣のように不気味だ。

「どうするちゃ、ヒカリ!」ネイが不安そうな顔をしている。右京も真雪も、何とかこの状況を打破しようと必死だ。

「まずは、みんなを守らないと!」アタシは心を決めた。
 サファイアの言葉を思い出す。彼女が言っていたように、シャドウリーパーは絵に宿る魂を食べる妖魔だ。つまり、奴の狙いは本の中のキャラクターたち。彼ら彼女らを助けるためには、何か手を打たなければならない。

「みんな、後ろに下がって!」アタシはクラスメイトたちに指示を出し、サファイアに向かって聞いた。
「アタシ達はどうやってこの妖魔を倒したら良いの ?」

「本の中の物語を使って、奴を引き寄せることができるかも !?」

「ほんなら、ウチらも協力するで!」右京が前に出てきた。

「そうだね、みんなで力を合わせよう!」アタシは心を奮い立たせ、図書室の本棚を見回した。「何か、シャドウリーパーを引き寄せるための物語を探そう!」

その時、真雪が一冊の古い本を手に取った。「これ、どうかしら?『西遊記』よ。孫悟空は妖怪退治のエキスパートだから、きっとシャドウリーパーも退治してくれるわ !」

「それだ!」アタシは目を輝かせた。
「その本を使って、シャドウリーパーを引き寄せよう!」

ウェンディはうなずき、孫悟空の物語を読み始めた。彼女の声が図書室に響くと、周囲の人々が静まり返った。シャドウリーパーもその声に反応し、アタシたちの方を振り向いた。

「ギヒィッ!」不気味な声を上げながら、シャドウリーパーは西遊記の物語に引き寄せられていく。彼の大きな口が、まるで本の中の世界に引き込まれようとしているかのようだ。

「今だ、みんな!」アタシは叫んだ。「ウェンディと一緒に、シャドウリーパーを囲むんだ!」

クラスメイトたちが一斉に動き出し、ウェンディの周りに集まった。彼女の声が高まるにつれ、シャドウリーパーはますます興奮し、西遊記の物語に引き寄せられていく。

「もう少し、もう少しよ!」ウェンディが必死に声を張り上げる。アタシたちもその声に合わせて、シャドウリーパーを引き寄せるために力を合わせた。

そして、ついにシャドウリーパーがアリスの本の中に吸い込まれる瞬間が訪れた。
「ギヒィッ!」奴の叫び声が図書室に響き渡り、次の瞬間、奴の姿は消え去った。

「やった……!」アタシは息を呑んだ。図書室は静まり返り、恐怖が去ったことを実感した。

「本当に、ありがとう!」ウェンディが微笑みながら言った。
「あなたたちのおかげで、私たちは助かりました。」

「でも、これからどうするんだっちゃ?」
ネイが心配そうに尋ねた。

「私たち本の住人は、また元の世界に戻る必要があります。でも、あなたたちの助けがあったから、安心して帰れます。」ウェンディは感謝の意を込めて言った。

アタシたちは、彼女たちを見送ることにした。図書室の中には、再び静けさが戻り、アタシたちの心には達成感が満ちていた。

◇◇

「そろそろ、掃除が終わったかな ? 」
図書室の司書の先生が入って来て……アタシ達は居残って掃除を始めるのだった。
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